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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~nameless編~
51/256

16、崩れる世界

 軽い疲労を息と一緒に吐き出すと、シェートは茂みの中から崖下を見下ろした。

 すでに村の半分が燃え上がっている。あらゆる家屋を燃料にした盛大なかがり火が、辺りを真昼のような明るさに変えていた。

「……うぅっ」

 その傍らに、グートが顔を突き出してくる。口元が、まだ新しい犠牲者の血に濡れ、目が殺戮の興奮に血走っていた。

「サリア、すまん。囲み抜ける、手間取った」

『まさか、そんなところにまで兵を配置しているとは。魔王軍はこの地に居る人間を皆殺しにする気か!』

 いらだつサリアに、シェートの心が強い怒りと共に合意する。崖上の森の中にはいたるところに巡回のゴブリンやオークがうろついていて、グートに陽動してもらって、ようやくここまでたどり着けた。

「ケイタ、今どこ居る?」

『魔法による家屋への点火と、雑兵の打ち払いは完了した。今は北門の避難民達に合流するために移動中だ』

『抜け道はそこから左に行った所です。草やツタで隠してありますから、簡単には……』

 シェートは茂みから腹ばい進み、不自然に植えられたツタの一本を握って壁を降り始めた。人一人通るのも難しい崖の道も、コボルトと身軽な星狼には舗装された街道だ。

『シェートさんにとっては、人の手で隠したものなんて、意味なかったみたいね』

『言ってる場合か。シェート、ここから私が誘導する。大通りに出たら北門方面へ駆け抜けろ。万が一敵と会っても交戦するな』

「わかった」

 燃え上がる村の熱気が、毛皮を炙る。その熱に、忘れかけていた記憶が蘇った。

 あの日、自分の運命を変えた、燃え落ちていく村のイメージ。

『シェート……大丈夫か』

「……平気。行くぞ、グート!」

 相棒にまたがり、一気に駆け出す。

 大通りは、黄金に燃え盛る劫火の森と化していた。きな臭さと一緒に、いやにくっきり見える死骸たち。

 応戦した村人だけでなく、ゴブリンやオーク、山海栗の汚らしい体さえ転がっていた。

「な、なんで、ヤマウニ、こんな所いる!?」

『先制攻撃に投げ込んできたのだそうだ。村の結界を越え、内部に侵入した山海栗が村人を襲い始め、その混乱に乗じて門を破壊したのだ』

 サリアの苦鳴を聞く間にも、景色が流れすぎていく。つい数日前、圭太と通った通りが破壊の炎と共に燃え落ちていく。

 民家も、釜場も、集会場も、圭太自身の家さえも、一切の分け隔てなく。

「シェート君!」

「ケイタ!」

 道の向こうから影が大きな声で叫ぶ。顔を汗と煤で汚しながら、圭太は安心とわずかな緊張を浮かべて走り寄ってきた。

「……来てくれて、ありがとう」

「礼言う、後だ。これからどうする」

『状況を整理しよう。まずは二人とも、北門に向かった村人達と合流を目指せ』

 頷き合うと、シェートは圭太と一緒に走り始める。その上から、サリアが全てを見通しながら指示を放った。

『圭太殿のに撃ってもらった、三発の"烈火繚乱"のおかげで、先発隊の槍兵、弓兵の侵攻は停止した。ただ、先ほどからオーガの動きが無いのが気になる。おそらく北門に回って待ち構えているだろう』

