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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~duelist編~
163/256

39、巻き直し

 無数の燈火をぶら下げたような、夜に浮かぶ魔法の森だ。

 その輝きに目を向ければ、一つ一つが何かの果物で、たいまつか何かのように煌々と明かりを灯していた。

「やっぱり、勇者、面倒だ」

「……そうだな。私もこんな能力を展開されるとは、思ってもみなかった」

 昼間は巨大な炎の獣、夜は異様な森。しかもあのカードは、いつもの魔法と違ってこちらは破壊できない。

「昼間の獣であれば、戦闘で破壊することはできよう。だが、時間が経つほどに、こちらの場に出したカードをいけにえに捧げなければならない」

「じゃあ、こうだ。俺、一枚、罠伏せる。《白》出す。終わりだ」

 残るカードは二枚、うち一枚は《緑》で、もう一枚は《開かれた霊域》、どちらもあれをどうにかすることはできない。

「では、そちらの終了前に【スタック】、feeding treeを一個いけにえに捧げ、ライフを一点回復します」


『地味な回復と侮るなかれ! こいつは自分が出しているマナの色の種類だけ、トークンが湧くカードだ! つまり、最高四点づつ、回復できるようになるぜ!』


「私のターンです! 《Guardian of the Day/真昼の守護者》を場に、ドローして《緑》をセット、《Guardian of the Day/真昼の守護者》で攻撃します!」

