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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~duelist編~
164/256

40、価値ある理由

 秋の風の中に、赤と黄色の葉が舞っていた。

 肌寒い空気の中に立ち、日美香は泣き出したい気持ちをこらえて、友達を見た。

「元気でね」

「うん。向こうに着いたら連絡する」

 彼女の返事に、思わず苦笑いが漏れる。

 今まで、何度もこちらからメッセージを飛ばし、メールまで送ったのに、まったく気づかないまま、次の日の学校で指摘するのが常だったから。

「それと、これ」

 綺麗にラッピングされた、薄い長方形の箱。彼女が包み紙に手を当てる前に、あらかじめ撮っておいた画像を見せた。

「わぁ……これ、しおりで良いんだよね?」

「うん。ちょっとかさばるかもだけど」

 銀色の、鳥の羽の形をしたそれを、彼女はうれしそうに、笑いながら見ていた。

「これ、もしかしてペンになったり?」

「さすがに、そういうんじゃないけど……気に入った?」

「うん! ありがとね、ヒミちゃん」

 そのとき風が吹き、二人の足元でかさかさと枯葉が鳴った。

 日暮れが近い、寒さがしみるように深まり、日美香は思わず体を震わせた。

「それじゃ、わたしもお返し」

 差し出されたのは、スリーブに包まれたカードだった。

 あかがね色の表紙の描かれた、彼女の一番のお気に入り。

「でも、これ……大事な物だって」

「向こうの学校に行ったら、一緒に遊んでくれる人、いないと思うから」

 悲しい理由だったが、それもわかっていた。

 きっとこんな風に、同じ趣味で楽しめる友達は、何人もできるものじゃないから。

「元気でね、日美香ちゃん」

「うん、そっちもね、しおりちゃん」

 それきり、彼女と会うことはなかった。

 一年ほど後、交通事故で命を落としたと、連絡があった。

 思い出の中の彼女は、今も笑っている。

 自分の大好きな物語を模した、一枚のカードを手に。


《The Eon tales/終わりなき物語》

コンストラクト Tales 神器

このカードが場に出たとき、現在のゲームをそのまま中断し、互いに墓地とライブラリのカードを使って新たなデッキを作り、The Eon talesをあなたの場に出した状態でサブゲームを始める。

各プレイヤーは初期ライフを十点にして、通常の進行にしたがってゲームをする。サブゲームに敗北したプレイヤーは、メインのゲームで使用していた全ての手札と、場のカードをゲームから取り除く。

サブゲームで使用したカードはすべて墓地に置き、このカードを貴方のデッキに戻して切りなおす。


 

「――ジャッジ、私はこのデュエル、投了します」


『……三条選手! ここでいきなり敗北宣言! まさか相手の布陣を見て恐れをなした、ってんじゃないよなー!』

『非常に戦略的な撤退です。これで彼女は、メインゲームの三枚の手札と場のカードを引き換えに、シェートの切り札を封じたのですから』


 日美香の周囲で、急激に光景が変わっていく。

 自分の手札が一瞬で消失し、代わりにシェートの手札が増える。ただし、先ほどまでそこにいた巨大な竜は、今は墓地に落ちていた。

「ずいぶんと被害の大きな手段に出られましたね。自分のカードを封じてまでとは」

「その価値はあります。貴方達の切り札は、これで使えないはずです」

「二枚目の《狩人の妙技》を警戒する必要はないと?」

「《ディハール》は墓地に落ちました。手札になければ、罠として設置することは不可能ですから」

 シェートのカードは基本、使い切りだ。アルコン能力のコストに使用する前提として、それぞれが独立した『矢』として機能するようにしてある。

 そのため、墓地利用のカードを入れる余地はないと言っていい。

 万が一《ディハール》が手札に戻ろうとも、今後は一切出させるつもりはない。

 竜は、もう蘇らない。

「そして私は、もう一度語りなおします。決して終わらない物語、私達のデュエルを! アルコン能力【民衆は浴す糧と享楽ブレッド・アンド・サーカス】起動!」

 シェートの手札が入れ替わり、そのうち一枚が墓地ではなくデッキに飛び込む。やはり初手に《グート》はあった。素早く墓地を確認するが、切り札らしい一枚はない。

 新たに手にしたカードを確認し、日美香は思考をめぐらせ始めた。

《The Eon tales/終わりなき物語》が手札に来ている。《機知の喪失》は三枚。

《蜜酒の杯》が一枚と、《白》が一枚。

 そして、最後の一枚が《Elder of Solitude/古の孤老》だ。


《Elder of Solitude/古の孤老》

白白

クリーチャー Elder Tales

0/1

Elder of solitudeを生贄に捧げる:貴方は墓地のカードをデッキに加えてシャッフルする。


「ここは……《Elder of Solitude/古の孤老》を囮に使う、かな」

「その理由は?」

「さっきの《ディハール》のやり取り、あれは紫藤さんとの三回目のデュエルを、彼が利用したものだった。だとすれば、《不敗の戦旗》と似た動きのこれに、同じ対応をする可能性がある」

