能力者・ナツと愉快な妹たち~2~
俺の母さんが妹になった!
こんな素敵話があるだろうか!
いやない!
あってたまるか、こんなアホなことが!
だって、母さんだぞ! 母ちゃんだぞ! ママンだぞ!
「お兄ちゃん……のばかぁ」
俺の目の前で俺の母さんが涙目で、俺のことをお兄ちゃんと呼んでいる。
お兄ちゃんってなに?
俺が知らない間に、世界では自分の息子のことをお兄ちゃんって呼ぶことになったのか!?
なったなら、それはそれでいい。
かなり気持ち悪いが受け入れよう。
俺は高校生にしては器がデカいと自称している男だ。
母親がお兄ちゃんと呼ぶことぐらい許そう。
弟や妹がいる家族だと、母親が息子をお兄ちゃんと呼ぶことあるし。
でも……なんだ、この頬を赤らめ、上目遣いで俺を見ている母さんは。
はっきりいって気持ち悪い、ものすごく気持ち悪い。
「なあ、母さん。なんの冗談だよ、それ……」
「ふにゃ?」
「……」
どん引きである、本当にどん引きである。
この世の中にこれほど気持ち悪いことがあっていいのだろうか。
実の母親が『ふにゃ』だ、よりによって『ふにゃ』だ。
こいつ俺のこと舐めてんのか!?
「兄貴、もういいから上がりなよ」
俺の初恋の相手、ウイがいった。
ウイは俺のことを凍えるような視線を送っている。
ウイの隣のイオも冷たい。
本当の妹がいたら、きっとこの態度が自然であり、あたりまえなのだろう。
「ああ。悪かったな」
「いいよ、お腹空いたから早くなにか作ってよ、兄貴」
ウイがさも当然といった風に俺に夕食の催促をした。
「俺が作るの? おまえらの飯?」
ウイとイオが驚きつつ口を大きく開け、「オーノー」と呟く。
なにがオーノーだ。
なぜに俺がこいつらの夕飯を作らなきゃならんのだ。
「そんなこと母さんに頼めよ」
「母さん?」
イオが不思議そうに首を傾げながらいった。
「ほら、ここで座り込んでるのが母さんだ」
俺はさっきから女の子座りしたまま立ってこない母さんに指を指した。
「あんたなにいってるの?」
ウイがキレ気味で俺に食って掛かってきた。
「カホちゃんだよ!? 兄貴の妹のカホちゃん!」
カホ、俺の母親の名前だ。
なぜウイが俺の母親の名前を知っているのかは謎だが。
間違いなく母親の名前だ。
ウイは今なんていった?
妹のカホちゃん
間違いなくそういった。
きっと聞き直してもそういいそうだ。
他のやつに聞いても妹のカホちゃんと答えそうだ。
それにしても、母親が妹だといわれると悪寒がする。
「……わかったよ。俺が夕飯作るから、怒りなさんな」
「わかればいいのよ、ふん!」
俺はこれ以上、真実を突きつけられる前に話を受け入れ、先に進めることにした。
納得してくれたのか、ウイが腕を組んでそっぽを向いてしまった。
「兄さん、あたしカレーがいい」
イオだった。
唐突にイオが俺に夕食のオーダーしたのだ。
ちょっと待て、俺が持っている買い物袋の中にカレーの材料入ってるのか?
俺は買い物袋の中を覗く。
白菜、ネギ、鶏肉、豆腐…どうやら母さんは鍋にするつもだったらしい。
この材料でカレーなんて絶望的だ。
第一、カレールーがない。
「あーカレーは無理だ。どうやら今晩は鍋のようだ」
俺はイオに向かって買い物袋の中を見せた。
イオがガルルと獣じみた声を喉から絞り出した。
俺はイオの顔をそっと見た。
イオの両目が血走っていた。
どうやら本気でカレーをご所望みたいだ。
「どうしてもカレー食べたいの?」
「うん」
イオが大きく首肯し、それを見た俺は小さく嘆息した。
仕方が無い、ネットを駆使してカレー粉の作り方を調べることにした。
もちろん、そんなオリジナルカレーを食べるのはイオだけだ。
俺は正気だったころの母さんが予定していた鍋を食べる。
イオは満足したのか、服を脱ぎながら風呂場へ小走りでいってしまった。
「お、おい! 廊下で服脱ぐなよ!」
水色だった。
イオのパンツは水色だった。