 砂漠を蹴立てて、巨大な獅子がシェートめがけて突進してくる。

 その動きを止めるように、片手を振りかざした。

「【スタック】! 《霧中の行軍》!」

 炎の獣が霧の中に消え、日美香の傍らに戻っていた。冷たく光る獣目が、値踏みをするようにこちらを睨む。

「白一点で《The sigil/おしるし》を唱えます。対応は?」


《The sigil/おしるし》コンストラクト Tales 

あなたは呪文と効果の対象にならない。

Talesと書かれた呪文のコストを2下げる。

おしるしが場から墓地に落ちるとき、このカードをデッキに入れて切りなおす。


「……ない」

「では解決し、ターン終了。"砂漠"を"森"に変えます」

 緊張が、じりじりと背を焦がすようなやり取りだ。

 あの獣に一度でも殴られれば、回復不能の一撃を喰らってしまう。時間はあまりない、なんとしても逆転の一手を呼ばなくては。

「俺のターン、ドローだ!」

 負けるわけにはいかない。伶也がしていたように、気合を込めて一枚抜き放つ。

 引き当てたのは《老練な狩人》。だが、これを召喚するためには、マナが後一点足りなかった。

「焦るな。まだ、時間はある」

「……俺、《緑》置く。それと、罠、一枚伏せる!」

 さっきの《霧中の行軍》で引いたのは《夜襲の収穫》。相手の手札も少ないが、どうにかしてカードを引ければ事態が好転する。

「終わり。そっち、続けろ」

「はい。二つのトークンを捧げて、ライフを回復です」


『これで三条選手のライフは十三点! 時間が経てば経つほど、勝ち目が薄くなっていくぞ! どうするシェート選手!』


 分かってはいるが、今はどうすることもできない。

 再び昼間になったフィールドで、巨大なかがり火のように、獅子がそそり立つ。

「《赤》をセット。攻撃します」

 何のさえぎる物もなく、巨大な爪が振り下ろされる。

 鈍い痛みが、自分の命をごっそり削った感触が、伝わった。

「う……ぐっ!」

「ターン終了」

 相手の手札は一枚、対するこちらは二枚。おそらく、こちらの《夜襲の収穫》を発動させないために、手札を少なくしているのだろう。

 まったく隙がない。

 冷静にこちらを見極めて、適切に攻撃してくる。

「俺の、ターンッ!」

 引き当てた一枚を、祈るような気持ちで場に出す。

「《軍令鳩》! 何か、あるか!」

「……いいえ。どうぞ」

 舞い降りた鳩の効果で、手札に《白》が加わる。そのまま場にセットし、ターンを終えると、日美香は淡々と命を回復させた。


『これで三条選手のライフは十六! 対するシェート選手は残り五点! 分かっちゃいたが、どうにもインチキ臭い展開になってきたぜ!』


「ソフトロック、という状況だ」

 気持ちを落ち着かせるためか、サリアは苦い声で状況を解説していく。

「こちらの動きを制限し、動きにくい状態を維持することで、勝利を目指す戦法。完全な積みではないが、これは……いささかまずいな」

「私のターンです。ドローし、《黒》をセット。これで、そちらのターンの終わりに、四点づつ回復が可能になりました。そして、攻撃です」

 思えば、伶也と戦ったときも、ずっとこんな状況だった。

 敵の攻撃に圧倒され、ただただ、耐えるしかなかった。

「鳩、その獣、止める! それ、いけにえする!」


『その鳩、すげー便利だな』


 今はもう居ない、少年の声を思い出す。彼は笑って戦い、勇気を示して去った。

 ならば、自分が浮かべるべきは、苦痛を食いしばる表情ではないはずだ。

 燃える炎の向こう、勇者に笑う。

 歯をむき出しにして、精一杯の威嚇を込めて。

「……ターン終了、です」

 息を呑んだ少女に笑い、力強くコボルトは宣言した。

「俺の、ターンだ!」

 引いてきたのは《緑》、そのまま場に出し、マナの力をかき集める。

「《老練な狩人》、出す!」

「それは通さない! 《Nervousness/神経質》!」


《Nervousness/神経質》

緑1

ファストスペル Tales

対象の呪文を手札に戻す。

Nervousnessが墓地にあるとき、あなたは3を払ってもよい。あなたはNervousnessを手札に戻す。


「《開かれた霊域》、使う! 打ち消し!」

 互いの意地が虚空に火花を散らす。打ち砕かれた魔法の光の下、年老いた狩人が、夜の森に静かに着地する。

 その片手が、墓地に眠っていた《霧中の行軍》を手渡してきた。


《老練な狩人》

白白1

クリーチャー 人間

1/2

老練な狩人が場に出たとき、あなたの墓地から罠カードを一枚、手札に戻す。


老練な狩人が破壊されたとき、あなたのライブラリから罠カードを一枚探し出し手札に加える。


「俺、このカード、埋める。終わりだ」

「ライフを四点回復です。これで、二十点」

 こちらのライフは、回復した分もあわせて残り七点。だが、伶也の時は、たった一点で競り勝ったはずだ。

「私の、ターンです! 《Guardian of the Day/真昼の守護者》で、攻撃!」

「頼む……狩人!」

 逆らうこともなく、狩人がその体を炎にさらす。砕け散るべき体さえ燃え尽き、その姿は消滅した。

 だが、その代わりに残ったものも、確かに存在した。


『《Guardian of the Day/真昼の守護者》の効果で《老練な狩人》が除外! その代わり手に入れたのは《不穏な茂み》! シェート選手、綱渡りしながらピンチをしのぐ!』