 彼らのデュエルは、これまで何回も見ていた。楽しかったのもあるが、使っている戦略の癖を見極めたかったからだ。

「それに、デッキを回復させる《Elder of Solitude/古の孤老》は、彼にとっても見過ごせない一枚だし、カウンターされるなら手札を一枚切らせることができる」

「万が一、場に出せたら。たとえ《本》をカウンターされても、リカバリできるもんね」

「問題はいつ、例の切り札が来るかだよ」

 さっきの戦いでは、それらしいカードは使っていなかった。

 切り札があるとわかっていながら、それが分からないのは不安要素だ。

「マーちゃんは、どんなカードが来るか、予想できる?」

「あたしが言うのもなんだけど、神規ってむちゃくちゃできるから。下手な予想は確実に裏切られるわ」

「うわー、それは大変だ」

 正直、手札の三枚のカウンターで、相手の一撃をしのぎきれるか分からない。

 それでも、負ける恐怖と同じぐらい、勝つためにしのぎたいという願いが、強烈に湧き上がっていく。

「私は、手札から《白》と《蜜酒の杯》を、出します。対応は」

「ないぞ」

 穏やかに、凪いだ海のようにシェートは告げる。

「《蜜酒の杯》一枚と、白を使い《Elder of Solitude/古の孤老》を召喚」

「そのままだ」

 抵抗する気はないのではない、抵抗する必要がないというその顔に、気が付いた。

 そうか。

 日美香は心の中で、つぶやいていた。

 私はこれから、負けてしまうんだ。

「ヒミちゃん」

「うん」

「最後まで、顔を上げなさい。あたしがずっと見ていてあげるから」

 うなづくと、こみ上げる想いを喉の奥につめて、宣言する。

「ターン終了です」

 そして、デッキに手を伸ばす対戦相手に、告げた。

「見せてください。貴方の切り札を」

「分かった」

 彼は身構え、デッキに手を当てて、宣言した。

「俺の、ターンだ!」



 引き抜いた一枚が、蒼く輝いていた。

 それは思い出の品であり、復讐の証であり、ここにたどり着かせてくれた者たちが、創り上げた奇跡の結晶だった。

 手札を確認し、準備が整ったことを理解すると、シェートは告げた。

「俺、《白》出す。この罠、伏せる。それから、一点使う。罠、場に出すぞ」

「それを、《機知の喪失》で打ち消します!」

 それはそうだろう。

 抵抗はある。だから、打ち砕く。

「【スタック】《勢子の追い込み》で、それ、打ち消す」

 使われたカードが光の矢となり、日美香の魔法とぶつかり合った。

 魔法の火花が散り輝き、これまでの戦いが鮮やかに蘇る。

「まだです! もう一枚《機知の喪失》!」

「《天然の矢狭間》、使う。それも、駄目だ」

 切り抜け、しのぎ、命を削るようにカードを振るってきた。

「これで、最後です! 《機知の喪失》!」

 日美香あいても分かっている。

 このたった一枚を通すだけで、何もかもが終わることを。

 でも、俺はここで終わるわけには行かない。

 どんなに楽しくても、どんなに優しくても、遊びでは何一つ変えられない。

「【スタック】」

 このカードを手渡してくれた、少年の笑顔を思い出す。

 彼の望んだであろう未来さえ踏みにじって、自分はまた、血まみれの世界に戻るのだ。

「《砕けぬ意思》! そのカード、打ち消す!」

 すべての連鎖が終了し、最後に残ったカードが姿を現す。

