29、内面の葛藤
正直、馬鹿だと思った。
たくさんの神々が見つめる中、あいつが宣言した姿を思い出す。
『コボルト族の若者、シェートを、我が配下とする!』
みんなが笑っていた。
唐突に、神々の遊戯に出ると宣言したサリアーシェの、ひどく間抜けな言葉を。退屈を紛らわせる椿事の一つと片付けていた。
そうだ、そのことをおひいさまに報告したのは、自分だったはずだ。
あの方は少し驚き、少し笑い、それから少し、思案していた。
『悪いけど、何か動きがあったら教えて頂戴ね。どんなことでも良いから』
動きなど、あるはずがなかった。
コボルトなんて最弱の魔物を使って、神々の遊戯を生き残るなど。
ましてや、大神候補に名を連ねるほどの権勢を誇った"審美の断剣"の勇者を下すなど。
あってはならないことだったのに。
『DCE二回戦、第一試合! 今日最初の対決、いよいよはじまっちゃうぜ!』
がなりたてる黒い魔竜の声を聞き流しながら、クーリは目の前に立つ怪物を見やった。
背筋を伸ばし、いつでも駆け出せるように緊張を蓄えた下肢。腕にくくりつけたデッキに軽く触れる姿に、狩りの前の程よい集中が感じ取れた。
「"虹の瑞翼"のアホタレ。どうしてこいつ、すぐ殺さなかったですか」
自分も獣神の末席に名を連ねるものだ。"嵐群の織り部"程ではないにしろ、狩人の良し悪しくらい、見れば分かる。
カードゲームという森に、こいつはすっかり馴染んでしまった。それもこれも、あのバカ鳥とバカ勇者がさっさと狩り篭めなかったからだ。
「トシユキ、分かってると思うでした。あいつは」
「言われなくても、油断なんてしないよ。デュエルに関しては、絶対に」
そうだ、油断なんてするものか。
"黄金の蔵守"みたいな読み間違えも、"知見者"のような弱腰も、ましてや"審美の断剣"がやらかした、無策な力押しなど絶対にしない。
だが、目の前の女神は、そんなクーリの思惑など知らぬ顔で、尋ねてきた。
「試合う前に一つ、よろしいだろうか、"八瀬の踊鹿"殿」
「はっ、なんでしたか。拝借の前にハイクでも読むだったか、"平和の女神"」
「この試合、わが方より掛け金を積み増ししたく存ずる」
正直、馬鹿だと思った。
こいつの所領はすべて封じてある。竜神と行った盟約は、あの仔竜と狼を仲間にするのに使ってしまった。
他に賭けられるものなと、ないはずなのだ。
「この試合、当方が敗北せし時、わが存在そのものを、"八瀬の踊鹿"殿に譲渡いたしたく思います」
「――は?」
「平たく申せばこの"平和の女神"、"八瀬の踊鹿"殿に敗北した折には、ただちに臣従の礼を取らせていただく、ということでございます」
目の前の女は、まっすぐこちらに顔を向けていた。
駆け引きの笑いでも、はったりの威圧でもない、厳かな表情。
「お、お前! 私、負ける。同じ約束しない! 私、おひいさまの従者でしたから!」
「はい。天秤の反対には、何も乗せる必要はありませぬ。もしそちらが敗退なされても、大会の常どおりに」
「い……意味が分からないでしたから! なんで、そんな」
その問いかけに、女神は恐ろしい答えを突きつけた。
「"知見者"殿の時と同じです。遊戯に対する私の不誠実を、あなたは問われた。その返答とお考えください」
クーリは一瞬、返すべき言葉を見失った。
あんなもの、ただの難癖だ。
戦う前に相手をあおりたて、気をはやらせる威嚇の吼え声くらいのものでしかない。
笑って流すか、こちらの不明に怒るのが、普通の対応だろうに。
これではまるで、自分の体に付いた一匹の蚤を、巨人の棍棒で叩き潰そうとするようなものだ。
「お、お前! 頭おかしい! おかしいでした! それか竜神、いいデッキ、作ってもらった! 絶対勝てる、だから!」