『とはいえ、このままでは、彼の場にクリーチャーが残りません。いつかは手札がなくなり、抗し切れなくなるでしょう』


 まだだ。

 何が来ても、どうにかなる気がしない。霧の効果も、打消されればどうしようもない。

 それでも、まだ。

「俺の、ターン!」

 引いたカードは、《落穂拾い》。

「俺、白と緑で《落穂拾い》使う」

「……どうぞ」

 思えば、このカードの使い方を理解してから、何かが変わった気がする。

 複雑な呪文ではなく、日常の生活を思わせるこの一枚が、ウィズという異世界の遊びを身近なものにしてくれた。

「《白》、《不穏な茂み》そのまま貼る。ターン、終わり」

「ライフ、二十四点に増加です。早くしないと、追いつけなくなりますよ」

「そうだな」

 こちらの言葉に、日美香が、笑った。

 闘志のない、本当に楽しげな、心からの笑い。

「今のうちに言っておきます。シェート君……戦ってくれて、ありがとう」

「……楽しいか、お前」

「はい」

 子供の遊び、全ては子供の遊びなんだ。

 それはなんて、残酷な楽しみだろう。彼らは結局、そうして楽しむことを、この世界でやり続けているだけなのだ。

 それでも、今この時だけは。

「俺もだ」

 彼女はうなづき、あふれそうになった感慨を押し込め、叫んだ。

「――私の、ターン!」



 ああ、なんて楽しいんだろう。

「《白》をセット! 《Guardian of the Day/真昼の守護者》で攻撃!」

 命じられるままに巨大な質量が動き、その一撃を対戦相手がかわそうとあがく。

「【スタック】《霧中の行軍》!」

「それに【スタック】《Heckle and Hoot/囃し立てる声》!」


《Heckle and Hoot/囃し立てる声》

緑黒3

ファストスペル Tales

対象の呪文を打ち消す。打ち消されたプレイヤーはカードを一枚選んで捨てる。


 相手の意思をこちらが凌駕し、それを更に乗り越える一撃が飛んでくる。

「【スタック】《落穂拾い》! 白で、打ち消す!」

 まるで骨身を削るように、互いのカードがひらめき、消費されていく。

 その一瞬が、たまらなく愛おしい。


『ヒミカ、お前、オンナの癖にカードやんのかよ』


 その囃し立てる声も、今は遠い。

 小学校の頃、私はずっと、そんな声を聞きながら、それでもこれを捨てられなかった。


『えー、いいよ、そういうの。難しそうだし。なんかオタクっぽいし』


 自分と遊んでくれる人は、いないも同然だった。

 同性の友達から取り残され、自然とカードショップに入り浸る時間が増えた。


『……チッ、負けましたよ。クソッ』


 そういう声を、何度聞いただろう。

 我ながら良く止めなかったものだと、半ば呆れるほどだ。

 女だと思って侮り、負けるとひどく不機嫌になる対戦者も、少なくはなかったのに。

「ターンを終了します!」

「ああ。俺の、ターンだ!」

 でも、目の前にいる彼は、そうじゃない。

 きちんとこちらを見て、まっすぐに戦ってくれている。女の子だとバカにすることも、不利になったからといって不機嫌になることもない。

 なにより、これが、自分の家族を奪ったゲームの一環だということさえ、気にしないでいてくれる。

「俺、《狩人の妙技》、使う。これ、罠にする。終わりだ」

 地球から遠く離れた異世界で、こんな風に戦えるなんて、思っていなかった。

 そんな感慨を断ち切ったのは、女神の叱責だった。

「思い出に浸るのは後にしなさい。あなたの感傷なんて、彼にとっては、ただの付け入る隙なんだから」

「分かってる」

 今伏せられたのは確実に、《ディハール》だ。ただし、手札がない今の状況で、発動させることはできない。

 問題は、すでにに伏せられた《不穏な茂み》。さっきはマナが足りなかったが、今ならいつでも発動が可能だ。

「ターン終了時にトークンをいけにえに。これで、ライフは二十八点」

 そうだ、ライフアドバンテージが取れているうちに、あの罠は確実に消費させなければ駄目だ。

 ドローし、手札に来たのは《白》。

 力の溜め時、そう思い定める。 

「《Guardian of the Day/真昼の守護者》で、攻撃!」

「【スタック】!」

 声にためらいがない。こちらが握っている札が何であれ、カウンターさえ握らない手で恐れもなく宣言する。

「《不穏な茂み》使う! 来い、《岩塊呑みのワーム》!」


《岩塊呑みのワーム》 クリーチャー 罠

白3

3/3

貫通 

埋設(このカードをプレイするとき、裏側で場に伏せた状態でゲームから取り除く)

