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#0「能力者・ナツと愉快な妹たち」

 ある日突然、俺に妹が出来た……。


 そこまでなら、よくあるストーリーの一つとして終わってしまうだろう。

 俺の場合は、かなり違っていた。

 妹が毎日、ただ増え続けるのだ。

 おまえの母ちゃんスゲえなですめば簡単でいい。

 しかし、そんな簡単な話ではないのだ。

 俺の妹が毎日増殖するのだ。

 1人が2人になり、2人が4人になる細胞分裂的はなく。

 違う子が次々と妹になっていくのだ。

 とにかく妹の数が増えるのだ。


 幼稚園からずっと一緒だった、アイ。

 近所に住んでるだけの、イオ。

 小学校で隣の席になり、初恋したウイ。

 中学校の卒業式に告白した、エリ。

 高校で知り合い意気投合した、オト。


 気がついたら、みんな俺の妹になっていた。


 こんなばかげたことがあるか。

 血も繋がってもいないし、ほとんど学校で話す程度、あるいはコンビニですれ違う顔見知りなのに。


 妹だ。


 みんな、俺の顔を見れば『お兄ちゃん』『兄貴』『兄さん』と呼んでくる。

 久ぶりにあったウイ、エリまでもが、俺のことをいきなり兄扱いしてきた。

 最初、みんなで俺をだましてるのかと思った。

 みんながグルになって、俺をからかっているんだろうと考えた。

 しかし、よくよく考えてみると、こいつらに接点がないことに気付いた。


 俺を介さないと無関係者どうしなのだ。


 まったく、世の中は不思議なこがあるもんだ。

 俺はそう思い妹を名乗りたいなら、勝手に名乗っていればいいと割り切るつもりでいた。


 俺は妹を軽く見ていた……。


 妹は家族だったのだ。

 当たり前のことを俺は家に帰るまで気付かなかった。


「「「「「おかえり」」」」」


 家のドアを開けて靴を脱いでいたら、おかえりの大合唱だった。

 五人はそれぞれ制服姿で、ニコニコと俺を迎えてくれた。

 なぜ、俺の家にこいつらがいる!?

 家に招待するほど仲がいいわけじゃないぞ。

 幼なじみのアイは何度か呼んだことあるが、それ以外は一度もない。


「お、おまえらなんで、俺の家にいる……?」


「「「「「?」」」」」


 五人の妹たちは不思議そうな顔で俺を見つめている。

 見つめるだけで答えてくれない。


「だから、なんでここにいるんだよ、俺はおまえらを呼んでないぞ」


 少しばかり語気を荒くして、もう一度聞いてみる。


「「「「「ここ家だよ、お兄ちゃん」」」」」


 妹たちはさも当然といった風に答えた。

 たしかに家だよ、うん、どこからどう見ても家だね。

 家だけど俺の家であって、おまえたちの家じゃないよね。

 俺は心の中で突っ込む。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 オトが俺の顔をマジマジと心配そうに見つめている。

 俺にはなぜオトにお兄ちゃんだと呼ばれるのかが理解出来ない。

 高校で悪ふざけする程度の仲で、無茶苦茶仲がいいってわけでもないのに。

 仲がいいを通り越して、お兄ちゃんになってるし。

 本当に意味が分からないよ。


「いやさなんで俺、おまえにお兄ちゃんって呼ばれてんの?」


 俺は冷静に聞いてみた。


「お兄ちゃんだからだよ?」


 オトはあたりまえだよとドヤ顔で答えてくれた。

 家に上がり込んでまで、五人で俺をだますなんて考えられないが。

 だましているとしか思えない状況だ。


 そうこうしてるうちに、母親がパートを終え、買い物して帰ってきた。

 ご近所さんから、高校生の息子がいるとは見えないほどの若作りで有名な人だ。


「ふーただいま、疲れた疲れた」

「おかえり」


 俺は母さんが持っている買い物袋を持ってやろうかと思い左手をだした。

 偶然にも左手が母さんの腹部に当たってしまった。


 腹部に当たってしまったのだ左手が。

 俺と母さんの間に電流が通り抜けた気がした。

 俺は静電気かなにかだろうと気にせずに買い物袋を受け取った。


 なぜだから知らないが、母さんの顔が真っ赤になっていた。

 わなわなと体をふるわせ、何か言いたげに口をパクパクさせている。


「どうかした?」

「お兄ちゃんのエッチスケッチど変態!!!!!」


 母さんが顔を真っ赤にして叫んだ。

 なにやら怪しげなことをいっていた気もする。


「お兄ちゃんのエッチ……いきなりお腹さわるなんてひどいよ」


 母さんが玄関の床にペタリとへたり込んだ、女の子座りというやつだ。

 俺は女子の守備範囲は人より広いと自負しているが、さすがに母親のこの姿はなしだと感じた。

 この状況はいったいなんなんだ。

 俺は誰かに説明を求めようと、後ろを振り返った。

 アイ、エリ、オト、三人の全身から漆黒色のオーラ-を発しながら、俺のことを睨んでいた。

 イオとウイは俺を、ものすごく冷たい目で見ていた。


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