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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~duelist編~
150/256

26、うねる狂気

 それは、伶也が感じたことがない空気だった。

 試合のときに感じる緊張感とは違う、叱られた時の痛い重圧でもない。

 粘りつき、しみこみ、肌に不快を催させる、臭いのない悪臭のような気配だ。

『ドロー』

 目鼻のない、真っ白な仮面が淡々と手札を補充する。観客たちの声が、何の指示も受けていないにも関わらず、静かになっていた。

詠唱キャスト、《おぞ気》』

 放たれた紙片が影でできた巨大な顎に変わり、飲み込まれたフェニックスが悲鳴とともに命を散らす。伶也の手に鈍い痛みが走り、仕方なく手札を一枚選んで捨てた。

 

《おぞ気》マグス。

クリーチャー一体を対象とする。そのクリーチャーは-2/-2の修正を受ける。そのクリーチャーが墓地に置かれた場合、コントロールしているプレイヤーはカードを一枚捨てる。


 その一連の流れを、仮面の男は黙って見ていた。

 控え室でのおしゃべりが嘘のように、必要以上の言葉を話さない。

 使う色はニグレド、こちらのモンスターを破壊し、手札を捨てさせる戦術を軸にしていた。

「飲まれないで、レイヤ。あれ、魔物の王です。こちらの心、縛り、削る気です」

「分かってる。分かってるけど……」

 顔が見えないというのが、ここまで嫌なものだとは思わなかった。

 声にも感情がなく、どういう気持ちで向き合えばいいのか分からない。黒い服装から浮き立つ白い仮面も、いつどす黒く染まるかという、不安を掻き立てる材料だった。

詠唱キャスト、《暴かれた陵墓》』


《暴かれた陵墓》マグス。

あなたのライブラリの上から五枚を見る。その中にあるクリーチャーカードかコンストラクトを好きな組み合わせで二枚をあなたの手札に加え、残りを墓地に置く。


 惜しげもなく自分のデッキを削り、二枚のカードを取る。

 その動きには覚えがあった。積極的にカードを墓地に落として、そこから必要なカードを手に入れる『スーサイド』と呼ばれるデッキタイプだ。

 墓地のカードを利用するカードを使うため除去が効きにくく、《おぞ気》のようなカードで、こちらの手札を減らしてくる。ものすごくいやらしい動きだ。

 とはいえ、魔王の使っているスーサイドは状況への対応を前提にしており、ライフの削りあいに持ち込めば、こちらが有利を取れるはずだった。

「とにかく、出して殴るしかないな」

「手札、温存できない、辛いですが」

 こちらの相談する姿を気にも留めず、魔王は手札を切り、さらにカードを場に出す。

詠唱キャスト、《触れ得ざる宝》――ターン終了』


《触れ得ざる宝》コンストラクト。アクト:あなたは無色2を得る。

あなたのターン開始時、触れ得ざる宝が場にあるとき、あなたは一体のクリーチャーを生贄に捧げる。捧げられない場合、あなたは2点のライフを失う。


 不気味に手を積み上げる相手に気おされないよう、伶也は腹に力を入れて叫んだ。

「行くぜ、俺のターンだ!」



 闘技場へ向かう長い通路の入り口で、シェートはやってくるはずの人々を待っていた。

 フィーの戦いは、事前の予想と違って、かなり心臓に悪いものだった。終始動きが良くない試合にははらはらしたし、青くなったサリアをなだめるのにも苦労した。

「竜神殿にも困ったものだ。お考えあっての事とは思うが、あの状況で神威を封じてしまわれるとは……」

「それ、もう聞いた。サリア、文句、直接言え」

 こちらに近づく足音に、コボルトの耳が反応する。

 だが、その源は暗い通路側ではなく、自分たちがやってきた控え室の方からだ。

「おお、そんなところにいたでしょう! うらやま女神にばっちいコボルト!」

 惚れ惚れするぐらいの売り言葉を投げつけてきたのは、シェートと同じくらいの背丈の獣女神だった。