「貴殿らは聞いておられたはず。此度の遊戯、われら手ずから、生き死にを選ぶに至ったと。なれば捨身を以って身の証を立てるのみ。竜神殿の助力など、埒もなきこと」
竜神の助けもなく、明確な勝ちを手に入れる確信も無いまま、大神の身をただの端女に落とすかもしれない賭けをするなんて。
"八瀬の踊鹿"クーリ・スミシェは、ようやく理解した。
目の前にいるこいつは、筋金入りの狂者なのだ。
「それではよろしいでしょうか」
"刻の女神"が間に入り、手にした硬貨を差し上げる。
「名乗りの後、先攻を決定させていただきます。コールは海藤様、お願いします」
「"平和の女神"の狩人、シェート」
「"八瀬の踊鹿"の勇者、海藤俊之」
クーリの見上げる前で、異国の硬貨がきらめいて宙に舞う。
その行方を、祈るような気持ちで追いかける。
「表!」
地に落ちた面が勇者の宣言と一致、先行の権利が取れた。
あとは勝ちに行くだけだ。
「やっちまえトシユキ! アホカス女神のケツを蹴り上げてやるでしたから!」
「なんでそういう悪口は正確なの!?」
いつもなら鬱陶しい勇者のつっこみも、今はありがたかった。
こんな狂神は、あってはならない。
早く、こいつを消してしまわなければ。
「おひいさまのために! なにより、わたしのために! "平和の女神"、お前はここで、消え果てるでしたからぁっ!」
ガラス張りの観客席に、仮面越しの笑いが響き渡る。
大変上機嫌な魔王の笑いを、フィーはうんざりした思いで見つめていた。
「その魔王様笑いも、お勉強の成果かよ」
「気に障ったか? ならば重畳、俺も稽古の甲斐があったというものだ」
まともな口喧嘩では、こいつに勝てる気がしない。あの牢屋で逢ったとき以来、こいつの態度には閉口させられっぱなしだ。
ある意味竜神の影というか、反転した竜神といってもいい存在だった。
「だが、愉快であるのは事実だ。まさかこの俺の"仇"が、あれほどに狂える性を秘めていたとはな」
「何を今更。たった一匹のコボルトのため、己が命を捨てる者ぞ。すでに諒解していたものと思っていたが」
「済まぬな。世に言う"恋は盲目"というやつよ。いとしき勇者以外、目に入らなんだ」
こいつのシェートに対する執着は相当のものだ。
はっきり言って気色が悪い。だが、今はそれよりもっと、重要なことがある。
「"仇"ってあんた、サリアのこと知ってたのかよ」
「そうだな。知っていた」
「それっておかしくないか? だってあいつ、今回の遊戯になるまで、一度も参加してなかったんだぜ?」
それまで、背後についていた竜神が、ふらりと立ち去っていく。部屋に設けられたカウンターの小竜に声を掛け、酒のようなものを注文していた。
「別段、遊戯に参加しておらぬからといって、恨みを買わぬわけではあるまい。そもそもあの女神、遊戯が始まる以前より存続していた、それなりに古きものだ」
「だとしたら余計に納得いかねーよ。仇だって言うなら居場所を突き止めたり、動きを調べさせているはずだ。お前みたいなヤツなら、特にな」
「そいつは買いかぶりというものだ、"青天の霹靂"よ。俺とて見落としぐらいする」
もちろん、見落としなんてのは嘘だ。
あれほど執拗に勇者のことを調べ、竜神のことも把握していたんだ。
もしも、こいつが本当に見落としたというなら。
「仇だとは分かっていても、サリアの生死も、居場所も分からなかった。違うか?」
「聡いな。その通りだ、と言っておこう」
仮面の上からでも、嫌な薄ら笑いが目に見えるような返答に、うんざりする。
とはいえ、魔王を相手に命の危険を考ずに情報収集できる機会、逃す手はない。
