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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~duelist編~
143/256

19、最後の賭け

 銀色の刃をくわえた狼が、風を巻いて突進してくる。その動きを目に焼き付けながら、伶也は新たにシェートが出した武器をすばやく確認した。

「なるほど、装備したモンスターを行動済みにすることで、掛けたマナの分だけダメージを与えられるのか!」

「しかも、選んだ奴、好きなだけだ!」

 マナを費やせば費やすほど、攻撃対象もダメージ量も変化する。今は、呼び出した弓とそれの装備コストで六マナ減っているが、《タリスク》でも《フェニックス》でも、好きなように落とすことができる。

「俺は、ブロックしない! そのまま通すぜ!」

 空の警戒網をすり抜け、狼が伶也のわき腹に殺到する。重い衝撃が激しく視界を揺らすが、両足を踏ん張って必死に耐えた。

「それで……終わりか」

「ああ。俺、ターン、終わり」

「なら、俺の……ターンだ!」

 デッキから一枚引き抜き、その内容を確認する。新たなカードは《電撃作戦》、全ての攻撃モンスターに、二点の攻撃力増加を与える魔法だ。

「レイヤ、このままでは、あの弓、みな倒していくですね」

「分かってるさ。とはいえ、今の手札には、あの狼を直接除去する方法がない」

 改めて自分の手札と、場のマナを確認する。

 いくらコンボのためとはいえ、《精霊燐の花火》を使ってしまったため、使えるマナは四点だ。

 残りのカードは《ルベド》と《強盗団の家捜し》、《エーヴィスの伝令》《電撃作戦》、そして最後の切り札としてとっておいたカードの計五枚。

「シェートの弓で落とされることが分かってるから、《フェニックス》復活のために、こいつは場に貼れない」

 切り札を切っても良いが、相手に二枚のカードが温存されている以上、早計に使ってしまうのは論外だ。

「このカードを使うのは、できればシェートの手札を空にした後だ。となれば」

 すばやくこの先の展望を頭にめぐらせる。自分のライフはまだ十四点ある。対するシェートは九点、ダメージレースを仕掛けるには今しかない。

「俺は、《タリスク》と《フェニックス》で攻撃!」

 何度目か分からない二体の襲撃。だが、これまでとは状況が違った。

「《魔狼双牙》【スタック】! 俺、三点のダメージ、鳥の王様与える!」

 放たれた光弾が、空の王を叩き落とそうとした瞬間、伶也もカードを切る。

「それに対応して【スタック】! 俺は《電撃作戦》を発動! 場にいる全てのモンスターの攻撃力を二点上げる!」

 これで《熱砂のフェニックス》の攻撃力は四点、ダメージを食らうことを嫌って手札を消費させれば上出来。何もしなくても、削りあいでこちらが一歩先を行く。

「通す!」

「なら、行け! 《フェニックス》!」

 砕け散る《タリスク》の脇をすり抜け、燃え盛る炎の塊がコボルトの体を焼く。全身を焦げ付かせたシェートは、ふらつきながらもこちらを見据えた。

「残り五点、即死圏内だぜ!」

「まだだ! 俺、まだ生きてる!」

「そうこなくっちゃな! 俺は《エーヴィスの伝令》を召喚! ターンエンド!」

 確かに、あの弓の効果は侮れない。おそらく対モンスター戦にかけては、かなりの制圧力を発揮するだろう。

 だが、それゆえの制約もある。装備したモンスターを行動済みにしなければ、能力を起動できないことだ。あのグートという狼の能力があるおかげで、攻撃した後に迎撃という行動を可能にしているが、"即応"モンスターを警戒して、ギリギリまで使わないはずだ。

