第7話 疑惑
地下の医務室にあるソファに、金属で構成されたドクロの顔をした
ジンが座っていた。ジンは鋼鉄製のテーブルの上に、雑巾の束を置いた。
両手で何枚かの雑巾を掴むと、両目の眼球カメラで雑巾の束を凝視した。
意識を集中させ、ふわふわした布の繊維を人工の毛髪だと思い込み始めた。
ゆっくりとカメラの映像に映っている雑巾の束から光の粒子が発生し、
ポリエステルとナイロンの混合であるマイクロファイバーが毛髪に変異した。
更にジンはイメージを膨らませ、人工髪の色を金色に変色させる。数分後、
ジンが触った雑巾は、装身具であるカツラに変異した。コツをつかんだジンは、
新しい雑巾を数枚取り、今度はそれらをシリコンマスクに変異させようとする。
前世で実際に見たことがある人間の顔を模したマスクを思い浮かべながら、
1枚の雑巾を自分の顔に当てた。雑巾は徐々にマスクへと形を変えていき、
マスクの表面はジンの脳と連動する機能を持った人工的な皮膚となった。
眉毛や唇をマスクの表面で生成すると、口を動かしてみることにした。
歯や喉が金属で構成されていることをテーブルの上に置いてある手鏡で
確認した。やはり、ジンが口を開けると機械化人間だと一目瞭然になる。
ジンはもう1枚の雑巾で黒い布マスクを生成することを決めた。しばらくして、
ジンの新しい顔が出来上がった。髪型は金髪、両目は人工の結膜と角膜によって
まるで人間の瞳のように見え、内部の眼球カメラを覆い隠した。口は黒い布製の
マスクで隠している。ジンが持つ鏡の中にはマスクをした青年の顔が映っていた。
一仕事を終えたジンは、これでヘルメットを被ってビジネス街を歩かずに済むと
安堵した。あの格好で歩き回れば、確実に目立つ。金髪にしたのは、この異世界で
金髪碧眼は珍しくないそうだ。確かに繫華街でも金髪碧眼の男女があちこちで
見られた。地球では生まれつき金髪なのは1.8%。碧眼に至っては地球の全人口の
約8%〜10%である。逆に黒髪や茶色い瞳は珍しく、ヴァドールでは稀少である。
自分の首からつながっている紺色のパワードスーツの上から白いワイシャツを
着て、紺色のズボンを履いた。しばらく経ち、ジンはスーツ姿のビジネスマンに
姿を変えた。青緑のネクタイを締めていると、突然アミがジンに話しかけてきた。
「ご主人様。お忙しいところ恐縮ですが、今お話しすることできますか?」
「どうした、アミちゃん。」
「はい。・・・・・・・マシュア様の提案で、ビジネスマンとして中央区に
本社を置くMero社に向かうという仕事についてです。」
「ああ、Mero社は量子通信網とSWSの会社だ。
おそらく経政連の事業計画や裏社会についても情報を持ってそうだな。」
「警告します。ご主人様、どうかマシュア様と行動するのはやめてください。」
「・・・・・・・・・どういうことだ、アミちゃん?」
「はい。ご主人様。屋台での会話、アミも聞いておりました。」
「盗み聞きしていたのか?」
「申し訳ございません。アミの電源がOFFになっていなかったので、結果的に
盗聴してしまいました。ご主人様のプライバシーを侵害しました。」
「・・・分かった。それで? なんでマシュアとの行動を止めたいんだ?」
「はい。ご主人様。それはマシュア様が嘘をついているからです。」
「? もしかして昨日、AIbirthについての陰謀論を言っていたからか?」
「違います、ご主人様。マシュア様はご主人様が記憶喪失と聞いた後で、転生者と言いました。それは文脈としておかしいです。なぜ、記憶喪失を異世界転生と判断したのでしょうか。非論理的です。」
「!! ・・・・・・・・確かに、そうだな・・・。」
「はい。ご主人様。ヴァドールで定義されているのは、異世界転生とはヒトの
赤ん坊が異世界の記憶を保持している状態のことです。ご主人様の場合、
異世界転生とは言えません。仮に昔のご主人様が死亡し、今のご主人様が
地球という異世界から転移したとします。そのような事例はヴァドールでは
見つかっていません。全データを検索しても、記憶を失ったヴァドール人が
転生者と認定されたことはありません。成長を遂げ、自己申告で転生者と
話すヒトがプライドシティで確認されています。そのような状況なのに、
マシュア様は0.2秒でご主人様を異世界転生者と判断したのは不可解です。」
「・・・・・・つまり、あいつはオレと会う前から転生者と思っていた?」
「はい。ご主人様。アミはこれから言うのはあくまで推論ですが、アミは