 それが発動する寸前、決闘者デュエリストは声を限りに叫んだ。

「《Elder of Solitude/古の孤老》をいけにえに、墓地のカードをデッキに戻します!」

 本当に、彼女は勘が良かった。

 これから行われることを、本能と経験で察したのだろう。

 それでも、遅い。

「俺、最後のカード、使う。《コボルトの布告/Kobold's Decree》」

 言葉が、奇跡となって光り輝いた。

 カードという見せ掛けを解き、青い石が自分の首に掛かる。

 同時に、その効果が世界を変え始めた。

 シェートの手札が一つ残らず消滅し、淡く瞬いていたマナの光が消えうせる。

 デッキのカードがごっそりと抜け、すべての支払い・・・が終了した。

「このカードは、発動にあらゆる奇跡を要求します。手札、場に出したマナカードのみならず、デッキの中にある、自分のすべてのマナを、ゲームから取り除かねばならない」

「そ、そんな! そんなことしたら、何もできなくなるじゃない!」

「ええ。その代償と引き換えに、得るものもあります」

 すでに日美香は気が付いているようだった。

 あれほど沸き立っていた魔法の力が、一切途絶えていることに。

「サリアーシェ! その奇跡は……その神規は!」

「はい。あらゆる魔法、あらゆる神威、あらゆる奇跡の働きを完全に封じる。それが私の命を懸けて、シェートに与えた神規です」

 奇跡の拒絶。

 それが、蒼い仔竜の見出した、シェートにもっともふさわしい、神の力。

「元より、シェートには奇跡など必要なかった。己の命と知恵が、最初の勇者を討つ力だったのですから」

「相手に伍する奇跡ちからではなく、相手を自分と同じ場所に引きずり落とすちから。そうか……確かに、貴方達にぴったりの神規ね」

 語る"愛乱の君"は、その指をシェートの腰に突きつけた。

「今なら、あたしの勇者を、ただ殺すことができる。あらゆる神規が封じられた以上、カードの守りは働かないから」

「この試合に神威を持ち込むなら、あらかじめカードにする必要がある。そして、試合中にカードを創生することは認められない。そうでしたね」

 シェートは腰に手をあて、山刀を引き抜くと、地面に置いた。

 一瞬、おびえを浮かばせた日美香が、問いかける様にこちらを見る。

「続けるぞ」

「……デュエルを、ですか?」

「俺、お前、殺さない。ちゃんと、勝つ」

 シェートはそのままカードを手に、宣言をした。

「ターン、終わり。お前の番だ」

「わ……私の、ターンです」

 戸惑い、こちらの行動の意味を考えるようにためらい、それから告げた。

「ドローして……なにも、ありません。終わり、です」

「ああ。俺、一枚引く、終わりだ」


『おいおいマジかよ! さっきまでの激闘から一変! 今度はただ、カードを引いて終わるだけのお見合いになっちまったぞ!』

『《コボルトの布告/Kobold's Decree》は、自身のマナを一切デッキから取り除く代わりに、相手のあらゆるカードの行使を禁止します。その結果が、これです』


「でも、これなら私にも、勝機はあります」

 日美香の目はまだ死んでいない。

 この状態になっても、勝ちはあると理解できるからだ。

「このまま引き続ければ、いつかは山札が切れて、引けなくなったほうが負けます。そして私は、さっきの《Elder of Solitude/古の孤老》で、デッキを回復させました」

