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一人百物語 2

大騒動

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/20


昔、私の父が会社から帰るなり何とも妙な顔をして

「昨日、同僚にこんな事があったんやって」

と話した父の同僚の災難話。


その日、父の同僚の新谷さんはいつもの様に仕事を終えて帰宅した。

「ただいま」

玄関先でそう言い、部屋に入った。居間では小学校四年生と二年生の愛娘二人がテレビを見ており、台所では奥さんが洗い物をしていた。

「お帰……きゃーっ?!」

台所から顔を出すなり、奥さんが目を見開いて悲鳴をあげた。それに驚いた子供たちも、新谷さんのほうを見て同じ様に叫んだ。

「きゃっ?!」

「パパ!」

新谷さんは何が何だかわからない。

「な、何だ?!どうした、お前ら!?」

叫ぶ三人を前に一緒になって自分も驚く。

「パパ!顔、顔!」

年長の娘が新谷さんを指さして言った。

新谷さんの顔面は、べったりと血濡れになっていた。白いワイシャツの襟や胸あたりにも点々と血が付いている。

しかし新谷さんにはそれがわからなかった。

「え?な、何?え?」

新谷さんは鏡を見ようとした。

とその時

ボタボタボタ、と。

茶碗一杯分はありそうな血がどこかから溢れてきて、新谷さんの足元に広がった。

それは新谷さんにも見えた。

「うわぁぁぁ!」

「きゃー!」

家中大騒ぎになった。

「き、救急車、救急車!パパにタオル!」

奥さんは卒倒しそうになりながら奥の部屋へと走った。二人の娘たちも悲鳴をあげながら、母親の後に続いた。

そして奥さんがタオルを娘たちに渡し、電話で救急車を呼ぼうとすると

新谷さんの顔は、血濡れではなくなっていた。新谷さんの足元にこぼれた血も、きれいに無くなっていた。

「え……?」

固定電話の受話器を持ったまま、奥さんは新谷さんの顔をまじまじと見つめた。

やはり血など一滴もついてはいなかった。ワイシャツも、真っ白なままだった。

「えぇぇ…?!」

奥さんと愛娘たちは、奇妙な動物でも見るかの様に、目を見開いて、しばらく新谷さんを頭のてっぺんから足の先まで、見つめていた。

新谷さん一家にこんな怪異が起こる心当たりは無く、以後新谷さんにもそのご家族にも何の異変も不幸も起こらず、今も平和に暮らしているらしい。





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