マシュア様が最初からご主人様の情報を手に入れていたと思います。」
「!! ・・・・・・うーん・・・・・だが、どうやって知った?」
「はい。ご主人様。赤い髪の女性と会話したことを覚えてますか?」
「・・・ああ、覚えているな。名前を教えてくれと・・・あっ!?」
「はい。ご主人様、おそらくその女性がマシュア様にご主人様の名前を
伝えた可能性が高いです。マシュア様の職業は依頼者代行サービスです。
マシュア様の依頼主は赤い髪の女性の可能性が99%とアミは推測します。」
「・・・・・・でもそれだけでオレを異世界転生者と思うかな?」
「はい。ご主人様。量子通信網にも記録されましたが、ご主人様が
さっきから行っているのは物体錬成という禁呪魔法でございます。」
「・・・・・・・マジか、アミちゃん。」
「はい。ご主人様。ハンク様との戦いは量子通信網に記録され、既に
Mero社のAIエージェントによって解析されて、地下街でご主人様が
ハンク様の左腕を『そうじき』という未確認機器に変異したことが
高確率で異世界転生者の可能性がありと判断されたと推測します。」
「!! あー、オーケイ。それでMero社がマシュアと組んでて、
オレの素性を探って来いと。昨日の屋台での出会いも仕組まれたのか。」
「はい。ご主人様。確かに昔のご主人様とマシュア様はお知り合いでした。
しかしマシュア様の会社は近年株価が下落し、資金調達に苦しんでいました。
そして先ほど、アミが調べたところ、マシュア様はアンソニー・ロズノフ様の
投資を受けることが決まり、マシュア様はロズノフ様に連絡したようです。」
「ロズノフ・・・・・・・何者だ?」
既にネクタイも締め終わり、完璧なビジネスマンの恰好になったジンは、
ポケットに手を突っ込み、アミが話すロズノフという男に関心を抱いた。
「はい。ご主人様。ロズノフ様はシティでも一二を争う投資家の一人です。
現在ロズノフ様の活動ですが、Mero社とAIbirth社にも出資しています。
過去にはシンク・ディファレント社から研究者を引き抜き、AIbirth社の
設立にも関わっています。AIbirth社は、もともとヒトが人工知能を安全に
運用するために公益法人として設立しました。2年前、AIbirth社は魔法生成
AIの開発に成功しました。1年前、それはゼルマニアで実戦使用されたのです。」
「・・・そういえばマシュアもゼルマニアの首謀者が転生者と言ってたな。」
「はい、ご主人様。ゼルマニアはミドロワの東に位置する国です。4年前、
転生者のヨードル・マルコフが東ゼルマニアを建国し、ゼルマニアは東西に
分断されました。魔法生成AIを装備したシティの安全保障会社が東の軍勢を
壊滅させ、戦争が終わりました。その後、ゼルマニア共和国はミドロワ
王国の保護国となりました。現在は平和な国になっているようです。」
「なるほど・・・・・・戦争に勝つためにアミちゃんは生まれたのか。」
「はい、ご主人様。AIの軍事利用は、ロズノフ様の判断です。」
「そいつがオレを異世界転生者と察し、マシュアを使って探っているんだな。」
「はい、ご主人様。明らかにこれはロズノフ様の罠だとアミは警告します。」
「だけどなぁ、アミちゃん。オレがマシュアとの約束を破ったら、ミシェルが
あぶねえ。もう既にオレがミシェルの家にいることは分かっているからな。」
「はい、ご主人様。今からミシェル様と一緒に外国に逃げましょう。」
「ダメだ。途中で降りる奴は何をやってもゼロだ。だからオレはマシュアを
利用してロズノフに決着をつけてくる。そいつが一番情報持ってそうだしな。」
「はい、ご主人様。では、ここからアミもご主人様をサポートします。」
「よし。じゃあ、そろそろミシェルにも話して、3人で作戦練るか。」
ジンはアミとの会話を終了し、部屋で立体映像を出して仕事をするミシェルに
話しかけた。マシュアとの約束の時間が刻々と迫り、ミシェルは必要な荷物を
隠していた銀色のグラビランナーのトランクに入れると、壁のボタンを押した。
地下室の壁の一部がゴーッと横にスライドして開くと、その奥には真っ暗な
空間が広がっていた。地下通路になっており、どうやらここから逃げるようだ。
ミシェルは銀色のグラビランナーのドアを開け、車内に入る。自動運転で、
ハンドルがどこにも見当たらない。ジンは車内のミシェルに対して話しかけた。
「じゃ、ミシェル!! 合流場所はシティ郊外にある荒野、デウスハイムだ!!