「……正直、少しは回復しましたけど、これ以上連発は難しいです」

「ワイバーン毒、あと十個ある。オーガ倒す、それでいけるか?」

『村の門を破壊したオーガは、三十はいたはずです。それだけじゃ、とても……』

 議論の冷えと同時に炎に包まれる家屋の数が少なくなり、広い麦畑に通された農道に出た。左手奥側にはリンゴの林があり、ここだけは村の異常から免れているように見える。

『カニラ、お前の加護はどうなっている?』

『私は、この前の透明化でほとんど使い切ってしまって……貴方は?』

『そうだな……いくらかは余裕がある』

 女神はそう宣言すると同時に、シェートにだけ声を放った。

『我らの誓い……残念だが破ることになりそうだ。村の者を救うには、大きな加護を使うのも止むを得まい』

『それ、一番最後、しろ』

 拳を握ると、シェートは強い思いを胸に、ゆっくりと首を振る。

『俺、精一杯やる。村の人間、助ける。よその奴、捧げない。どっちもやる』

『まったく……どうしてそなたは、そんなことが言えるのだか』

『俺、お前の勇者。なら、おかしい、当たり前』

『馬鹿者め』

 サリアは笑い、そして声を引き締めた。

『カニラ、この村にはさっきの抜け道以外に出る場所はあるか?』

『いいえ。緊急時の脱出路はあそこだけよ』

『分かった……それならシェート、圭太殿。これよりそなた達には、相当に厳しい戦をやってもらう』

「そうか。任せろ」

 こちらのあっさりした返答に、圭太は目を丸くし、それから笑った。

「そっか……君にはこんなこと、慣れっこなんだよね」

「楽だったこと、一度も無い。サリア、いい加減、楽な戦、させろ」

『善処しよう。では……作戦を説明する』



 暗い森の奥から、怒号が響いてくる。その荒々しい騒音に耐えて、フィーは角の感覚を展開しながら必死に走り続けた。

「やだぁっ、なにあれっ!」

「良いから黙って走れ!」

 叫ぶ仔竜の目に前に、緊張に身構えた群れの連中が現れた。すでに異常を理解した彼らは、手に弓や山刀を構えて事態に備えていた。

「ウラク! 敵だ! 森の外れから騎士が来たぞ!」

「っ!? ガナリ! フィーが敵、来た言ってる!」

 こちらの焦る顔にアダラが一瞬顔をしかめ、すぐに全員を見回す。

「みんな、火壷、油、何でもまけ! 弓使える男、用意しろ! ウラク、子供ら、女達と一緒、遠く逃がせ!」

 その間にも足音は増え、森の中に広がっていく。その音の中に、フィーは妙な異音を感じていた。

「なんだこれ? 足音が違う……なんか、騎士以外の連中がいるんじゃないのか!?」

 フィーの叫びに何人かのコボルトが地面に伏せ、大地の震動を確かめ始める。

「……ガナリ! 多分、騎士、二十ぐらい、そのほか、足音軽い。三十はいる!」

「分かった。フィー、他、何か感じたか?」

 群れのリーダーからの質問に驚きながら、それでも角に意識を集中させて答える。

「多分、それ以外は……無いと……あ、あれ?」

 突然、脳の芯に何かの刺激が差し込まれていく感覚がした。

 これに良く似た物を知っている。もっと集中して音を聞けば、


『"――土を照らす銀円よ、夜の帳に照り映えよ"』


 良く通る男の声で唱じられたそれは、見晴らしをよくするための光源を生み出す魔法。

「明かりの魔法だ! 魔法使いが混じってるぞ!」

 フィーの警告の声と同時に、暗い森を冷たい青の光が照らし出した。

「みんな! 木の陰、しげみ隠れろ! 火は消せ! 音しない方、別々に散れ!」

 アダラの声に、皆が姿勢を低くして逃げ散っていく。どの群れに付くか、一瞬さまよった視線を、ウラクの手が掴んだ。

「こっちだ!」

「あ、ああ!」

 再び走り出したフィーの背中越しに、新たな呪文の詠唱が響き渡る。


『"烈日の穂槍は我が手の中に"』


「後ろに気をつけろ! 狙われないように木を背にして走れ!」

 声の届く範囲にいた者達が一斉にフィーの声に従い、わずかに遅れた一匹の背中に、金色の光芒が突き刺さる。

「があ……ぁ……っ」

「とっちゃぁあっ!」

「振り返るな! 走れ!」

 押し合いながら必死に逃げていくコボルトたちを、足音が追い詰めていく。青い光の向こうで、抜き放った刃が無数に輝いた。


『"霜月より来たれ怜悧、凍てつく銀の祝福は、万障貫く戒めの一矢なり"』


 男の声が死刑宣告のように大気に満ちる。振り返った仔竜の視線の先、浮かび上がった銀色の光は、五十を越えていた。

「みんな、にげろおおおおおおおおおおっ!」

 フィーの絶叫を押しつぶすように、銀の軌跡を描いた光の矢が大気を引き裂き、逃げ惑うコボルトの体めがけ殺到する。

 その一本が、大きく起動を変えて自分に飛来した。

「あ……」

 狙ったものを必ず打ち砕く"凍月箭"、その威力は自分が良く知っていた。

 目の前で青い死が膨れ上がる。

 絶望が体を縛り付け、フィーの口が、すがるようにその名を呼んだ。

「シェート……」

 

