9、狩人の心
人気のない静かな森の中、シェートは木の根方で目を覚ました。
いつかの時に荷物を置いておいたその場所には、確かに弓と山刀が残っていた。
『……起きたか』
「うん……」
勇者から逃れるために夜通し走り、何とかこの場所までたどり着いたものの、それから先は全く覚えていなかった。
裸同然の体に弓と矢筒を身につけ、山刀を手に洞から出る。
『何とか、生き延びたな』
「……うん」
すでに日は高く昇っているのだろう。生い茂った枝の間からも、中天の日差しが差し込んでいるのが分かる。
『すまなかった』
「なにがだ」
『お前の恋人を、思い出を、利用してしまった』
ふと、昨日の光景が頭に浮かんできた。燃え盛る世界で、最後に掛けられた言葉が鮮烈に蘇る。
「ルーを、忘れたくなかった」
『いや……その、本当に……』
「怒ってる違う。俺、わかった」
あの時、死の淵から蘇ってきてしまった理由。
「死んだら、全部無くなる。つらいこと、くるしいこと、たのしいこと、うれしいこと、思い出、みんな」
『……そうだ。我々も、失われた命や魂を蘇らせることはできない。せいぜい手綱をつけておいて、引っ張り戻すのが関の山だ』
あそこで死んでしまえば楽だったろう。でも、大切な思い出も消える。
「だから、死にたくなかった」
『そうだな』
「お前、こんなことも言ってた。俺の心、見て選んだ。どういう意味だ」
女神は笑い、自嘲をもらした。
『気づいていると思うが、私は神々の中で最も弱い存在だ。私が配下に加えられるものといえば、最下級の魔物たち、ゴブリン、オーク、そしてコボルトぐらいしかいなかった』
力や即物的な戦闘力なら、コボルトは他の種族に遠く及ばない。そもそも選択の範囲に入れることも無い存在。
『だが、コボルトたちには、他の者が持っていなかったものがある』
「そんなもの、あったか?」
『お前が両親や家族、仲間達、ルーに感じていた感情だ。連帯感、仲間意識、愛情……他者との交わりが生み出す力だ』
また難しい言い回しをはじめた女神に呆れたように腰を下ろすと、笑い声が大気に甘い香を漂わせ始めた。
『粗暴なだけの存在では、より強い暴力を前にすればたやすく砕け、私との信頼など最初から結ぶことも出来ぬ。この遊戯は初めの強さなど重要ではないという『余地』がある。弱いものも強くすれば、いつか高みに届く可能性がな』
女神の言葉に、今度こそコボルトはため息をついた。
「俺たち、こんな言葉ある。『高い鳥落とせる矢、鳥にはならない』」
『飛べることと高みに届くことは別物、か。お前達は本当に現実的だな』
「俺たち弱い。無茶しない、戦わない。お前、選ぶ魔物、間違った」
『だが、お前はあの時、立ったではないか。そして、勇者から逃げ遂せた』
サリアの言葉に、心がかすかにざわめき、慌てて首を降る。
「お、おだてても無理! 勇者強い! もう、あんなの、二度と出来ない!」
『分っている。昨日のことで思い知った。私はまた愚かさを重ねるところだった』
サリアはまた笑う。
ただ、大気の匂いは冬の夕暮れのように、冷たく澄んで香った。
『遊戯を降りよう。シェート』
犬のような口をぽかりと開け、呆然と空を見上げた。
「お前、それでいいのか」
『元々無茶な行為だったのだ。お前にこれ以上、つらい思いをさせるのは心苦しい』
「俺、どうなる?」
『案ずるな。とりあえず、遊戯に参加した勇者が一人に絞られた時点で、辞退を宣言すればいい。それまで私がお前を生かそう』
自分としては破格の申し出だった。遊戯を降りるのだから、やった命を返してもらうと言われると言われてもおかしくはない。
だが、心が即座にその可能性を否定する。この女神は、そんなことは全く考えることは無いだろうと。
「サリア、聞いていいか」
『最後に残る勇者のことか? 安心しろ。おそらく兄上は途中で敗退する。上位の神というものは決まっておるようなものでな。私が心から謝罪すれば、温情ぐらいは掛けてくださる方たちだよ』
「それ聞きたかった。けど、今聞きたいこと、違う」
ずっと気になっていたこと、今なら聞き出せそうなことを口にする。
「お前、なんで遊び、参加する、思った?」
『……そのことも、私がお前に謝罪したいことなんだ』
「なんでだ?」
『私が遊戯に参加したきっかけは、復讐と贖罪の気持ちからなんだ』
サリアは、そこから淡々と語った。