「つまり、息が切れるのはそっちが先、ってことよ」

「――それはどうかな」

 いつの間にか、小さな青い姿が、フィールドに現れていた。

 上で観戦していたはずのフィーは、口元に不敵な笑みを浮かべて言葉を継ぐ。

「確かに、このままならシェートはデッキが切れて負ける。だが、そんなことを俺が見越してないと思ってるのか?」

「なんですって!?」

「ターンを進めなよ、そうすりゃ答えが分かるさ」

 だが、日美香の顔は、何かに気が付いたように、こちらのデッキに注がれていた。

 そして、こう言った。

「時間を短縮しましょう。互いに上から七枚になるまでカードを引いて、カードを捨てられる状況を、作るんです」

「ああ。それでいいか?」

 審判の女神は無言で頷き、互いの処理を終える。

 シェートは一枚引き、ルールに従って七枚になるよう、八枚目のカードを捨てた。

 そのカードは、墓地に落ちなかった。

 効果書きの通りに、デッキに帰っていく。

「ちょ、ちょっと待ってよ! そのカードって、まさか!」


『《友なる星狼 グート》その効果です。かのカードは墓地に落ちることはない。必ずデッキに戻ります』


「うそうそうそっ! だって、彼の神規で、全部のカードは使えないって」

「"効果の置換"、だからだよ」

 すでに両手を降ろし、日美香は戦いの構えを解いていた。

 そして実況者に代わり、すべての仕組みを語り始める。

「《グート》君のあれは能力じゃない。使用されたカードは、必ず墓地に落ちるというルールを『書き換える』ものなの」

「そういうこと。この効果を使い続ける限り、今のシェートにデッキ切れは存在しない」


『おいおい。つまりこれって、いわゆる――』

『――ロックですね。決して破ることができない、絶対無敵の"ハードロック"』


 答えにたどり着き、日美香は笑った。

 悲しげだが、清々したとでも言うような、明るい顔だった。

「ひとつ、教えてください」

「いいぞ」

「どうして《グート》君にそんな効果を持たせたんですか? もしかして最初から、このコンボを?」

「そうではないのですよ、日美香殿」

 さすがに自分からは言い出しにくいことを、サリアは心得て、説明してくれた。

「いくら本当の戦いでないとはいえ、グートを"墓地"に落としたくはないと。要するに、あれはシェートのわがままなのです」

「……そっか。わがままじゃ、しかたないですね」

 堪えきれないものが、日美香の目から零れ落ちていた。

 笑いながら、泣きながら、決闘者の少女は告げた。

「私の、負けです。ありがとう、ございました」



 頬を伝う涙をぬぐいもせずに、日美香は対戦相手の姿を見つめた。

 彼はゆっくりとこちらに近づき、片手を差し出す。

「じゃあな」

「……はい」

 握り合った手の上に、蒼い手が添えられる。

 デュエルが終わり、飛行の能力を取り戻したフィアクゥルは、屈託なく笑っていた。

「ごめんね。あんな風にデュエルを終わらせちゃって」

「それも含めて、おっさんの計画さ。何も気にすることないよ」

「いやはや、やってくれたわね、貴方達」

 結び合った手の形を確かめ、マクマトゥーナは呆れながら微笑んでいた。

「ま、今回はこういう結果になっちゃったけど、実にいいゲームだったわ」

「負け惜しみかよ」

「バカねー。あたしはどっかの誰かさんみたいに、完全勝利以外認めないなんて、了見の狭い軍略家じゃないわよ」

 負けたことさえエンターテイメントだと言わんばかりに、彼女はいつもの表情を崩さなかった。演技だろうと、本心だろうと、それはとても見事な女優ぶりだった。

「あたしの計画を神々に十分プレゼンできたし、今回の試合でこっちに信者も獲得できたもの。所領が失われるのは痛いけど、遊戯が続く限り、巻き返すことはできるわ」

「最後の願いだけは、適うことはないでしょう。我らは、勝ちます」

「結構。このあたしと最高の勇者を負かしたんだもの、そのぐらいの大言壮語は吐いてもらわなきゃね」

 そして、居並ぶ大観衆に向けて、彼女は両手を上げて呼びかけた。

「みんな、見てくれた!? これであたしの、最高のショーはおしまい! でも、あたしは必ず帰ってくるわ! 今回以上の最高の舞台を引っさげてね! それまで、みんないい子にして待ってるのよ!」

