15、襲撃
「シェート!」
いきなり走りこんできたフィーは、焦った様子で首に下げた板を突きつけてきた。
『シェートさん! お願いします! 村を、村を助けてください!』
「……村!? ケイタ、どうかしたのか!」
『リンドルが魔物の攻撃を受けているんです! 圭太さんもそれに対処しているんですが……ものすごい大軍で……っ』
すでに寝支度を始めていたコボルトたちが、何事かと集まってくる。
「サリア」
『分かった。とにかく私はカニラの補佐に回る。シェート……お前は……』
そこまで言って、サリアの言葉が止まった。
自分を見る群れの目が、不審と不安に揺れている。このまま村に走れば、これからの出発にも影響が出るだろう。村を襲っている魔王の軍が、ここのコボルトたちに気付いてしまうかもしれない。
「俺……」
リンドルとの契約はすでに終わっている。迷宮を攻略し、財宝も全て引き渡した。
人間なんて自分達には関係ない、むしろこの混乱に乗じて移動してしまえば、侵攻している魔王軍を欺くことだってできる。
息を吐き出すと、シェートは叫んだ。
「グートぉっ!」
「うぉおおおおおんっ!」
仲間達の間をすり抜け、星狼が現れる。その口元にくわえられた袋を手にし、中身を取り出していく。
『あ……ありがとう、ございます』
「カニラ、俺、今から村行く! サリア、そっち頼む!」
『シェート……すまん』
防具で身を固め、マントをつける。封じていた矢筒から戒めを解き、ミスリル矢の具合を確かめ、腰に【荊】を吊る。
「シェート、お前、どこ行く?」
「アダラ……」
グートに鞍を置き、腹帯で締めると、またがりながら同族に苦い笑いを向けた。
「やっぱり俺、ケイタ見捨てられない。あいつ、今、困ってる」
「……そいつ、人間。世話なっても、関係ない。それに、お前だけ、行ってどうなる?」
「うん。俺もそう思う」
そう言いながら手綱を握り、鐙に力を入れる。
「シェート! 俺も……一緒に」
「フィー、お前、皆といろ。アダラ、すぐ群れ、動かせ。俺、後で追いつく」
馬鹿なことをしているのは百も承知だ。こんなこと、コボルトのすることじゃない。
それでも自分は、見捨てる気にはなれなかった。
「行けっ! グート!」
風をまいて、星狼が闇へ向けて走り出す。
あっという間に仲間の顔が、フィーの不安そうな顔が視界から消えていく。手綱を握り締めた右手に、視線が落ちる。
「ケイタ……」
グートの俊足があっという間に森を抜け、街道へと躍り出た。
行く手の道の先、暗いはずの森の外れが真っ赤に焼けていた。月の無い夜が、紅蓮の炎に赤々と照らし出されている。
「待ってろ、ケイタっ」
暴力の予感に、冷えていく心を抱えながら、シェートは相棒と共に夜を駆けた。
闇の中を駆けて行く白い姿を、銀の目を通して見ながら、康晴は虚空に語りかける。
「コボルトが動きました」
『分かった。作戦の変更は申し伝えたとおりだ。細かい調整はそちらで行え』
「分かりました」
執務室は蝋燭の灯火だけ、目の前にしたタブレット端末の方が明るいぐらいだ。
「ヴェングラスさん。指示が届きました。打ち合わせどおり、隊を差し向けてください」
『……よろしいのですか? こちらでも状況を把握していますが、リンドルは』
「指示しておいたポイントへ向かってください。命令は以上です」
何か言いたげな息を漏らし、それでも魔術師の声は途絶える。無言の抗議を払い散らすように画面をスライドさせ、別の画面を表示する。
「エクバートさん。作戦開始です。隊をそのままリンドル方面へ侵攻させて下さい。速度は並足、斥候の数を増やしてください」