オレが合図したらグラビランナーのヘッドライトをつけてくれ!!」
「分かった。・・・・・・・・ジンくん。こっち、こっち。」
「ん、なんだ______」
呼ばれたジンがミシェルに近づくと、ミシェルはジンの布マスクを取り、
いきなりキスをした。ミシェルがジンの口の中に舌を入れてきたので、歯を
動かさないようにジンは意識した。地下空間には抱き合う二人の男女がいた。
機械化人間にディープキスをする白髪赤目の美少女。ジンはゆっくりと手を
ミシェルの背中に当てて、彼女を抱きしめた。やがて、ミシェルの口から長い唾が
ジンの唇から繊維のように伸び、離れていった。服の袖で口元を拭いたミシェルは
悠然と構えるジンの顔をじっくりと見た。金髪碧眼の青年が目に映った。
沈黙が続いた後、ミシェルが無言でグラビランナーを起動し、こう言った。
「ずっと好きだった! 必ず生きて帰ってきてね! 終わったら一緒に寝よう!」
どう聞いても死亡フラグのようなセリフを、異世界で出会った女が言ってくる。
ジンは終始無表情でうなづき、彼女が地下通路の奥へ消えていくのを見送った。
そしてジンはエレベーターに乗り込むと、1階が表示されたボタンを押した。
ハメようとするマシュアが待つ地上の駐車場に行くために、ジンは行動した。
ミシェルが暮らしていた鉄筋コンクリート造りのビルから出ると、既に
見たことがある顔が見えた。ハンチング帽に眼鏡、団子みたいな鼻をした
マシュアがそこに居た。マシュアは近づいてくるジンを見つけると、手を
振りながら近づいてきた。ジンは手に持っていた黒い布マスクをつけた。
「おお!! 随分遅かったな、5分以上遅れるなんてお前らしくねえな、ワハハハ!!」
「まぁな。なにしろ記憶喪失で、スーツを探すのに手間取っちまった。」
「ワハハハ!! よっしゃ、じゃあ早速俺のグラビランナーに乗って話そうぜ。」
しばらくして、ジンはマシュアのグラビランナーに乗り込んだ。ミシェルの
グラビランナーと違って、マシュアのは白い色だった。車内に空のビール缶が
何個も落ちていた。助手席に座ると、グラビランナーは二人を乗せて離陸した。
数十分後、目の前のスクリーンに巨大なビル群が見え始めた。前世の地球で
見たサンフランシスコと違って、中央区はコンクリート・ジャングルだった。
周囲にも様々な色や形をしたグラビランナーが飛行し、大型LED街頭ビジョンに
巨大な金髪碧眼のバニーガールが映り出し、胸の谷間から紙幣を取り出している。
他にも街頭ビジョンには広告動画が流れ、黒いシルクハットを被ったピエロの
男が笑いながらビールジョッキを持っている。そして株価チャートのような映像が
映り出し、そして別の街頭ビジョンには「Space is Never End!!」と映っていた。
そして次の瞬間、ライオンのようなセンターパートの金髪で、髭を生やした男の
映像に変化した。下にクーロン・マッキードとアルファベットで書かれている。
この男がどうやら四大企業の一角、AerospaceX社のCEO、クーロンのようだ。
見た目はマシュアから聞いた話と違い、若く見える。眉毛は黒く、眼光も鋭い。
どや顔のクーロンを見たジンに、隣に座っているマシュアが突然話し出した。
「あいつがクーロン・マッキード。今シティで最も権力を持つと言われている。」
「そうなのか。見た目はサーフィンが趣味みてぇな、若い兄ちゃんだな。」
「サーフィン? ・・・・・・ああ、まぁそんなイメージあるな! ワハハハ!!」
「権力を持つってことはシティの市長よりもか?」
「いや、プライドシティに市長はいねえ。経政連は11人全員、対等な存在なんだ。
評決は多数決で行われる。11人だから6人が賛同すれば、その政策は実行される。
クーロンはやっているのが宇宙開発でな。経政連が推しているから権力が集まる。
今はAIも宇宙分野が最優先なんだ。なにしろ地球発見が奴らの悲願だからな。」
「・・・・・・・侵略したいのか、経政連のやつら全員は?」
「いや! 強硬派はクーロンと他3人だけだな。残りの7人はそもそも穏健派よ。」
「クーロン以外は、どんな奴が地球侵略を考えているんだ?」
「1人目はEnergeos社のCEO、ビンス・ゴドリアスだな。年齢は71歳。