「アホ面下げて、すっぱい勝ちしたトカゲの見舞いでした。よろしくおねがいします」

「ほんっとごめんなさいっ! 後でちゃんと言って聞かせますから!」

「なんで謝るでしたか! 無理言葉に合言葉はケンカの基本でしたから!」

 大変残念な二人組に胡乱な視線を投げたとき、暗い通路の側からもう一組が顔を出す。

「そなたらも来ておったか。こちらは大変無様ながら、どうにか勝ちを拾ったぞ」

「……ちくしょう。一生いわれるパターンだ、これ」

 渋い顔の仔竜は、その表情のままこちらを向いた。

「良かったな。俺、心配した」

「……うん。ありがとな」

「最後のあれ、すごかった。びっくりしたぞ」

「まあ……あんなの、どうってことないし」

 ふっと息を吐くと、シェートはフィーに近づいた。

 青い体がすばやく竜神の太い足の影に隠れると、表情をくつろげながら、しゃがんで目線を合わせた。

「だいじょぶだ。俺、お前、敵、思ってない」

「……うん」

「この遊戯、俺、楽しい、思った。お前、どうだ?」

「よく……わかんねぇ」

 ぐずってしまった弟たちにそうしたように、言葉を選んでなだめていく。

「俺、ちゃんとやれる。勝つ、負ける、選べる。フィー、お前、好きにしろ」

「え……?」

「そういうことだ、フィー。私たちは自分の意志で勝ちを取りに行ける。手元不如意てもとふにょいで悔いを残し、負ける無様はもうなかろう」

 足りない部分を補ってもらいながら、ゆっくりと頷く。

「俺、お前ら、戦う、気にしない。ちゃんと決闘する。でも、恨まないぞ」

「私も、この度ばかりは、すさび興じることを善しとするつもりだ。たとえ、そなたらと相対しようとも、快くな」

 そこでようやく、仔竜は視線を緩めた。ほんの少し、苦いものを交えながら。

「それなら俺も容赦しねーぞ。おっさんと一緒に、全力で叩きのめす」

「分かった、俺、同じだ」

 影から出てきたフィーが片手を差し出し、それを握り返す。

 そこに、無粋な言葉が投げつけられた。

「はぁああぁあぁあ~っ、くだらないジャパン、ご苦労様でやがりましたか、トンチキチンども」

「ち、ちょっとクーリ、もういい加減に」

「黙れトシユキ。今、私、大事な話する」

 明確な殺意さえ感じる低い声に、勇者の少年が引き下がる。獣神の目つきは、そのままこちらを食い殺したい・・・・・・とでも言いたげな、鋭利さに変わっていた。

「とうとうお客を現したですか"平和の女神"。お前も、遊戯を楽しめるご身分になられたでやがりましょう」

「"八瀬の踊鹿"殿。失礼ながら、その謗りは聞き捨てなりませぬ。私は今も、遊戯を憎んでおりますれば」

「はっ! 何をうどんなこと言いやがりますか! お前、この戦い、負けても何も失わないでやがりましたくせに」

 荒々しく石畳を踏む姿は、いらだったウサギそのものだ。それでも、女神の敵意は、狼の牙に等しく、サリアに喰らいついた。

「"知見者"のとき、お前、言ったですか。この遊戯、星を捧げる権能、全部封印すると」

「ええ、それは今も変わりませぬ」

「つまりそれ、勝っても負けてもその世界、お前失わないってことでしたが!」

 一瞬、シェートは何を言われているのか、分からなかった。

 遊戯に賭けられなかった世界は、当然誰かに奪われることもない。

 つまりそれは――。

「この遊戯において、サリアはいつでも勝ち逃げすることができる、ということだ」

「権能封印、たしかに遊戯で戦うはランディでしたか! でもお前、いっぱい勝った! しかも、制約までかけて、奪われるの守ったでしょう!」

「違います! 私は……そんなつもりでは……」

「イーブンマネー、か」

 竜神の声は、事態を面白がっているという風で、楽しそうに緩んでいた。

「ブラックジャックにおける、負け勝ちを取るルールだ。ディーラーとプレイヤーが、ともに最上の手役ブラックジャックを握り締めていると判断できる場合、勝負を降りて最低限の配当を受ける。サリアの状況は、期せずしてそうなっているというわけさ」

