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アストリア公爵

切り返しの速さに驚くべきか、それともアストリア公爵が変態だったことに驚くべきか。

驚くこととしてもう一つ、公爵で領主っていうから、もっと歳のいったおっさんだと勝手にイメージしていたが、実際には二十代半ばの爽やかな青年だ。

アストリア公爵に促されるままソファに座る。先程のメイドがお茶を入れてくれたのでありがたく飲む。


アストリア公爵邸に入って、今さら毒を警戒しても無駄だろうと諦めた。緊張でカラカラになっていた口が潤い、気分が落ち着く。うまい。さすがは公爵、良い物を飲んでいる。


「さて、言っておくが、私は君たちに危害を加える気はない。この世界に不慣れな君たちに色々と教授してもいい。それで、君たちの名前を聞いてもいいかな?」


黒須たちが落ち着いた頃を見計らってアストリア公爵が喋る。人を安心させる笑みで、こちらが欲しい情報を言う。


「俺は、クロス・トウヤです」

「私は、カナデ・ツキミヤです」

「トウヤとカナデか、良い関係を築いていけることを願うよ」


「それで、アストリア公爵はなぜ、俺達……いや、異民を連れてくるようにしたんですか?」

「ああ、それはね。異民は良くも悪くも騒ぎを起こす事が多いから。どんな人物か一度会っておきたくてね」


やれやれと肩をすくめて言う。

色々苦労してそうだなあ。貴族なのに尊大な態度をとることもない。意外といい人かもしれない。


「異民には必ず確認しているのだが、特殊な能力を持った道具を持っているだろう。見せてくれないかな」


少し躊躇したが、見せることにした。黒須は矢を一本、月宮は木刀見せた。この世界での生命線でもあるので、見せるだけで触らせる事はしなかった。


「ほう、武器型の異宝とは珍しいな。……売ってくれないか?」


一生遊んで暮せるだけのお金を出すと言われて、ちょっと迷ったが断った。


異宝というのは、異民が必ず一つは持っている特殊な能力を持った道具だそうだ。大抵は道具型で、武器型は珍しい。それはそうだろう、異世界に転移するときに武器になるものを持っている確率は非常に低い。そういう事なら俺たちは運が良かった。


この世界で生きるのに必要な最低限な情報を聞き、アストリア公爵は忙しいみたいで公爵邸を後にすることになった。


最初は緊張と不安でいっぱいだったが、呆気ないほど何事もなく終わった。しかも、一般的な服と、金貨二枚を貰った。


一番ありがたいのは、アストリア公爵の客人を示す身分証をもらえたことだ。この世界では身分を証明する物を持たない状態では、何をするにしても身分証を持っていないと苦労することは目に見えている。


身分証は冒険者ギルドで手に入れる予定だったが、四大貴族のそれも公爵という権力者に身分を保証される意味は大きい。これには感謝しかない。目立つ格好で無一文、身分証もないとか、悪いことが起こる気がしない。


最後まであの事に触れなかったが、アストリア公爵も触れようとしていなかったし、これで良かったのかな。


今は着替えて、周りに溶け込んで通りを歩いている。

身分証はもらったけど、日銭を楽に稼ぐために冒険者になるのが良いだろう。冒険者ギルドに行きたいけど、もう太陽が西に傾き始めているので、明日行くことにした。


服が今着ているものしかないので、服屋に行きたいと月宮が言うので、服屋に行った。

月宮は寝間着とかも含めて何着か買い、黒須は無難なものを何着か買った。


冒険者ギルドで登録するぐらいの時間はあるだろうが、武装もしていない一般市民っぽい格好で行ったら、確実になめられる。武器を買っていたら遅くなるので大人しく諦めた。


この街の建物はどれも同じような造りをしている。木造建築はなく、石とかで造ったのだろう頑丈そうな建物ばかりだ。紹介された宿屋に向かっている。

宿屋に入ると受付にいる恰幅のいい女性のところに行く。


「とりあえず、二人で一泊したい」

「はいよ。二人で銀貨十枚だよ」


金貨一枚を払う。大銀貨九枚と部屋の鍵をもらう。

金貨一枚で大銀貨十枚。大銀貨一枚で銀貨十枚という風になっている。


「あの、先輩……もしかして、同じ部屋ですか?」


月宮に言われて気づいたが、もらった鍵は一つ。つまり、月宮と同じ部屋で一泊する。若い男女が同じ部屋で寝泊まりするのはどうなのだろうかと思うのが普通か。まあ、何かあるわけじゃないし、どっちでもいいが。


「……やっぱ、やめとくか?」

「い、いえっ、私は全然大丈夫ですよ!? 二つ部屋取るのもお金がかかりますし、この先何があるかわからないですし、節約は大事です!」

「そ、そうか」


早口に捲し立てる月宮に押し切られる形で頷く。

朝夕の二食付きなので、空腹を満たして、さっさと寝ることにする。


部屋にはベッドが二つ壁際に並んで置かれている。疲れたのでそのままベッドにダイブして柔らかい羽毛の感触に包まれる。なんか急に眠気が襲ってくる。


よくよく考えてみれば、今は日が落ちたばかりだけど、元の世界では夕方だったのに、この世界に来たら昼だったのだ。色々あったし、長く起きているのだ。そりゃ疲れて当然だろう。


「もう、だらしないですよ」

「疲れたんだ、堅いこと言うなよ」


小言を言ってくるが軽く聞き流して、布団にもぐる。

月宮はそれ以上は言わず、寝間着を取り出し黒須を見る。


「あの、先輩。今から着替えますけど、こっち見ないでくださいね」

「へーい」


眠いためおざなりな返事を返し壁を向くと早くも寝息が聞こえてくる。それを確認して、さっと着替えて月宮もベッドに入る。


「……先輩」


なかなか寝付けなくて、黒須に呼びかけるが返事はない。本当に寝てしまったみたいだ。


「先輩と一緒で良かったです。……私一人だったら、不安で、心細くて何もできませんでした。……おやすみなさい、先輩」

「………………」


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