できる限り話を引き出して、こちらに有利な情報を確保したい。
「神々の策略に嵌められ、消息不明であることは、無論知っていたさ。それ以上、探る術がなかったがな」
「お前のことだから、天界にもスパイを入れてるんじゃないのか?」
「生憎、そういう伝は途絶えてしまってな。望むなら、俺の諜者にしてやってもよいぞ」
「やなこった。人をハメて洗脳しようなんて上司、土下座されてもごめんだね」
そこでひとしきり、魔王の笑い。
竜神から、シェートを取り込もうとしたときの手口は聞いていた。新興宗教でも使われる洗脳の手法。はっきり言って、こいつのやり口は胸糞悪い。
それもこれも、結局は地球のやり方をもとにしたらしいから、なんともいえない微妙な気持ちにもなるのだが。
「まぁ、そうだろうな。貴様にとって、この介入は望外の果報。暁に見た夢を、宵の臥所に求めたようなものであろうからな」
「俺、頭悪いからさ。難しい言葉使いじゃ、なに言ってんのかわかんねーよ」
「ならば、分かるように言い直してやろう。異世界勇者の続きはドラゴン転生で、などというタイトルがつけて欲しいか? "審美の断剣"が勇者、逸見浩二よ」
動揺を隠すことは、できなかった。
それまでの高揚した気分が、氷水でもぶっかけられたように冷え切る。
嘘だろ、という声と、こいつなら、という気持ちが、ごちゃごちゃに荒れ狂った。
「甘い甘い。貴様ごときの若輩が、腹芸事でこの俺を出し抜けると思ったか」
言葉を返さなければ、そう思った。
否定する――今更遅い。
話題を変える――思い浮かばない。
駆け引きに持ち込む――急に切れる材料がない。
「さて……賢しい貴様のことだ。すべてを打ち明け、我が勇者の隣に付いた、というわけでもあるまい。でなければ、ああもシェートが打ち解けられるものかよ」
しゃがみこみ、まるで親しい人間に接するように、穏やかに語りかけてくる。
「逸見浩二よ、聞かせてはもらえぬか? 一体いかなる酔狂で、そんな姿に身をやつしたのか。なにより、自分を殺したバケモノの隣で仲間面をしているというのは、どんな心持ちがするのかをな」
どうしてこいつは、こんな風に人の急所をえぐることができるんだろう。
魔王城からの脱出計画に、シェートを見捨てるという選択肢があったのも当然だ。
もし、まかり間違って、こいつの言葉にシェートが絡め取られていたら、自分の存在はここにはなかったかもしれない。
そして今、自分はこいつの手に、絡め取られようとしている。
「――俺は」
何を言えばいい、何を言うべきなのか。
嵐のように乱れた心の中、それは輝く星のように、静かに灯った。
あの荒野で、誓った言葉が。
「俺は、フィアクゥルだ」
精一杯の力をこめて、答えを口にする。
「俺は"斯界の彷徨者"、竜神エルム・オゥドの仔竜、フィアクゥルだ」
仮面の奥から、吐息が漏れた。
どこかおかしそうな、うれしそうな息吹が。
「上出来だ。この魔王、貴様の業に感服したぞ、"青天の霹靂"よ」
立ち上がり、そのままガラス壁の向こうに仮面を向けながら、魔王は続けた。
「案ずるな。貴様の正体、今すぐシェートに告げるような無粋はせん」
そんなことを言いながら、魔王は執事から受け取ったカップを手に、笑った。
「貴様が心底つらく、逃れられぬ苦境に立たされた瞬間を狙って、ぶちまけてやる。その時を楽しみに待つがいい」
「……ああ、そうかよ」
獰猛な笑い顔になるように願いながら、フィーは歯をむき出しに口角を上げた。
「そうなったら、お前も道連れだ。命に代えても、お前の体と魂を、灰さえ残さず焼き尽くしてやるからな」
「楽しみにしていよう」
目下の闘技場で歓声が沸き起こっていた。