彼女の治める世界は、それほど大きくは無かったが生命力に溢れ、豊かな霊的資源に溢れていた。彼女自身もさまざまに手を尽くし、世界を慈しんでいた。
『だが、神々の間では争いが絶えなくてな。その上、魔物たちの侵攻もあり、私にも累が及ぶことがあった。私は神々の調停を行い、あるいは自らの力を奮って外敵を討った』
戦いは世界そのものを傷つけ、いくつもの星が荒廃の末、捨てられてゆく。
そんな時、魔族の長からのある提案が起こり、神々はそれを真剣に考え始めた。
『それが代理戦争たる、勇者を使った神の遊戯だ。遊戯で起こる戦乱は確かに大きいが、歯止めが効かないまま振るわれる、神魔の暴威よりははるかに被害が少なかった』
「でも、お前、それに参加しなかった?」
『ああ。被害が小さい、などと言っても結局は世界の力を削る。戦など無い方が良いからな。ちょうどその頃だ、私が『平和の女神』などと言われていたのは』
下らぬ称号さ、そう言って笑うサリアの匂いは、乾いた木枯らしだった。
『ある時、私の世界に魔物の一団が紛れ込んだ。とはいっても、ごく小さく、弱いものではあったし、特に害は無いということで、捨て置いた』
「いいのか?」
『魔の者、というのも万別でな。真に邪悪なものもあれば、そうではないものもある。魔とは神の反転にすぎんしな。当時の私は、彼らを受け入れるということが、どんな意味を持つか、考えもしなかったのだ』
無論、それなりの目論見もあった。
魔族を部分的に受け入れ、最終的には自分の世界を中立の区域として開放する。魔の高位者の中には、元々神族として在ったものも少なくない。そうした存在にも打診を行い、少しずつ影響を大きくするつもりだった。
『だが、その魔物には、ある性質があった。世界を喰うのだ』
「世界……喰えるのか?」
『たとえだ。そいつがそこに居る限り、あらゆるものが喰われる。生命力、地の霊力、その世界が呼吸するマナ、そういうあらゆる物がな』
その性質を、サリアは知らされなかった。
その魔物を紹介した神はいつの間にか神界から姿を消し、他の神たちはこれを魔の者の邪悪な侵攻だといきり立った。
『とはいえ、その魔物が喰う量はたかが知れていたし、その体に蓄えた世界は濃縮され、死して後はその世界をさらに豊かにするのだという』
「悪い奴じゃ、ない?」
『それどころか、魔の世界ではその希少な力ゆえに狩られ、姿を消しつつあった』
魔の側は反対に、自分達の益獣を神が奪い去り、独り占めにしていると言い募った。
あとは、お決まりの騒乱が巻き起こるばかりだった。
『神々も魔も、私の星を、遊戯の場として開放しろと言ってきた。私は拒否し、なんとか争いをやめるよう、働きかけた』
そう言うと、サリアは黙り込んだ。
大気からは神の匂いが薄れ、静まり返った森に、時折こずえが揺れる音だけが響く。
鳴き鳥が呼び交わし、遠くの沢のせせらぎが流れていく。
『私はな、シェート。自分の世界を守れなかったのだ』
声は平板で、抑揚が無い。それ以上のものを極力込めないように、そっと吐き出されていく言葉。
『それから、長い時間が過ぎた。私の世界は壊れ、錆びていった。私は何をすることもなく、無為に過ごした。そんなときだ、お前のいる、この世界に出会ったのは』
若く、命に溢れた世界。
いくつかの神の手が触れはしたが、それでも無垢な、赤子のような世界。
『私はこの世界を廻った。そして、その健やかさを楽しんだ。だが、この世界にも、争いの種は蒔かれていった』
「それ、俺たち、か?」
『ああ。魔物達がこの世界に根を下ろし、着実に準備が整えられていくのを、私は気が狂いそうな思いで見ていた。何も出来ない自分にいらだちながらな』
魔族たちの貪欲な争いを、やがて来る勇者達の到来を予感しながら、サリアは神々の間に舞い戻った。これ以上無益な戦いを広げて何になるのかと。
『神と魔の騒乱を産み、自らの世界を守れなかった者の言葉など、誰も聞くものはなかった。ただ、昔から懇意であった竜神と、審判の女神は、少し違ったが』
そして、二つの助言を受けた。
一つは自らの世界を再生するために、神々の力を借り受け、一からやり直すこと。
『もう一つが、復讐の道だ』
「復讐?」
『私の世界を汚し、貶めた神を探るためだ。遊戯に勝利した暁には、その神は願いを一つかなえることができる。それを使ってな』
審判の女神は言った、勝つ可能性は在ると。
万に一つだが、弱い魔物から始めて能力を稼ぎ、その末に他の勇者を凌ぐほどの力を手に入れられる可能性が。
