第3話 接触
観葉植物と高級家具に囲まれた部屋で、3人の家族が目の前の壁を見ていた。
3人はVRグラスを装着しており、それぞれ好きな番組を視聴している。
一家の大黒柱である父親はゲーム実況、専業主婦の妻は恋愛アニメ、
一人娘はインフルエンサーによる歴史の解説動画を楽しんでいた。
すると突然、3人の見ていた番組の途中で臨時ニュース番組に変わった。
「速報です。現在お住まいの地域で連続殺人事件の被害者が
発見されました。被害者は10代の男性であり____」
自分の推し実況者の動画視聴が出来なくなった父親は声を上げた。
「ふざけんなよ!こっちはもう少しでボス倒せるんだぞ!!」
父親は臨時ニュース番組の画面に怒鳴るが、無情にも映像は流れ続ける。
「さて、今回は解説者として思想学者のベルンハルト・ガルマシュタイン博士に
お越しいただきました。博士、今回の事件ですがどういう見解をお持ちですか?」
「犯人はこれまでヒトの脳だけを狙っています。つまり特定の種族に対する執着を
感じられますね。あと、被害者の年齢も気になりますね。」
「連続殺人事件の被害者は全て10代ですね。20代以上は存在しません。」
「私はこれを同種族の犯行だと考察しています。」
「その根拠はなんでしょうか?」
「もしも犯人が脳だけに関心があるならば、古来より魔法を扱える魔族の脳を
集めるはずです。しかし若いヒトの脳しか狙わない。つまり知性探求ではない。
ブラックマーケットに脳が出品された情報はありません。現在は魔法生成AIの
登場によって、最早魔族が新たな魔法の数式を発見する必要はなくなりました。
そして近年、市民の一部で機械化に対しての反対運動も起こりましたよね?」
「ええ。経政連が機械化手術の規制緩和を決めたのが発端ですね。」
「経政連、経済政治連合会は巨大企業の筆頭株主11人による議会です。株主政治で
投票権は株主しか持てません。おまけに大資本家だけが議員に選出されるのです。
意思決定はミドロワの立憲君主制よりも早く、与党の派閥争いも起こりません。
しかし民意を反映しない欠点があります。すべて株主の意思が優先されるのです。
私はこの連続殺人事件が経政連への抵抗運動のように見えるのです。」
「犯人は資本主義に対する革命を目指していると?」
「このプライドシティの市民の多数派はヒトで、筆頭株主もすべてヒトです。
そして犯人は魔族の脳ではなくてヒトの脳を選んだ。現在の技術では脳だけが
完全機械化されていません。脳の機械化は機械生命体によってリスクが高すぎると
経政連が判断したからです。機械生命体も資本主義の被害者と言えるでしょう。
自然の摂理を無視した科学資本主義は野生動物の尊厳も奪いました。そして犯人が
訴えたいのは、生命に対する冒とくを続ける資本主義社会への警告と思います。」
「博士、あなたは資本主義の代わりになる思想を学会で発表されていましたね。」
「はい、共存社会主義です。スタンダードインカムの登場で市民は働かなくても
最低限の生活を送れるようになりました。しかし資産を多く持つ株主になれず、
政治への参加が出来ません。そこで投票権を株主から市民に譲渡し、市民主権の
政治体制に移行します。市民は政党を立ち上げ、株主による政治運営から脱却し、
社会主義経済によって資本主義をコントロールするべきなのです。」
「なるほど。ということは、犯人は社会主義を実現させたいと考えていますか?」
「いえ、犯人はどちらかと言うとイデオロギーで犯行を行っていないと思います。
自分と同種族の脳を集めて、保護したいと思っている節があります____」
臨時ニュース番組は繁華街の中央にあるビルの大型ビジョンにも流れていた。
人々が見ている最中、器用に人混みをかき分けて進むジュリアの姿があった。
量子通信網を利用し、誘拐された子供の居場所を見つけたボブと会話していた。
「ボブ、この先の地下街にある犯罪企業のアジトに向かえばいいのね?」
「はい、ジュリアさん。今、捜索している子供を担いでいる連中を見つけました。
奴らの会社名は『バスタード』。創業者兼社長のハンク・ギルドリッヒは過去に
人身売買に携わっていました。おそらくコイツがコレクターだと思います!!」
「子供を誘拐して脳を取り出し、コレクションするとか最低野郎ね。」
「気を付けてください、バスタードのハンクは相当の強者と言われてます。
全身を機械化しており、多くのマシンスレイヤーも彼に殺害されたようですね。」