 その言葉が、心の奥底から全てを引き出す。

 今まで自分が積み上げた全て、逸見浩二としての半生、勇者としての日常、そしてこの地に舞い戻り、仔竜として生きた全ての日々が吹き荒れる。


『お前のだ、大事にしろ』


 思い出した一言、無意識に伸ばした手がそれを引き抜き、


「うわあああああああああああああああっ!」

 突き出したミスリルの山刀が、破術の真紅に輝き、銀光を弾き飛ばした。

「……はあっ、はあっ、あっ、ふああっ!」

 痺れる手と、締め付けられるような胃袋の痛みを感じながら、それでも生きていることを思い知る。

 闇の向こう、近づいてきた影達が目の前の出来事に怯んで動きを止め、遠巻きに自分を取り囲んでいく。

 その全てに、フィーの魂が沸騰した。

「……なんだんだよ……お前ら!」

 両手で山刀を握り、真紅の光で全身を覆うと、仔竜は絶叫した。

「こんなところで、何やってんだ、お前らはぁっ!」



 目の前で起こったことが信じられないまま、手にした杖を握りなおす。

 真紅の光に包まれた仔竜は、怒りをあらわにして、ヴェングラスと騎士達に絶叫を叩き付けた。 

「お前らっ、こんなところでコボルトなんて追ってる場合かよぉっ!」

 その一言に、騎士達がうろたえたように構えを崩した。唐突に現れた仔竜と、その口から語られた『正論』に、同輩達の動揺が高まっていく。

 有無を言わせず殺すべきか、その考えを即座に否定する。

 全身を覆うあの光は、伝え聞いた神の破術だろう。この仔竜が勇者から示唆されていたコボルトの仲間だとすれば、こちらの術を相殺されかねない。

 それに、彼の発言を封殺するような真似をすれば、より一層部下達を迷わせる。

 感情を込めないまま、そっけなく言い放った。

「我々は魔物討伐を遂行しているだけです。貴方に糾弾されるいわれは」

「この近くの村が! 魔物の軍隊に襲われたんだよ! 村中火の海になって、皆殺しにあってるんだ! それを無視するのかよ!」

「……彼のリンドル村には、勇者が一人居たはず。彼に任せれば」

「いくら強いからって、たった二人で何が守れるってんだよ!」

 二人、つまりこの場には例のコボルトは居ないということだ。

 それならば、仕事はたやすい。杖を構え、周囲の騎士達に目配せをする。

「申し訳ありません。我々に、彼らを救う義理はありません。今回の命令はこの場にいるコボルトを討ち滅ぼすこと」

「……それでも、それでも勇者の軍団かよ!」

 振り絞られた声が、従卒していた騎士の足を止めた。

「知ってんだよ、あんたらがシェートを追っかけて来てたのは! どうせ、ここにコボルトたちと一緒にいるのを、神規かなんかで嗅ぎつけたんだろ!」

「でしたら、我々が引く気が無いのもお分かりでしょう?」

「だからふざけんなって言ってんだ! このクソ魔法使い!」

 赤い光を炎のように燃え立たせて、青い仔竜が吼える。

「アンタのそのご大層な魔法は! 住みかを追われて、死に掛けてるコボルトを追い散らすためのものか!?」

「……っ」

「そこのナリばっかり立派な騎士のオッサン! アンタだって、人を守るために剣を捧げたんじゃないのか!? その誓いはどこにやったんだよ!」

 戦意を失っていく同僚が目に映り、ヴェングラスは自分の失策を悟った。

 目の前の事態に驚き、釣り込まれるようにこの仔竜と喋ってしまった時点で、目的の一つは失敗に終わったのだ。

 それでも内心を悟られぬように、傍らの騎士に向き直った。

