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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~nameless編~
50/256

15、襲撃

「シェート!」

 いきなり走りこんできたフィーは、焦った様子で首に下げた板を突きつけてきた。

『シェートさん! お願いします! 村を、村を助けてください!』

「……村!? ケイタ、どうかしたのか!」

『リンドルが魔物の攻撃を受けているんです! 圭太さんもそれに対処しているんですが……ものすごい大軍で……っ』

 すでに寝支度を始めていたコボルトたちが、何事かと集まってくる。

「サリア」

『分かった。とにかく私はカニラの補佐に回る。シェート……お前は……』

 そこまで言って、サリアの言葉が止まった。

 自分を見る群れの目が、不審と不安に揺れている。このまま村に走れば、これからの出発にも影響が出るだろう。村を襲っている魔王の軍が、ここのコボルトたちに気付いてしまうかもしれない。

「俺……」

 リンドルとの契約はすでに終わっている。迷宮を攻略し、財宝も全て引き渡した。

 人間なんて自分達には関係ない、むしろこの混乱に乗じて移動してしまえば、侵攻している魔王軍を欺くことだってできる。

 息を吐き出すと、シェートは叫んだ。

「グートぉっ!」

「うぉおおおおおんっ!」

 仲間達の間をすり抜け、星狼が現れる。その口元にくわえられた袋を手にし、中身を取り出していく。

『あ……ありがとう、ございます』

「カニラ、俺、今から村行く! サリア、そっち頼む!」

『シェート……すまん』

 防具で身を固め、マントをつける。封じていた矢筒から戒めを解き、ミスリル矢の具合を確かめ、腰に【荊】を吊る。

「シェート、お前、どこ行く?」

「アダラ……」

 グートに鞍を置き、腹帯で締めると、またがりながら同族に苦い笑いを向けた。

「やっぱり俺、ケイタ見捨てられない。あいつ、今、困ってる」

「……そいつ、人間。世話なっても、関係ない。それに、お前だけ、行ってどうなる?」

「うん。俺もそう思う」

 そう言いながら手綱を握り、鐙に力を入れる。

「シェート! 俺も……一緒に」

「フィー、お前、皆といろ。アダラ、すぐ群れ、動かせ。俺、後で追いつく」

 馬鹿なことをしているのは百も承知だ。こんなこと、コボルトのすることじゃない。

 それでも自分は、見捨てる気にはなれなかった。

「行けっ! グート!」

 風をまいて、星狼が闇へ向けて走り出す。

 あっという間に仲間の顔が、フィーの不安そうな顔が視界から消えていく。手綱を握り締めた右手に、視線が落ちる。

「ケイタ……」

 グートの俊足があっという間に森を抜け、街道へと躍り出た。

 行く手の道の先、暗いはずの森の外れが真っ赤に焼けていた。月の無い夜が、紅蓮の炎に赤々と照らし出されている。

「待ってろ、ケイタっ」

 暴力の予感に、冷えていく心を抱えながら、シェートは相棒と共に夜を駆けた。



 闇の中を駆けて行く白い姿を、銀の目を通して見ながら、康晴は虚空に語りかける。

「コボルトが動きました」

『分かった。作戦の変更は申し伝えたとおりだ。細かい調整はそちらで行え』

「分かりました」

 執務室は蝋燭の灯火だけ、目の前にしたタブレット端末の方が明るいぐらいだ。

「ヴェングラスさん。指示が届きました。打ち合わせどおり、隊を差し向けてください」

『……よろしいのですか? こちらでも状況を把握していますが、リンドルは』