『本当に、並足で良いんだな? 駆けじゃなくて』
「並足でお願いします」
騎士よろいに身を包んだ伊達男も、どこか苦い顔で命令を請け負う。その顔さえスライドさせて消し去ると、康晴はほっと息をついた。
「……まったく」
執務卓の端に置かれた、一本の棒のようなものを手に取り、指で押し開く。
ぱちり、と音がして、内側に張られた紙があらわになった。
「早く、終わらせてくれ」
ぱちり、と再びそれが閉じられ、また開かれる。
あちらから持ち込んだ扇子、こうして弄んでいると、苛立ちが少しは収まった。
「僕はこんなこと、いつまでも付き合う気は無いんだ」
タブレットが待機モードになり、画面が闇に包まれる。康晴は黙って、それを見つめ続けた。
「投擲隊! 第四陣、構え!」
目の前にそそり立つ木の壁を睨み、ベルガンダが吠えた。
その堅牢な守りに張り合うようにそそり立つ、オーガの分厚い背中。片手には巨大なひしゃくのようなものを持ち、そこにオークたちが数人掛りで丸いものを乗せていく。
それは一匹の山海栗、特殊な薬を嗅がせているせいで動きは鈍いが、薬物に耐性のある魔物は、すでにその棘を神経質に動かし始めていた。
「放て!」
数十体のオーガたちが、一斉にひしゃくを振り、乗せられた山海栗を放つ。高々と放り投げられたそれは壁を越えて、火事の炎で照らされた村へと飛び込んでいく。
「ベルガンダ様! 山海栗二百! 全て投擲完了です!」
「よし! オーガ隊に破城鎚を装備させろ! インプどもの索敵は!?」
「弓による攻撃は散発化、おそらく敵の射手はほぼ封じました! リンドルの勇者は現在避難民の誘導を行っている模様!」
目を閉じ、現状を把握すると、牛頭魔人は再び指示を放つ。
「引き続き上空からの監視を続けろ! オーガ隊は直ちに村門へ攻撃! 破壊終了と同時に槍兵百を押し立て、弓兵二十を後方に配置して進軍! 勇者の大魔法に注意しろ!」
「オーガ隊は進攻させないので!?」
「村門破壊と同時に胸壁を迂回、北面の扉前に詰めさせろ! 村裏手の山に兵は配置してあるな!」
「ゴブリンの遊撃隊、五十を置いてあります。街道に配置した者達は?」
「そのまま待機。異常があればすぐ知らせろ」
指示を受けた部下が転がるように走っていく。傍らに立つコモスは、その動きを見ながら顎をしごいた。
「大分、練度が上がってきましたな」
「飛行魔の数が足らん。インプでは矢弾を避ける程の高度を飛べんし、今後の課題だな」
「それにしても、例のコボルトは居らぬようですな」
「何があったかは分からぬが、それならそれでもよい。いい教練になる」
動いていく趨勢を見つめながら、ベルガンダはじっと山の方を見つめていた。
街道が封鎖され、多数の部隊を展開しているリンドル周辺に、例のコボルトが来るとすればあの山の中だろう。
「来ると、思われますか?」
「ただのコボルトであるならば、決して来ることはあるまい」
「ただのコボルトなら、ですな」
傍らに突き立てた大斧に目をやり、何かを占うように確かめていく。
「ベルガンダ様! 全隊、準備完了しました!」
山奥から切り出した丸太を抱え、オーガたちが整列した。その後ろに詰めるように、槍の穂先を揃えたゴブリンやオークたちが並んでいく。
「……破城槌! 構え!」
槌を構え、縦列に並んだ巨人の傍らに、ローブ姿のゴブリンたちが素早く近づく。
「メリ・デーナ・エフェ・モール、"穂先よ鋭くあれ"」
まじないが掛けられると同時に、オーガ達は背の筋肉を怒張させる。
ベルガンダは片手を差し挙げ、大きく口を開いた。
「オーガ隊……吶喊!」
