プロローグ
この世界は、地球の転生者によって技術が著しく発展した。
しかしその代償に、異世界人は常に何かを奪われていった。
『空想は知識より重要である。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む。』
アルベルト・アインシュタイン
「とうとう、来たぞ…夢の国、アメリカ!!」
「うぉ~~~!!あ、背中痛い…。」
天然パーマの黒髪と眼鏡、黄色いパーカー、白い無地のTシャツ、
横浜にある古着屋で購入したジーンズを履いた少年はアメリカの
カリフォルニア州にあるサンフランシスコ国際空港で、こう叫んだ。
少年の名前は梅川仁。身長は176㎝だが、アメリカ人が見たら
童顔の子供が歩いていると思われるくらい、見た目は若々しかった。
梅川には夢がある。アメリカで起業家として生きていくことだ。
既に進路は決めており、日本の大学を出たらシリコンバレーにて、
大学の仲間と共に起業する。そして今、彼は自費で憧れの起業家の
お墓を一目見ようとしていた。自分の足で異国の地を歩くために、
梅川は徒歩でバス停を目指していた。渡航前、スマートフォンで
タクシーを呼ぶように高校の先輩からアドバイスを受けていたが、
見た目に寄らずに好奇心旺盛な彼は、自分の目で異国を感じたかった。
「あー…あったけぇ…。一度行ってみたかったんだよな、アメリカ。」
「ずっとネットでどんな国なんだろうと見ていたけど、何もかもでけぇ!」
「ここにスマートフォンを作った伝説の会社が生まれたんだ!!」
梅川は神奈川県相模原市で生まれ、高校は東京の町田市にある
公立高校に通っていた。高校時代、彼はYoutimeという動画共有
プラットフォームで、ある動画を見る。アメリカの若者二人が
世界初のパーソナルコンピューターの開発に成功し、億万長者に
なっていく。しかし眼光が鋭い青年は完璧主義者で、たびたび
周囲と衝突し、ついには起業した会社を追い出されてしまう。
その後彼は日本に行き、禅の僧侶と会い、自分自身を見つめ直す。
投資によって資金を増やし、自分が追い出した会社を買い取ると、
彼は最高経営責任者に就任。2007年に世界初のスマートフォンを
公開し、ついに時価総額世界一の会社の経営者として君臨し、
2011年10月5日に息を引き取った。そんな内容だった。
梅川は大きな挫折を何度も繰り返し、自分が今手に持っている
スマホを考えた男が眠る墓を見たいと思い、アルバイトで金を稼ぎ、
更にFXトレードで渡航費を増やし、サンフランシスコにやってきた。
「さてと、次の角を曲がって______ん…?」
路地に入り、明らかに空気が変わったことに気づく。鼻をつく異臭。
灰色のくたびれた壁に描かれたグラフィティー・アート。床に散らばる、
壊れた注射器や薬のカプセル。そして地面に倒れている白人の男の姿。
サンフランシスコでは、ゾンビ・タウンと呼ばれている薬物中毒者が
集まる地域が空港から少し歩いた場所にある。地元のアメリカ人は絶対に
近寄らない地区に、梅川は入り込んでしまった。
「や、やば。来た道戻ろ…」
きびすを返し、振り返った次の瞬間。倒れていた白人の男が
目の前に立っていた。白人の男はアヘ顔で笑いながら、眼鏡を
掛けた梅川をよそ者として睨んでいた。青い瞳は瞳孔が開き、
歯はあちこちが抜け落ちていた。赤い斑点も顔中にあった。
「うっ…」
(声が出ない、は、早く英語で謝ろ______)
梅川が声を上げようと口を開けた時、腹部に強烈な痛みを感じた。
やがて彼の白いシャツに真っ赤なシミが広がっていく。そして音が
後から聞こえるような感覚に陥った。それは銃声だった。
「う、う、う・・・・・・・・・」
涙が止まらない。口からも血が流れる。白人の男が握っている銀色の拳銃から
煙が出ているように見えたその瞬間、全身の力が抜けたように梅川は倒れた。
「あ・・・・・・・あ・・・・・・・」
痙攣した体から寒気を感じた。床に散らばった薬きょうやカプセルの残骸、
人糞のような茶色い物体が近くに散乱していた。そして足音が聞こえる。
よだれを垂らし、ニヤついた目つきの白人の男は銃口を再び梅川に向けた。
(なんでだよ…なんか俺がしたかよ……どう…して…母さん________)
まるで爆竹が爆発したかのように、3発の乾いた銃弾が梅川の体を貫いた。
18歳の高校生、梅川仁は、異国『アメリカ合衆国』で命を落とした。