「指示しておいたポイントへ向かってください。命令は以上です」

 何か言いたげな息を漏らし、それでも魔術師の声は途絶える。無言の抗議を払い散らすように画面をスライドさせ、別の画面を表示する。

「エクバートさん。作戦開始です。隊をそのままリンドル方面へ侵攻させて下さい。速度は並足、斥候の数を増やしてください」

『本当に、並足で良いんだな? 駆けじゃなくて』

「並足でお願いします」

 騎士よろいに身を包んだ伊達男も、どこか苦い顔で命令を請け負う。その顔さえスライドさせて消し去ると、康晴はほっと息をついた。

「……まったく」

 執務卓の端に置かれた、一本の棒のようなものを手に取り、指で押し開く。

 ぱちり、と音がして、内側に張られた紙があらわになった。

「早く、終わらせてくれ」

 ぱちり、と再びそれが閉じられ、また開かれる。

 あちらから持ち込んだ扇子、こうして弄んでいると、苛立ちが少しは収まった。

「僕はこんなこと、いつまでも付き合う気は無いんだ」

 タブレットが待機モードになり、画面が闇に包まれる。康晴は黙って、それを見つめ続けた。



「投擲隊! 第四陣、構え!」

 目の前にそそり立つ木の壁を睨み、ベルガンダが吠えた。

 その堅牢な守りに張り合うようにそそり立つ、オーガの分厚い背中。片手には巨大なひしゃくのようなものを持ち、そこにオークたちが数人掛りで丸いものを乗せていく。

 それは一匹の山海栗、特殊な薬を嗅がせているせいで動きは鈍いが、薬物に耐性のある魔物は、すでにその棘を神経質に動かし始めていた。

「放て!」

 数十体のオーガたちが、一斉にひしゃくを振り、乗せられた山海栗を放つ。高々と放り投げられたそれは壁を越えて、火事の炎で照らされた村へと飛び込んでいく。

「ベルガンダ様! 山海栗二百! 全て投擲完了です!」

「よし! オーガ隊に破城鎚を装備させろ! インプどもの索敵は!?」

「弓による攻撃は散発化、おそらく敵の射手はほぼ封じました! リンドルの勇者は現在避難民の誘導を行っている模様!」

 目を閉じ、現状を把握すると、牛頭魔人は再び指示を放つ。

「引き続き上空からの監視を続けろ! オーガ隊は直ちに村門へ攻撃! 破壊終了と同時に槍兵百を押し立て、弓兵二十を後方に配置して進軍! 勇者の大魔法に注意しろ!」

「オーガ隊は進攻させないので!?」

「村門破壊と同時に胸壁を迂回、北面の扉前に詰めさせろ! 村裏手の山に兵は配置してあるな!」

「ゴブリンの遊撃隊、五十を置いてあります。街道に配置した者達は?」

「そのまま待機。異常があればすぐ知らせろ」

 指示を受けた部下が転がるように走っていく。傍らに立つコモスは、その動きを見ながら顎をしごいた。

「大分、練度が上がってきましたな」

「飛行魔の数が足らん。インプでは矢弾を避ける程の高度を飛べんし、今後の課題だな」

「それにしても、例のコボルトは居らぬようですな」

「何があったかは分からぬが、それならそれでもよい。いい教練になる」

 動いていく趨勢を見つめながら、ベルガンダはじっと山の方を見つめていた。

 街道が封鎖され、多数の部隊を展開しているリンドル周辺に、例のコボルトが来るとすればあの山の中だろう。

「来ると、思われますか?」

「ただのコボルトであるならば、決して来ることはあるまい」

「ただのコボルトなら、ですな」

 傍らに突き立てた大斧に目をやり、何かを占うように確かめていく。

「ベルガンダ様! 全隊、準備完了しました!」

