最終話:おばあちゃんになりたかった
四十九日当日。桜井家の庭には、親友の恭子が手配した色とりどりの花が溢れていた。
それはお葬式ではなく、加菜恵が夢見た「未来の結婚式」のような、明るく、柔らかな光に満ちたパーティーだった。
恭子は現実派らしく、一滴の涙も見せずにテキパキと客をもてなした。けれど、彼女が用意したメニューはすべて、加菜恵と高校時代に「いつかお腹いっぱい食べようね」と笑い合った思い出の品ばかりだった。
夜が更け、日付が変わる一時間前。 加菜恵の姿は、まるで水面に映る月のように揺らぎ始めていた。
一人一人とのお別れが始まる。
「颯太、お母さんを助けてあげてね。結衣、受験頑張って。お父さん、飲みすぎちゃダメだよ。お母さん……私を産んでくれて、ありがとう」
最後に、蓮の前に立った。 蓮は、加菜恵の手を離すまいと必死に握りしめるが、彼の指はもはや、光の粒子を掴むことしかできなかった。
「蓮君」
加菜恵は、ずっと胸に秘めていた言葉を、初めて口にした。
「私ね、わがままを言ってもいいなら……蓮君と一緒に、しわくちゃのおじいちゃんとおばあちゃんになりたかったな」
その一言に、堪えていた全員の涙が溢れ出した。
「おばあちゃんになりたい」。
それは、若くして逝く彼女が抱いた、もっとも贅沢で、もっとも平凡で、もっとも切実な、届かぬ願いだった。
「おばあちゃんになった君を、僕が一番綺麗に描くって決めてたのに……」
蓮の慟哭が夜の庭に響く。
「……ありがとう。みんな、大好き。ずっと、ずっと……」
時計の針が、零時を刻む。 加菜恵の姿は、一際強く光り輝いたかと思うと、初夏の夜風に溶けるようにして、静かに消えていった。
そこには、彼女が最後に着ていたワンピースと、蓮に贈った小さな花の刺繍だけが残されていた。
翌朝。
桜井家の庭には、昨日までなかったはずの、小さな白い花が咲いていた。
恭子はそれを見て、「あいつ、最後まで準備がいいんだから」と、初めて声を上げて泣いた。
加菜恵は、おばあちゃんにはなれなかった。
けれど、彼女が遺した愛は、残された人々の心の中で、長い年月をかけてゆっくりと、優しく、色褪せない記憶へと熟していくのだ。
この作品はAI60%、筆者40%で書きました。
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