「そ、そうでしたか! そのビーフンバニー! お前できる! 勝ち逃げ野郎でした!」

 考えたこともなかった可能性だった。

 サリアは常に、自分の得たものを持ち主に返したいと言っていたし、遊戯の解体を願っていることも知っている。

 利得よりも己の意地を考える、それがサリアーシェという女神だから。

 だが、目の前の獣神は、そうは思っていなかった。

「私は元より、この戦いで得た所領は、望む方々に還すつもりで」

「お化けは人魂ダメになるでしたか! そんな屈辱、受けない神もいるでしたから!」

「……ダメだ、むちゃくちゃすぎて、何言ってんのかわかんねぇ……」

「ホントにごめんなさい……」

「うるさい! そこ黙れ!」

 半分涙目になりながら、顔を真っ赤にした獣は怒りの声を張り上げた。

「自分だけうまい肉取る! それで遊戯やめる言う! お前、私たちの希望、勝手に取り上げるか!」

「"踊鹿"殿……」

「竜神、お前の仲間! どっちか勝つ、それでもお前得だ! だから遊戯、勝手に捨てる言えるか! 勝ったから止めにする言うか! このっ……この卑怯者ぉっ!」

 えぐるような追求に、サリアは言葉を失い立ち尽くす。

 言いがかりではあったが、それもひとつの事実だった。

 "神々の遊戯"に望みを託し、繁栄を狙う神は多い。ネズミの小神のように、屈辱と惨めさを燃料に、己と己の世界を賭けてでもと動くものがいる。

 そんな行為を否定されれば、相手がどういう気持ちでいようと、関係ないことだ。

「……なんでしたか、コボルト。文句あるでしょう。ふさっても勇者、お前、女神守る立場でしたから」

「お前、次、戦う奴か」

「あったり前でしたから! 剣神へし折った! 次はお前の毛、全部むしるでした!」

 挑発を受けて、シェートはゆっくりと牙をむき出し、笑った。

「それ、俺の言葉。お前、毛皮剥ぐ、冬着作る。勇者、神、全部狩る」

「……いい度胸でしたから。釘を洗って待ってるでした。この"怪物バケモノ"が」

 捨て台詞を吐き出し、獣神たちが去っていく。最後までこちらに頭を下げ続けた少年が少し哀れで、おかしかった。

「シェート……さっきの、あれは」

「あいつ、前の俺、同じだ」

 何もできないまま、世界を奪われたコボルトという魔物。姿かたちの似ているのもあるだろうが、自分の境涯が、そのまま重なって見えた気がした。

 だからこそ、あの場ではああしたかった。

「俺、全力、あいつら戦う。それで負ける、あいつら、勝ちだ」

「……そうか、彼女たちにとって、我らは"兄上"なのだな」

「これ、遊びだ。でも、ちゃんと戦う。ゲーム、言い訳しない」

 きちんと相手を敵として見ること。おそらく今の自分にできることは、それだけだ。

 気がつくと、フィーはひどく悲しげな顔で、こちらを見ていた。

「……ごめんな」

「だいじょぶだ。これ、俺のこと。お前、気にするな」

 気づかいに礼を告げると、シェートは試合会場の方へ顔を向けた。

 戦っている音が聞こえる。だが、いやに静かで、歓声がまったく届いてこない。

「行こうぜ。あいつを、近くで応援してやろう」