 山奥から切り出した丸太を抱え、オーガたちが整列した。その後ろに詰めるように、槍の穂先を揃えたゴブリンやオークたちが並んでいく。

「……破城槌! 構え!」

 槌を構え、縦列に並んだ巨人の傍らに、ローブ姿のゴブリンたちが素早く近づく。

「メリ・デーナ・エフェ・モール、"穂先よ鋭くあれ"」

 まじないが掛けられると同時に、オーガ達は背の筋肉を怒張させる。

 ベルガンダは片手を差し挙げ、大きく口を開いた。

「オーガ隊……吶喊!」

 そして、大地をどよもすオーガたちの突進が、闇夜に響き渡った。



 腹の底に響くほどの巨大な音が、空気を震わせる。燃え盛る村の通りで、ポローは音源に振り返る。

「門にオーガどもが突進してる!」

「皆早く! 北門の方へ!」

 男達が絶叫しながら村人を誘導しているが、家財を抱え、自分達の家族をまとめて逃げようとする者達が、道にあふれ出している。

「ポロー! なにぼーっとしてるだ!」

 袖を引かれながら下がる目の前で、めきめきと音を立てて扉がひしゃげていく。再び突進が行われ、門の上に掛けてあった見張り櫓が、ずるりと傾いた。

「ああ……」

「何見てるだ! 早くにげれ!」

 同郷の男が叫び、異常に気が付いた人々が一気に走り出す。その波にもまれながら、なぜかポローは目を離せなかった。

 崩れていく、何もかもが。炎と轟音の中で。

 そして、扉が最後の一撃を受けて、粉々に砕け散り、

「う、うわああああああっ!」

「櫓がああっ!」

「扉が破られた! 魔物が、魔物が入ってくるぞ!」

 堅固な守りの要から材木の残骸に成り果てた門を抜けて、入り込んでくる影がある。

「あ……ああ……」

 見覚えのあるそれら、手にした槍を構えたゴブリンの一群が、整然と進んでくる。

 村が滅んだあの時のように、奴らがやってくる。

「うあ……ああ……」

 きびすを返すと、ポローは走り出した。

 魔物とは思えない、刻むような正確な足音が、背後から迫ってくる。

 怖い、ひたすらに怖い。

 そのことだけで頭が一杯になり、やけに明るい通りを駆けていく。

「や、やめろっ、くるな……ああああああっ!」

 家と家の間で、武器代わりのすきを構えた男が一瞬体を硬直させ、地面にくずおれていく。肉の壁がとり払われた向こうから現れたのは、無数の山海栗たち。

「あ……ひ……」

 あっという間に死体に群がり、湿った音を立てて肉をむさぼっていく。

「ダメだ! こっちにもウニどもがっ!」

「奴ら、こんなものまで中に……うわあああああああっ!」

 毒針を浴びせられ、病毒にまみれた触手が村人の命を狩って行く。

「ちくしょう、ちくしょうっ!」

 頭を抱え、呻きながらポローは走る。

「なんだよこれは! ここは勇者に守られた村じゃねぇのかよぉっ!」

 その叫びをあざ笑うように、侵入してきたゴブリンが、大声で吠えた。

「行けっ! 村の奴らを、皆殺しにしろ!」

 そして、通り雨のような音を立てて、矢が降り注いだ。



「みんな! 落ち着いて! 荷物は最小限に! 火事には構わず、すぐに北門へ!」

 声を枯らして叫び、皆を駆り立てながら、圭太は歯噛みをした。

 夜遅く、村に降り注いだ魔法の火を皮切りに、侵攻が開始された。櫓から見た外の景色が頭から離れない。

 数十体のオーガが並び立ち、巨大な投石器を使って、壁をはるかに超えるような弧を描いて何かを投げ入れ始めた。

 それが無数の山海栗であることに気が付いた時には、事態は最悪の方向へ傾いていた。

 村の壁には防御用の魔法を掛けてあるが、高高度を飛ぶ物体には反応できない。