『そして私は復讐を選んだ。とはいえ、それだけが理由ではないがな』
「しょく、なんとか、か?」
『罪滅ぼし、悪いことをしてしまったことを、赦してもらいたい、そういうことだ』
守れなかった自分の世界の代わりに、この世界を守ることは出来ないか。
身勝手なことだし、無意味だと謗られもするだろう。
その思いに苛まれながらも、結局その道を選んだのは、
『私が、身勝手で醜いからだろうな。私は最後まで非戦を訴えたが、結局自分の手を汚すことを嫌っただけではないのか? あの時、もし遊戯に参加していれば、まだ何かが変わったのではないか? そういう気持ちが、頭から離れなかった』
「それで、俺、使ったのか」
『そうだ』
長い話の大半は分からなかったが、最後だけは理解できた気がした。多分、女神の気持ちを創った一部は共感できる。
「俺も同じ。勇者殺したい、自分のため。復讐しても、みんな、生き返らない」
『そうだな……そして、ゲームは終わったのだ』
それが、長いやり取りの結論だった。
もう戦わなくていい、始まりもしないうちから、復讐の旅は終わる。
その時、コボルトの二つの耳は、小さな音を聞いた。
きゅううううっ。
「ああ……」
『どうした?』
「話長い、腹減ったの、忘れてた」
『は……はははははは、そうか、そうだな! 長々とすまなかった!』
空気が緩んでいく、その中に漂うのは、サリアの上機嫌の匂い。
「お前、いつもこんな匂いなのか」
『あ、ああ。私の性質でな。感情を発露させると、そのようになってしまうのだ……気に入らんか?』
「いや。俺、この匂い、結構好き」
『そうか。ありがとう』
「お前の世界の奴ら、たぶん、きっと、お前の匂い、好きだった」
それきり、女神は沈黙した。
こういう雌の沈黙が、昔からシェートは苦手だった。ふと、ルーも同じような状態になったことを思い出す。
そんな時は、自分も黙って弓や狩りの道具を手入れをするのが常だった。
だから、今回もシェートはそうした。
女神の沈黙は、中々終わらなかった。
あれほどの傷と、恐ろしい経験をした上、まともに食事も取っていないというのに、シェートは山の斜面をすいすいと昇っていく。
「とても、数日食べていない者の動きとは思えんな」
『でも、今すごいはらぺこ。サリアの力、なかったら動けない、思う』
「過信はするなよ? あれはお前の体の力を助けはしても、飲まず食わずで生きられるようにするものではないのだから」
『ん』
受け答えしつつ、シェートは手近な木に軽く山刀を当て、皮を少し削って口に入れる。
「それは?」
『この皮、甘い。腹減った時、よく噛む』
さらに進むと、今度は樹液を滴らせた大木の前で立ち止まり、山刀の柄で幹を勢い良く打った。ぽそっという音共に、甲虫の何匹かが転がり落ち、逃げ損ねた一匹があっという間に腹部を残してばらばらになる。
「だから虫はやめろと言うのに」
『こいつ、汁気一杯、うまいぞ?』
「や、やめろ! こちらに見せようとするな!」
こちらの狼狽をからからと笑い飛ばす彼の姿は、さっきまでの屈託などまったく見えない。その姿に、この生き物は根っからの狩人なのだと、改めて気づかされる。
『狩りするとき、森の中、何日も歩く。ちゃんとした飯、作る暇ない。だから、こうしてなんでも口入れる。食べられるもの知る、とても大事』
「なるほど、狩人の仕事は知識が重要なのだな」
『そう。獲物探しながら、危険探す。そういうこと、みんな「ガナリ」から教わる』
「ガナリ?」
『狩りの全部、考える奴。一番えらい』
「村長とは違うのか?」
こちらの質問に、シェートは丁寧に答えてくれる。まるで新しい後輩に、狩りの仕方を教えるように。
『ガナリ、村長すること多い。でも普通、ガナリと村長違う。狩りと村の仕事、考えること違う』
「職能区分か。全く、お前達には驚かされる。とても愚かな魔物の筆頭に数えられるとは思えんよ」
『俺たち、魔法使えない。剣使って戦えない。狩り、誰でもできる、みんな思う。だから弱い、頭弱い思う。でも他の魔物、誰かから奪うだけ、森から貰う方法、何も知らない』
シェートは厳かに語り、ほんの少し立ち止まって森の空気を吸った。
『森、俺たちにも何かくれる。弱い、力ない俺たち、ここで生きられる。だから、俺たちも森、大切にする』
そのままゆっくりと膝を曲げ、地面に手を当てる。下生えにさえぎられた地面には肥えた黒土が敷き詰められ、小さな蟻や甲虫が這っている。