「俺のターン!」

 基本的に、シェートの使う"罠"は、こちらの行動に反応する形でしか使えない。直接こちらのモンスターを除去する手段は少ないはず。

 このターンは《エーヴィスの伝令》でダメージをやり過ごし、落とされた《フェニックス》をマナの続く限り召喚すれば活路はある。

 だが、その予想はたった一言で裏切られた。

「俺、この魔法使う! 《山奥の抜け道》!」

「なんだと!?」

 魔法の加護を受けた狼の姿が、空気に溶けるように消え去り、獰猛な足音だけがまっしぐらにこちらへ突進してくるのが聞こえる。

「このカード、自分の魔物、防御できなくする!」

「く、くそ! そんなカードが!」

「まだだ! 【スタック】《意外な加勢》!」

 見えない狼に更に強化の魔法が飛び、威圧感が膨れ上がる。

 そして激しい衝撃が、伶也の腹を薙いだ。

「うあああああああっ!」

「このカード、使った後、一枚、札引く!」

 強化された狼の攻撃で、こちらのライフは七点にまで減少する。しかも、手札を消費させたつもりが、一枚残ってしまった。

「俺、これで、終わり」

「くそお……っ」

 すでに相手は勝負を決めに掛かっている。こちらのダメージ呪文を打ち消すための手札として、あのカードは温存するつもりだろう。

 削り合いでも、こちらのリードはなくなった。勝負の流れは向こうに傾きつつある、このまま行けば、狼と弓でこちらが圧倒されるだろう。

 相手の手札次第では、次が最後のターンになるかもしれない。

 この場で賭けに出るべきか、それとも。

「レイヤ」

 緊張で暗くなっていた視界に、神の声が割り込んだ。

 ヴィースガーレは落ち着いた声で、状況を評した。

「彼ら、実に強くなったですね」

 その通りだ。

 最初は、カードゲームがどういうものかさえ分からなかったのに、今ではデッキに入れるカードから、使うタイミングまで、自分の意思で選択できるようになっている。

「舐めて掛かってたつもりはないけど、まさかあそこまでとはな」

「この大会、冒険して手に入れた道具、仲間、カード化できるルールです。彼ら、そのアドバンテージ、最大限、利用したですね」

 あの狼に"罠"属性を持たせたのは、どちらのアイデアだったろう。それは最高のタイミングで、効果を発揮したわけだ。

「正直、もう一度《抜け道》を喰らったら、勝ち目はないな」

「そうですね」

 相変わらず、鳥の神の声は涼やかで落ち着き払っている。それが、緊張しきっていた伶也の耳には心地よかった。

「勝負を掛けるぜ、ヴィース!」

「はい。思い切り行ってください」

 すでに迷いは無い。後は、ただ無心にやるだけだ。

「俺の……ターンッ!」

 勢い良く引いたカードは、再びのルベド

「俺は、《熱砂のフェニックス》と《エーヴィスの伝令》で攻撃!」

「させない! グート、頼む!」

 輝く光の矢が《フェニックス》と《伝令》に突き刺さり、なす術なく墓地に落ちる。そして《伝令》の効果で手に入ったカードは、

「《電撃作戦》……っ」

 必要なカードは揃った。後は賭けに出るしかない。

「俺は赤のマナをセット。手札に《熱砂のフェニックス》を戻し、三点で召喚」

 ちょうどギリギリ、計算は合った。

 後は、あの手札がとんでもないカードでない事を祈るだけだ。

「シェート」

「……なんだ?」

「これが、俺の正真正銘、最後の切り札だ。良く見ておけよ」

 手札の中に隠された一枚のカードを、一振りの刃のように抜き放つ、

 そして、宣言した。

「俺は、赤二点を支払い、手札から《不死鳥の呼び声》を発動!」

「な、なに!?」

「しまった……そのカードは!」

 女神の狼狽振りを見て、コボルトが手札のカードで打消しをしようと試みる。

 だが、

「う、打消し、できないっ!?」

「このカードは、魔法や効果によって打ち消されない! そして、場にいるモンスターを一体、生贄にする必要がある。俺は《熱砂のフェニックス》を選択!」

 末期の声を上げて、不死鳥が魔法の効果によって砕け散る。

 だが、その体は炎となって場に残り、命の輝きをほとばしらせた。

「こいつの効果は俺の手札、デッキ、墓地のいずれかからモンスターを一体選択し、この場に特殊召喚する。その際、このカードをゲームから取り除き、そのモンスターの召喚コストに等しい点数のライフを失う!」