そして、大地をどよもすオーガたちの突進が、闇夜に響き渡った。
腹の底に響くほどの巨大な音が、空気を震わせる。燃え盛る村の通りで、ポローは音源に振り返る。
「門にオーガどもが突進してる!」
「皆早く! 北門の方へ!」
男達が絶叫しながら村人を誘導しているが、家財を抱え、自分達の家族をまとめて逃げようとする者達が、道にあふれ出している。
「ポロー! なにぼーっとしてるだ!」
袖を引かれながら下がる目の前で、めきめきと音を立てて扉がひしゃげていく。再び突進が行われ、門の上に掛けてあった見張り櫓が、ずるりと傾いた。
「ああ……」
「何見てるだ! 早くにげれ!」
同郷の男が叫び、異常に気が付いた人々が一気に走り出す。その波にもまれながら、なぜかポローは目を離せなかった。
崩れていく、何もかもが。炎と轟音の中で。
そして、扉が最後の一撃を受けて、粉々に砕け散り、
「う、うわああああああっ!」
「櫓がああっ!」
「扉が破られた! 魔物が、魔物が入ってくるぞ!」
堅固な守りの要から材木の残骸に成り果てた門を抜けて、入り込んでくる影がある。
「あ……ああ……」
見覚えのあるそれら、手にした槍を構えたゴブリンの一群が、整然と進んでくる。
村が滅んだあの時のように、奴らがやってくる。
「うあ……ああ……」
きびすを返すと、ポローは走り出した。
魔物とは思えない、刻むような正確な足音が、背後から迫ってくる。
怖い、ひたすらに怖い。
そのことだけで頭が一杯になり、やけに明るい通りを駆けていく。
「や、やめろっ、くるな……ああああああっ!」
家と家の間で、武器代わりの鋤を構えた男が一瞬体を硬直させ、地面にくずおれていく。肉の壁がとり払われた向こうから現れたのは、無数の山海栗たち。
「あ……ひ……」
あっという間に死体に群がり、湿った音を立てて肉をむさぼっていく。
「ダメだ! こっちにもウニどもがっ!」
「奴ら、こんなものまで中に……うわあああああああっ!」
毒針を浴びせられ、病毒にまみれた触手が村人の命を狩って行く。
「ちくしょう、ちくしょうっ!」
頭を抱え、呻きながらポローは走る。
「なんだよこれは! ここは勇者に守られた村じゃねぇのかよぉっ!」
その叫びをあざ笑うように、侵入してきたゴブリンが、大声で吠えた。
「行けっ! 村の奴らを、皆殺しにしろ!」
そして、通り雨のような音を立てて、矢が降り注いだ。
「みんな! 落ち着いて! 荷物は最小限に! 火事には構わず、すぐに北門へ!」
声を枯らして叫び、皆を駆り立てながら、圭太は歯噛みをした。
夜遅く、村に降り注いだ魔法の火を皮切りに、侵攻が開始された。櫓から見た外の景色が頭から離れない。
数十体のオーガが並び立ち、巨大な投石器を使って、壁をはるかに超えるような弧を描いて何かを投げ入れ始めた。
それが無数の山海栗であることに気が付いた時には、事態は最悪の方向へ傾いていた。
村の壁には防御用の魔法を掛けてあるが、高高度を飛ぶ物体には反応できない。
ドーム状の結界は最高位の魔法に当たり、構築と維持に膨大な魔力を使うため、敷設はできなかったのだ。
『圭太殿!』
「さ、サリアさん!? どうして!」
『私が呼んだの。シェートさんも、来てくれるそうよ』
「そ……そんな、いくら、シェート君でも……」
『案ずるな。戦術は我が、戦力は我が配下が、いや、我が勇者が受け持つ。圭太殿は今しばらく、状況を持たせてくれ!』
力強い激励が耳に染み込む。
不安しかなかった戦場に、光が差した気がした。
「すみません。お願いします!」
『カニラ、村人への指示は?』