2人目はMero社の創業者兼CEOである、キャサリン・アンダーレッドだ。
今日はそいつに会うのが目的だぜ。49歳だが、見た目は20代にしか見えん。
噂によるとアンチエイジング技術で若作りしているようだな。ワハハハハ!!」
「で、3人目は誰だよ?」
ジンの質問に対し、少しマシュアは考えた。そして次の瞬間、こう答えた。
「アーデルマイト・シャイデマンだな。そいつはAIbirth社の社長だ。
まだ20代前半の若い奴でな、しかも野心家だ。」
「なんで野心家と思うんだ?」
「なにしろ奴は20代で頭角を現したからな。しかもAIでヴァドールのビジネスを
すべて塗り替えるとSWSでコメントしたんだ。おかげで肉体労働に従事している
ドワーフやオークがブチキレてよぉ。炎上したんだ。あと金勘定得意なゴブリンや
長命を活かして金融や不動産業をやっているエルフも難色を示していたな。」
「いきなりファンタジー世界の住民が出てきたな。」
「俺も前世で映画やゲームでしか見たことがなかったから、驚いたぜ。
緑色の肌をしているゴブリンが銀行の受付しててよ、融資の際に話した。
あいつら酒が好きでな、悪い奴らじゃねえ。エルフはちょっと気難しい。
1000年以上も生きるから、長期投資なんだ。100年前に買った株を地道に
増やすのが好きで、土地も何百年も所有するんだ。交渉が難しいんだ。」
「・・・なるほど、ヒトや魔族以外にも商売やっているんだな。」
「地球の資本主義がヴァドール全体に広まっているからな。お、
そろそろ目的地に到着するぞ。いいか、俺たちはソリタリウス社と
今から偽の会社名をMero社の社員に伝える。それが合図だ。」
「その会社名、誰のアイディアだ?」
「あ、ああ、俺だ。それで、CEOのキャサリンとアポが取れる。
彼女は量子通信網にある暗部にもアクセスできる権力者なんだ。
そいつはデータベースでな、あらゆる人物の裏情報や最新情報がある。
キャサリンは昔、俺に言っていたぜ。『権力は対立を解消できないが、
対立を解決することができる』ってな。権力で戦争も解決したからな。」
「話聞くと、クーロンよりも強そうだな。」
「ワハハハ!! この世界の農業を牛耳る女だからな。ゼルマニア戦争も東の
軍隊に出す食糧を物理的に止めやがった。おまけに量子通信網を駆使し、
東ゼルマニアは情報収集もできなくなって、最後はナジュリの魔法で終了だ。」
マシュアが言ったナジュリについてジンは気になったが、その前に高層ビルの
真ん中のくり抜かれた部分に、自分達が乗るグラビランナーが着陸を始めた。
どうやらお得意様限定の駐車場らしく、グラビランナーから降りると周辺に
煌びやかな装飾がほどこされたグラビランナーが、たくさん置かれていた。
マシュアの後をついて行くと、金属製の巨体を持つ連中が近づいてきた。
外観は黒く塗装されており、真っ赤な単眼を持つロボットだ。自動小銃も持ち、
両肩にシールドのような装備品も見えた。そのうちの一体がジンに話しかけた。
「ソリタリウス社のデニス・ケイン様ですね。お待ちしていました。」
「ああ、よろしくな。こっちは副社長兼CFOのゲン・ブレイドだ。」
「・・・・・・・認証完了。どうぞ、アンダーレッド様の部屋のキーです。」
それは小さなカプセルのような物質だった。カプセルは青で統一されている。
ジンがどんな仕組みなのか聞こうと思ったが、先にマシュアが説明を始めた。
「それは扉の前にある鍵穴にいれるカプセル型のキーだ。キャサリン以外は
扉の前にあるセンサーが反応しない。キャサリンだと自動ドアのように開くが、
それ以外の人間はカプセル・キーを鍵穴に入れないと開かない。」
「これ・・・一回穴に入れたら終わるんじゃねえか?」
「ああ、毎回別のカプセル・キーが生成されるんだ。まさに一期一会だ。」
ロボットが信号を送ると、目の前の鋼鉄の扉が開き始めた。ジン達は内部にある
エレベーターに乗ると、扉も閉じた。しばらくすると、エレベーターが動き出す。
ジンとマシュアは二人きりになり、エレベーターの行き先が最上階だと知る。
ジンはエレベーターの中で、マシュアに先ほどのロボットのことを聞いた。
「あいつら、いったい何なんだ?」
「クーロンの会社が開発した防衛用ヒューマノイドだ。言語を理解し、
