直感に従って
タイトル、あらすじを変えました。
「どうかしたのか?」
「……え、えーと……木刀に触れたら、頭に何か浮かんできて……」
黒須の様子を窺いながら、言いにくそうに月宮が言う。
「……へ、へー……そうか。それで……?」
普段通りにしようとしているが、口元が引きつっている。
「木刀の名前が無明一閃……能力が、万物切断、金剛力、疾風、自動障壁です……」
「………………」
表情を消して黒須は顔を戻すと、無言で弓を組み立て、弓ができた。だが、何も起こらない……
できた弓を持ったまま下を向いてじっと動かない。
俯いたまま動かない黒須が心配になって月宮が声をかける。
「先輩、いつまでも拗ねてないで、元気を出してください! 先輩にも……きっと何かすごいものがありますよ?」
「はぁ!? 別に拗ねてねぇし! 羨ましいなんて思ってないからなッ!? 俺よりすごいからって調子に乗るなよ!?」
慌てて否定して、聞いてもいないことまで言う黒須を、月宮は微笑ましく思い、思わず笑みがこぼれる。だけど、このままでいられるのも困るので、何かないか視線を彷徨わせると、ふいに束になってる矢に目が留まる。
「先輩、矢はどうですか? きっとすごい能力があるかもしれませんよ?」
「元々使うものだから触るだけだぞ!? 別にお前に言われたからじゃないからな!?」
「ふふっ、わかってますよ」
かわいい反応をする黒須を微笑ましく思いながら、こちらの様子を窺いながら矢に手を伸ばす様を見守る。
黒須が矢の束を掴んだ瞬間――
十二本の矢の情報が頭の中を埋め尽くさんばかりに浮かんできた。
驚きながらも自然に多種多様な矢の能力、使い方を理解することができた。、体が震えが止まらす、思わず口角が上がる。
月宮は黒須が何もなくて落ち込んでいると思い、気遣って声をかけようとしたら――
「ふ、ふふっ、ふはははははは――!」
矢を握りしめたまま、気が狂ったように笑いだす。
月宮は突然の事態に困惑して動けないでいる。
不意に笑いを止め、勢いよく立ち上がりながら体を回し、ビシッと月宮を指差す。
「聞いて驚け! 俺の矢は全部、すっげぇ能力を持っているっ! ……ところで、月宮さんは木刀一本だけでしたか? ぷぷっ、俺は十二本もあるんだぜ! その程度で俺に勝ったつもりとか、もう笑いが止まらないわ!」
勝ち誇り、月宮を馬鹿にするように幼稚な煽りをする。
黒須のうざい態度に、思わず月宮の整った顔が引きつる。黒須のこのような態度は初めてではないので、深呼吸をして何とか気持ちを落ち着ける。
「……良かったですね。先輩はすごい人だと思っていましたよ」
「ははっ! まあ、当然だな。俺の溢れんばかりの才能が出てしまったわけだな!」
月宮は子供のように自慢する黒須が満足するまで、適当に流しながら褒め続けた。
「……これからどうしますか? やっぱり、人のいる町や村を目指します?」
「そうだな……まず、進む方向を決めないとな。さて、どうしたものかね?」
これはとても重要なことだ。最初の選択を間違えたら、町や村と逆方向に進んで、いつまでも辿り着けないなんてこともあるだろう。
だから、真剣に考えないといけないのだが、はっきり言って、三百六十度全て同じような景色に囲まれている状況ではどの方向に進めいいかなんてわからない。
月宮に聞いたら、すみません、わかりませんと申し訳なさそうに答える。ダメ元で聞いただけだから気にするなと肩を叩く。
こうなったら、しょうがないので直感で行き先を決めることにする。
「んー……よしっ! あっちだ、あっちに向かってまっすぐ進むぞ!」
直観に従って右斜め前を指差して、歩き始める。月宮は黒須を小走りで追いかけ隣に並んで歩いていく。
必要なもの以外は、月宮の収納空間の中に入れてもらった。入れる時は触るだけでフッと消えて、出す時も手元に突然現れる。生き物以外なら入り、中の物は時間が経過しないという便利なものだ。
武器だけは持っていた方が良いので、黒須は弓矢、月宮は木刀を持って歩いている。ちなみに、全ての矢には縮小の能力があり、掌に収まる大きさに短くなったので、ベルトに差している。
矢や木刀の能力についてわかっていることで、魔力消費なしでも、能力は使える、これが通常時。
武器には名前があり、名前を唱えることで魔力を大量に使い、通常時とは一線を画す力を発揮する。
そのまま、代わり映えのしない森の中を歩く。出っ張ている木の根に足を引っかけないようにしながら、慣れない森の中をひたすら進む。
どこを見ても、木ばかりで本当にまっすぐ進んでいるのか、ちょっと不安になるが、そこは太陽の位置からたぶん大丈夫だと思う。
歩き続けで息が少し上がり疲れてきたが我慢し、ちらりと横を見ると涼しい顔で隣を歩く月宮がいる。
どういうことだ? 体力は俺の方が上のはずなのに、何で俺の方が先に疲れてる? 何があるかわからないから、休憩をちゃんととって、非常時に対処できるようにしないといけない。
しかし、俺から休憩しようなんて言える訳ないじゃないか。つまらないプライドとわかっていても言い出せないものだ。とはいえ、このままではまずいなあ。
「先輩……」
どうしようと悩んでいると、不意に腕を引かれた。
「疲れたので休憩にしませんか?」
「この程度で疲れたなんて情けないなあ。しょうがない、休憩にするか」
見た感じ疲れているようには見えないが、休憩したいと思っていたところなので頷く。