俺の『守りたい人』
「そうだな、キミは僕と一緒に堕ちてもらおうか」
「……堕ちる?」
ついに『彼』が何を言っているか分からなくなった。突然堕ちろなんて言われても何のことだかさっぱりわからない。
「キミはクラスで中心的な人だろ?だからそれを利用するのさ。」
「何が、言いたい……」
「頭脳明晰、容姿も整い、部活動でもレギュラーを獲得、おかげに彼女持ちときた。じゃあ、もしもの話をしようか。もしもキミがこの僕達のクラスを壊そうとしたらどうなるかな?」
「……」
何が言いたい。俺には何もわからない。
『彼』の言葉を待つしかなかった。
「チッ、だんまりかよ。まあいいさ。教えてやる。お前がクラスを壊そうとすれば、あんな仲の良さそうなクラスは崩壊するぞ。」
「っ……」
『彼』は一体どうしたんだ。どうしてこのクラスを壊そうとする。あのクラスで一緒に笑いあってた『彼』の片鱗が全く感じられない。まるで別の人格のように。
すると『彼』は口を開いた。
「この僕達のクラスを壊すんだ。当然犠牲は必要になる。ただな僕もそんなに鬼じゃない。君に気づかれなきゃこの『計画』は実行しなかったんだから。キミを巻き込んで済まないと思ってるよ。」
口に微笑をたたえながら『彼』はこんなことを言ってくる。どうせ嘘なんだ。俺にも1回くらい発言権があってもいいはずだ。
「どうせ嘘なんだろ?今までのお前の姿を見てたら分かったわ」
「えっひどいな~キミは。嘘なんてついてないさ。じゃあ、いいや。ホントはこんなことしたくないんだけどね……」
咄嗟に俺は1歩引いていた。今の『彼』はカッターを持っているしいつ切りかかってくるかも分からない。
「ほんとにキミはひどいね。僕が言いたいのは、『このクラスを壊すに際してキミが守りたい人はいないか?』っつー話だよ。わかる?」
「……守りたい人?」
「そうだよ、キミが『守りたい人』誰か『1人』だけだよ?」
『守りたい人』なんて決まっている。俺の友達だ。そんなの決まっているのに、決まっているのに……
「『1人』か……」
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誰かを選べば誰かを見捨てることになる。きっと頭のいい『彼』なら気づいているだろう。もうここから始まっているんだよ。キミは最初の犠牲者を自分で選ぶんだ。
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俺は誰を選べばいいのだろうか。きっと誰も教えてくれないし誰にも頼っちゃいけない。今まで友達が多くていいことしかないと思ってた。まあ実際そうのんだと思う。……こんなことがなければ。今まで俺は友達が多いのをいいことに友達に依存しすぎていたのかもしれない。だから誰かを選べって言われた時に「一日待ってくれ」なんて言ってしまったんだ。でも、冷静に考えれば考えるほど『誰かを守る』ことが『ほかの多数を見捨てる』ことになるというのが鮮明に見えてくるのだ。そんな暗い気持ちを持って家へ帰る。
家では普段通りに。そう普段通りに。