 選ぶべきカードは最初から決まっている。この状況をひっくり返し、シェートに勝つための一枚だ。

「俺は、ライフを六点支払い……っ、デッキから召喚!」

 締め上げられた命が一点まで減少する。弱小モンスターの攻撃さえ耐えきれないほどに身を削り、それでも呼び出すべきものは。

「不死の命を供物とし、我が魂をも喰らいて来たれ。劫火の担い手"灰燼を食む者"よ!」

 眼前の炎が揺らぎ、巨大に膨れ上がって天を突く火柱に変わる。

 その真紅の向こうに現れた者の名を、伶也は朗々と呼ばわった。

「喰らい尽くせ! 貪欲なる竜《灰燼かいじんむ者 ディハール》!」



 シェートの目の前に、巨大な肉の壁がそそり立っていた。

 その肌は赤銅色の鱗で覆われ、巨大な頭部には槍のような角が突き立っている。生え揃った牙はどれも鋭く、こちらの五体などばらばらに噛み砕けそうだ。

 背負った翼には燐光と共に真紅の炎が宿り、内蔵された畏怖が染み出たような錯覚を覚える。大地を踏みしめる両足は太く筋張り、全く隙の無い蛇腹が、呼吸をするたびにざらざらと金属のような音を立てた。

 踏みしめた石畳や雑草が、見る見るうちに白い灰にへと変わっていく。

 それはあらゆるものを貪欲に喰らい、焼尽せずにはおかない、竜の形をした炎だった。

「《灰燼を食む者 ディハール》の効果発動!」

 立ちはだかる畏怖に奪われていた意識が、伶也の声で戻ってくる。だが、それは更なる恐怖を認識するための、きっかけに他ならなかった。

「このカードが場に出たとき、このカード以外の、全てのカードを破壊する!」

「な、何!?」

「そして、破壊したカードの数に等しいダメージを、それをコントロールしているプレイヤーに与える!」

 ドラゴンの全身が激しく燃え上がり、耳をつんざく咆哮が、長い喉からほとばしる。

 そして強烈な爆風が、決闘の空間に炸裂した。

「ぎゃああんっ!」

「グート! うわああああああっ!」

 炎に飲まれた狼の姿が白い光になり、自分の山札の中に帰っていく。残された自分の命が四点にまで減少し、使い手を失った魔弓が、地面に突き立っていた。

「その弓は……壊れないんだな」

「これは我が友の命。"神器"の属性を持っています。"神器"は破壊を免れます」

「そして、あの狼は破壊されるとデッキに戻るのか」

 自らの暴力に満足したのか、巨大なドラゴンは冷たい目で、ちっぽけなこちらを見下ろしている。最後の最後で、こんなものを出してくる敵に対して、シェートは改めて畏怖を覚えた。

「《灰燼を食む者 ディハール》は"飛行"と"即応"、そして"保護"の能力を持つ。攻撃力と防御力は共に六点だ」

「つまり、《魔狼双牙》の対象にできない、というわけですね」

「本当なら"即応"の能力で、すぐにでも殴りにいけたんだけどな。《ディハール》の効果の兼ね合いで、戦闘フェイスが終わった後に呼んだんだ」

「どういう、事だ?」

 複雑すぎて状況が把握きない。そんなシェートにサリアは解説を始めた。

「彼の召喚した竜は、場にある全てのカードを破壊し、扱っている者にダメージを与える効果を持つ。もし攻撃前に《不死鳥の呼び声》を使っていたら……どうなると思う?」

「……あいつ、鳥の人、一匹いた」

「そういうこと」

 少年は自らが呼び出したドラゴンを眺め、不敵に笑った。

「かっこつけて召喚したのに、自分の効果でやられるのは様にならないだろ。一番良いのは、俺が召喚したのに対応して、お前が残った《エーヴィスの伝令》を、壊してくれることだったんだけど、そんなへまはしないだろうしな」