 ドーム状の結界は最高位の魔法に当たり、構築と維持に膨大な魔力を使うため、敷設はできなかったのだ。

『圭太殿!』

「さ、サリアさん!? どうして!」

『私が呼んだの。シェートさんも、来てくれるそうよ』

「そ……そんな、いくら、シェート君でも……」

『案ずるな。戦術は我が、戦力は我が配下が、いや、我が勇者が受け持つ。圭太殿は今しばらく、状況を持たせてくれ!』

 力強い激励が耳に染み込む。

 不安しかなかった戦場に、光が差した気がした。

「すみません。お願いします!」

『カニラ、村人への指示は?』

『完了しているのだけど、村に山海栗が入ってしまって、伝達系統が混乱しているの』 

 わずかな沈黙があり、サリアの声が緊張と決意を込めて降る。

『村人の避難状況は確認した。圭太殿、辛い行動をそなたに強いるが、覚悟してくれ』

「覚悟って……なにを」

『村中央、集会所辺りに移動し、南門へ向けて"烈火繚乱"を使用してくれ』

「そ、そんなことしたら! 村が!」

『こちらは寡兵だ、命以外を守ることなどはできん。今ならそなたの行動は気付かれておらん。姿を消して指定位置に移動の上、効果消散二十秒前に詠唱を開始せよ』

 考えている暇は無い、圭太は意を決して呪文を紡ぐ。

「"虚ろなる者、見えざる者、移ろう者よ。其は揺らめく水霧みぎり露影ろえい、我が現せ身に空蝉を纏わしめよ"」

 複雑な掌相を組み上げると、自分の体を虚空に溶かす。準備を終えると、燃え盛る村に走り出した。

「……っ!?」

 その視界の端に映る、倒れ伏した村人の姿。血を流し、肉をむさぼられ、ピクリとも動かない、見知った人間達。

「こんな……こんなのって……」

『足を止めるな! ここでそなたがためらえば、もっと多くの民が死ぬ! 進め!』

「……っ!」

 通いなれた通りを抜け、左へと折れる。木造の集会場は、悲鳴を上げながら燃え狂っていた。

『圭太殿! 詠唱を!』

「――"万物に宿りし諸法諸元の源。光芒にて刻まれたる、祖たる韻を我は紡ぐっ"!」

 杖を地面に突き立て、合掌して呪文を唱じる。

「"れ、小さくかそけき燐火……されど集いて諸手を挙ぐるば……天をも焦がす劫火と……成らん"」

 目の前で燃え上がっているのは、この村の象徴だ。この土地を最初に開墾した人々が建て、お祭りや大事なことを決める場として使われてきた。

 そして、自分が初めて村に来た時、ここで誓ったんだ。

 村の勇者として、皆を守り、幸せにすることを。

「"我が声に寄り来たれ……その身を以って……"」

 遠くから悲鳴が聞こえてくる。そのいくつかが末期の絶叫である事実が、圭太の中に荒れ狂う炎を燃え立たせた。

「"千騎万軍、皆悉く焼灼しょうしゃくなさせしめ、怨陣に我らが頌歌しょうかを響かせよっ"」

 歯を食いしばり、集った力をまとめ上げると、圭太は怒りと共に叫んだ。

「"秘められし熱の威力を解き放て――烈火繚乱"!」



 暗い森に、真昼のような閃光が差し込んだ。爆音と共に、森の端にうっすら見えていた建物が火柱に変わって焼けていく。

「ひぇえええ、こりゃ、あっちいなくて、よかったなぁ」

 隣に居たオーク兵の一匹も恐ろしさに震えながら、苦笑いをした。

「でも、どうしておれっち、こんなとこたたされてる?」

「そりゃおめぇ、どくやくつくるの、しっぱいしたからだろ」

 調毒部隊のゴブリンとして配属されたのは良いものの、食い気や不真面目さが災いしたせいで配置換えになり、こんな見張り役しかやらせてもらえない。とはいえ、あんな恐ろしい魔法に焼かれる危険を考えれば、つまらない役でもかえってありがたいってものだ。