「どうした?」
『少し黙れ。足跡追う』
見た目には全く異常が分からないが、シェートはそこから何かを読み取り、腰を沈めて這うように歩き始めた。
低木やひょろりと伸びた青草を、わずかに揺らすだけで進む歩き方は、まるで風のようで、そこに付いた昆虫達に身じろぎすらさせない。
やがて、密生した茂みの前で膝を突くと、腰から弓を引き抜く。
『見ろ』
矢を番え、狩人が新米に声を掛ける。視線の先で、新芽を食むのは一頭の大鹿。
崖下の開けた土地で、低木が群れ生えている。他の鹿は居ないらしく、ただ一頭だけがご馳走を独り占めする形になっていた。
「大きいな……」
『二年越えた奴、あのくらい大きい』
多分、シェートの三倍の体格はあるだろう。すでに大きくなりかけた角が、立派なだけでなく、外敵を殺せる凶悪な武器になることはサリアも知っている。
「大丈夫なのか?」
『平気。それより、黙って見てろ』
きり、と弦を引き絞る。その途端、鹿は耳を動かし、食んでいた口を上げた。
『鹿、警戒心強い。でもそれ、隙なる』
そろそろと腰を上げ、中腰の姿勢になる。鹿は異変に気が付き、脚に力を溜める。
シェートの弓が限界まで引き絞られ、同時に鹿が左へ跳ねた。
ひょう、と風を切る音。矢が大気を渡って鹿の顔へと殺到する。
『ヒュィッ!』
だが、矢は鼻先をかすめ、鹿は驚いて体を反転させた。
「外した!?」
だが、シェートは無言で茂みを飛び出し、素早く矢を番える。そのまま狩人はさっきまで鹿の居た場所に立ち、素早く追い討ちを掛ける。
再び矢が外れ、鹿が森の奥へ逃げ去るが、一切気にせずシェートは駆けた。
「このままでは逃げられるぞ!」
『大丈夫。あいつ、逃げられない』
そう言って、シェートは最後の矢を番えてさらに走る。
走った先、鹿は立ち往生していた。角に蔓で出来た網を絡ませて。
「罠!?」
その言葉に答えを返すように、最後の矢が鹿の眉間深くに突き刺さった。
『サリア、お前もう少し俺のこと、見てる思ったぞ』
獲物が死んでいることを確認したシェートは、少し馬鹿にしたように笑った。
「いつの間にあんな罠を?」
『錆喰い狩り、長くなる思った。鹿肉あれば助かる。毛皮、温かい靴、作れる。ここ来た次の日、夜明けの時、見回って掛けた』
「まさか、鹿の逃げる先もわかっていたというのか?」
『鹿、角あるから通る道、限られる。最初の弓、逃げ道塞ぐため撃った。二発目、網の罠動かすのに使った』
説明を終えたシェートは、罠の蔓を解体して鹿の足を縛ると、呆れと関心で何もいえないこちらを気にすることも無く、満足そうに頷いた。
『今日、ご馳走』
驚くほど手早く済んだ解体を経て、魔物は焼けた鹿肉をもりもりと頬張っていた。
「あまり急に食べ過ぎるな、腹を壊すぞ」
『……おれ、ずっと……むぐっ、食ってなかった。はぐっ……食えるとき……食う』
一心に腿肉に喰らい付く姿は必死で、それで居てどこか愛くるしいと思える仕草だ。汲んでおいた水と肉を交互に口に入れ、次第にその動きが緩やかになっていく。
「もう、腹はいっぱいか?」
『ん……』
自分の手元に残った肉に目を落とすと、小さくかじった。
それを何度も繰り返し、少しずつ肉を平らげていく。
「……それは?」
『食い送り。みんなのこと、考えて、ちょっとずつ、食う』
「砦の、仲間達の分、か」
『ほんとは、居なくなった奴の分……みんなで分けて食べる』
祈ることも、祈る神もない魔物が出来る葬送。目の前に灯る焚き火が荼毘の炎のように揺れている。
『……母ちゃ、鹿、好きだった』
小さくかじる口が、少し歪む。
『でも、歯、弱ってた。だから、稗と一緒、小さく切って煮る。弟達、いつも腹減らしてた。鍋に山菜、肉、一杯入れて作ったの、すぐ無くなった』
愛しいものを語る口は、いつしか食べるのをやめていた。
『カイ、鹿取りの罠、作るの上手。いつも一番いいとこ、持ってった。代わりに、どんぐりとか、山葡萄とか……酒とかくれた』
焼け出されたあの日から、ほとんど語られなかった村のことを、ぽつり、ぽつりと漏らしていく。火にくべられた枝が燃えるように、思い出が咲いていく。
『ルー、鹿、そんなに好きじゃなかった。あいつのこと、みんな好き。だから、みんな鹿持ってく。でも、ほんとは山の魚と、ウサギ、好き』
「たいそう持てたのだな、ルーは。他の男達とはケンカにならなかったのか?」
『いっぱいした。でも、最後にはルーがみんな、黙らせた』
