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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~ReBirth編~
24/256

9、たくらみごと、たばかりごと

「良くやった」

 蓄えた髭を満足そうにうごめかし、ガルデキエは水鏡の向こうに労いを掛けていた。

「なに? ……まぁ、よかろう。だがあまり救護などに時間を掛けるな、貴様の使命はあくまで魔王の討伐、それなくして民の安寧は無いのだからな」

 水鏡の向こうから、荒れた村落を背景に彼の勇者が報告を行っている。彼らが勲しを立てる様子は全てここで見ることができた。というより、この神は自らの勇者の武勲を、他者に見せびらかす癖がある。

 事あるごとに、ゼーファレスのことを見栄坊と言っていた本人がこれでは、そう思うたびに浮かんでくる笑いをかみ殺すのも一苦労だった。

 報告を終え、水鏡を消し去ると、ようやく嵐の神は背後に向きなおる。

「くだくだしく述べるつもりは無いが、斯様な戦いこそが、我らの勇者に求められておるのだ。魔を滅ぼし、悪を討つという戦いがな」

 そこ居並ぶ神々の顔は、いくらかうんざりした顔もあった。他の神の勇者が戦功を立てる姿など、見ていて面白いものではない。とはいえ、風船頭の方はそんなことに頓着するような性質ではなかった。

「聞け! 我が言の葉に集いし神々よ!」

 豊かな顎鬚を揺らしながら、壇上の嵐の神は、一堂を見回して声を上げた。彼の神座は巨大な円形闘技場を模しており、会合にはもってこいの場所だった。

「時は一刻の猶予もならなくなった。彼の"知見者"は軍馬をまとめ、海を渡りてモラニアの地を平定するとの心積もりだ!」

 身の詰まった体は押し出しも良く、こうした集まりではひときわ映える。自分では決してこうはいかない。

「その折、邪神めを征伐に掛かるは、当然の仕儀となろう! しかし、彼の神の手を煩わせることは無い。我らの手によって兄神を弑逆せし、邪なる女神を誅するのだ!」

 嵐の神の言葉に、一堂は盛大な歓声を上げた。その数は百には届かないが、おおよそモラニアに勇者を使わした神々の、ほとんどが会していた。

「魔を滅ぼし、邪を罰し、過ちを犯したものを誅するのだ! 大義は我らにある!」

 この戦に大義などはない。

 そもそもゼーファレスは、神々にとっていつかは蹴落とすべき敵ででしかなく、その傲慢な物言いに反感を持っていた者も少なくなかった。だが、あえて彼の復讐という錦旗を立てるのは、後ろめたいからだ。

 たった一匹のコボルトを、衆を頼んで押し包む。その理由はただ一つ、サリアーシェがどのような加護を以って相対するか分からないから。迂闊に手を出せば返り討ちにあうのが落ち、だが勇者が一団となればその脅威は分散するだろう。

 みな必死に自分の利益を守り、最大限に儲けを引き出そうとする。だが、それを露にするには、あまりにも敵が小さすぎた。

 故に立てられたのだ、邪神討滅という御旗が。

「それはいいのだが、ガルデキエよ。彼の女神の配下は行方をくらませ、所在も分からぬと聞くが」

「アノシュタット平原を抜けたところまでは分っておる。その後は、まぁ俺に任せよ」

 優越感に目じりを緩ませ、尊大に言い放つ嵐の神。この男は、見ていて本当に滑稽極まりない。こちらがもたらすサリアーシェと勇者の情報、それの使い方をまるで理解していないのだ。

 神々に協力を申し出ている以上、この場で居場所の情報を自分だけが所有しているという状況は避けなければならない。それぞれが対等の立場である、という建前があるのに、ことさら自分が優位であると誇れば、それが反感となって関係に亀裂を生じさせる。

