あとがき
「……今回はオールバックじゃなくて、お前さんが出てくるとは、だいぶ繰り上がったな。このまえは必死に新聞を読んでいたが、会議は上手くいったのか?」
ろうそくに照らされた、薄暗い店の隅に陣取っていたオレのテーブルに新聞男が座り、オレの軽口を流して言った。
「……ジェラルド警察庁は反逆罪の容疑をかけられ、身柄を拘束されている。恐らく二度と娑婆には戻れないだろう」
「そりゃ難儀だな。だが塀の中の方が、今のアイツにとっては外より安全なんじゃないか?」
グラスの中でなめらかの転がる氷を眺めながら、オレは誰に話しかけるわけでもなく言った。
「オールバックの件で公式機関はカオス状態なんだってな。この国に潜んでる害虫をつぶすために、王族が躍起になってるってニュースでやってたぞ」
「その害虫に助けられたという事が発覚してしまったのが何とも皮肉な話だがな」
新聞男はバーテンダーに「コイツと同じものを」と伝え、話に戻った。
「冬の女王様が漁船に監禁されているという件と、ジェラルドが内通者だという内容の件。両方ともロイヤルガードの部門から連絡を受けたと聞いた。なぜあの状況であえて近衛兵に連絡した?まだ残党が潜んでいたかもしれないのに」
「あの襲撃はスパイどもにとっては国の威信をかけた総力戦だ。女王を攫おうっていうんだからな、戦力は多い方がいいに決まっている。この期に及んで出し惜しみをしていたとは考えにくい。ネズミがまるまる留守になった近衛兵の方が、すくなくとも他の機関よりはクリーンな気がしたんだよ」
「あの状況でそこまで考えられるとは、本当にゴキブリさながらの洞察力だよ」
「それくらい慎重じゃないと、この業界ではコロリとやられるんでね」
バーテンダーがウイスキーを運んできて、新聞男がそれを口にした。
「ところでお前さんがここに来たのはどういう了見だ?まさかオレと世間話をしに来たわけじゃないだろう?」
「じつは今回のお前の功績を鑑みて、お前に是非任せたい仕事がある」
一瞬バーテンダーの目がオレに突き刺さる、今回の報酬に味をしめたのだろう。今回の仕事はオレもそれなりにリスクがあった。正直3割増しでは足りないくらいだ。オレの身にもなってほしいと思いながら、断れない雰囲気にあった。
「……分かった、しかしいくつか条件がある」
観念したオレは、誰かさんに説明した通りの文言を長々と説明した。春になり、変な虫が増えてくる季節がやってきた。ローチだなんて呼ばれているオレにとっては、これからがかき入れ時なのであって、冬のあの件はむしろ例外なのである。