手にした鹿肉をちぎっておいた青葉に包むと、寝床の奥へと放り込む。そのまま寝るのだろう、そう思っていたが、シェートはそのまま火の前に座っていた。
『サリア、お前の世界、どんなだった』
「いきなり……なんだ?」
『俺のこと、一杯話した。今度はお前、何か話せ』
「そうだな……お前の居る所とあまり変わらない、小さな世界だった」
水鏡を見つめながら、サリアは懸命に思い出そうとした。
青く輝く、自分の星のことを。
「その頃は私も、下界に干渉する肉体があったからな。しょっちゅう出向いては、皆に困られていた」
『お前、ドジででしゃばり。きっとみんな、苦笑いしてた』
「ああ。神としての威厳とか、そういうものを持つようにいつも言われていたよ」
それでも楽しく、すばらしい毎日だった。天界では浮いていたかもしれないし、兄からもいい顔はされなかったが、幸せだった。
「そういえば、お前のようなコボルトにも何度かあったことがある。ひどくおびえていたが、慣れれば気のいい連中だった」
『俺の仲間、お前のとこも居たか』
「というか、何らかの形で『逃げて』来るのだ。次元の綻びを抜けたり、世界を渡る船に密航するものも居る。コボルトの逃げ足は全世界共通らしいぞ」
『……そいつら、幸せだったか』
それに答えるのは、難しかった。あの騒乱の中で全ての命は灰燼に帰した。おそらくコボルトなどひとたまりも無かったろう。
「分からない。ただ、笑ってはいたよ。私たちと一緒に。そういう一瞬があったことは、覚えている」
『ならいい。一生、笑えない奴、いる。笑えたなら、きっと幸せ』
シェートの言葉には、優しさとささくれた感情が一緒くたになって溢れていた。
「砦で死んだ者のことを、考えていたのか」
『コボルト殺すの、勇者じゃない、もっと沢山のもの』
「そうだな……勇者など、その一部に過ぎん。神と魔王、それが元凶だ」
『神様もか』
「そうだ」
炎に新しい燃えさしがくべられた。
『勇者殺しても、魔王居れば、コボルト死ぬ。魔王倒しても、勇者いれば、結局コボルト死ぬ』
「その通りだ。どちらかが残っても同じこと……それが、忌々しい今の世界の在り様だ」
苦味が自然に言葉に混じる。その吐息を感じて、コボルトは口を開いた。
『サリア……最初俺に、遊戯で勇者殺したい、言ったな』
「ああ……」
『でも、ほんとは、そうじゃない』
指摘に心が揺らぐ、その隙を射抜くように言葉は放たれた。
『勇者だけじゃなく、みんな殺したい。違うか?』
「――――ああ」
シェートの言葉に、サリアはあの時の想いを、もう一度感じた。
燃え落ちる村を見た、その時の感情を。
優しげな笑みで、イェスタは目の前に浮かばせた水鏡を示した。
向こう側の世界で、惨い虐殺が映し出されていく。死に行く魔物の群れ、その集団には覚えがあった。
「御覧なさい。平和の女神よ」
サリアは必死に目を逸らそうととしたが、それでも顔は惨状から背けられなかった。
死んでいく、たった一人の勇者に、コボルトが蹂躙されていく。
そこは一度か二度、自分もさすらった場所だ。小さな村は穏やかで幸せそうで、いつか壊れるものだとしても、それでもいとおしさを感じていた。
紅蓮に染まった村は、以前と同じ場所とは思えない地獄に変わっていた。
「やめさせてくれ! 彼らは何もしていない! 魔物と言っても、何の力もない存在なのだ!」
「言葉で、何が変わりましょう哉?」
審判の女神の言葉は、冴え冴えと甘えを切り裂いた。
「あの暴力をやめさせることが出来るのは、より大きな力のみ。勇者を倒すには勇者を以ってするしか御座いません」
「だからと言って私になにができる! この身一つを捧げたとて、非力な者を呼び出して死地に追いやるが関の山だ!」
「そう仰られるのであれば、そのようなことで御座いましょうね」
女神は笑う。
笑いながらサリアを切り裂いてゆく。
「貴方は今まで何をしてこられたので? 自らの世界を守れなかった悲嘆ゆえ、あまたの世界を遍歴した挙句、今またこの世界を見捨てようとしている」
「だから、竜神の力を借りて!」
「別の天地に楽園を作り、こう仰らればよろしいでしょう『ああ、あの世界も滅んでしまったが、私も良い経験を得て、今度こそ過ち無く歩んでゆける』と」
「――――っ!!」
炎が踊り、村を焼いていく。コボルトたちは勇者と騎士の剣によって殺され、逃げようとしたものも魔法使いの劫火に消し炭となっていく。
「ああ、どうやらあれが、最後の犠牲者でしょうね」