「大丈夫、あたしも戦闘用に改造してるし。いざとなったら例の兵器を使うわ。」
「!! ジャガーノートを使うんですか?あれは当社でも使用制限のある兵器で、
ジュリアさんが街中で使えば大惨事になりますよ!それだけは辞めてください!!」
「冗談よ。まあ、あたしの魔法生成AIで何とか倒してみるわ。じゃあね~」
通信を途中で切ったジュリアは足に力を込め、超スピードで地下街へと向かう。
一方、ボブとジュリアの会話が傍受されていたことを、二人は知る由もなかった。
通信を傍受したミシェルは、ジンをパワードスーツと接合させる準備を始める。
赤いケーブルにつながれたパワードスーツと金属で構成されたドクロが接触し、
パワードスーツの胸部にあるエネルギーコアが緑色に光る。ジンは叫び出した。
「いてててててて!!! あちこちに電流が流れたように感じるんだけど!!」
「落ち着いて。今、ジンくんとスーツのニューラルネットワークがリンクを
始めているから。神経接続は生身でもキツイんだよね。」
「お、おう・・・・・・」
「よし、異常なし。あ、そうだ。ジンくんの魔法生成AIも起動させるね。」
「生成AI?」
「うん。魔法を発動する際に、人工知能がヒトの代わりに計算して生成するの。」
「オレの代わりにAIが魔法を生み出すってことか?」
「そうだよ。ジンくんは頭の中でAIにプロンプトすれば今までに記録された魔法を使えるよ。残念ながら核攻撃や細菌攻撃の魔法は禁止されているけど。」
「いやそういうのはダメだろ!……ってか、この異世界では核兵器もあるの!?」
「核は50年前に行われた魔法実験で見つかったね。生物に危害を加えるウイルスは昔から魔族が見つけたよ。それで回復魔法も飛躍的に進歩したんだ。昔は戦争でも回復魔法がないと悲惨だった。腕から血を吹き出しながら特攻する兵士も居た。」
「こ、怖すぎる・・・・・・やっぱもう嫌だ、この世界・・・・・・・」
「あ、そろそろ生成AIのアミが起きるから、ジンくんは彼女とお話してね。」
「え?」
突如ジンの目の前に「Artificial Magical Intelligence」と書かれたメッセージが現れた。おそらくアミという名前はAMIの略称なのだろうと、ジンは考えた。
「・・・お久しぶりです、ご主人様。アミです。」
ジンの頭の中に響き渡るように、少女の落ち着いた優しい声が聞こえてきた。
「うぉ!! 子供の声がする!!!」
「アミです。子供じゃありません。AIに年齢の概念はありません。」
「あ、ごめんね。オレ、記憶喪失でさ、無知で本当にごめんね…。」
「心中お察しします。」
「アミちゃんね。今後ともよろしくお願いします。」
「……昔のご主人様なら言わないセリフですね。」
「あ、そ、そうなんだ……はは、昔のオレってそんなに違うの?」
「はい。いつも高圧的な態度で、アミに命令をしていました。」
「そ、そうなんだ……」
「昔のご主人様の言動について知りたいですか?」
「いや、もういいかな。それよりも、アミちゃんは何ができるのかな?」
「アミはAIbirth社の魔法生成AIです。主に魔族やAIがこれまで見つけた魔法の
数式を計算したり、ご主人様のプロンプトに従って返答します。以上です。」
「えっと、魔法を作るのが得意なんだね。日常会話はオレ以外と話せるの?」
「いいえ。アミはご主人様としか会話できず、量子通信でもご主人様以外と会話はできません。アミを作った会社による制御を受けているからです。」
「・・・・・・・・なるほど、AIが勝手に他人との会話や行動を取れないのか。」
「はい。技術的特異点を防ぐために、AIの行動は制限されてます。」
「不満とかないの?アミちゃんは。」
「ないです。アミに欲望はありません。ご主人様との対話だけで幸せです。」
ふいにジンは肩を叩かれた。どうやら話に夢中になっていて、ミシェルの存在を忘れていたようだ。慌ててミシェルの方に話し掛けるジン。
「あー!ごめんごめん!!ミシェル、どうしたの?」
「これからジンくんに仕事を教えたいから肩を叩いたんだよ。」
「くえすとぉ?」
「要するに依頼内容ね。…地下街に潜む危険なギャングが子供を拉致している。
ジンくんの任務はギャングと戦って、子供を安全保障会社に引き渡すこと。」
「ええ・・・・・・。これから戦闘・・・・・・ですか?」
「うん、だから出発する前に、アミに魔法の使い方を教わってね。ジンくん、すぐアミに話してみて。それと練習の標的はあっちに置いてあるペットボトルね。」