「ああ」

 予感にざわつく感じを抱えながら、シェートは通用口から闘技場の端に出た。

 そして、見た。



「俺の、ターン! ドローッ!」

 息をするのさえ苦しくなるような憔悴の中、伶也はそれでも声を上げる。

 相手のライフは、残すところ八点。いつもなら自然と、いかに倒すかというビジョンが浮かんでくるところだが、今はまったくひらめきが起こらない。

「ヴィース、【鷹の目バードビュー】、頼む!」


【鷹の目】ヴィースガーレのアルコン能力。デッキの上一枚を確認し、そのまま上に置くかデッキの底に送るか選択する。自ターンに一回のみ。


 次に引くのは《エーヴィスの伝令者》、これなら破壊されてもドローがついてくるから問題はない。

 何より今の場には、《戦の先導者 タリスク》が控えている。このターン生き残らせれば、十分に押し切れるはずだ。

「俺は、再び《熱砂のフェニックス》を召還!」

 ありがたいことに、ルベドさえ場に出せれば、フェニックスは何度でも手札に帰ってくる。そのアドバンテージも《おぞ気》のようなカードで、帳消しにされていた。

 現在二十二ターン目、相手はひたすらマナを貯め、こちらの手札を消費させ続けるだけだった。ドローが悪いというわけではない、おそらく何かがある。

「それでも、やるしかないんだ! フェニックスとタリスクで攻撃!」

 相手の場には飛行を持つ《ちらつく虚霊》が一体いるだけだ。普通に考えればタリスクをブロックしてフェニックスを通すはずだ。

詠唱キャスト、《絶望への拘引》、対象《戦の先導者 タリスク》』


《絶望への拘引》ファストスペル。クリーチャー一体を対象とし、クリーチャーをゲームから取り除く。そのコントローラーはクリーチャーの攻撃力と等しいライフを失う。


「なっ!? タ、タリスクッ!」

『戦闘フェイズへ移行。《ちらつく虚霊》でフェニックスを防御。成立と同時に、虚霊を《墓場の尋問》のコストに。一枚ドロー』


《墓場の尋問》リチュアル(場)。

1マナ+あなたのクリーチャー一体を生贄にささげる:カードを一枚引く。

あなたのクリーチャー一体を生贄にささげる:黒を得る。


 燃え盛る炎の鳥の進路を妨害した亡霊が、悲鳴を上げて墓地へと吸い込まれる。引いたカードを確かめた魔王は、無言のまま動くのを止めた。

「またそれかよ、クソッ!」

 魔王の無愛想さもそうだが、さっきからあの虚霊が本当にうっとうしい。


《ちらつく虚霊》ゴースト 0/1 飛行。カードを一枚捨てる:ちらつく虚霊を墓地から手札に戻す。


 さっきから何度もやられている防御策コンボ。《墓場の尋問》と《ちらつく虚霊》がいれば、毎ターン、最低一体はモンスターを防ぎきれるのだ。

 残る手札は二枚、そのうち一枚は《不死鳥の呼び声》だ。すでに《灰燼を食む者 ディハール》は墓地に落ちていたが、いつでも呼び出すことができる。

 フェニックスと引き換えに、ディハールを場に出せば《墓場の尋問》を破壊できる。後は攻撃力六点のディハールで二回殴れば勝ちだ。

 だが、本当にうまくいくんだろうか? 