 現に、彼を見る視線は不満と苛立ちに濡れていた。あれが憎しみや裏切りに変わるのもそう遠い話ではないだろう。

「まぁ、ガルデキエ殿に任せておいて損はあるまい。自らの勇者にのみ功を与えるなど、二つ名に恥じるような真似は決してなさらない方よ」

 青い肌の海洋神がいいタイミングで口火を切る。その通りだと、笑って頷くひげ面に一瞬浮かんだ怒りを、自分だけは見逃さなかった。

 実質、この集まりのとりまとめをしているのは彼で間違いない。食えない男だが周囲の雰囲気を敏感に察知し、嵐の神の緩い足をすくっては、自分を印象付けている。

「それよりも、此度の戦は勇者のみで戦わせる、というのは如何なものかと思われるが」

 ただ、自分の利益のことになると、途端に脇が甘くなるのがこの男の難点だ。これさえなければ、もう少し信を置いてもよかったろう。

「その話はもう済んだではないか! "波濤の織り手"よ!」

 神々の中から不満の声が上がり、さらに別の神が言い募る。

「元々、勇者の仲間に仕留めさせた場合、魔物から得られる経験点は少なく算定されるのだ。その上、討伐に参加したものに等しく所領を割譲するとなれば、仲間を入れずに勇者のみに参加させるというのが実際的というもの」

「しかし、勇者の中には仲間を支援して戦う技を得手としているものもおり」

「だからこそ、こうして集ってるのであろう! 早めにそなたの勇者にも通達し、他の者と連携を取られればよいではないか!」

 結局、海洋神はそのまま押し切られる形で沈黙していった。おそらくこの場は引いてみせて、協力関係を取り付けた神とで抜け駆けでも画策するのだろう。最終的には、その神の勇者すら出し抜いて。

