第六話:恭子の冷徹な愛
加菜恵の変化を、家族よりも、恋人よりも、残酷なまでに正確に捉えていたのは恭子だった。
喫茶店の隅、恭子は加菜恵のカップに手を触れた。コーヒーは一口も減っていない。加菜恵はもう、味覚さえも失いかけていた。
「わかる?」
「デザイナーの彼氏は騙せても、私の目は騙せないわよ。高校の時、あんたが世界史のテストでカンペ仕込もうとして、手が震えてた時と同じ顔してる」
「そんなこともあったね……」
加菜恵は懐かしさに目を細めた。あの頃の自分たちは、悩みといえば進路や失恋くらいで、死がこれほどまでに静かに隣り合っているなんて思いもしなかった。
恭子はバッグから、分厚い手帳を取り出した。
「四十九日が過ぎたら、あんたは『いなくなる』。……葬式なんて、誰かに勝手に仕切られるのは真っ平でしょ。あんたらしい、明るいお別れの会にする。その準備、私が全部やるから」
恭子の言葉は事務的で、どこまでも冷徹だった。しかし、その手帳を握る指先が小刻みに震えていることを、加菜恵は見逃さない。
「恭子。私……」
「泣かないで。泣くのは私が全部引き受けるって決めたんだから。あんたは、家族とあの彼に、最高の『加菜恵』を見せ続けなさいよ。いい?」
恭子は一度も目を合わせようとしなかった。彼女なりの、強すぎるほどの愛情の形だった。
その夜、加菜恵が家に戻ると、居間では颯太が「姉ちゃんの分も」と買ってきたアイスクリームが溶けかけていた。
母の芳江が、台所でふと手を止め、加菜恵を振り返る。
「加菜恵……あんた、今日はお米を研ぐの、代わってくれる? なんだか、あんたの手が……お母さん、よく見えなくて」
母の言葉に、加菜恵は息を呑んだ。 包容力の塊のような母は、あえて言葉にしないことで、この「奇跡の猶予」を必死に守ろうとしていたのだ。
父の正一は、新聞を広げたまま、一度もページをめくっていなかった。
加菜恵の体は、もう、誰の目にも明らかなほどに、この世界の現実感を失い始めていた。
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