対戦相手があなたに攻撃してきた場合、あなたは白白3を払い、このカードを表側表示で場に出してもよい。


岩塊呑みのワームが場に出たとき、攻撃クリーチャー一体を対象とし、それを破壊する。そのクリーチャーの防御力分、岩塊呑みのワームに+1/+1カウンターを置く。


 色の砂が爆発し、燃え上がる獅子の体が、巨大な顎にへし折られる。

 炎が燃えつき、気が付けば色の砂漠は完全に消滅していた。


『乾坤一擲! 《岩塊呑みのワーム》が相手クリーチャーを撃破! おまけに攻防共に八点のビッグクリーチャーを召喚して、一気に逆転なるか!』


 どれほど優勢に攻めていた所で、手札には必ず偏りができる。幸運の女神に良いカードを願ったところで、このゲームにはマナという枷がある。

 必要なエネルギーを展開するために、必ずできる隙。

「私は、《白》をセット、ターン終了」

「俺の、ターン! 《緑》出す。ワーム、攻撃!」

 さっきまでのお返しとばかり、巨大な肉塊が激しく日美香を打ち据える。

 衝撃とライフの喪失にめまいを覚えながら、それでも墓地のカードに手を伸ばす。

「三点を支払い、墓地の《Nervousness/神経質》を手札に!」

「……俺のターン、終わりだ」


『これでサブゲームの十六ターン目が終了! 実際メインの勝敗が一切動かないまま、こっちが盛り上がってどうすんだって話だけどな!』

『これが《The Eon tales》の同系列カードが作られない理由です。あまりにもデュエルが長くなるため、公式の試合では、使用が禁じられています』


「でもね、これは私の夢だから」

 山札から一枚引き抜き、解説の言葉にやわらかく反論する。

 ずっと、ずっと、楽しいデュエルをしていたい。

 その夢が描かれた、あの本こそが、私の願いの具現だから。

「《palace of youth/常若の宮殿》を場に出します。対応はありますか?」

「……ない」

 許可と共に、再び巨大な建造物がフィールドにそそり立つ。

 象牙を思わせる白さを持った、花弁のような尖塔を持つお城。清らかさと、無垢さを併せ持ったそれが、世界を睥睨していた。

「ターンを終了」


《palace of youth/常若の宮殿》 コンストラクト 神話 Tales

白緑赤黒

このカードは呪文と効果の対象にならない。

各プレイヤーは自分のターンでのみ呪文と効果をプレイする。

貴方は通常のドローに加え、もう一枚ドローできる。


『三条選手、また一癖あるカードを投入! こういうのがあるから、カウンターデッキは手札を握り締めてる必要があるんだよな!』

『彼女にしてみれば、《Guardian of the Day/真昼の守護者》があるうちに来て欲しかった、というのが本音でしょうね。そうすれば確実にロックできていたはずです』


 そして再び、シェートの番が回る。

 ワームの顎が激しく叩きつけられて、ライフが更に減った。

 残りは十二点。それでも、まだいける。

「ターン、終わりだ」

 そう宣言した相手の手札が、一枚残っていた。

 これまで、ずっと手札を空にするように勤めてきたシェートが、とうとうカウンターを握り始めた。

 さっき戻した《Nervousness/神経質》はあるが、手札が溜まって打ち合いになれば、息切れするのはこちらが先だ。

「ヒミちゃん、あれ、使わないの?」

「今は駄目。相手に手札を補充されたら、ジリ貧になるのはこっちだもん」

民衆は浴す糧と享楽ブレッド・アンド・サーカス】は、リスクとリターンが大きすぎる。

 この場でシェートに手札を与えるということは、逆転の機会を失うことと同義だ。

「私のターン」

 今は《palace of youth/常若の宮殿》の効果で、シェートのカウンターはこない。この瞬間に、逆転のカードを引ければ、まだ分からない。

 だから、勝利のための一枚を、ただ思う。

 目の前にいる巨大なワーム、あれを倒せる可能性があるカードを。

「《palace of youth/常若の宮殿》の効果で、私は二枚ドロー」

 片方は《白》だった。

 そして、もう一枚はこのデッキの、切り札の一つ。 

「私は《白》セット! そして白と緑で《Knight of Agility/速さの勇士》を召喚! 場に出した効果で、デッキから《Knight of strength》を手札に加えます!」


