無力
どうも秦野中井ですー。
評価とかして頂けると喜びます。(チラっ)
『彼』との話も終わって朝のホームルームの時間。チャイムが鳴ると同時に担任の藤堂はやってきた。藤堂は古典を担当する教師で持ち前のルックスからか女子に人気がある。いつも爽やかな笑顔を浮かべ生徒とも仲のいい先生だ。ただ、今日の藤堂の顔はいつもと違った。顔は引き締まっていて笑顔を浮かべていない。真面目そうな顔をしている。
その雰囲気に気圧されてかクラスの雰囲気も引き締まっていた。ざわつくことなく挨拶を終えると藤堂が事務連絡を済ませ1度息を吐いた。するとさらに真面目そうな顔をして、「みんなに言いたいことがある」と言った。
「これは真面目な話だからな、しっかり聞けよ?昨日か今日かは知らないがこの学校のウサギ小屋に首の部分を刃物で切られたウサギが見つかった━━」
「「「っ!?」」」
クラスが一瞬ざわついた。勿論俺も。ただ俺の場合はこの事件の犯人様を知っているので後ろの席に座っている『彼』の方を向いた。
『彼』は口を手で抑えまるで笑っているのを隠すような仕草をしていた。そして俺が振り向いたのを見ると片目をつぶりウィンクをしてきた。
恐い
やっぱり『彼』は壊れている。そう思った。
藤堂がその『事件』に関する対応や注意をしてホームルームを終わらせるとクラスは一気にざわついた。
ウサギが殺されたこと、ウサギはなぜ殺されたのか、一体誰が殺されたのか……
その話題は尽きることなく、当然ウサギの事を好いていた俺の所にも色んな人が来て色んな話をした。
あの時あいつがウサギ小屋の近くにいたとか、あの部活は昨日帰るのが遅かったらしいとか……
━━━━━
「ね?これだけであんなにみんなが疑心暗鬼になってみんなを犯人だって疑い始めるんだよ?あーんな、仲良かったクラスが。面白いね?」
今は昼休み校舎裏の人気の少ない場所。俺は『彼』と一緒に弁当を食うという体でここに来た。途中伊織に止められたがなんとか振り切った。
「で?どういうことなんだ?確かに今のクラスの雰囲気は最悪だよ、でも壊れるにはまだまだなんじゃないか?」
俺は単純な疑問を『彼』にぶつける。
確かにあのホームルームの後クラスはざわついたのだ。確かに誰かを疑ったりはあった。たださすが俺達のクラスというべきか3時限目が、終わる頃にはその話題は途切れまたいつもの日常に戻っていた。
「あー、気づいちゃった?僕もそう思ってたんだよねぇ……流石にこれで壊れても脆すぎるし面白くもないからいいんだけどねえ……はっ」
『彼』はすらすらとそんなことを言ってくる。
「あっそうだ。ねえねえ隼人くぅん?今日サッカー部休みでしょー?じゃあさ、放課後またここね」
「えっちょ待てよ、俺は伊織との待ち合わ━」
「ばいばーい、あーお弁当美味しかったー。」
そう言って『彼』は校舎へと戻っていった。
「チッ、なんなんだよまじでっ!」
力に任せて壁をける。
足が痛い。
これほど自分の無力さを実感したことはあっただろうか、そんなことを思いながら俺は校舎へと戻っていった。