『完了しているのだけど、村に山海栗が入ってしまって、伝達系統が混乱しているの』
わずかな沈黙があり、サリアの声が緊張と決意を込めて降る。
『村人の避難状況は確認した。圭太殿、辛い行動をそなたに強いるが、覚悟してくれ』
「覚悟って……なにを」
『村中央、集会所辺りに移動し、南門へ向けて"烈火繚乱"を使用してくれ』
「そ、そんなことしたら! 村が!」
『こちらは寡兵だ、命以外を守ることなどはできん。今ならそなたの行動は気付かれておらん。姿を消して指定位置に移動の上、効果消散二十秒前に詠唱を開始せよ』
考えている暇は無い、圭太は意を決して呪文を紡ぐ。
「"虚ろなる者、見えざる者、移ろう者よ。其は揺らめく水霧の露影、我が現せ身に空蝉を纏わしめよ"」
複雑な掌相を組み上げると、自分の体を虚空に溶かす。準備を終えると、燃え盛る村に走り出した。
「……っ!?」
その視界の端に映る、倒れ伏した村人の姿。血を流し、肉をむさぼられ、ピクリとも動かない、見知った人間達。
「こんな……こんなのって……」
『足を止めるな! ここでそなたがためらえば、もっと多くの民が死ぬ! 進め!』
「……っ!」
通いなれた通りを抜け、左へと折れる。木造の集会場は、悲鳴を上げながら燃え狂っていた。
『圭太殿! 詠唱を!』
「――"万物に宿りし諸法諸元の源。光芒にて刻まれたる、祖たる韻を我は紡ぐっ"!」
杖を地面に突き立て、合掌して呪文を唱じる。
「"汝れ、小さくかそけき燐火……されど集いて諸手を挙ぐるば……天をも焦がす劫火と……成らん"」
目の前で燃え上がっているのは、この村の象徴だ。この土地を最初に開墾した人々が建て、お祭りや大事なことを決める場として使われてきた。
そして、自分が初めて村に来た時、ここで誓ったんだ。
村の勇者として、皆を守り、幸せにすることを。
「"我が声に寄り来たれ……その身を以って……"」
遠くから悲鳴が聞こえてくる。そのいくつかが末期の絶叫である事実が、圭太の中に荒れ狂う炎を燃え立たせた。
「"千騎万軍、皆悉く焼灼なさせしめ、怨陣に我らが頌歌を響かせよっ"」
歯を食いしばり、集った力をまとめ上げると、圭太は怒りと共に叫んだ。
「"秘められし熱の威力を解き放て――烈火繚乱"!」
暗い森に、真昼のような閃光が差し込んだ。爆音と共に、森の端にうっすら見えていた建物が火柱に変わって焼けていく。
「ひぇえええ、こりゃ、あっちいなくて、よかったなぁ」
隣に居たオーク兵の一匹も恐ろしさに震えながら、苦笑いをした。
「でも、どうしておれっち、こんなとこたたされてる?」
「そりゃおめぇ、どくやくつくるの、しっぱいしたからだろ」
調毒部隊のゴブリンとして配属されたのは良いものの、食い気や不真面目さが災いしたせいで配置換えになり、こんな見張り役しかやらせてもらえない。とはいえ、あんな恐ろしい魔法に焼かれる危険を考えれば、つまらない役でもかえってありがたいってものだ。
わずかに時間を置いて、再び火柱が上がる。村の勇者は魔法使いだと聞いたが、あんな能力を持つ魔法使いはうちの軍にはそうそういないだろう。
「おお、おっかねぇ。さぁ、そろそろみはり、こうたいのじかんだ」
そう言って、傍らの同僚に声を掛けたつもりだった。
「あれ?」
さっきまでそこに居たオークがいない。
いや、少し離れた木の幹に寄りかかり、居眠りをしている。
「おまえ、まじめにやらないと、またおやぶんに」
それ以上言うことができなかった。
背後から口をふさがれ、左のあばら奥深くを、激しい痛みが貫く。
「んっ!? ぐっ、う……ぐ……う……」
