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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~archenemy編~
115/256

21、光をもたらす者

 網膜に投影された時刻表示が、次第に端から崩れ去っていく。

 作戦開始から三時間が経過、ソールの心に、わずかな焦りが浮かんでいた。

「主様、本当に現状維持でいいのですか?」

 黄金の竜神は自らのモニターに視線を合わせ、石の様に沈黙する。


【グラウム】:主様、いったい何を待ってるんだろうな


 持ってこさせた軽食を貪りつつ、グラウムがいらいらした調子でメッセージを送る。

 単純な結論を好む同輩からすれば、待つばかりの時間は一秒でも耐えられないだろう。


【メーレ】:中継次元の掌握は完了している。速やかな城内システムの奪取は可能。


 まるで猛禽が地上のネズミをさらい捕るように、魔王城の電子ネットワークを支配下に置くことができた。

 それをしない理由とは。


【ヴィト】:作戦開始からモニターしている城内カメラの映像、広範囲な損壊が見られるね。おそらくフィーが何かしたのだと思うけど。


 すでに敵のシステムにはバックドアを設けている。城内管制機器の一台にただ乗りフリーライドし、リアルタイムの状況を把握していた。


【メーレ】:城内でのスマートフォン使用が一時制限され、その後解除されている。何らかの異常事態があったと見るべき。


【ヴィト】:なおさらフィーと連携を取って、状況の把握に努めたいところだね。彼のスマートフォンはモニターできたかい?


