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第1話 コレクター事件

梅川がサンフランシスコで命を落とした数時間前、地球と


まったく異なる文明を持つ異世界で殺人事件が起きた。



 上空を飛ぶ、黒い塗装が施された自動車。車底アンダーボディから


重力制御魔法を発動しているおかげで、真下の高層ビルの


上空を飛行することができる。この空飛ぶ車を、異世界の


住民は”グラビランナー”と呼んでいた。




「こちらが被害者の資料です。」




 金髪碧眼で、眼鏡を掛けた秘書のような女性が指を


反対の座席に座る男の方向に曲げた。すると目の前に


3次元の映像画面が開き、殺人事件の被害者と思われる


10代の少女の画像とテキストが表示された。




「魔族、ではないのか?」




 白髪で無精ひげを生やした男は秘書風の女に問いかけた。




「いえ、ホモ・マギアではありません。ホモ・メディオクリス。ヒトです。」


「ヒト?おいおい、冗談だろ。なんで魔法演算ができないヒトを狙うんだ?


 他に奪われたパーツもねえ。これで3件目もヒト族の脳みそだけを取られた。


 アルゴリズムを解析できないヒトの脳だぞ?まるでチーズバーガーのチーズを


 抜くだけのイカレ野郎にしか見えないぞ。」


「落ち着いてください、社長。今の発言はクァンタムバーガー社への侮辱罪です。


 これが車外で発言されますと量子通信網ネットワークに拾われ、最悪我が社の株価は__」


「大丈夫だ、マーガレット。俺はそんなヘマはしねえよ。この前も

 SWSソーシャル・ウェブ・サービスで炎上したベンジャミン・ベーコンの野郎と違ってな。」




 白髪の男が指を下に曲げ、被害者の状況を詳細に記したテキストを読む。


被害者の少女ニーナ・ブリジット・セイヤーズは旧市街にある国立団地で


サイバネティクスボディを持つ父と足を機械化した祖母の3人で暮らしていた。


事件が起きた場所は新市街『プライドシティ』の繁華街であるオリエント地区。


 白髪の男は、更に立体映像を触ると、量子通信網に接続することを了承した。


 SAI(ソレスタル・アーティフィシャル・インテリジェンス)は、この異世界の


人工衛星である。宇宙空間から惑星全体の量子通信網と繋げることが可能であり、


それはプライドシティの全監視カメラに記録された映像とログを辿れた。



 白髪の男が気だるそうな態度で、発見時の被害者の映像を見始める。


目の前の立体映像には頭部の上半分を失った少女の姿が映り、服は


乱れた痕跡も見つからない。完全に脳だけを狙っている狂気の犯行。


 白髪の男は量子通信網の接続を切ると、横柄な態度で女性秘書に話し掛けた。


「被害者は性的虐待およびてのひらに埋め込まれた魔法生成デバイスを


 取り外した形跡なし。おいおい…これじゃ我が社の保険は適用外だな。」


「ご遺族の方々には何と説明しましょうか?」


「ご愁傷様ですと言いたいが、弊社が全力で調査した結果、残念ながら


 ご息女が契約されている保険サービス適用外の犯行の為、弊社の管轄外と


 伝えておけ。いいか、マーガレット。ビジネスの世界で同情は絶対するな。


 被害者の仇をとるのは安全保障会社の連中の仕事だ。俺たち保険業は違う。」


「すべてが民営化されたプライドシティでは、治安維持もお金次第なんですね。」


「騎士様も今や傭兵や安全保障会社の社員だからな。まぁスタンダードインカムで


カバーできる料金プランなら、連中は犯行動機くらいは調べるだろうよ。」


「社長、そろそろ目的地に到着します。取引相手のデータを移送しますね。」


「……ったく、金にならねえ仕事に無駄な時間を使っちまったな。」




 白髪の男と金髪の秘書を乗せたグラビランナーは、くり抜かれたタワーの


上層部にある空中駐車場へと、その姿を消していった。




プライドシティ 繁華街 オリエント地区




「え?また子供が行方不明になった依頼なの?まいったわね・・・・・・」




 地球の中華料理に似た食べ物を頬張りながら、赤い髪の女は


脳内で会話を始めた。目の前に浮かぶ立体映像に、通信相手と


思われる人物の声が、「SOUND ONLYサウンドオンリー」と書かれた


画面越しに聞こえてくる。




「これで10件目ですね。SAIの量子通信網には最後に白いグラビランナーに


搭乗する映像が残っています。例の、コレクターと関係があるんですかね?」


「ボブ、別の安全保障会社ガーディアンと、うちが被ってないか見た?」


「あの…質問は僕がしているんですけど?」


「だからコレクターの事件ケースを検討しているから聞いているのよ!!」


「怒鳴らないでくださいよ、スミスさん。白いグラビランナーに乗った子供の


 捜索以来は現在どの企業コーポも受注していません。僕たちだけです。」


「そう。じゃ、また何か進捗あったら連絡してね。あたしビール頼むから。」


「ちょっと!!まだ勤務中ですよ?アルコールは脳機能を低下させ、魔法演算に


ラグも生まれますので止めてくださいよ!会社の捜査費を私用で使っているのを


また経理部に怒られるのは僕なんですよ、ジュリア・スミスさん!!」


「うっさいわね。あんた正社員だからって上層階級ハイクラスのことを


気にし過ぎなのよ。あたしは契約期間の間は必ずやり遂げるって


信頼性クレジットにも記載されているのよ。任せな。」


「スミスさん!? _____あああ、ちくしょう!切りやがった。


だから嫌いなんだよ、あの人いつも自分のペースで仕事しやがって!!」



 オフィスの中で、ボブの怒声が響き渡る。そして無情にも立体映像を出して


働いている社員は彼を無視していた。少しずつ、ボブは平静を取り戻した。



「そうだよな・・・・・条件は僕だけじゃないんだ。みんな今は傭兵スレイヤー


交渉しながらやっているんだ。親と同じで、相手は選べないんだよな……」


 


 そしてボブとの通信を切った赤い髪と褐色肌の女、ジュリア・スミスは


ビールと呼ばれている飲料物を飲みだし、頬を赤くさせながらこう叫ぶ。




「っぱぁ~~~・・・・・・この背徳感、あたしのアルゴリズムを活性化させるわ。」




プライドシティ スラム街 アールミヤ地区





 繁栄が約束された繁華街とかけ離れた場所にあるスラム街。


廃墟が立ち並ぶ建物の奥で、激しい機械音が鳴り響いていた。


何かを切断しており、配線をつなげていく女医がそこに居た。


 女医はケーブルでつながっている金属製のドクロの前に立った。



「バイタルチェックは異常なし、あとは眼球をセットするだけか。」



 女医が眼球の形をしたボール型デバイスをドクロの様な頭部に向ける。


瞳は高性能なカメラのレンズがあり、女医は二つの眼球を穴が開いた部分に


差し込んでいく。その後手元にある端末機器を操作すると、ドクロに電源が入る。




「これで起きるかな、ジンくん。」




 機械仕掛けのがい骨のような頭部が動き出した。起動音と共に、


カメラが白髪赤目の女医を映し出す。そして、声が聞こえてきた。




「・・・・・・・・・・・へ? ここ……どこぉ?」




 間の抜けた声と厳めしい金属製のドクロがミスマッチしていた。




 サンフランシスコで命を落とした梅川仁うめかわ じんは、


地球と全く違う文明を持った異世界ヴァドールに転生していた。

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