「……馬鹿者! なぜ行くのだ! お前だけでも逃げろ!」
小さな体を火にあぶられながら進む、コボルトの狩人。弓を引き絞り、惨状を引き起こしたものに果敢に挑もうとする。
「ダメだ! そやつにそんなものは効かぬ!」
「何を叫んでおられるのです。貴方の声など彼には届きませぬのに」
「うるさい!」
水鏡をコボルトの若者に合わせる。矢が弾かれ、がっくりと膝を突く。
「逃げるのだ、逃げてくれ!」
だが、恐怖に震えた体はピクリとも動かない。
そして、白刃が命を断った。
あっけない命の終わり、刺し貫いたコボルトを振り向くことなく、勇者の一団は笑いあいながら去っていく。
「……ふざけるな! 何が勇者だ! 無抵抗のものを殺して! 自らの糧にすることのどこに正しさがある!」
「これは異なことを。遊戯の取り決めは神と魔とが作り上げた約定。そして、魔は世界に仇なすもの。それを殺すのは正義であり法では?」
「それが正義なら私は正義など要らぬ! それが法ならそれを敷くものを憎む!」
「そのように仰られることもまた自由で…………おや?」
審判の女神の眉根が寄る。彼女の視線の先で、変化は起こっていた。
死んでいたはずの魔物の手が上がる。傷を庇いながら、ゆっくりと立ち上がる。
『いやだ……』
うつろに、だがはっきりと言葉を口にする。
消えかけた命が見える。それでも、彼の中で心は燃えていた。
『こんなの……いやだ……』
自らの身に降りかかる理不尽に、抗い立つ両足。こぼれる血を抑えながら、必死に前を見据える。
『いやだ……っ』
怒りが、周囲の炎にも負けない怒りが燃え立っていた。肩を寄せ合い、ささやかな幸せを享受することだけを願い続けていた命。それが残酷な世界の約定に引きちぎられることに、心から怒っていた。
頬を悲しみの涙で濡らしながら、それでも魔物は咆哮を上げた。
『お前を殺してやる、勇者あっ!』
叫びと呼ぶには余りに小さな声。
だが、強く強く、世界を磨するほどの想いが、水鏡を震わせていく。
「……復讐を望むのか、小さき魔物よ」
言葉は、気が付けば自然と口を突いていた。
『おまえ……だれだ』
「復讐を望むか、と聞いたのだ」
もう時間が無い。今すぐに約定を結ばなければ、あの魔物は死ぬだろう。
「早く応えよ。さもなくば汝の魂は闇に転げ落ち、怨讐の刃を振るうことも叶わぬぞ?」
答えるかどうかは相手次第だった。自分がどんな存在であるか、鈍い魔物でも分かるだろう。
だが、不思議と拒絶は無いと分っていた。
きっとあの魔物は、自分と同じだと。
『……のぞむ』
深い安堵、そして自分の頬に何かが伝っていく。
『俺……勇者を殺したい……仲間を、母ちゃを、弟達を……』
本当に自分は愚かだ、心のどこかで己を呪う声がする。こんなことをして何になる、たった一粒の命を拾い上げ、自分を滅ぼすのかと。
同時に、目の前の魔物を救えることを、消えていく命を拾うことが出来る、どうしようもない喜びを、感じずにはいられない自分も居た。
そして、彼の抗う姿に、果たせなかった思いを重ねていく。
『ルーを殺したあいつを、必ず殺してやる!』
「よかろう」
その瞬間、サリアの力と存在がコボルトの体に流れ込んだ。
「それでは、お前はこれより私のものだ。その代わり、お前に勇者を殺す力をやろう」
『……おまえは……いったい……なんだ?』
「私はサリアーシェ」
光の届く先、炎の中で新生した命に、サリアは優しく語りかけた。
「天に侍る、女神の一つ柱だ」
そこまで思い出したとき、言霊は零れ落ちた。
「私は、みんな殺したいのだ」
勇者とか魔物などではなく、その全てを含むものを。
それが、本当に為したいこと。
『お前、怖い女神』
「そうだな。私は恐ろしい、醜い女神だ」
『でも俺、気持ち分かる。俺も、みんな、殺したい』
「なら、お前も怖い魔物だ。私と同じでな」
『……うん』
地上と天界に分かれた二つの魂は、同じ思いを抱いて笑いあった。
大気は潤い、夜の闇の中、暖かな気配が満ちる。
『サリア』
「シェートよ」
呼び合うだけで、全てが分かり合う。そうしてから、女神は切り出した。
「それで、どうする?」
『……俺、怖い魔物なった。でもやっぱり弱い、コボルト』
「私も同じだ。恐ろしい女神だが、何の力もない」
『また、レベル、上げるか?』
「さすがに錆喰い程度屠ったところで、最下級の勇者にも追いつけまい。ましてや兄上の勇者は更なる格上となったはず」