【ソール】:それが


 最後まで、返信を打ち込むことはできなかった。

 網膜に映し出された映像に、警告表示が投影される。

 システムに対する攻撃ではない。受信したデータに反応して、あらかじめ仕掛けられていたアプリケーションの起動がアナウンスされていく。


《フィアクゥルの六識覚醒を確認しました。"龍樹ナーガルジュナ"を起動します》


主様ぬしさま

 複雑な思いを抱えながら、ソールは定められた符丁を口にした。

覚醒者アヴァタールが」

「そうか」

 その時、赤き小竜は見た。

 己の快悦を羅針儀に、あまたの世界を巡り歩く、放埓ほうらつの竜神が浮かべた、強い後悔と自責の表情を。

 だが、そんな物思いは一瞬。

「これより魔王城における電子機器、城内のローカルエリアネットワーク、およびスマートフォン、その他もろもろの端末の一切を、我らが支配下に置く」

 作戦の進行を告げる顔は、威厳に満ち溢れ、迷いの陰は無かった。

「回線掌握後、直ちにフィアクゥルのスマートフォン経由で現状のモニタリングを確立、ソールは引き続き、"龍樹"のチェックを担当せよ」

「了解です」

 投影された《龍樹》のウィンドウに、簡略化された人体が描画される。

 その四肢の形状が、異形に変わっていた。

 節くれだった指と長い爪、趾行性しこうせいの動物に酷似した両足。

「他の者は、城内のストレージに蓄積されたデータを全て吸い上げよ。見つけた情報は何であれ、欠片も残すな!」

 人の魂を竜の体に容れるということ、その意味。

 一切を知りながら、計画を完遂するためと看過した非情。

 神の傲慢と慈悲をない交ぜにした、我が身が仕えるべき主を、胸の内で賛嘆する。

「全て喰らい尽くせ! 我ら竜種の貪欲に掛けて!」

 力強い咆哮が洞を満たし、飢えた竜の顎がデータの沃野に解き放たれた。



 被った炎の一撃を振り払い、黒い鎧が体勢を立て直す。

 魔王の胴鎧が、敵意に尖った異音を吐いた。

「じゃ『まを【する】き』か」

「ったり前だろ! そいつは――」

 続くべき言葉を、ためらいが押しとどめる。

 その代わり、片手に宿った劫火を燃え上がらせた。

「そいつの面倒を見てくれって、頼まれてんだからさ!」

 ロケット花火のような音を後に引き、炎の矢が鎧に突き進む。

 揮われた黒い豪腕が、苦も無く一撃を叩き落した。

「おま『えの【ちから】などは』きかない」

「ダメだ! フィー!」

 這いつくばり、痛む足を引きずって、魔王から後ずさるシェート。酷く痛めつけられた匂いがした。

「グート、一緒、すぐ逃げろ!」

「お前、足、折られたのか……」

 竜の六識が、シェートの状態を正確に教えてくれる。

 膝と足首が折り砕かれ、肩の関節も外されている。魔王の力に浸食された部分も、酷いやけどのような痕跡が、いまだに治癒していなかった。

「ひとの『しんぱい【などを】している』ひまが」

「うるさいな」

 視線に込めた怒りに、目の前の空間が捻じ曲がる。

 仔竜の意思に従って無数の炎箭が結集し、虚空が強烈な熱に沸き立つ。

「ちょっと黙ってろ」

 真紅の聲が、魔王の全身へ開放された。

 防御にかざされた両腕を吹き飛ばし、兜で守られた顔を張り飛ばし、つま先を灼熱で粉砕し、胴鎧に張り付いた悪意を、叩き、叩き、叩きのめす。

 強烈な爆発を喰らい、煙をなびかせた黒い姿が、はるか彼方に吹き飛んだ。

「フィー……あいつ……なんで?」

「ああ、あれ?」

 グートの背から降りると、酷い状態のシェートにそっと手をあてがい、安心させるように笑う。

「偉そうなこと言ってたけど、あの黒いやつ、熱と光に弱いんだよ」

「いつのまに、そんな、できる、なった?」

「色々あったんだ。そのおかげでね」

 それでも、できないことがある。

 自分の聲で治療を施すことはできない。そのために必要な"気づき"が足りないから。

 敵を討つ力を手にしても、仲間を癒す術に届かない。

「……俺、ほんっと、進歩ねえよな」

「え?」

「グート、シェートを頼む。安全なところへ連れてってくれ」

 見つめる先で鎧が起き上がり、悠然とこちらに歩みを進める。

