『宣戦布告』
ちょっと残酷かな?
気をつけてください
俺は『彼』と2度目の校舎裏に向かう。
多分これから何か大切な話があるのだろうけど俺の頭の中は伊織のことで一杯になっていた。
━どうしてあんなに怒っているのだろうか?
━俺がなにか悪かったのだろうか
━謝ったら許してくれるだろうか……
何よりも自分が守ろうとしていた彼女との距離が空くことに良い点なんてないんだ。しかも俺は俺の言葉で守りたかった彼女を傷つけた。
どうしてこんな事に……
なんて、なんて……
「なっさけなーいんだろーねー♪」
は?
と思って意識を外に向けるとそこはもう見慣れた校舎裏だった。
「ほんとにさ~。女々しいね、君って。でもさー僕との約束なんだから僕のことを考えようよ。あとはこれからの事とか?」
そう言って『彼』は笑いながらこっちを見てくる。最近『彼』の笑い姿を良く見る気がする。
勿論悪い意味で……
「んで、話ってなんなの?できれば早く終わらせてくれ」
「あっ話は早めに終わるよ。ってかすぐ終わるけど、でも……」
……すぐには帰れないよ?
『彼』は周りの空気が凍りつくような表情で俺に対してそんなことを言ってくる。
『彼』の不気味さに慣れてきた俺でさえ今の表情には恐怖を憶えた。だから声が震えたのは仕方ない……
「す、すぐには帰れないのか……?そ、それは……なんでなのかな……?」
すると『彼』は多分今までで一番の笑みをたたえこう言った。
「『宣戦布告』だよっ!あの他人を信用しきったあっま甘のあのクラスへの『宣戦布告』だ!分かるか?まあ分からないか~。じゃあ説明でも始めてあげるよこの素晴らしい『聖戦』の幕開けの全貌をっ!」
━━
ここは校舎裏からすぐの所にあるウサギ小屋。この物語が始まった場所……そして俺の手には『彼』から受け取った折りたたみ式のナイフ。そして目の前には1匹の白いウサギ。これから起こることを予想もしていないのか無邪気な眼でこちらを見つめている。
━━
「まあ、いい材料がある『宣戦布告』のためのね」
『彼』は『宣戦布告』とやらの説明を一度落ち着いた後に始めた。
「材料……?なんだ、それは……?」
「鈍いね~、今のあのクラスで一番いい材料になりうるもの。それはね……ウサギだよ」
「っ!?」
ウサギだと…
そうウサギだ。あの時『彼』がカッターを持って殺したウサギもあそこのウサギ小屋のウサギだ。
「でも、そこは先生の見張りがあるはずだっ!そうだよ、そうだ。見張りがないはずないじゃないかっ!?」
「はぁ……先生だって暇じゃない。今日は職員会議の日だし、どうせあんな所まで行くような真面目な教師なんていないんだ。ってか最悪ウサギを持ってくればその後のコトはどこでもできるから気負う必要は無いし。というより元々君に拒否権なんてないよね?」
━━
俺はナイフを片手にウサギを見つめる。
後ろには『彼』がいて俺の様子を見て楽しんでいる。
「肩の力を抜こうよ!1回意識を刈り取ればいいんだから。」
ふぅ……
きっと俺が『行動』を起こせば完全に『陰』の世界へ入るのだろう。ただ俺はいくら距離が離れても『彼女』を守らなければ……。
あの時の決断を思い出す。
━何があっても彼女を守る。おらが守らなきゃいけない……
ふぅ……
もう1度息を吐いてウサギに目線を合わせるようにしゃがんでまずはウサギの首を掴む。1度ナイフを置いて左手で首の付け根を右手で頭を持つ。まだウサギの体は温かい。俺は右手を思い切りよく地面に向けて引っ張る。左手に力を入れるのも忘れない。
1度何かが外れたような、壊れたような音がした。
それがウサギの首が外れた音なのか俺自身の何かが外れた音なのか分からない。ただ事実としてウサギの首は外れ俺自身の何かも外れた。
「上出来だね。じゃあやって」
俺は頷き、地面に置いたナイフを取る。ウサギを仰向けにして首の付け根辺りにナイフを当てる。手が震える。後ろを向いても『彼』が笑っているだけ。
━やれ、速水隼人。お前にとっても彼女を守るための『聖戦』だ。
右手に力を込める。
白が赤に染まる。
そのまま力に任せて下にナイフを動かしてウサギの開きを作る。時々何かが引っかかるがそんなのは気にしないし、ましてや手に付いた血なんて気にするはずない。
━━
「うーん!上出来っ!よくやったね~」
『彼』は教室の中でこんな事を言う。
今教室には俺と『彼』とウサギの死体しかいない。
黒板のサンの部分にウサギの足をかけてウサギの開きを立たせている。
黒板には
《宣戦布告》
裏切り者は誰だ?この教室の中に答えはある。
と殴り書きされている。
さぁ始まりだ。
俺にとっても『彼』にとっても『聖戦』の始まりだ……
こっからどうしようかな……