[三周目]一人目(名前はまだない)
何はともあれ明日からこの会社で働く事が出来るようになったのだが、俳優業はどうしよう。
まずは監督に相談だな。
俺一人で決められるような話じゃないし。
でもまあ、監督にこんな話を伝えたとしてもすぐに納得してくれないだろう。
とりあえず要点だけ伝えるか。
プルルルル...
『はいもしもし監督ですが。』
「監督、俺俳優辞めます。」
『りょ』
ピッ
やってしまった。
全ての過程をすっ飛ばした結果5秒で俳優という上層ジョブを失ってしまった。
監督の物分かりが良すぎたのが敗因だろう。俺は悪くない。
いいもん、明日から『ハイレグ熱帯魚☆エブリデイビビンバ』で働くんだもん。
母親にもこの事を伝えておかねば。
初めて俳優を目指した時は猛烈に反対していたのだが、何だかんだで今は家族で一番応援してくれているのだから。きっと驚くだろうな。
プルルルル...
『ちーやん良いやん頑張るにゃん❤』
ちーやん、というのは俺の俳優としてのあだ名だ。
いつの間にかこの言葉が俺への応援メッセージとして浸透していたのだが、よもや実の母が元凶ではないだろうな。
『して我が息子よ、この母君に如何なる用かな?』
「ママ、俺俳優やめることになったんだ。事情は説明しづらいというか説明しても間違いなく伝わらないというか...」
『汝の在処を答えよ。我が直々に成敗してくれよう。』ピッ
良い母親ではあるのだが、情緒が不安定なのが難点だ。
まだ夕方だが、明日の為に今日は家に帰って早く寝よう。