 けが人を救い上げた狼の前に立ち、フィーは再び聲を震わせた。

 覚えたばかりの"炎"は、それでも自分のうたに応え、体の周囲を巡る。

「かよわく『はかない【りゅうのこの】めいしょうなど』きかぬ」

「なら、試してみるか?」

 怨讐は強い力だが、炎はそれさえも焼き尽くす。

 竜の聲ドラゴンブレスは世界の理を、竜の意思によって現出させる力。魔王の身を包む黒き穢れを祓えるはずだ。

 呼吸を整え、胸を大気で満たし、フィーの喉が戦いの謳に震えた。

 散る火花が千の鏃となり、盛る炎が万軍を破る投槍の穂先に変わる。

「行け!」

 紅の軌跡が闇の世界に閃く。応じて鎧が走り、炎を払い、猛烈な勢いで向かってくる。

 その手がぐにゃりと歪み、刹風の刃となってフィーの眉間を刺し貫いた。

「あ……っ!」

 シェートの叫びと共に青が揺らめき、炎になって砕け散る。完全に隙だらけになった魔王のわき腹が、火炎弾によってくの字に折れた。

「そんな『げん【じゅつなど】いつの』まに」

 虚空から姿を現したフィーは、片手を挙げて挑発の手招きをして見せた。

「ここに来るまでに、たくさん歓待されたんでね。勉強する機会はたっぷりあったのさ」

 胸に下げた透明化の神器を、軽く指ではじいた。

 仕掛けはごく単純。姿を消すと同時に、身代わりとなる炎の塊をその場に残すだけ。

 どんなに勘に優れたものでも、目に頼る生き物はたやすく火明かりに幻惑され、こちらを見失う。

「魔王さんよ。アンタ、人をはめるのが得意みたいだな」

 姿を消したフィーの頬を、影の刃が掠め、わずかに血が流れる。

 その威力に冷や汗をかきながら、それでも仔竜は魔王を挑発した。

「今度はアンタが、俺にだまされる番だぜ!」

「こ『し【ゃ】く』な」

 手をかざし、聲を張るフィーの指揮に従い、魔王を炎の鏃がぐるりと取り囲む。

「さて、俺の攻撃から、逃げられるかな?」

「こ『ん【な】も』の」

 魔王の両手が天に差し上げられ、組まれた両手の間に巨大な剣が現れる。

「すべて『ちらして【しまえば】いいの』だぁっ」

 大剣の風鳴りが空気を引き裂き、真一文字に振るわれた威力が炎の鏃を全てかき消す。

 剣風が周囲をなぎ払い、必死に足を踏ん張るグートを、闇の塊から抜け出ようとしていた灰色のローブを、気を失った女を等しく吹き飛ばす。

「残念でした」

 闇の力で刻まれた、無数の擦り傷をこらえながら、フィーは笑った。 

 その両手両足を、地面につなぎ留めた炎の鎖を掴み、聲高らかに謳う。

「俺の攻撃は、こっちが本命だぁっ!」

 叩きつける両手。

 そこから噴出した炎が地面の割れ目を伝い、魔王の足元で爆ぜ割れる。

 溶岩の如き粘度を持った炎は、そのまま縛めの鎖となって、魔王に絡みついた。

「骨まで焼けて、灰になれ!」

 突き出す右手。空に向けた親指を、ぐっと下に向ける。

 その瞬間、鎖の結節全てが、激しく爆裂した。



 足の痛みも忘れて、シェートは事態を見つめていた。

 あれほど苦労した魔王が、炎に巻かれて砕けていこうとしている。信じられないが、紛れも無い現実だった。

「なんという、ことだ」

 参謀に肩を貸しながら、コモスが傍らにやってくる。面は失なわれ、体のあちこちから血を流し、立っているのがやっとという姿で。

 ホブゴブリンは燃えていく魔王を見、小声で否定を吐いた。

「あの仔竜、死ぬぞ」

「な……なに、言ってる、おまえ?」

 炎の鎖で縛られ、たいまつの様に燃え盛るばかりの人型。あんな状況で、いったい何ができるというのか。

「お前は、魔王様と共にいて、何一つ学ばなかったのだな」

「だ、だから、お前、なにを」

「形態変化」

 苦しげな息を吐き、参謀が顔を上げる。常に無表情であったはずの彼女の瞳に、かすかな哀れみが浮かんでいた。

「どうして私たちが、火の魔法を使わなかったと、思っているのですか」

「あ……」

 声を限りに魔法を使い続けているフィーの前で、燃える塊がその形状を変える。

 腕が溶け崩れ、炎の勢いが増大していく。

「な、なんだ!? 火の勢いが、つよくっ!」

 その場から逃げ出そうとしたフィーの体に、魔王の炎が絡みついた。

「うがあああっ! ああっ、うああああっ!」

