召還魔法を使うために
「さて、君に中々才能があると分かって私も喜ばしい限りだが、そろそろ次の話に移ろうか」
そう言って、ネルは魔力量から話を切り替える。
「次にするのは、これから君が学ぶ魔法――召還魔法についての説明だね」
召還魔法。
異世界に来て最初に見た魔法。というか、魔道具の他にはまだ召還魔法しか見てはいないが。自分もあれを学ぶ事になるのかと考えると、才能があると分かった今ではよりワクワクしてくる。しかし、そこで少し疑問に思う事があった。
「分かった。召還魔法って、昨日見たやつだよな。でも、さっきの話だと俺に適正があるのは付与属性って事だけれど、召還魔法は使えるのか?」
ネルはうんうんと頷くような仕草をした後、こちらの疑問に答えてくれる。
「良く話を聞いてくれていて嬉しいのだけれど、実はそうではないんだよね。召還魔法は、他の魔法とは違ってちょっと特殊なんだよね」
「特殊って?」
「そう。召還魔法は、さっき説明した属性では分類されない魔法なんだ。そこらへんを細かく説明すると時間がかかるから省くけれど、召還魔法に適正は必要なくて、魔力量と術式の知識が重要になるのさ」
少し釈然としないが、そういう事なのかと納得する。それに、昨日見た時から召還魔法はちょっとカッコいいと思ってたりもしていた。それを自分が使えるようになるかもしれないとは。魔力量が多くて本当に良かった。
「それじゃぁ、召還魔法について説明を始めるよ。君は自分の事をかなりの幸運だって思って良いんだよ? 何たって、最高の召還魔法使いたるこの私に指導してもらえるんだからね!」
ネルによる、召還魔法についての話が始まった。
召還魔法とは、今いる場所とは違うところに存在するものを、魔力というエネルギーを使って持ってくる魔法の総称らしい。詠唱や魔法陣によって召還のために変換され、その際に細かい条件付けや付帯効果もくっつける事が可能らしい。実は、自分が召還されてからこっちの言葉が分かるのは、召還の際に言語変換機能を持つように設定したからだそうだ。それだけ聞くと随分便利なものだと思うが、そのような設定をするためにはとても魔法が複雑になり、使いこなせる人間は少ないらしい。
また、召還魔法にはただ呼び出すだけではなく、その後に「契約」と呼ばれる重要な工程があるらしい。召還した生物は最初から命令を聞いてくれるわけではないので、魔力を一定量与えるだとか、何らかの契約を結ぶ事で命令を聞かせるというのだ。一度契約が済めば、再度の呼び出しはかなり楽になるので、召還魔法使いは、何体かのモンスターと常に契約を交わすものらしい。
そんな話をしたり、いくつか召還魔法の例をネルに見せてもらっている内に、午前の講義時間が終わった。ユナがいつのまにか作っていた昼食を3人で食べて、少しの休憩の後、ついに魔法の実技訓練が始まった。
「まずは召還魔法云々より、魔力で魔法陣を描く練習だね」
ネルにそう指示をされて、午後からは指先から魔力を放出する訓練を始めた。これが上手くなっていくと、壁や地面などに魔力の線を引く事ができるようになるらしい。とりあえずやってはみるが。
「いや……これ全然できないけど……」
何とか言われた通りに魔力を指先に集めようとするのだが、そもそも魔力を上手く感じ取るのが難しい。水晶の魔道具無しでは、本当にうっすらと感じるだけで、気を抜くとすぐに消えてしまう。 そんな風に愚痴をこぼしていると、呆れた顔でネルが言う。
「当たり前じゃぁないか、何だって訓練は必要なものだよ。魔法だってそうさ」
「そりゃそうだろうけれど……こんなんで、帰るまでに何かできるようになるのか?」
「まぁ君の場合は、召還された時と水晶に触れた時で2回は魔力を感じ取っているはずだから、普通の人より飲み込みは速いはずさ。送還の準備が整うまでの間に、一体ぐらいは召還できるようになってるはずだよ。勿論、君が真面目にやればね」
「分かってるよ。折角魔法の才能があるって分かったんだから、一生懸命やるさ。」
改めて考えれば、異世界に来て魔法を覚えられるなんて信じられない事だし、そこで才能があると分かるなんて随分と運がいいものだと思う。だから、真面目にやるのはきっと当たり前の事だ。
それに、昔から練習とか訓練というものは得意中の得意だしな。
こうしてネルの指導の元で、俺の異世界での魔法訓練が始まった。