どうやら、例のケモノの女神に動きがあったらしい。
フィーはそのまま、シェートたちの動きを見守った。
「それじゃ、こちらのターンを開始します」
丁寧に宣言を入れながら、俊之はデッキからカードを引き抜く。
《名も無き吟遊詩人》クリーチャー 英雄
名も無き吟遊詩人は打ち消されない。
名も無き吟遊詩人を生贄に捧げる:手札にある英雄をそのカードのマナコストと同じマナを支払い、場に出す。その後、このカードをゲームから取り除く。
「俺はマナカード《英傑の威徳》をセット、《白》《緑》を使用し《名も無き吟遊詩人》を唱えます。対応は?」
「ないぞ」
「では、処理を開始します」
実際の大会のように、口頭で説明しながらカードを使っていく。
いや、これだって一つの大会には違いない。だからこそ、普段どおりの態度でいたほうが、雰囲気に飲まれないで済む。
カードが輝き、美麗な吟遊詩人が目の前に降り立つ。いつ見ても、生ある存在と勘違いするくらい、精巧なヴィジョンだ。
「こちらは以上です。ターンエンドでそちらに」
「おう! 俺のターン、ドローだ!」
こっちとは反対に、コボルトの方は変な連中に毒されてしまったらしい。アニメのキャラみたいな動作で、カードを引いていた。
最初のカードゲームアニメが世に出てから十数年経ち、アニメごとの演出も多岐に渡るようになっている。
自分のように淡々と進行するキャラもいるし、みんなが大げさな行動を取る必要もないはず、なんだけど。
「だからトシユキ、あいつみたいにやるでしょう! あれ、すごくパッタイ効いていいでしたから!」
「やだよ。あんな恥ずかしいの」
「ダメでした! 気持ちで負ける、カツどん食えないでしょう!」
廊下での口ケンカ以来、うちの女神様はコボルトたちを一層、目の仇にしていた。
その上、さっきの掛け金追加のやり取りが相当頭にきたらしい。
「クーリ、本当に大丈夫?」
「なんでしたか。トシユキみたいなチキンバード、わたし心配する、百円安かったか」
心なしか、ツッコミにも微妙ないらだちが混じっている。
カードを使うのはこっちだが、パートナーの調子が悪いのは良くない傾向だ。
「俺、戦闘する! 行け、鷹と猫!」
大雑把な命令にしたがって、コボルトのクリーチャーが襲い掛かってくる。自分の場には攻撃力ゼロの吟遊詩人が一体だけ。
「きたですかトシユキ! 早く何とかするでしたから!」
「【スタック】宣言! 戦闘前に《名も無き吟遊詩人》の効果を使用、吟遊詩人をいけにえに、手札から《幼き王子 アルゼル》を場に出します!」
消え去る吟遊詩人と入れ替わるように、十代前半の少年剣士が出現する。構えた剣は鋭かったが、迫り来る巨大な獣たちの前ではあまりに無力に見えた。
「ブロックはしません、ライフで受けます!」
鈍い衝撃が俊之の体に叩きつけられる。それでも、本来感じるはずの痛みはない。
その代わり、二枚のカードがデッキから墓地に落ちた。
『おおっと! 無策のノーガード戦法と思いきや、海藤選手のライフロスはなし! その代わりといっちゃ何だが、デッキからカードが落ちたぞぉ!』
『《幼き王子 アルゼル》の効果です。あのカードが彼の場にある限り、与えられるダメージは、デッキからのディスカードに変換されます。そして』
「《幼き王子 アルゼル》が場に出た時の効果、デッキから"英雄"のカードを一枚探して手札に加えます。俺は《勇猛な槍兵》を選択」
《勇猛な槍兵》クリーチャー 聖騎士
瞬招
勇猛な槍持ちが場に出たとき、クリーチャーを一体対象とする。それに+1/+1カウンターを一個載せる。
アクト:対象のクリーチャー一体を+1/+0する。