「フィーッ!」

 まるで、自身を薪にでもするように、魔王の体が激しく燃え上がった。

 仔竜の歌が悲鳴に変わり、逃れようとする体をじりじりと焦がしていく。

「"煉獄態"……炎の攻撃を喰らい、限界に達したとき、怨讐は自らの怒りを火種に燃え上がっていく」

「ああなってしまっては、私たちには止められません。魔王様の怒りが治まるまで、この空間を閉鎖するほか無いでしょう」

 事態を評した二人は、奇妙に安堵した様子でシェートを見た。

「ある意味、最も被害の少ない形での終息が可能となりました。恩には着ませんが、礼だけは言っておきます」

「お前はどうする、今から忠誠を誓うというなら、共に連れて行ってやら無くはないぞ」

 コモスの顔に浮かぶ冷たい皮肉に、シェートは別の問いかけを投げた。

「お前、けが治す、できるか」

「どうするつもりだ」

「折れた足、治す。フィー、助け、行く」

 敵にするには、あまりに愚かな提案。気まずい沈黙が僅かに流れ、おもむろにコモスはシェートの体にかがみこんだ。

「な、なにを、んぐうっ!?」

 ローブの端が無理やり口に突っ込まれ、力強い手が折れた足で、めきめきと嫌な音が鳴らし始めた。

「んぐうっ!? ぐふっ、うぐううっ!」

「割ときれいに折れていて良かったな。後は、腕か」

「う!? んっ、うぐううううっ!」

 まるで人形の手足でも継ぐように、荒っぽい処置が進む。

 コボルトたちの間でも骨接ぎの業は伝わっていたが、コモスのそれは的確で、容赦が無かった。

「私ができるのは、外科的なことだけだ。後は好きにしろ」

「お、お前……」

 話している間に、痛みだらけだった足が少しづつ楽になって行く。外れた肩をそろりと動かすと、鈍い痛みと共に指まで感覚が通るのが分かった。

 魔弓を生み出し、杖代わりに立ち上がる。その傍らに立ったグートが、その背に置かれた鞍を示した。

「俺、まだ足、うまくない。頼むぞ」

「うぉんっ!」

 久しぶりに握る手綱に心を震わせながら、シェートは燃え盛る魔王に突進した。



「うがあああっ! くそ、な、なんでっ、うああああ!」

 周囲の聲が乱れ、悪意を叫び始める。

 今まで喜びを謳っていた炎が、全てを焼き滅ぼし、憎しみで包もうとする滅びの忌歌を撒き散らしていく。

『考えの甘さ、思い知ったか』

 燃えるその手でフィーの胴体を掴み、魔王があざける。

 その目は、はじめて合ったときの異眸のまま、狂気ではなく狂喜が満たしていた。

「お前……っ、い、意識が、あっ!」

『そんなもの、とうの昔に取り戻していた。所詮連中は、俺なくしては生きられないのだからなぁっ!』

 腕の炎が勢いを増し、破術の守りさえ追いつかないほどに侵食していく。

「うわあああっ! や、やめ、あっ! ぐあああああっ!」

『お前の炎など、奴らの憎しみに比べれば、生温すぎて痛痒にも感じぬぞ!』

「くそ、おっ! そんな、バカ、な」

 そんなはずは無い。自分の五感は、竜の六識は、炎が弱点だと知らせてくれたはず。

 何か見落としているのか。

 それとも、自分の識では、真実を見抜くだけの力が足りなかったのか。

『さぁ、お前のその命はもとより、魂魄さえも、灰と焼き尽くしてやろう!』

「やめろおおおっ!」

 金の閃光が魔王の腕を断ち切り、体が中に投げ出される。

 急激に地面が近づき、ふわりと意識が運び去られた。

「シェート!?」

「大丈夫か!」

 背中に回され、走る狼の腰に自分の体がすとんと落ち着く。燃え盛る魔王の体が遠のいていき、熱が冷えて呼吸が楽になる。

「お前、その腕は」

「コモス、骨継いでもらった。ちょっと痛い、でも平気」

 ごうっと音を立て、頭上を火球がかすめて過ぎる。魔王の両手が生え変わり、鞭のようにしなって、炎の塊を射出した。

「くっそ、何だよあのインチキ! いきなり燃えやがって!」

「魔王、いくつも姿、変える! あれ、炎効かない姿、言ってた!」

 撒き散らされた火が床のあちこちで燃え広がり、赤々と空間を照らし出す。ローブと女の姿は無い、後は自分たちだけだ。

「とにかく、俺たちのやれる全部をぶつけるしかない! グート、絶対足止めんなよ!」

「行くぞ!」