 その感情が透けて見えるからこそ、この神とは誰もが距離を置く。嵐の神ほど嫌われているわけではないが、最終的にはその側に誰もいなくなっていくのだ。

「それで、具体的な仕掛けはいつ頃に?」

「魔物は森を拠点に動いておる。それさえ考えれば居場所はおのずから絞れよう。分かり次第即座に通達するが、できれば大陸中央の各都市に勇者を進めて貰いたい」

「しかし、これほどの大所帯、連絡はどうする? 合議の間で角を突き合わせては、サリアーシェにも我らの動きを知られよう」

「お許しいただければ、それがしにお任せを」

 途端に神々の眼に嫌悪が宿る。それでも、イヴーカスは影から躍り出て、舞台の衆目を集めた。

「何をしにきた、疫神ごときが」

「皆様の仲立ちをさせていただくべく、参上仕りました」

「貴様がか?」

「私の分け身をお使いいただき、それを通して連絡を取り合っていただければ、彼の女神にも知られぬように、それぞれの神座にあって策を進められましょう」

 神々の眼が一瞬だけ色を変えたのを、ネズミの目は見逃さなかった。自らの神座で他の神に悟られぬよう状況を判断できる、そのことを喜色をもって受け入れたことを。

「だが、貴様はサリアーシェとも懇意にしていると聞く。よもやあやつにも我らの策を流し、裏切りを企ているのではあるまいな」

「もし、サリアーシェ様に御味方が一柱でもおありであれば、そのようなことも考えたでしょうな。ですが御身を、そしてその傍らにおられる神々をご覧ください」

 小さな体は常に不利だ、武においても知においても。

 だが、それはあくまでまっとうに生かした場合のこと。

「大きく、凛々しく、そして力ある神々です。そのような衆に、小さく、弱く、頼りないこの身が、何を好き好んで逆らいましょうか」

「口ばかり達者な奴め」

 だが、疑念を口にした神の眼にも安堵が匂っていた。どんなに油断しないと考えているものでも、小さいというただそれだけで『脅威ではない』と判断する。

 それが『油断』なのだとも知らず。

「この分け身をお持ちください。何事か見せられぬものがあれば、覆い付きの籠にでも入れられれば宜しい。お言葉をおかけくだされば、即座にお役に立ちましょう」

 自分の小さなネズミ達が、神々の懐に入っていく。

「それでは、今日の集いはこれまでとする。皆、これ以降は神座から、イヴーカスを通して連絡を取るのだ、よいな」

 嵐の神の宣言に、神々が散っていく。そして、自分と神座の主だけが残った。

「良くやったな」

「はい。これですべての情報はガルデキエ様がお手に握られます」

「なるほど。こんなことでもなければ、遊戯を行っている神の下に、配下など忍ばせようもないということか」

 神座は、外部からの侵入を防ぐために、完全な封印が施されているため、容易に連絡を繋ぐことは出来ない。気を許した間柄であれば、配下や分け身を通して会話が可能だが、大抵は合議の間を使って会話を行うのが常だった。

「貴様の位の低さも幸いしたか。俺の栄達ももう少しといったところだな」

 すでにこの神の頭の中では、『自分の策』によって優位に立ったことになっているのだろう。"知見者"の動きが誰によってもたらされ、策が誰によって献じられたのかもすっかり忘れて。