「そういえば、グート、何でやられた」

「対象を取らないカードは、"保護"でも守れない。魔将の軍に降り注いだ、隕石雨を思い出せばよい」

 疑問が明らかになり、答えは得た。

 その結果に出たのはとてつもない絶望。

「ターンエンド。そしてシェート、俺のターンが回ってきたときが、お前の最後だ」

 再び自分の場に仲間はいなくなった。《魔狼双牙》はカードとして存在しているが、自分が直接使うことはできない。

 残された手札は、《意外な加勢》で引いた《輝く防空網》が一枚だけ。

「我らのライフは残り四。《輝く防空網》であのドラゴンを弱めたところで、待っているのは確実な敗北だ」

「俺の番、何引くか、それで決まるか」

 だが、恐れる必要はない。焦ることもない。

 自分はやるべきことをやった。その答えが、次に引く手札に描かれているだけだ。

「俺の……ターン」

 勝負を決める最後の一枚を、気合を込めて抜き放つ。

「ドローッ!」

 そろりと息を吐き出すと、シェートは宣言した。

「俺、このカード、二枚埋める! ターン、終わりだ!」

 驚きに目を見張った伶也は、それでも笑みを浮かべた。

 そして、これまでとは裏腹に無言でカードを引き抜き、わずかに内容を一瞥する。少年は手札を翻し、叫んだ。

「俺はルベドをセット! 墓地から《熱砂のフェニックス》を手札へ! そして、今一度舞い上がれ《フェニックス》!」

「この期に及んで、まだ!」

「これで終わりだ! 《灰燼を食む者 ディハール》《熱砂のフェニックス》で攻撃!」

 巨体をくねらせてドラゴンが勢い良く飛び立ち、炎と風を巻いて火の鳥が襲い掛かってくる。その猛撃に、シェートは叫んだ。

「させない! 《輝く防空網》!」

 光の網が鳥の動きを封じ、地に落とされたドラゴンは、それでもこちらに向けて突進をやめない。その動きを後押しするように伶也が叫ぶ。

「【スタック】! 手札から《電撃作戦》発動! これで、ディハールとフェニックスの攻撃力は元通りだ!」 

 大口をあけて、地を舐めるようにこちらを狙う竜の顎。光の網にもがきながら、それでも燃えるくちばしを振りかざす火の鳥。

 その全てに、最後の"罠"を発動させた。

「【スタック】! 《不穏な茂み》!」

「無駄だ! お前の狼の攻撃力は三点、たとえあの弓を装備できたとしても、ディハールの防御力は六点、倒すことはできない!」

「違う! グート、ちゃんと仕事した! 俺呼ぶの、別の奴!」

 試行錯誤を繰り返し、作り上げてきた自分の"でっき"。その中に入れた一枚を、高らかに呼ばわる。

「来い! 《神域の猪》!」

 茂みをぶち割って出てきたのは、おおよそ猪と呼ぶのさえはばかられるような、巨大な存在だった。火を噴く竜を前にしても、全く見劣りしない。

「その、モンスターは……っ」

「俺、《神域の猪》の力、使う!」

 太い鼻面を天高く突き上げ、巨大な猪が体を持ち上げる。そして、怒涛の勢いで踏みおろした前足が大地をうがった。

「罠で呼び出した猪、地面の魔物、俺たち、全部に攻撃力分、三点、ダメージ与える!」

「そ……そんな……っ!」

 猪を中心に大地がめくれ上がり、瓦礫があらゆる方向に飛び散る。石の雨が火の鳥を粉砕し、竜の体を叩き伏せ、伶也とシェートの命を削る。

 そして、巨大な怪物同士が激しくぶつかり合い、衝撃が風圧になって撒き散らされた。

 凄絶な破壊音が、やがて異様な沈黙に沈黙に取って代わる。

 巻き上がった土煙が次第に収まり、戦いの結末は明らかにされた。

 向かい合った二人の決闘者のうち、自分の足で立っていたのは、一人のコボルト。

「この度の決闘、勝者は」

 黒い女神はシェートの傍らに立ち、その片手を上げて勝利を寿いだ。

「"平和の女神"サリアーシェの勇者、シェート!」

 たった一点の命だが、それでも、守りきった。



 全てが決し、シェートはほっと息をついた。