 再び狼が走り出し、魔王の周囲を回る。

 歯で手綱をくわえ、弓を手にしたシェートの光弾が炎の体で爆ぜ割れ、貫き通す。

 一瞬だけ揺らめいた炎は、即座に燃える人型を再構築した。

『無駄だ! そんな魔法、俺には通じん!』

「畜生っ、これならどうだぁっ!」

 巨大に膨れ上がった炎の塊を、力いっぱい魔王に叩きつける。その全てを飲み込んで、揺らめく真紅が勢いを増した。

『無駄だといったろう! 炎に炎をくべたところでなんになる!』

「や、やめろ、フィー。魔王、火、効かない!」

「ゲームじゃあるまいし、弱点属性克服するとかっ!」

 自分の知っている鳴唱は"炎"の一つだけ。今すぐ別のものを覚えろといわれても、聲が聞こえない限りは無理だ。

 シェートの持っている神器の聲は弱すぎる。

 なぞったところで、無駄に弾数が増えるだけだ。

「どうする、どうすりゃいいっ」

 ぎゅっと目を閉じ、フィーは過去に"飛んだ"。

 魔王の燃え盛る炎も、シェートの緊張した体の臭いも、グートの疲れが見え始めた疾走も、全てが遠ざかる。


 燃える炎。

 全てを焼き尽くすもの。

 灼熱の、赤。


『実は、赤というのは一番低い温度の色なんですよ』


 いつの間にか、教室に座っていた。

 黒板の前に陣取った教師が、赤いチョークで描いた太陽の隣に、白と黄色で別の天体を描いていく。


『色温度、と言うんですが、面白いことに空に光ってる恒星は、赤から黄色、白と、次第に薄く、醒めた色の方が高い温度を放射しているんです』


 不思議な話だった。

 普通、そういう色は寒色系などといわれて、冷たさをあらわすはずなのに。


『これには、光が発生源から遠ざかる作用とか、まあ、色々あるんですが、中学生の君たちは、そういうもんなんだ、ぐらいに覚えておくといいですよ』


「……ありがとな、先生」



 意識が急激に現実へ引き戻される。

 周囲を火柱が囲い、グートの足が焼け爛れて痛みに引きつっていた。

『これで、終わりだな』

 炎の群舞をまとい、勝ち誇る魔王。

 それを見つめ、シェートが歯を食いしばる。それでも、弓を握り締める手には、力がこもっていた。

「シェート」

「……どうした?」

「これから、お前に力を送るから、あいつにぶちかましてやれ」

 驚き、戸惑い、そしてコボルトは、歯をむき出して、笑った。

「分かった!」

 力強い狩人の腕が、魔弓を引き絞る。

 金と銀の光が束ねられ、鏃が魔王の眉間と重なる。

 シェートの両肩に手を当てると、フィアクゥルは翼を広げ、聲を上げた。


《其は耀く者》


 仔竜の背に、火が集い始める。

 小さな欠片が翼に纏いつき、次第に大きく、力強くなっていく。


《深淵に光輝たるなれ


 心が知っていた。

 思い出に、それは隠されていた。


《異邦の天より来れ》


 集う炎の欠片が、その身をはるかに超える翼を生み、体が宙に遊ぶ。

 背負った炎が赤く燃え、その色が、冴え冴えと白へと近づいていく。


《汝は焼尽の太源》


 仔竜の心はその白をはるかに超え、星々の遊ぶ宇宙の極座へと飛翔する。

 その視線の先には、青く輝く究極の灼熱。


《そのりて、吼えよ》


 仔竜の翼が、白から蒼へ染まる。

 その身の色を映すような、久遠から来る根源の熱量が、


天狼の蒼炎セイリオス


 世界を圧倒した。



 弓を構えるシェートの体が、畏れに震えた。

 背負った力の巨大さと、その荘厳に。

 蒼い炎の翼が魔王のいましめを振り払い、周囲の瓦礫を塵さえ残さず消し去った。

《受け取れ、シェート》

 蒼が宿り、一矢を生み出す。

 向かう先に立つ魔王の炎が、かすむほどの力。

《ビビんなよ》

 肩をつかむ手が、優しく諭す。

《俺が支えてやるから、お前はあいつを、ぶっ飛ばせ!》

 その"聲"に、力強さに、シェートは頷いた。

「これで、終わりだ。魔王!」

 全ての意思、力、願いを一つに束ね、

「いけええええええええええええええええっ!」

 全てを貫く天狼の矢を、解き放った。

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