 咲き誇る大輪の薔薇のような、真紅のドレス。

 注目されるためだけに存在し、人々を楽しませるためだけに存在し続ける、美しき天上の花が舞う。

「さあ、そこの丸っこいの、最後の仕事よ! 勝利者を、高らかに宣言なさい!」


『オーケイ! wizdom;the glorious、ディメンショナルカップ"エファレア杯"、第一回・・・の優勝者は――』


 黒竜は笑っていた。

 祭りは終わる。

 でも、いつかはまたと、みんなの願いを込めて、付け足したのだ。


『"平和の女神"サリアーシェと、そのガナリ、コボルトのシェート!』


 歓声が、これまでにない大歓声が、世界を洗っていた。

 もしかしたらあの時、自分も世界大会に出られたら、浴びていたかも知れない声。

 それは幻の未来だ。


『お願い、お父さん。保護者同伴なら、出場してもいいって規約に』

『そんなことのために、仕事を休めるわけないだろう』

『でも――』

『もう、カードなんて止めなさい。あんなもの、女の子がするものじゃない』


 これは、たどり着かなかった夢の代わりに見た、もうひとつの夢の形。

 アンコールはない、一度だけの舞台だ。

「ご苦労様、日美香。帰ったらおいしいもの食べて、ゆっくり休んでね」

「ありがとう。そっちは……その、元気で」

「ご心配なく。勝つことと同じぐらい、負けるのにも慣れてるから」 

 自分の体が光と共に吹き散れて行く。

 それは花吹雪。負けたものをなぐさめ、勝ったものを寿ぐ、光の群舞だ。

「みんな、ありがとう! さよなら!」

 消えていく世界の中、みんなが笑っていた。

 ありがとう、さようなら。

 その言葉を残して、三条日美香という勇者の物語は、幕を閉じた。



「行っちゃった、か」

 去り往く勇者を見送り、マクマトゥーナはぽつりと呟いた。

 本当に、終わってみれば面白い舞台だった。

 あの竜神が熱心になるのも分かる。こんなに面白い役者が揃ったなら、その先を見たいと願うなんて、当たり前のことだ。

「さてと。本来なら、これから勝利者インタビューとか、今後の大会の予定とか、謎のデュエリストに襲われたりする展開が待ってるんだけど」

「もうカードは勘弁してくれ。そういう展開はアニメで十分だよ」

「ああ。俺、腹いっぱいだ」

 そう語る二人の"勇者"を、眺めやる。

 彼らにはもっと大きな試練が待っているだろう。その全てに打ち勝つか、あるいは負けてへし折れるか。どちらにせよ、その姿を見たいというのは、自分も同じだ。

「この"愛乱の君"を打ち負かした君達の敢闘を祝して、プレゼントをあげちゃうわ」

「おおっ、さすが大会運営者サマ! で、何くれるんだ?」

「貴方達の使ったカードを一枚、使い捨ての神器にしてあげる」

 それは、最初から決めていたことだ。

 自分を打ち負かすものが現れたら、気前良く景品を渡す。こういう振る舞いこそが、人気者であり続ける秘訣だ。

「んだよ、使い捨てって。カニラだって、神器の弓創ってよこすぐらいしたのに。カミサマのくせにケチくせーな」

「おだまりなさい! 今回、かなり大規模に力をつかっちゃって、割とカツカツなの! いらないなら、あげなくてもいいんだけど?」

「あっ、うそうそ! いやぁ、女神様気前いいなー、あこがれちゃうなー」

 少しの相談の後、彼らは思い思いの一枚を、こちらに差し出してきた。

「まあ、俺は順当に、これかな」

「オッケー。ちなみに、大体五分ぐらい経つと効果が切れるから、気をつけてね」

「永続になっても困るからな。最後の切り札ってことで」

 蒼い仔竜の一枚は、デッキケースの代わりに首から提げた携帯機器に収納された。

 あれが力を発揮するときは、確実に壮絶な戦いが待っているだろう。

「俺、これだ」

「これも、せいぜい三分ぐらいしかもたないからね。あと、こっちの効果は意味がなくなるから」

「ああ」

 コボルトの選んだのは、意外ではあるが順当な一枚でもあった、

 どんな場面で使うか分からないが、使い方さえ間違えなければ、きっと威力を発揮するだろう。

「ところでサーちゃん。次はどうするの?」

「おそらく、"闘神"殿のところへ向かうことになるかと。"英傑神"の勇者がおられるというケデナへは、かなりの距離があると聞きますゆえ」

「そっか。じゃあみんな、そこ並んで」

 全員、面白いぐらい素直に並ぶ。

 自分を打ち負かした者たちを眺め、"愛乱の君"は、笑った。

「"闘神"によろしくね。それじゃ!」

「えっ? お、お待ちください。"愛乱の――」

「せぇえーのぉおっ!」

 振り下ろした片手が、神威を大地に叩きつける。

 それは、春一番に吹く突風のように、勝利者を吹き飛ばした。


『うわあああああああああああああああああああああっ!』


 はるかな空の高みに、四つの影が舞い上がる。

 そのうち一つは天界に還っていくだろうが、まあ瑣末ごとだ。

「がんばりなさいよ、コボルトの狩人さん」

 去っていく旅人を、女神は満面の笑みで見送った。



 四柱神が一柱、"愛乱の君"マクマトゥーナの計画は、こうして幕を閉じた。

 その後、その似姿を模した神の像が、決闘者たちの闘技場に建立されることになるのだが、それはまた別の物語である。


コボルトの布告/Kobold's Decree

コンストラクト 神器(神器は破壊できない) 罠

埋設(このカードをプレイするとき、裏側で場に伏せた状態でゲームから取り除く)

1支払うことで、コボルトの布告を表側表示でプレイしてもよい。

コボルトの布告が出たとき、あなたのデッキからすべてのマナカードを取り除く。

その後、手札にあるすべてのマナカードと場にある自分のマナをゲームから取り除く。


コボルトの布告が場にあるとき、すべてのプレイヤーはカードをプレイできない。

コボルトの布告を除くすべての場にあるパーマネントはあらゆる能力、効果を失う。すべてのコンストラクトクリーチャーは攻撃にも防御にも使用できない。墓地にあるカードは能力を起動できない。


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