『結局俺たち、弱いままか!』
そういう彼の声には、暗さは無い。食べるものを食べ、言うべきを言ったからこそ、無一物の明るさを手にしていた。
「そういうことだ。私たちにあるのは、やけくその反抗心と、お前の狩りの腕だけだな」
『狩りで勇者、殺せない。どうしようもない』
「そうか? 所詮奴もただの人間、存外簡単に狩れるかもしれんぞ?」
『やっぱりお前、変な女神。相手、鹿狩るのと、話違う』
「お前は以前、熊を狩ったといったろう? 人間など熊より弱いぞ」
我ながら、根拠の無い言葉遊びだ、と思う。
神が力を与えたからこそ、人が人ならざるものへと変わるのだ。いくらなんでも熊より弱い勇者など居るはずが無い。
こちらの無責任な言葉に、コボルトはむくれて反論を返す。
『お前気楽。熊狩るの大変。それに勇者、熊より強い。熊、火吐かない。雷降らせない』
「あんなもの、本人がやっているわけではない。一日たった三回の奇跡だ」
『鎧すごい。熊の毛皮、毒矢でなんとか貫く。勇者の見えない壁、俺の弓、貫けない』
「だが熊と違って勇者は鎧を脱ぐ。年中あの堅い殻に覆われているわけではない」
『剣、どうする? あれ何でも切れる』
「お前の得物は弓だろう。間合いにすら入らないで済むな」
言い切った言葉にシェートは、虚を突かれたようになり、視線を地面に落とした。
『サリア。人間、鎧脱ぐ、剣置く、どういうときだ』
「食事、風呂、睡眠、いくらでもあるぞ。あるいは若い女を掻き口説いている時か。色恋に血刀を持ち込む愚か者は、そうおらぬだろうよ」
『……それ、みんな、多分町中、宿とか家の話。俺、行けない』
「もっと柔軟に考えよ! 野宿の最中でも、鎧を脱いで寝る場合もあろう!」
いつの間にか手にしていた枝で、魔物が何かをぐりぐりと書き綴る。勇者らしい姿と自分の姿、それから――。
『やっぱりダメ! 勇者仲間いる! 熊群れない!』
「投げ出すな! 群れたなら引き剥がせばよかろう!」
『どうやって!?』
「あー……それではあれだ! 狼と思えばよい!」
『今度狼か……。狼、あれも狩るの大変』
書き掛けた勇者達の仲間が、新たに地面に加えられる。剣を持った騎士、魔法使い、僧侶と、それに相対するコボルト一匹。
その姿を見てサリアは、息を飲んだ。
「な……なぁ、シェートよ。狼狩りのコツとはなんだ?」
『群れの頭探す。そいつの鼻、効かなくする。仲間、散る』
「こう考えてみよ。勇者は群れた狼の性質を持つ熊だと。最後の一匹になれば、熊として扱えるが、群れている間は狼」
『めんどくさい。……けど、やってみる』
狩りに例えた途端、コボルトの知性が緩やかに、しかし確かに回り始めていた。仲間達としていたであろう打ち合わせの時のように、言葉があふれ出てくる。
『勇者、剣強い。魔法使える。でも、騎士、魔法使い、あと神様の下っ端。一緒に居る。……勇者強い、一人で十分。なぜ群れる?』
「簡単だ。奴には戦う力しかないからだ」
『勇者、戦うだけ? 他にできること、ない?』
「おそらくな。強力な神器は、獲得するのに莫大な対価を必要とする。おそらく、危険の探知や他者への治癒能力を持つ余裕など無かっただろう」
『だから、仲間いる、か』
言葉を交わしていくうちに、サリアにもおぼろげながらに分ってきた。
相対すればとても敵う相手ではない。だが、それが絶対の真理ではなく、単なる前提条件に過ぎないとすれば。
「勇者とて一人で完璧にこなせるわけではない。所詮は人間だからな、それゆえに群れを作り、不完全さを補っているのだ。その群れを乱し、ただ一匹にしてしまえば」
『……勇者、狩れる……か?』
「断定は出来ん。奴自身のポテンシャルを、私たちはまるで知らないのだ。だが」
それ以上、言う必要はなかった。
おそらく本人ですら気づいていない光が、彼の目に灯っている。
コボルトは弱い。戦士にはなれない。
だが、狩人にはなれる。
『サリア、もっと教えろ。勇者のこと、仲間のこと、全部』
「分った。私の知りうる全てを、教えよう」
自らの神座に落ち着きながら、ゼーファレスは不機嫌そうな顔をやめなかった。
周囲に侍る小神たちは、その様子におびえて近づこうともしない。
もちろん不機嫌の源は自分の妹のことだ。突然遊戯に参加すると言い出し、さらには周囲を巻き込んでの狼藉の数々を尽くしている。
「あの、愚妹めが」
口元を引き締めると、水鏡に下界を映し出す。そこにはどこかの町にある、牧場の隅で鍛錬にいそしんでいる勇者の姿があった。