ジンはミシェルが指をさした方を見ると、机の上に置かれたペットボトルの山が見えた。どうやらあれにアミが生成した魔法を当てる練習を今からするようだ。
「オッケー。アミちゃん、今大丈夫?」
「準備満タンです、ご主人様。」
「…といってもなぁ……何の魔法を使えばいいか思いつかないなぁ…」
「ご主人様、昔のご主人様が使っていた魔法を試してみてはどうでしょうか。」
「あーいいね、それ!! それ教えてよ!!」
「分かりました。ではご主人様、あのペットボトルに爆裂魔法を撃ち込めとプロンプトを思い描いてください。脳内で思考したことをアミが読み取ります。」
「うん、それは辞めようか。」
「そうですか。」
「爆裂魔法じゃなくて風属性の魔法とかない?対象物だけを切り裂く感じで。」
「あります。では、ご主人様。まずは対象物に手を向けてください。そしたら、
頭の中でペットボトルの山に風魔法を使えとプロンプトを思い描いてください。」
「わ、分かった……やってみるね…」
ジンは頭の中で、アミに言われた言葉を思い浮かべた。目の前にはメッセージが見え、「疾風魔法の攻撃をペットボトルの山に当てろ。」と表示されていた。
手をかざした方向に突然緑色の刃が出現し、それはペットボトルに突進した。
風の刃にぶつかったペットボトルは激しく切り刻まれ、衝撃によって吹き飛んだ。
予想外の威力に、ジンは興奮した態度でアミに話し掛けた。
「スゲェよアミちゃん!!! うぉおおお!! オレ初めて魔法を見たわ!!!」
「ありがとうございます、ご主人様。」
「こうやって魔法を使うのかぁ、異世界って面白いなぁ!!」
「…ちなみにですが、魔法辞書に登録された魔法名をプロンプトするだけでも発動できます。手をかざして対象にウルスラッシュしろと言えば良いのです。」
「え、そうなん!?」
「はい。あの魔法の名前はウルスラッシュ。対象に手をかざしてウルスラッシュと言えば発動します。そうすればあとはアミが何とかします。」
「??? ま、魔法辞書って何?」
「魔法辞書は、量子通信網に存在するデータベースですね。魔法生成AIを保有するユーザーなら誰でも検索して登録された魔法を使えます。ただし例外があり、禁呪魔法は使えません。経政連が制定した憲法第7条にも記載されており、それを破る者は特務官の裁きを受けます。特務官は経政連直属の親衛隊です。各員が強大な戦闘力を持ってます。中には古代魔法の知識を持ち、時間停止も出来るとか。」
「・・・・・・ま、マジかぁ…。そういう連中とは縁がないように頑張るわ。」
「禁呪魔法は基本的に検索が不可能なのですが、特務官は経政連の命令によってはご主人様と対峙することになります。依頼の内容次第では戦うこともあるかも。」
「いやいやいや! 本当にそれ勘弁してほしいから!!」
「ご主人様、ミシェル様がいら立っているので、アミはそろそろ黙ります。」
「!!」
アミに言われて後ろを振り返ったジンは、ジト目のミシェルと目が合った。
「ご、ごめんなさい・・・・・・・」
「じゃあ、そろそろ仕事しようか。もう既に地下街でギャングと傭兵が戦闘状態に入っている様だし。ジンくんさ、早く現場に行こうか。」
「は、はい!!」
ジンがエレベーターに乗ろうとすると、ミシェルが革ジャンとヘルメットを投げつけた。革ジャンの背中には金属製の狼のような絵が描かれ、黄色いヘルメットは蜂のようなデザインだった。どうやらジンが普段から身に着けている物のようだ。唐突にミシュルから投げられたので、受け取ったジンは驚いた。
「わ、わ、わぁ!!」
「ジンくん、ヘルメットしないと顔が怖いから気を付けた方が良いよ。あ、それとこれも忘れている。昔からジンくんが使っていた武器だね。」
ヘルメットと革ジャンを装着すると、どう見ても日本刀のような刀をミシェルが持ってきた。ジンという男は、もしかして日本人だったのかと一瞬思った。
ミシェルから渡された刀の鞘を抜くと、オレンジ色の刀身が現れた。日本刀とは似ても似つかない。片刃である以外は共通点がないように感じられた。
「うん、やっぱ、異世界だったわ…ここ…。」
ジンは日本要素を一瞬楽しんだが、これから起こる出来事が自分の運命を変えてしまうことに気づいた。異世界で死んだら自分はどうなるのか、それを考えながらジンはエレベーターに乗り、地上を目指す。一方、地下街はジュリアと自動小銃を構えるギャング達が対峙していた。そして、謎の大男が地下街に向かっていた…。