「何か分かれば逐一知らせよ、よいな」

「はい。ところで、策が成りました後の割譲の件は」

「分った分った、そう煩くねだらなくとも忘れておらぬわ」

 それだけ聞き終えると、イヴーカスは神座を辞する。

 どうせ口約束。例え、百億に一つの間違いが起こり、あの風船頭が全てを手にしたとしても、自分には鐚銭びたせん一枚とて払う気はないのは明らかだ。

 扉から出たところで、青い姿がすっと近づいてきた。

「イヴーカスよ、少しいいか?」

「何でございましょう」

 何気ない振りをして歩いていく海の神。しかし、こんな待ち伏せ同然で話しかけてくるようでは、何も隠せていないも同然だ。

 だが、彼は嵐の神ほど容易い存在でもなかった。

「そなたの勇者のことだ」

「私の、ですか?」

「ああ。今のところ、そなたの配下は名も成さず、モラニアにいると言うだけしか分からぬ。それがちと気になってな」

 ごまかせば不信を生み、それがあだになるだろう。だが、これは一つの好機でもある。

 イヴーカスは、隠し持っていた言葉の刃を、そっと抜き放った。

「ガルデキエ様は、そのことを存じておられます」

 ぽつりともらした言葉が、青い顔に雷のごとく轟き渡る。

 彼の神の後塵を拝することを、どうにも我慢なら無いという心が、浮き上がる。

「魔物の居場所を奴が知っているというのは、そなたの勇者の働きによるものか」

「先ほど彼の神に、我が働きに対する戦後の割譲のことをお伺いしました」

 返事にならない言葉。

 だが、雷鳴はもう一度轟き、海洋神は薄く笑いを浮かべた。

「あのお方の事だ、そなたの働きに痛く感じ入り、上にも置かぬ感謝であったろうな」

「はい。真に良きお言葉を頂きまして」

「そうか……そうか……ふふふ」

 含み笑いを漏らしつつ、シディアは何事かを思案し、こちらの耳に口を寄せた。

「奴を見限れ」

「仰る意味が分かりませぬが」

「先の合議を見たであろう、奴には誰もついてこぬ。ここが潮時、そなたらネズミは沈む船にその身を置かぬはずだ」

 たっぷりと意味ありげな間を置き、イヴーカスはこくりと頷いた。

「我が勇者の力は動物や魔物を操るもの。翼を持つもの、地を駆けるのが得意なものを使い、彼の魔物の後をつけているのです」

「その力、我にも貸し与えよ」

「では、後ほど配下に伝え、差配を行いましょう」

 歓喜を抑えようともせず、彼は満足に体を震わせる。嵐の神に対して差をつけたという想いから。

「では、私からも一つお願いが」

「なんだ、申してみよ」

「ガルデキエ殿の情報が、我が勇者からもたらされたものであることを、他の神にもお流しいただきたいのです」

「隠しておくわけにはいかぬのか?」

 あからさまに不満な表情、イヴーカスは首を振って先を続けた。

「今後はシディア様の下で、その力を振るうと御付け加えください。そうすれば」

「なるほど。こちらが公明正大に情報を流すとなれば、あやつの発言力も激減すると」

「お伝えする神々の方は」

「任せておけ。ガルデキエと懇意のものを除いて知らせてやる」

 そして、満足げに去っていく海洋神を見送ると、イヴーカスは神座へと戻り、玉座に腰を下ろす。

『帰っておるか、疫神よ』

「お、これはホルベアス様、どうなされたので?」

 分け身を通して届く声に愛想よく応じてみせる。向こうの様子は『見えない』が、それでも相手の表情は手に取るように分かった。

『どうせあの風船頭の参謀役を務めておるのは貴様だろう。この際だ、あんな吹き上がった奴など見限って俺につけ!』

「これは切り口上な。ですが私は」

『腹芸など受けるか! もし背くものなら貴様の勇者を打ち倒し、疫神としての銘も取り上げてくれようぞ!』

 お話にならない、これならまだガルデキエの方が百倍はましだ。

「分かりました。しかし、即座にお返事は出来ませぬゆえ、しばしお待ちを」

『ふん! ネズミの分際で駆け引きとは!』

 それきり途絶える声。

 しかし――

『"膿み腐れる妖蛆"よ、聞こえるかや?』

「これはこれはミジブーニ様」

『おるか、"病み枯らす黒禍"』

「はい、聞こえております、ディーザ殿」

 引きも切らず、神々の声が届けられる。その一つ一つを丁寧に応対し、重要なものとそうでないものをとりわけていく。

「はい。ですがいきなりそのようなことは――」

「ええ、分っております。その暁にはぜひとも――」

「もちろんでございます。それで私はどのように――」

 そのどれもがガルデキエ、あるいはシディアとの縁を切り、自分の下に来るようにとの誘い。常からすべての神々と懇意にし、あるいは疫神として仕えてきた結果が、目の前で花開いていく。

 もちろん、その全てが自分を利用し、上位の神を蹴落とそうとしてのこと。

 やがて、騒々しい陳情の全てを捌き切ると、ネズミは玉座の中に沈み込んだ。

「やはりな。誰一人、俺のことなど信用しておらんか」

 当然だろう、八方に愛想を振りまき、誰の尻にでもついて回るネズミに好意など抱くものはない。だが、『どの神にもついて回る』という性質から、敵の弱点が知れればという望みを掛けて、この身にぶら下がり続けるのだ。