デッキの初動は悪くない、むしろ普段の自分からすれば、良すぎるくらいだ。
コボルトがターンの終了を宣言し、新たなカードが手札に加わる。その内容を確認しつつ俊之は能力を宣言した。
「クーリ・スミシェのアルコン能力【獣神の物探し】を使用します」
【獣神の物探し】クーリ・スミシェのアルコン能力。デッキの上からカードを二枚墓地に送り、墓地のカードから一枚を手札に加える。自ターンのみ発動で毎ターン一回のみ。
「はいはい任せるでした! ほれトシユキ、早く選ぶでしたから!」
「分かってるってば、あんまり急かさないで!」
獣神が手にしたカードの中から《英傑の威徳》を引き抜き、さらに命令を重ねる。
「クーリ・スミシェのアルコン能力二つ目、【獣神の物惜しみ】を使用します」
【|獣神の物惜しみ】クーリ・スミシェのアルコン能力。墓地にあるカードを一枚選び、ライブラリに戻してきり直す。自ターンのみ発動で毎ターン一回のみ。
「わたし、このカード、トシユキの山札に入れるでしょう! わたし、とってもかしこい女神でしたから! お前ら、わたしをタガメまくってもよかったでした!」
本人の言葉とは裏腹に、観客たちの顔はどこかほっこりとした表情だ。
もふもふした毛玉の塊が、小さな手足でばたばたと動く姿は、威厳とか神秘からは、とんでもなくかけ離れていた。
『あざとい仕草で観客を魅了する"八瀬の踊鹿"! しかし、デュエルでの働きは、結構えげつねえぞぉ?』
『《幼き王子 アルゼル》のダメージ変換効果と彼女のアルコン能力が、擬似的なライブラリ操作になっていますね。内容の練られた、良いデッキだと思います』
赤い小竜の高評価に、思わず顔が熱くなる。
カードゲームなんて全く分からないクーリをなだめすかし、ぎりぎりまで申請を待ってもらって考え出したのが、このデッキとアルコン能力だ。
「俺は手札から《徴税吏》を召喚します、対応は?」
《王国の徴税吏》クリーチャー 聖騎士
徴税吏が場に出たとき、相手プレイヤー一人を対象とする。そのプレイヤーのマナがあなたより多い時、あなたのライブラリから好きなマナを一枚探し出して場に出してもよい。
「……ない」
「では、効果を解決します。合計マナ数はそちらよりも少ないため効果発動。デッキから《黒》を手札に加えてセットします」
コボルトは、微妙に嫌そうな顔をしながら、こちらの動きを見守っている。
それはそうだろう。場に出せばいやらしい動きをするが、カウンターするほど重要でもない、小粒のクリーチャーばかりが出てくるのだから。
なにより《名も無き吟遊詩人》を経由すれば、このデッキのキーである《アルゼル》は必ず場に出すことができる。
「戦闘フェイズに移行します。俺はアルゼルを選択、対応は?」
「いい。俺、守る奴いない、そのまま受ける」
「それなら戦闘開始時に《勇猛な槍兵》を召喚。対応が無ければ増強の対象はアルゼルにします」
コボルトは無言で首を振り、剣士がコボルトに鋭い一撃を加える。
「攻撃が成立したときアルゼルの効果発動。デッキトップから二枚のカードを捨てます」
墓地に落ちたカードを確認して、ターンを終了させる。
ここまではうまくいった。デッキの動きも、相手の対応も予想したとおりだ。
いや、そうでなければ困る。
このデッキは、コボルトのシェートに勝つために構築したのだから。
「いけるでしたトシユキ。あいつ毛も薪も出ないでしたから」
「……まだ始まったばかりだよ、油断しないで」
クーリの浮かれた言葉に、逆に頭が冷えた。
たかが作戦のひとつがはまったぐらいで、満足なんてしていられない。
絶対に、勝ってやる。
「ターン終了。そちらの番です」
決意を心深く沈め、俊之は静かにターン終了を宣言した。