 わずかに時間を置いて、再び火柱が上がる。村の勇者は魔法使いだと聞いたが、あんな能力を持つ魔法使いはうちの軍にはそうそういないだろう。

「おお、おっかねぇ。さぁ、そろそろみはり、こうたいのじかんだ」

 そう言って、傍らの同僚に声を掛けたつもりだった。

「あれ?」

 さっきまでそこに居たオークがいない。

 いや、少し離れた木の幹に寄りかかり、居眠りをしている。

「おまえ、まじめにやらないと、またおやぶんに」

 それ以上言うことができなかった。

 背後から口をふさがれ、左のあばら奥深くを、激しい痛みが貫く。

「んっ!? ぐっ、う……ぐ……う……」

 深々と突き刺さった小刀、流れていく血と一緒に、視界が暗くなっていく。体が地に投げられ、自分を殺した犬顔が嫌にくっきり見えた。

「お……まえ」

 驚くほど冷たい目をしたコボルトが、興味を失ったように背を向け、闇に消える。

「お……おやぶん……に、しらせ……」

 その意思は誰に伝わることもなく、死骸とともにうち捨てられた。



 群れの準備を手伝いながら、フィーは手元のスマホをちらちらと眺めていた。

 サリア達の見ている映像が動画として流れている。一面火に包まれる村、そのいくらかは圭太とサリアの策によるものだそうだが、正直見ていて辛い。

「あ……っ」

 三度目の火柱が画面内で上がり、森の向こうの空がうっすらと白くなる。こんなに大魔法を連発しても大丈夫なんだろうか。

 ステータスチェッカーの効果範囲を出ているから、リアルタイムの状態はモニターできないが、MP換算された圭太の精神力で言えば、そろそろ限界のはずだ。

「フィー! 準備できた! そろそろ出る!」

「あ、ああ! 分かった!」

 ウラクが気遣わしげに近づいてきて、一緒にスマホを見つめる。この世界ではありえない道具に驚きながらも、コボルトの少年は顔をしかめた。

「魔王軍、村、焼いてる。すごい、ひどい」

「違うよ。こうやって逃げる時間を稼いでるんだ」

「……ああ。俺達、同じか」

 荷物を詰めた袋を担ぎながら、ウラクは苦笑いを浮かべた。

「俺達、村、逃げる。家、火点ける。魔物、驚く、強い光嫌がる。その間、逃げる」

「そんなことしたら……村に住めなくなるだろ?」

「一度捨てた村、俺達、帰らない」

 何か声を掛けようとする間もなく、ウラクは子供らをまとめるべく走り去ってく。

「子供ら、あっち集める! 大きなブナ! フィーもそこ行け!」

「お、俺も手伝うよ!」

「助かる! 森外れ、探してくれ!」

 動画を一端切ると、フィーも走り出す。コボルトたちの群れは整然と、足音さえひそめて逃げる準備を進めていく。

「おーい! 誰か残ってるかー!?」

 すでに焚き火は消され、荷物もまとめられて、食べ残しすら残っていない。コボルトの逃げ足の素早さを見せ付けるような、見事な撤退ぶりに感心する。

「……にぃちゃぁ……」

 どこからかか細い声が聞こえた。寝起きの悪い子供が、みんなの移動したのにも気付かずに取り残されたんだろう。

 辺りを見回すが、姿は見えない。竜眼があるとはいえ暗い森の中は簡単には見通せなかった。

「ったく、しょうがねぇなぁ」

 フィーは目を閉じ、角に意識を集中させた。


 がしゃり、かつっ、がしゃり、じゃりっ。


 異音が、大気を渡って届いた。

「な、なんだよ……これ」

 鋭敏になった感覚に、差し込んでくる金属音。それは遠い昔、どこかで聞いた音だ。

 刻むような金属ブーツの足音、金属鎧と鎖帷子がこすれあった時に出る、独特の音色。

「にいちゃ……どこぉ……」

 その音は、かつては頼もしい仲間が立てていたものだ。それが、森の奥から、いくつも連なって聞こえてくる。

「……あー、フィー……にいちゃ、どこ?」

 近くの茂みを揺らして、子供のコボルトが寝ぼけまなこで転がり出てきた。

「おい……こっちこい」

「どうして?」

「いいから!」

 何の疑いもなく近づいてきた子供の手を取ると、フィーは一目散に駆け出した。

「フィーっ!? いたいっ! 手、いたいよぉっ!」

「いいから走れ! 早く!」

 鍔鳴りが、鞘走りが、間をおかず一斉に響く。一人や二人ではない、数十人の人間の軍隊が迫っている。

 そして、

「全員突撃! コボルトどもを一掃しろ!」

 抜剣した騎士達が、ときの声を上げた。

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