表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~ReBirth編~
15/256

プロローグ

 その日は、しっとりと雨の降る日だった。

 土のむき出しになった街道は濡れ、わだちの跡や、くぼんだところに泥混じりの水が溜まっている。

 両脇は森に挟まれ、木々が枝を差し掛けているが、道を覆うほどに生えているわけではなく、あまり雨しのぎにはなっていない。

「ったく、嫌になるな、雨って奴はよ」

 荷駄を載せたロバの反対側を歩く影が、ぶちぶちと文句を言い始める。皮の鎧に長剣を下げ、その背をフード付きのマントで覆った、いかにも傭兵然としたそいつは、街道を歩く時の護衛として雇った男だ。

「天気読みの奴、いい加減なこと言いやがって。何がシリーエンの方は風の湿りも無いから大丈夫だ、だよ」

「はぁ、あいつらも、天気の全部、知ってるわけじゃないすけぇ」

 この男の口数の多いことと来たら、こちらが文字通り閉口する域だった。何か思いつくと言葉にしなければ気がすまない性質らしく、こちらにもそれなりの相槌を要求する。

「だとしてもだよ? 銅貨十枚もふんだくっといて、こりゃねぇだろ。こんな天気になると分ってりゃ、あと一日は、あいつとしっぽり――」

 その天気読みの料金も、男の泊まり賃もこちらが出しているのだが、さも自分の懐が痛んだかのように嘆いてみせる。

 腕利きの傭兵は口数が少ないとはよく言われるが、多分それは、こんな煩い奴と一緒に居ることが耐えられなくなるから、ということなのだろう。

 次の商いは別の隊商に混じって動こう、そんなことをぼんやりと考えた時、傭兵がいきなり剣を構えた。

「おい、ありゃなんだ!」

「へ? ああ、あれすけぇ、心配いらねえらす」

 男の示した先に、一匹の獣が立っていた。 

 雨に煙る街道の真ん中、霧のように立つ、白い犬のような生き物。その額には銀に光る星のような毛が生え、首周りをたてがみが飾る。

 とはいえ、その姿も今は雨にぬれ、どこか疲れたような印象を与えていた。

「こっち睨んでるぞ?」

「あらぁ、最近この辺りさ住み着いた、星狼ほしのがみらす」

「ほしのがみ?」

「ああ。人さくると道に出て、こっちさじぃっと見つめてくるら。ですけ、ちっとも悪さしねぇでらすけぇ、誰もとがめねえんでらす」

 それどころか星狼が出て以来、この辺りには魔物や人を害する獣、盗賊の類も寄り付かないので、街道の守り神のように扱われていた。

「手さ出さねば、なんもしねえらすけ、剣さおさめてくれら」

「……でも、何かおちつかねぇなぁ」

 文句を言いながらも剣を収めると、星狼は緊張を解き、そのまま道の脇に下がる。その様子を見て、懐から干し肉を取り出し、放ってやった。

「餌付けしてんのかよ」

「ほしのがみ、たいそう頭いい生き物ら。ですけ、街道守の礼、みてえなもんらす」

 吼えもせず、肉を口にくわえて星狼が茂みに消えていく。

「はぁー。あんな獣が街道の守り神さんねぇ」

 少なくとも、どこかの犬と違って無駄吠えしない分、相当優秀だろう。そんな内心も知らず、傭兵は冷たい雨に文句を言い、ふと思い出したように告げた。

「そういや、この辺りに勇者は出たかい?」

「ゆうしゃ……はあ、そういや、おかしなカッコさした子供、よう見るらすな」

「天から使わされた神の使徒、この大陸だけじゃなく、西のエファレアでも魔族相手に大立ち回りしてるって話だぜ」

 自分も商人の端くれ、その程度のことは知っている。数十年前に現れた魔族と、その王を名乗る者を倒すべく使わされた少年少女たち。

 その誰もがこの世のものとは思えない力や、奇妙ないでたちをしている。自分も何度かそんな人間を目にしたことがあった。

「さっきのほしのがみ、だっけ、見て思い出したんだよ。面白い話」

「なんら? 面白い話って」

「その勇者たちが、躍起になって狙ってる魔物の話だ、聞いたこと無いか?」

「はぁ、ゆうしゃが狙う、たら、ドラゴンとか?」

「それが傑作なんだ! そいつらが狙ってるってのがな」

 こちらは大して興味も無い話を、傭兵は嬉しそうに口にした。

「一匹のコボルトなんだとさ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