「引きます。撤退命令を」

「……分かりました。全員に撤退命令! 馬まで駆け足! これより目標を、リンドルに変更する! 徒歩組は隊伍を整え、街道へ向かえ!」

 こちらが命じた以上の伝令を述べると、騎士は鎧姿で器用に肩をすくめて見せた。

「軍令違反、申し訳ない」

「いえ。問題ありませんよ……勇者殿」

『何ですか』

 相変わらずの無感動な声に、ヴェングラスはできる限り、すまなさそうな声で詫びを述べた。

「思わぬ妨害工作により、少々痛手を負いました。ご命令どおり、エクバート隊と合流を行いますが、よろしいですね」

『エクバート隊はリンドルの北門方面に移動中です。街道を迂回し、指定の山間より敵に見つからないよう合流をお願いします』

「了解しました」

 命令伝達を終了させると、杖を収める。それに習って騎士たちも、森の中にいた歩兵も戦いの構えを解いていく。

 それでも、全身をいからせている仔竜に、軽く頭を下げた。

「な……何の真似だよ!」

「我々は行きます。せいぜい遠くに逃げるといいでしょう」

 こちらの態度を測りかねている仔竜を残し、背を向ける。隣にいた騎士もまた、同じく頭を下げると、共に歩き出した。

「まったく、嫌になりますな」

 降ろされた面頬の隙間から、同輩が苦りきった声を漏らす。

「あんな仔竜に、騎士のありようを説かれるとは」

 ぐったりと地面にうずくまった仔竜に背を向けると、魔法使いは嘆息した。

「私だって、同じ気持ちですよ」



 騎士たちの姿が完全に消えて、フィーはどっと安堵を吐き出した。

 身体中が酷く重く感じる、破術の展開はそれなりに力を消費すると聞いていたが、自動回復をつけていない自分には、酷く負担になるらしい。

「いつも、こんなことやってたのかよ、あいつ」

 三つの加護を使い分け、相手の隙を突き、一撃を叩き込むことの難しさ。度重なる戦いの中で、シェートが身につけてきたものを思い知った気がする。

「フィー……大丈夫か?」

「ウラク! お前、無事だったのか!」

 その後ろから、コボルトたちが顔を出す。

「……ありがとう。フィー。お前、いたおかげ、群れ、助かった」

「ア……アダラ……」

 群れのリーダーに習い、群れのコボルトたちが頭を下げる。

 魔法で酷い怪我を負ったものも、敵に切りつけられたものも、痛みを堪えながら、自分に笑顔と感謝を向けていた。

「れ、礼なんて後にしろよ! それより、早く逃げるぞ!」

「ああ。フィー、言うとおりだ」

 群れが再び一つの方向を目指し、歩き始める。死んでしまった仲間達を置いて。

「ウラク……やっぱり、みんな……あのままなのか」

「埋める時間、無い。フィー、お前、正しい。気にするな」

 追い立てられていた時のことを思い出し、体が震えてくる。絶対的な実力差を前に、弱いもののできること言えば、結局逃げることだけだ。

 さっきのあれだって、魔法使いがこっちの話に聞く耳を持たなかったら、自分は死んでいたはず。目に見えるほどの死に、胃袋がぎゅっと痛みを感じた。

「フィー……ありがと」

 いつの間にか、さっき一緒に走っていた子供が、体をすり寄せてきた。その暖かさを感じて、体の震えが和らいでいく気がする。

「か、狩人は、ちゃんと起きろって言った時に、起きれなきゃダメなんだからな! ちゃんとガナリの言うことは聞くんだぞ!」

「うん!」

 すっかり懐かれてしまった子供を優しく撫でながら、フィーはスマホを手にサリアに連絡を入れた。