深々と突き刺さった小刀、流れていく血と一緒に、視界が暗くなっていく。体が地に投げられ、自分を殺した犬顔が嫌にくっきり見えた。
「お……まえ」
驚くほど冷たい目をしたコボルトが、興味を失ったように背を向け、闇に消える。
「お……おやぶん……に、しらせ……」
その意思は誰に伝わることもなく、死骸とともにうち捨てられた。
群れの準備を手伝いながら、フィーは手元のスマホをちらちらと眺めていた。
サリア達の見ている映像が動画として流れている。一面火に包まれる村、そのいくらかは圭太とサリアの策によるものだそうだが、正直見ていて辛い。
「あ……っ」
三度目の火柱が画面内で上がり、森の向こうの空がうっすらと白くなる。こんなに大魔法を連発しても大丈夫なんだろうか。
ステータスチェッカーの効果範囲を出ているから、リアルタイムの状態はモニターできないが、MP換算された圭太の精神力で言えば、そろそろ限界のはずだ。
「フィー! 準備できた! そろそろ出る!」
「あ、ああ! 分かった!」
ウラクが気遣わしげに近づいてきて、一緒にスマホを見つめる。この世界ではありえない道具に驚きながらも、コボルトの少年は顔をしかめた。
「魔王軍、村、焼いてる。すごい、ひどい」
「違うよ。こうやって逃げる時間を稼いでるんだ」
「……ああ。俺達、同じか」
荷物を詰めた袋を担ぎながら、ウラクは苦笑いを浮かべた。
「俺達、村、逃げる。家、火点ける。魔物、驚く、強い光嫌がる。その間、逃げる」
「そんなことしたら……村に住めなくなるだろ?」
「一度捨てた村、俺達、帰らない」
何か声を掛けようとする間もなく、ウラクは子供らをまとめるべく走り去ってく。
「子供ら、あっち集める! 大きなブナ! フィーもそこ行け!」
「お、俺も手伝うよ!」
「助かる! 森外れ、探してくれ!」
動画を一端切ると、フィーも走り出す。コボルトたちの群れは整然と、足音さえひそめて逃げる準備を進めていく。
「おーい! 誰か残ってるかー!?」
すでに焚き火は消され、荷物もまとめられて、食べ残しすら残っていない。コボルトの逃げ足の素早さを見せ付けるような、見事な撤退ぶりに感心する。
「……にぃちゃぁ……」
どこからかか細い声が聞こえた。寝起きの悪い子供が、みんなの移動したのにも気付かずに取り残されたんだろう。
辺りを見回すが、姿は見えない。竜眼があるとはいえ暗い森の中は簡単には見通せなかった。
「ったく、しょうがねぇなぁ」
フィーは目を閉じ、角に意識を集中させた。
がしゃり、かつっ、がしゃり、じゃりっ。
異音が、大気を渡って届いた。
「な、なんだよ……これ」
鋭敏になった感覚に、差し込んでくる金属音。それは遠い昔、どこかで聞いた音だ。
刻むような金属ブーツの足音、金属鎧と鎖帷子がこすれあった時に出る、独特の音色。
「にいちゃ……どこぉ……」
その音は、かつては頼もしい仲間が立てていたものだ。それが、森の奥から、いくつも連なって聞こえてくる。
「……あー、フィー……にいちゃ、どこ?」
近くの茂みを揺らして、子供のコボルトが寝ぼけまなこで転がり出てきた。
「おい……こっちこい」
「どうして?」
「いいから!」
何の疑いもなく近づいてきた子供の手を取ると、フィーは一目散に駆け出した。
「フィーっ!? いたいっ! 手、いたいよぉっ!」
「いいから走れ! 早く!」
鍔鳴りが、鞘走りが、間をおかず一斉に響く。一人や二人ではない、数十人の人間の軍隊が迫っている。
そして、
「全員突撃! コボルトどもを一掃しろ!」
抜剣した騎士達が、鬨の声を上げた。