《Knight of Agility/速さの勇士》 クリーチャー 英雄 Tales

白緑1

3/3

先攻

Knight of agilityが場に出たとき、あなたのデッキからKnight of strengthかKnight of enduranceという名前のカードを一枚選び出し、あなたの手札に加える。


あなたの場にKnight of agility、Knight of strength、Knight of enduranceの三枚のカードがある場合、この三枚を生贄に捧げてもよい。あなたのデッキからKnight of braveを探し出して場に出し、デッキを切りなおす。


『Talesカードの目玉の一つですね。マナさえあれば、一枚のカードで三体のクリーチャーを呼ぶことが可能です』 

『現在、《The sigil/おしるし》の効果で召喚コストは最低の白と緑! おまけにカウンターの心配もない今、三条選手、一気にビッグクリーチャーを釣り上げに掛かるか!』


「すべてのマナを使い、三体の騎士を召喚! そして、いけにえに捧げ、デッキから《Knight of brave/勇気ある騎士》を場に出します!」

 宣言と共に、カードのイラストが具現化する。

 それは、美しい立ち姿の騎士だった。

 手にした剣は鋭く、まとう鎧は見事に飾られ、あらゆる敵を討ち滅ぼす力を、全身から発散させていた。

 いけにえに捧げた三人の勇士が、束になってもかなわないという彼は、いずれ邪竜にさらわれた姫を助けると予言されたという。


《Knight of brave/勇気ある騎士》

白黒緑赤5

9/9

先行 貫通 保護 

クリーチャー 英雄 Tales

Knight of braveは三体までのクリーチャーをブロックできる。


『さすがは幸運の女神の加護を受けたデュエル! これは文字通り、互いの血を絞り出しながら続けるしかないってことなのかぁっ!』


 そうだ、まだデュエルは終わらない。

 終わりたくないし、終わらせたくもない。

「私のターンは終わりです。シェート君、お願いします」

「ああ」

 彼は一枚、カードを引いた。

 コボルトの顔が驚きと、優しい笑みに和らいだ。

 そのカードを慈しむように、そっと指で撫でる。

 それから、冷静に告げた。

「ワーム、攻撃する」

 攻撃力も防御力も、ワームは騎士に及ばない。だが、増強のカードが手にあるなら、こちらが受けない手はない。

「《Knight of brave/勇気ある騎士》で、ブロック!」

「俺、何もしない」

「――え?」

 その時、日美香の内臓に、不快な悪寒がわだかまった。

 ワームは騎士に確実に倒される。そのことを織り込んで、わざと消費・・したのだとしたら。

 戦闘が終わり、シェートのワームが消滅する。

 そして、彼は叫んだ。

「《仕掛け紐》だ! 俺、呼ぶの、《灰燼を食む者 ディハール》!」

「あ……っ!」

 炎が吹き上がり、場にある日美香のカードが残らず砕け散っていく。

 自分がダメージを食らわないために、わざとクリーチャーを討ち取らせる。その上で召喚するという、その戦略タクティクスは。

「それは、紫藤さんの……」

「ああ、レイヤ、やったやつだ」

 頷くコボルトは、その顔を誇りに輝かせていた。

 その傍らを、巨大なドラゴンが守る。まるで、去っていった竜神と、この場に来られない仔竜の、代わりだとでも言うように。

 きっとこんなデュエルは、一生の間に何度もないだろう。

 互いの手札を尽くし、知力を尽くし、戦ったライバルの戦略さえ繰り出して戦うことなんて、きっとない。

 だから、

「――ジャッジ、私はこのデュエル、投了します」

 この戦いはまだ、終われない。

 終わらせないための、宣言だった。

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