頭脳労働や肉体労働も何でもできる。元々は宇宙空間で作業するために
量産されたんだが、クーロンが富裕層向けに防衛用も売っているのさ。」
「つまり、キャサリンのボディガードは全部クーロンの兵器なのか。」
「ああ。だが、彼女がもしも殺されたらクーロンの会社も株価暴落だ。
だからクーロンがキャサリンを裏切ることもない。今のところはな。」
ブザー音が鳴り、目的地である最上階に着いたことを二人は知った。
鋼鉄製の扉が開くと、目の前に巨大な木製の扉が現れた。ドアノブは
存在せず、右中央部に小さな穴が空いた金色のプレートが見える。
ジンは持っていたカプセルを取り出すと、マシュアの方を見た。
マシュアは無言でうなづき、まるでその穴にカプセルを入れろと
命令しているようなジェスチャーをジンに対してやってきた。
ジンは青いカプセルの形をしたキーを鍵穴に入れた。電子音が鳴った。
そして木製の扉は一瞬で消えると、目の前には長い廊下が広がっていた。
奥には別の赤い扉が見えた。ジン達は廊下を歩きながら話し始めた。
「いよいよだな。そういえばオッサン、どうやってキャサリンと知り合った?」
「お前と違って人見知りしないからなぁ。ワハハ!! ま、酒の席で知ったんだ。」
「ふーん・・・・・・・よくこの国のトップ層が集まる場所に入れたな。」
「ワハハハ!! ん・・・・・・?」
赤い扉から発砲音が聞こえる。窓が割れる音も聞こえてきた。すると、
マシュアはジャケットの内側からリボルバー拳銃のような武器を取り出した。
ジンはさっきのロボットがボディチェックを行わなかったことに気づいた。
ジンは拳銃を握っているマシュアを観察し、マシュアは警戒しながら
赤い扉のドアノブに手をかけ、少し開けたら勢い良く蹴っ飛ばした。
扉が開いて、中の状況が判明してきた。目の前の巨大な窓ガラスが破壊され、
机の上には脳みそをえぐられたキャサリン・アンダーレッドが死んでいた。
マシュアは銃を構えて、部屋に潜む脅威を探し始める。ジンは恐る恐る
キャサリンの死体に近づいた。ジンの眼球カメラが自動的に解析を始める。
次の瞬間、ピュンという軽い音が聞こえた。ハンチング帽を被っている
マシュアの頭部の上半分が横にずれて、マシュアの帽子ごと空中に浮かんだ。
ジンは一瞬ワイヤーのようなものを目撃した。マシュアの額から血が吹き、
マシュアは凝視したまま、絶命した。脳みそが入った帽子は空中に飛んだと
ジンは即座に理解し、そして不可解なことに突然帽子が見えなくなった。
そしてジンの近くで足音が聞こえてきた。だが姿が見えない。やがて、
床に散乱している窓ガラスの破片が割れ始めた。ジンは音がどんどん外へ
向かっていると判断し、音の後を追う。破壊された窓の前にたどり着いた。
大きな穴が開いている窓から下を覗くと、目の前に歪んだ空間が見えた。
やがて人間の形をしていることにジンは気づいた。光学迷彩…脳内にその
言葉が浮かぶ。そして、その光学迷彩を着た暗殺者は落下しているようだ。
突然の出来事に、あっけにとられたジンはしばらく下を見つめていたが、
やがて扉から物音が聞こえてきて、すぐにジンは後ろを振り向いた。
武装したロボットが自動小銃を構えて突入し、ジンの近くまで接近していた。
ジンは両手を上げ、防衛用ヒューマノイドの集団に無抵抗を態度で示した。
一体の防衛用ヒューマノイドがジンに近づき、いきなりジンを銃で殴った。
ジンは部屋の床にうつ伏せに倒れ、両腕を何かで縛られた。ロボットから声が
聞こえてきた。それは、まったく知らない、男の声だった。
「ずいぶんやってくれたな・・・だがこれで宇宙に専念できる・・・。」
ジンは防衛用ヒューマノイドに銃口を向けられ、ロボットに押さえられた。
しばらくすると、黒いグラビランナーがビルの最上階で空中停止し、ジンは
グラビランナーの中から出てきた特務官に引き渡された。
空中に浮かぶ黒いグラビランナーはビルから離れて、特務省に向かった。
ジンは車内にいる特務官の男達から質問されても、何も答えなかった。脳内で、
キャサリンとマシュアを殺した光学迷彩を着た暗殺者、男の声が気になっていた。
もう外は夜になっていた。一方、ミシェルはグラビランナーの中でジンを待った。




