表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~最も弱き反逆者~
14/256

14、神を咬むもの

 東屋からサリアが進み出ると、ざっと道が開いた。

 それぞれの顔に浮かぶのは、好奇、嫌悪、畏怖、あるいは侮蔑。そのどれも無視して、歩み進む。


「すばらしい戦いでしたな」


 エルフの青年は、心持ち顔を緩めて近づいてきた。


「そのように見えられたか? 見苦しいばかりの戦であったと思うが」

「ご謙遜を。ただ、斯様な戦いを為される御積りであったなら、我が眷属に一声掛けていただければよろしかったものを」

「……なるほど、森の民であれば、確かに我が配下と同じか、それ以上の狩りを行うことが出来たでしょうな」


 こちらの言葉に軽く顔をそびやかすと、彼は耳打ちをするように顔を寄せてきた。


「如何でしょう。此度の戦い、我が眷属に配下を切り替えられては」

「ほう?」

「確かにあの魔物も見所は在るかと思われますが、なにぶん下賎で下位の蛮族。御身にはそぐわぬかと、その点我が眷属であれば」

「見た目美々しく、弓の腕も森での狩りも一流と、そう仰られたいか」

「差し出がましいかとは存知ますが、御一考をと」


 分かりやすい売名、そして下心。その全てを見透かして、サリアは頷いた。


「だが、そなたの配下に、あの勇者に面と向かって戦う勇がおありか?」

「なんとなれば、あのような張子を恐れるものなど」

「では一つ、お教え願いたい、"万緑の貴人"よ。なぜ我が遊戯に名を連ねたる折、その眷属を貸し与えては下さらなかった?」

「いや! それは……その……」

「言葉は選ばれよ。そして身の程を弁えられるが宜しかろう、"木陰の蒿苣ちしゃ"よ」


 ある意味かわいらしいやり取りを終えると、サリアは神々の列の末尾に控えた、竜神に歩み寄った。


「此度は、多大なるご助力を頂き、感謝のしようもありませぬ」

「構わんぞ。儂はただ、面白いものが見れた、それだけで満足だ」

「それと、お申し出をお断りして、申し訳なく」

「ふ。まぁ、いずれな。それより、もう行くが良い。この場にあってもつまらぬことにしかならぬだろう」


 そう言う竜神の視線の先、東屋に集う神々が見える。常に遊戯の上位に在り、場にいる全ての神々に強い影響を与えるもの。

 そして――


「どうした?」

「いいえ。それでは、私はこれにて」


 挨拶を残し、背を向ける。背中に突き刺さる視線、その中に混じる仇の物であろう意識を粟立つ肌に感じながら。



『傷は大丈夫か、シェートよ』


 何をするでもなく、大岩の傍らで川面を眺めていたシェートの耳に、女神の声が届く。


「もう平気」

『待たせてすまなかったな』

「ああ。それと、一つ聞きたいこと、ある」


 コボルトはさっきまで死体のあった場所を指差した。そこには血溜まりと鎧の残骸だけが残り、勇者の体は跡形もなくなっていた。


『異世界から召喚された勇者は、遊戯に負けると元の世界に送還されるのだ。ひところは単なる使い捨てだったのだが、色々と障りがあるとわかってな。ゲームが終われば何事も無かったように、来た世界に還ることになっている』

「そうか」


 なんて馬鹿馬鹿しい話だろう。殺されるこっちにとっては紛れも無い現実なのに、勇者達にとっては、どこまで行ってもゲームなのだ。


「結局、俺たち、遊びの駒か」

『そうだな。こちらにしてみれば、実にいい迷惑だ』

「ホントだ」


 ぽかっと口をあけて、シェートは空を見上げた。


「それで、話、なんだ?」

『ああ。遊戯のことだ』

「……俺、あの勇者殺した。この遊び、続ける意味、もうない」

『その通りだ。実は先ほど、ある神から打診があってな』


 サリアの言葉に、コボルトはそっと鼻を鳴らす。風の中に濡れた鼻先を突き出し、彼女の心を待った。


『自分の眷属を貸しても良いと、言ってくれるものがあったのだ。もしそなたが、これ以上の戦いを望まぬのなら』

「お前、嘘も下手」

『な……何を』

「匂い、湿っぽい。お前、そいつのこと嫌い、違うか」


 かび臭い、きのこのような匂い、風の中に漏れた不満を嗅ぎ取ったこちらに、やがて女神は笑い出した。

 日向の、暖かい匂いが辺りを包んでいく。


「俺、言ったぞ。勇者、魔王、神、みんな殺す」

『辛い戦いになる。道半ばで倒れるかもしれん』

「そうだな。でも、今は、それでいい」


 そのまま、背後の岩に背を持たせかけた。


「俺、疲れた。少し寝る」

『見張りは任せよ、ガナリよ』

「それ、もうやめろ。狩り終わった。俺、ただのシェート」

『なんの、狩りはまだ続くのだぞ? 起きれば、また次がある』


 なんてコボルト使いの荒い女神だろう。シェートは苦笑すると、目を閉じる。

 そのはるか上、主を失った一振りの剣が日に輝く中、英雄殺しの小さな魔物は、その偉業を顧みることもなく、静かに安らいだ。



どうも、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

作者の真上犬太です。

これにてシェートとサリアの物語は、一旦終了となります。

が、この続きもすでに書いてありますので、また明日から、続編を投稿していきたいと思います。

よろしければ、そちらの方もご愛顧を賜れば幸いです。

あまり飾り気の無いご挨拶ですが、ひとまずこれにて。

では、次のかみがみでお会いしましょう。しーゆー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 復讐に燃える魔物系主人公が神の手駒である勇者をついに屠った……!こういうの大好き!是非とも流行れ!!これは中々良いダブル主人公モノじゃないでしょうかー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