「……励んでいるようだな」
『なんだよ、機嫌悪そうじゃん』
「誰のせいでこのような顔をしていると思っている! あんな獣を取り逃がしおって!」
『もう二週間前の話だろ!? カミサマの癖にいちいち根に持つんじゃねー!』
この下品極まりない勇者の物言いも、ゼーファレスには耐えられなかった。要領はいいし、それなりに使えはするが所詮は俗人であり、上位の存在に対する畏敬が無い。
「それで、今は何をやっているのだ」
『アンタの欠陥商品を使えるようにしてたところだよ』
「言うに事欠いて、私の神器を欠陥品だとぉ!?」
『自分で張ったバリアで攻撃できないとか! どう考えても欠陥品だろ!』
最もな話ではあるが、別にそれは自分のせいではない。遊戯の全てを司り、神器の創り手でもある審判の女神が、あれをよこしたのだ。
「絶対防御の障壁は全ての攻撃に反応し、その瞬間にお前の周囲を遮蔽することで成り立っている。時間差の攻撃や範囲攻撃、毒や麻痺の雲に対抗するための仕様だ」
『……まぁ、なんとなく分かるけどさ。自分の武器だけ通すって出来ないの?』
「"完璧なものを創ってはならぬ"というのが遊戯のルールにある。もし、お前の言う融通性を効かせたら、剣どころか腕輪すら返還しなくては追いつかない対価を払うことになるのだ」
『確かに、一方的に攻撃できるなんてインチキアイテム、バランスブレイカーか。クソゲーだって苦情殺到するよな』
忌々しい話だが『公平性』が、この遊戯には求められている。そのために、己の持つ資源に物を言わせて神器を買い、無理矢理勝者になる、ということが難しいのだ。
「ところで、その欠陥を補うというのは、どういうことだ?」
『まあ、見てみなって』
自信たっぷりに言う勇者に、ゼーファレスは寝そべりながらその見世物を眺め、
「お……!」
驚きと喜びで、自然と立ち上がっていた。
「おおおおおお!」
『どうだい?』
「な、なるほど! そういう手があったか! すばらしい!」
この前の煮え切らない結末から、なんとなく重苦しかった神座が、一瞬のうちに晴れやかな空気に変わる。
『むしろ、これを使えばかなり戦術の幅が広がるんじゃね?』
「うんうん! すばらしいぞ! それでは絶対魔法防御、獲得しようではないか!」
『マジで!? でもそれ、ちょっとやばいんじゃねぇ? ルールとか制限とか?』
「すでに審判の女神には確認済みだ。その鎧の障壁に、魔法防御の属性をつけるだけで済むゆえ、問題は無いとな!」
物理攻撃に魔法を遮蔽する障壁を入れれば、おおよそ勇者の鎧は無敵の要塞と化す。
「ふふふ……ようやく、ここまでこぎつけたぞ!」
今までまともに終盤まで勇者を残すことが出来なかったが、ここまでの能力を初回のうちに神器で与えておけば、後は有象無象を蹴散らすだけで勇者のレベルは上がる。
これで、自分を見下していた、さらに上の神々にもでかい顔をさせなくて済む。
「よし! 審判の女神を! イェスタをこれに!」
「すでに参上しております」
「ぬを!?」
にこやかな顔で勝手に神座に入り込んだイェスタに、それでもゼーファレスは尊大な顔で、彼女にあごをしゃくって見せた。
「かねてよりのあれを、我が勇者に」
「よろしいので?」
「構わぬ、やれ!」
命令に、審判の女神は晴れやかな笑みを浮かべた。そして、手にした杖を、水鏡に映る勇者の像に当てる。
「我が命を以って、汝にあらゆる魔力をさえぎる力を与える」
儀式はあっけないほど簡単に済み、勇者の鎧には神気がみなぎった。
『今、なんかしたか?』
「絶対魔法防御、掛かったぞ」
『マジで!? じゃあ、早速試していいか!?』
「仲間の魔法使いにやらせるがいい。全力で、殺す気でやれとな!」
これで勇者の力は完璧に近づいただろう。
まだ弱点となる部分もあるだろうが、それも無敵の力で、本来格上であるはずの魔物を倒し続けて経験値を稼げば、全く気にする必要も無い話だ。
「出てくるぞ」
『いってらっしゃいませ』
イェスタを含めた小神たちの挨拶を受け、ゼーファレスは上機嫌で外に出た。
自分の姿を見た神々が、口々に声を掛けてくるのに鷹揚に手を降る。久しぶりに実に晴れやかな気分で、庭園へと降りていく。
その気分を吹き消すような存在が、そこに待っていた。
「……一体、何をしに出てきた」
不機嫌なこちらに向き直ると、妹はその場に跪き、頭を垂れた。
「兄上の、お赦しを頂きに参上仕りました」