 思案から明け、玉座から降りると、イヴーカスは捧げ持つように水鏡を生み出した。

「"銘すら呼び給い得ぬ方"よ」

『どうした"百の忌み名の王"よ』

 水鏡を隔てた向こうかも伝わる威圧、それでも身を奮い立たせて言葉を搾り出す。

「御威光を下賜頂けた事、深き謝意を示させていただきます」

『別にそなたのためではない。元々東の大陸は併呑するつもりであった。あのやかましい女神が海魔将を打ち滅ぼしたと聞いたときよりな』

「そ、それでも、御力なかりせば、此度のような振る舞いは思うにも叶うまいと」

『世辞はよい。せいぜい楽しませよ』

 雲壌での邂逅で、イヴーカスは一か八かの賭けに出ていた。

 それは、"知見者"に対するモラニア東征の奏上。


『我が軍に、モラニアへ侵攻せよと?』

『モラニアはゼーファレス様無き後、空漠の狩場となっておりますれば。御身におかれましても更なる勢力の拡大が』

『……小神の疫神風情が、上位なる我に意見をするなどという愚を冒すには、それなりの目論見と覚悟があってのことであろうな?』

『そのお眼には、我が小ざかしき策など、掌を見るより明らかでございましょう。ですから、もしこの道化の跳ね回りがお気に召しますれば、なにとぞ、なにとぞっ』


『少なくとも、サリアーシェの無様な振る舞いよりは、貴様の小ざかしき策のほうが面白みがある。あれは所詮、勝負の綾を拾った凡愚、貴様は……少しはましな部類だ』

「は、ははっ、ありがたきお言葉」

『だが、そなたには後一つ駒が足りておらぬ。違うか?』

 見抜かれている、そのことを恥とは思わない。相手が上位であれば素直に自分の弱さを認める、それが生き延びる秘訣だ。

「はい。我が勇者に与えられるものはすべて与えましたが、確かに駒が」

『そなたの勇者に、今居る地点より東に10キロのところへ向かえ、と伝えろ』

「そこには、何が?」

『強き魔物の住み着く迷宮が一つ』

 思いもよらぬ助言に、水鏡の向こうを凝視する。赤髪の男は薄く笑い、頷いた。

「あ、ありがとうございますっ」

『正式な侵攻は一月後、先遣隊は二週間後にはつくと心得よ。戦が始まりし折には、我も見物させてもらうとしよう。励めよ』

 それきり会談は終わる。

 だが、小神たちの言葉より、はるかに大きな成果が残った。

「悟、聞こえるかい」

『ん? なに……?』

「ああ、まだ寝ていたのか、ごめんよ」

 寝ぼけまなこの勇者に、イヴーカスは優しく語り掛ける。

「起きて早々悪いんだけど、そこから東に10キロ行ったところに、一つダンジョンがあるんだ」

『今度はそこの攻略?』

「ああ。多分、強いモンスターがいるから、それを仲間にするといいよ」

『分った。でも、クリスタルがそろそろ無くなりそうなんだ』

「そうか……それなら、ちょっと待っててね」

 勇者とのつながりを一旦絶ち、イヴーカスは虚空に視線を投げた。

「イェスタ殿」

「ご機嫌麗しゅう、"百の忌み名の王"」

「……それは"知見者"様に頂いた銘。今はまだ呼ばわるには早い、控えられ給え」

「失礼を。それで、如何なる御用で御座いましょう哉」

 イヴーカスは低く笑い、それから目的のものを告げた。

「確かにご用意できますが。対価は、如何なされます」

「我が"持てる物"を全て」

「よろしいので?」

 相変わらず笑ってばかりの審判者に、ネズミの神は頷いた。

「ちっぽけなネズミでも、このような賭けに出ることはあるのですよ」

「左様で御座いますか。では、私も楽しみに拝見させていただきます」

 黒い姿が去り、つかの間、イヴーカスはその顔から表情を消した。これまでのことを思い返し、冷静に評価を下していく。

 気ばかり大きい小神どものあしらいも、緊張を強いられた大神との謁見も済んだ。勇者への指示も滞り無く済んでいる。

 残るは、ただ一つ。

「サリアーシェ様」

 廃神と嘲られ、それでも小さな配下と共に奇跡を為した者。

 兄を弑して大神となり、その勲しから邪神とそしられる者。

 そしてただ一柱、自分を古き銘で呼んだ神。

 息を一つ吐き、そして水鏡を一つ浮かばせた。

「ガルデキエ様」

 虚空に結んだ鏡に呼びかける。その時には、イヴーカスの顔には虚無の欠片も無く、いつもの気の良さそうな笑顔だけがあった。

『どうした』

「"知見者"の兵団の侵攻、一月後とのこと。先遣隊は二週間後には到着の予定の由」

『……でかした。それではその旨、皆に伝えよ。そなたの勇者に魔物の位置を割り出させるのだ』

「はい。正確な割り出しのため、サリアーシェ様に接触を図りますが」

『構わぬ。他の者にもそのように言っておけ』

 ガルデキエへの水鏡を消すと、イヴーカスは百の水鏡を一斉に浮かび上がらせ、分け身の向こうへと語りかける。

「御身にお伝えしたき儀がございます。我が新たなる主よ」

 そこから覗く神々の顔は、どれも欲に浮かされた、満足そうな顔をしていた。


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