 もしもこの一撃が、避けられてしまったら。

「レイヤ、視野、狭くなっていますね。深呼吸、そして顔、上げてください」

「……悪い。そうだったな」

 相棒の指示に従い、軽く息をつき、それから広いフィールドを見渡す。

 敵の場には、マナを出すためのコンストラクトがひとつと、《墓場の尋問》だけ。

 自分の場にはフェニックスと、一枚のカードが【埋設】してあった。

「あいつの使ってる《触れ得ざる宝》って、ターンの頭にモンスターをいけにえにできないと、二点のライフロスだっけな」

「はい。彼の命、減ります。その次のターン、チャンス来ます」

 ディハールの召還によって、相手の場のカードを破壊することで、残りライフは四点になる。十分殺傷圏内だ。

 たとえ《おぞ気》で手札を捨てさせにきたところで、《赤》一枚分はよけられる。 次のターンに《エーヴィスの伝令》をいけにえにすれば――。


『《不死鳥の呼び声》』


 静かな声が、大気を震わせる。

 驚いて相手を見ると、仮面はこちらを向いていた。

『次のターン、俺のライフロスを確認して後、そのカードで墓地に眠る竜を呼び覚ます、といったところか』

「……ターン、エンドだ」

 手札をずばりと当てられ、伶也は揺れる気持ちを押し込めるので精一杯だった。

 考えてみれば、シェートとのデュエルはたくさんの観客がいた。その中に魔王の手下がいて、このカードの報告をしていたんだろう。

 ただのあてずっぽう、そう思いたかった。

『俺のターン。《触れ得ざる宝》でライフロス二点を受ける。お前の思うとおりだな、紫藤伶也』

「……なんだよ、ようやく俺の名前を呼ぶ気になったか?」

『そして、その守護神"虹の瑞翼"ヴィースガーレ。"ウェルマダスの守護"、"高峰の営巣者"、"告げる者"なりし、"四方をさらう大翼"よ』

「すべて、召し上げられた"銘"ですね。この遊戯、参加するため、"愛乱の君"、支払ったものです」

 その時、仮面の青年は、信じられない音を立てた。

 笑ったのだ。

「無様、思いましたか? ならば重畳。そのおごりこそ、あなたの隙、なりますよ」

『まさか。遊びひとつに汲々となるは、この俺とて同じよ。笑ったのはそこではない、心地よかったからだ。貴様らの昂ぶりがな』

 優雅な腕の振りで、手札からカードを引き抜く。

 もてあそぶように手にした一枚が、ひらひらと空を切る。

『《黒》をセットし《暴露》を詠唱キャスト。指定カード名は《不死鳥の呼び声》』


《暴露》マグス。カード名を指定する。対象となったプレイヤーは手札を公開する。指定されたカードを持っていた場合、同名のカードをすべて捨てる。


「くそっ!」

 もぎ取られた切り札が墓地に落ち、間髪いれずに魔王がさらに動く。

詠唱キャスト、《屍食鬼の手》、対象《熱砂のフェニックス》』


《屍食鬼の手》マグス。対戦相手一人かクリーチャー一体を対象とする。その対象は三点のライフを失い、あなたは三点のライフを得る。


 再び墓地に叩き落されたフェニックスを見向きもせず、畳み掛けるように三枚目の札が踊った。 

詠唱キャスト、《恩讐の祀り》。《ちらつく虚霊》を除く、残り六枚のクリーチャーカードを、ゲームから取り除く』

 鋭く投げつけられたカードが、墓地に突き刺さる。

 とたんに、汚らわしい黒煙が立ち上り、異臭があたりに漂い始めた。砕かれたカードが悲鳴をあげて、墓の中から何かが這い出てくる。

「う……っ!」

『ゾンビトークンで攻撃アタック

 それは、膿崩れ、腐敗した死体の群れだ。うめき、言葉にならない声で世界を呪う者たちが、津波のように伶也に襲い掛かった。

「うわああっ!」


《恩讐の祀り》マグス。あなたの墓地にあるクリーチャーカードを望むだけ選択し、ゲームから取り除く。取り除いたカードの数、即応を持つ2/2ゾンビトークンを場に出す。


「大丈夫ですか、レイヤ!」

「くそっ、やっぱりゾンビ系は最悪だぜ!」

 不快な感触を残して、ゾンビたちが主の下に戻っていく。まるで悪夢のように、すべての思惑が覆されていた。

 ライフは十二点削れて、残り六。手札は《赤》一枚きり。

 相手のライフは九点に回復し、手札は一枚、場にはゾンビが六体。おまけに、いつでもモンスターをカードかマナに変換できる状態だ。

『絶体絶命のピンチ、という奴だな、勇者よ』

「そうでもないさ。逆転の目はまだある」

『だろうな。そうでなくては面白くない。せっかく、待ちわびた観客も来た所だ』

 白い仮面は、伶也の背後に向けられていた。

 振り返った先にいたのは、シェートとその仲間たち。

「お前ら、来てくれたのか!」

『ターンエンド』

 沸き起こった安堵を塗りつぶすような、冷たい宣言。

 仮面の魔王は、笑っていた。

 表情も何もない白い無表情に、満面の笑みを浮かべて。

『そちらの番だ。この劣勢、覆せるものなら、覆して見せるがいい』


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