 すでに観客は散り始め、審判の女神はとっくに姿を消している。

 敗北の衝撃からか膝を突いていた伶也は、ゆっくりと土埃を払って立ち上がると、こちらに歩み寄ってきた。

「完敗だ。あそこであんなモンスターを出してくるなんてな」

「お前、最後の札、攻撃の魔法なら、俺、負けてた」

「謙遜すんなよ。勝ちは勝ちだ」

 少年はわずかにためらい、片手を差し出してきた。

「お前との決闘デュエル、最高に楽しかったぜ」

 戦いが楽しい、というのは今までにないことだった。命のやり取りを前提にしたものは今後も好きになることはないだろうし、自分の性にも合わない。

 だが、これはお互いの意地を掛けた、どこまでも真剣な遊びだ。

 だから、

「ああ。俺も、楽しかった」

 その手を握り返し、頷いた。

 屈託なく伶也は笑い、それから自分の荷物入れからカードの束を取り出す。

「とりあえず、お前の色に合いそうな奴だ。使ってくれ」

「え? これ、多いぞ。掛け金、カード一枚違うか?」

「いいんだって! 俺は使わないし、持ってても宝の持ち腐れだしな!」

 多分、こちらが楽しいと言ったことが、嬉しくてしょうがないのだろう。カードの価値など度外視して、その束を押し付けてくる。

「受け取っておけ。好意を無にすることはない」

「でも……」

「そのせいで弱くなったなどと、言い訳をするような勇者殿でもあるまいしな」

 サリアの一言に、伶也はその笑いを少し獰猛なものに変えた。

「次は、絶対勝つからな」

「俺、お前、負け越しだ。次勝つの、やっぱり俺」

 再戦を約束しながら、胸に甘やかな痛みが走るのを覚えていた。

 直に会って友好を結んだのは圭太が最初だが、戦い、競い合ってなお、晴れやかな気分でいられる相手は、こいつが始めてだ。

「レイヤ」

 その思いを込めて、シェートは礼を口にした。

「俺、戦い、覚えた。お前のおかげ……ありがとな」

 言葉に詰まった少年は、何かをこらえるように笑い、すばやく背を向けた。

 それでも、かすれ気味の別れの言葉は、隠しようもなかったが。

「次、俺と戦うまで、負けんじゃねーぞ」

「うん。お前も」

 夕闇に陰を濃くしてゆく旧市街を、少年が歩み去っていく。その姿には、負けた悔しさなど微塵も感じられなかった。

「本当に、彼らの存在がなければ、こうはならなかっただろうな」 

 感慨深げなサリアの呟きに、シェートは同感した。

 彼らに悪意はなく、ただ純粋に、カードを使った遊戯を楽しもうとしていた。その是非はともかく、共に競い、共に楽しむ者として扱ってくれていた。

 だからこそ、サリアは自分の内面を見直す機会を得たし、シェートもまた、この遊戯を楽しむことができるようになったのだ。

「……帰ろうか」

「うん」

 どちらからともなく手を伸ばし、繋ぎあうと、二人は歩き出そうとした。

「どうにか、己のうたを整えられたようだな」

 夕日を背に、肥えた体が立ちふさがる。

 足元の仔竜は、どこかよそよそしい目でこちらを見ていた。

「拙いいんではありますが、一篇を編むに至りました」

「結構」

 竜神は頷くと、手にしていた紙切れを差し出した。

「魔王軍のデュエリスト部隊はあらかた殲滅し、魔王との和議が成った」

「そうですか……」

「代わりに、奴からの提案を呑むことになったがな」

 受け取られた紙には、鮮やかな色合いで絵が印刷されている。

 複雑な文字と一緒に描かれていたのは、シェートと伶也が戦いあう姿。

「な、なんだ……これ!?」

「この世界に存在する、全ての決闘者デュエリストを集めてウィズのトーナメントを行うこと」

 いかにも楽しげに、竜神は告げた。

「そして、そこに魔王たる己を参加させることが、奴と結んだ和睦の条件だ」


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