私の追憶
月夜の闇猫様主催のヤンデレ増殖企画に参加しました!行き当たりばったりですが生暖かい目でよろしくです!
" 親愛なるおにー様へ
貴方が私の目の前で命を絶ってからもう随分経ちます。
どうやら貴方が最後に言ったとおり、私の心は今だ貴方に囚われたままのようです。あなたの言ったとおりというのが少し気に入りませんがーーー。
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私が初めて私のおにー様に会ったのはよく覚えてないけれど、確か私がまだ随分幼くて、一番よくできていた頃のことだと思う。
その頃のおにー様は文武両道、完全無欠で、素晴らしいなぁなんて思ってた。同時に私は周りの大人からおにー様のようになりなさい。と口を酸っぱくして言われていたから、
「ああ、成る程。あの程度でいいんだ」
なんて、そんなことを思った。
捻くれていたからこんなことを思ったわけではない。単純な事実としてそう思ったんだ。
その頃の私はよくできていたから、それを言ったら多分いけないんだろうな、と。幼心ながらに察し、何も言わなかったけれど。
でも。私は本気でおにー様を尊敬してた。
無駄なことを凄く努力してできるようになるまでの過程を、本気で辿るおにー様に、感服してた。
恐らくおにー様は私がそう思っていることを知っていただろうし、私もそれでよかったから。
私は一人じゃ何もできなくて、それを助けてくれるためにおにー様があてがわれたらしい。つまり血の繋がりなんてない名目上だけの兄妹だった。
周りから見たら私たちはとてもよくできた兄妹だっただろう。妹は兄を尊敬していて、兄は妹を敬愛していた。私たちの周りの大人が望んでいたのはきっとそういう関係だから。
喩えようもない程に歪で美しい空っぽな関係。でも。それはとても心地よくて。そんなのあるはずもないのに。
とても滑稽で、それ故に私は……。
ともかく私はおにー様が大好きでした。今も大好きです。好きっていいのかイマイチわからないけれども。おにー様は私を甘やかせるだけ甘やかしてくれたから。だから順調におにー様に依存していってそれを好きだと思っていった。
同じくおにー様も私に依存していたらしい。今じゃもうわかりようもないけれど、多分そうだと思う。本人からも聞いたし。
おにー様は、私の才能に憧れていたらしい。で、才能のない自分が嫌で仕方なかったんだって。だから、私という才能の塊みたいなものの近くにいることで自分も凄いんだと思いこもうとして、そう思えなくて、そして私の世話をすることで私の生殺与奪権を握っていると思い込んで、そうしてちっぽけな自尊心を満たしていたらしい。そうして、私に依存していったんだとか。
そうやって私たちはお互いに依存して、どうしようもなく歪に美しい関係を紡いでいった。
そして、おにー様は、私の目の前で命を絶った。
私が十六歳になったとき。結婚することになって。それをおにー様は知らなくて。そしてそれをおにー様に話したら。
そうしたらおにー様は、私に言ったんだ。
「他の人のものになるなんて、許さない」
おにー様と私は食事をしていたからおにー様はナイフを持っていた。で、それを私に向けて
「でも俺にそんなこと言う権利なんてないから。………だから、せめて×××××の心だけは、俺に頂戴?」
にっこりと、嗤った。
ーー何を言ってるの?
私は、そう言いかけて、それで言えなかった。
おにー様はそのナイフでおにー様の喉をついた。
真っ赤な血が、溢れて、止まらなくて。おにー様の白い服を真っ赤に染めて。それで、それで。
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おにー様、私はおにー様が大好きでした。大好きです。おにー様がいなくなってから、私はあまり毎日楽しくありません。結局結婚はしませんでした。満足ですか?
でも、もう一度会えるなら、私はーーー
貴方の妹 ×××××より愛を込めて
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私は真っ白な便箋におにー様への想いをありったけ書き込んで、私はボールペンを置いた。
窓の外には綺麗な三日月が浮かんでいる。おにー様が死んだのもこんな夜だったなぁ、なんて思いながらその月に手を伸ばしてみる。
「私ね、本当にね、そう思ってたんだよ?」
伸ばしても掴めない、お空のお月様。私にとってのおにー様はそういう存在だったんだ。
けれど
「本当に、本当に 嬉しかったんだ」
今はそうは思えない。
おにー様があのとき、私のために、私のことだけを思って命を絶ったから。絶ってくれたから。
だから。その瞬間におにー様は私だけのものになったんだ。それが、嬉しくて、どうしょうもないくらい嬉しくて。
「おにー様」
私はにっこりと笑う。
貴方が私のものならば。
「あいしてる」
私も貴方のもので、あるはずでしょう?
でもこれって………恋愛?恋愛なの?やんではいるけれど……恋愛じゃ、ない気が…します。