「もしもし、そっち、どうなってる?」



 全ての準備を完了させたところで、サリアの耳にフィーの声が飛び込んできた。

「どうした、何かあったのか?」

『ああ、ちょっと"知見者"の軍団に殺されかけた』

「な!? ……それで、無事なのか!?」

 こちらの動揺に、見えない場所にいるフィーの声が苦笑いに彩られた。

『アンタもオッサンと同じこと言うんだな。死んでたら電話なんてできないって。こっちは……ちょっと被害が出たけど、だいたい無事だよ。あいつら、こっちにシェートが来てると勘違いしてたみたいだ』

「そうか……で、"知見者"の軍団はどこへ?」

『これからリンドルの北門方面に向かうとか言ってた。うまくやれば、そっちのピンチも何とかなるんじゃないか?』

 この土壇場に来て、新たな不確定要素が入り込んだ。とはいえ、村に軍隊がやってくるとなれば、魔物たちへの牽制にもなるだろう。

「情報助かった、気をつけて逃げるのだぞ」

『そっちもな』

 通話を終えると、カニラの不安そうな顔があった。軽く頷き、水鏡に映るシェートたちの方を見ながら注釈をつける。

「フィーからだ。どうやら"知見者"の軍がリンドル付近に来ているらしい。コボルトの群れが襲われたが、大事無いそうだ」

「"知見者"さまの……」

「この戦いにどういう影響があるのかは分からぬが、今は我らができることをやろう……シェート! 圭太殿!」

 二人は再び、燃える村に戻ってきていた。シェートはすでにグートに騎乗し、圭太も準備を完了させている。

「聞け、二人とも。どうやら"知見者"の軍が北門の方に近づいているらしい」

『……そうか。もしかして、すぐ来る?』

「どう動くかは分からん。だが、うまくすれば村人達の保護を願えるかも知れんな」

「その役目、私にやらせてちょうだい」

「カニラ?」

 すでに友人は立ち上がり、神座を出て行こうとしていた。思いつめた表情を苦い笑いで緩めて言い添える。

「後はお願い。それと……圭太さん」

『……なに?』

「この村のことは、私達の問題よ。だから、これ以上サリアの加護は、期待しないで」

「そんな、私なら」

「ダメよ」

 カニラはこちらに背を向け、硬く厳しい声で言葉を継いだ。

「村の人たちに掛けてくれた"保護"だけでも破格なのよ。それ以上、貴方の加護を使わせるわけには行かないわ」

「しかし……」

「貴方はこの先も戦い続けるのでしょう? だとすれば、これ以上の助力は望めないわ」

 沈黙するしかないこちらを残し、カニラが姿を消す。

 少しためらった後、水鏡の圭太に声を掛ける。

「圭太殿。カニラはああ言ったが、私は」

『すみません。僕もカニラの意見に賛成です。本来なら僕達がやるべきことを、無償で手伝ってもらってるんですから』

 村の勇者の言葉に迷いはなかった。二人の態度を思い返し、サリアはため息をつく。

 彼らも勇者と庇護者である神、本来なら自分の対手であり、対等な存在だ。

「分かった。これ以上何も言うまい。その代わり、必ず生きて切り抜けよう」

『はい!』

『サリア、頼むぞ』

 村に掛けられた火が少しずつ弱まっていく。水鏡の端に映る北門には、破城槌を構えたオーガが整列しつつある。

「行くぞ、二人とも――作戦開始!」

 サリアの声に弾かれるように、シェートと圭太は一斉に行動を開始した。

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