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スタートライン

プロローグを改稿して、設定を変えました。物語のあらすじも変更しました。

 元の世界から消えたがっているものを召喚する――。そんな事、ありえない。元の世界から消えたがっているだなんて、自分はそんな大それた事を考えるような人間じゃなかったはずだ。


 しかし、あの、黒い穴を見た時。真っ暗な穴に落ちていく時、少しホッとした気持ちになった事を思い出す。もう学校に行かなくてもいい。あの暑いグラウンドを見なくていいし、校舎に響く選手達の掛け声も聞かなくて済むのだ。そう気づいた時のあのホッとした気持ち、あれこそが消えたがっているって事だったのか?


「そんな……そんなはずは、無い。俺はいきなり異世界なんて連れて来られたくなかった。帰りたいんだ……」

 

 本当はどう思ってたのかは分からないが、良く知りもしない世界で暮らしていけるとは思えないし、日本に帰らなきゃ駄目だと思う。だいたい、野球しか脳がなかったような普通の高校生が突然異世界に出て何かできるとは思えない。


「そうなのかい? 設定したつもりだったのだが、まぁそういう事もあるものなのかもしれないね。いやぁすまなかったね! ごめんね!」


 どこか納得していないような顔をしながら、あっけらかんと彼女は謝ってきた。全然悪いと思ってなさそうだな、これは。さっきから思ってたけれど、かなり自分勝手な性格なのかもしれない。

 

「しかし、今すぐに帰るっていうのはちょっと難しいんだ。勿論、帰還用の魔法陣はちゃんと準備しているのだけれど、転移に必要な魔力を陣に貯めこむのに時間がかかるんだ」


「そうなの……ですか。ちゃんと帰還の魔法陣とかも準備はしているんですね」


「当たり前だろう? 結局は同じ転移魔法なのだから、召喚も送還も、基本が分かっていれば同じものさ。異なる二点間の位置情報を正しく持っている事が要だね。そもそも、呼ぶ事ばっかりで帰す事を考えないだなんて、研究者の思考としては失格だと思うね」


 結構はっきりものを言う人だな……。まず勝手に連れてくるのが問題だとは思うけれど。でも、帰ることが可能だと聞いてひと安心だ。


「それじゃぁ、準備の時間ってどれくらいかかるんですか?」


「今回の実験の準備に30日ほどかかったから、おそらく同じくらいの時間が必要だろうね。おっと、勿論それまでの期間は、私の方で君の衣・食・住は保証しよう! 勝手に呼び出してしまったようだし、このぐらいはね」


 30日間!? そんなに長いこと行方不明になってたら、ヤバイんじゃないか?


 でも、それしか無いというのなら……。とりあえずこの世界での生活を保障してくれるというのなら、仕方ないけれど、言うことを聞いておいた方が良いのかもしれない。


 ……それに、落ち着いて考えるなら、俺だってゲームや漫画に出てくるような異世界に来れて、まったくテンションが上がらない訳じゃない。このファンタジーのような世界で、俺も魔法を使えたりするんだろうか?


「30日間かぁ、かなり長いですね……。でもまぁ、そうするしかないならそれでお願いします。こっちの世界の事何にも知らなくて、呼び出されたまま放り出されるのかと不安だったので、養ってくれるのは素直に感謝します」

 

「まさか! そんな事するわけないだろう! 君は向こうの世界からやってきた、この世界には無い知識を沢山持った大事な客人なんだ。興味はつきないし、聞きたい事が沢山あるんだよ! 私が実験行ったのは、世界転移と異世界の知識の両方への好奇心からなんだからね」


 ニコニコしながら語ってくれている。これでちゃんと帰れるし、帰るまでも安心して暮らせそうだ。話した感じ、ちょっとテンション高いけれど悪い人っぽさはなさそうだし。まぁ、召喚したのがこの人だから、もう信用するしか無い訳だけれど。多分、大丈夫だろう。


彼女は、さらに興奮した様子で話を続けてきた。


「君にばっかり話してもらうのも悪いし、もし君が望むのなら私が魔術について教えても良いよ! あ、そっか。君の世界には存在しないから、そもそも良く分からないか? えっと、さっきの召喚魔法は魔法とか魔術って呼ばれるものの一種なんだけれど……」


「いや……何となく、わかる気がします。存在はしないけれど、空想上のものとしては魔法や魔術は良く知られているので」


 話すのは確定なのか……と、突っ込みたくなったが、魔法か。やっぱり、あれが自分にもできるかもしれないのか。それは、ちょっと楽しいかもしれない。……いや、本当はかなり興味がある。


「おっとそうか! それなら話が速い。君も訓練すれば、きっと何かしらの魔法は使えるようになるんじゃないかな」


「それならお願いします。魔法って、実はさっき見てかなりびっくりしたので、興味はあります」

 

 興味はあったが、あまりがっつくのも恥ずかしいと思ってしまい、なるべく落ち着いた風を装って答えた。

 なんかさっきからやけに丁寧に喋ってしまうな……。帰れるかは彼女次第だからその方が良いかと思ったのだけれど。


 彼女はうんうんと頷くと、どんどん話を進めていく。


「よし! 話は決まったね! そうと決まれば、私の住居の方に行こうじゃないか! この実験小屋は山の中に隠してあってね、家は近くの街にあるんだ。今日はひとまず我が家でゆっくりしてもらおうかな」


 今にも歩き出そうとするが、そこで突然ハッとした顔をする。どうしたんだ?


「しまった! 今まで、色々喋ってきたけれど、まだ自己紹介もしてないじゃないか! もっと早めにするべきだったね……」 

 そう言われれば、そうだ。まだお互いの名前すら知らないじゃないか。とりあえず、一応勝手に呼び出された身でもこれからお世話になるわけだし、こっちから名乗っとくか。


「確かにそうですね。僕は、笹川恵介って言います。向こうでは高校生……、つまり学生でした。年は17です」


 こっちが喋ると、彼女はニヤリと笑って答える。


「ササカワ、ケイスケだね。ちゃんと覚えたからね! では私も自己紹介をしようか! 私の名は、ネル・クロージア。主に召喚魔法の研究をしている、天才としてちょっとは名の知れた魔法使いさ! 年齢は23だ! 年上だけれど、別に敬語で話さなくっても構わないよ、その方が私も話しやすいからね!」


 まるで自慢するかのように堂々と、彼女――いや、ネルは答えた。


「それではササカワ君、召喚されてくれてありがとう! この世界にようこそ! これからよろしくね!」


 そんな挨拶をしたネルは、満面の笑みを浮かべていた。



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