死んでもいい
私は脚が好きだ。
スマホの中には、私好みの脚の画像が連なっているし、家の壁にもプリントアウトされたそれらがいつも私を取り囲んでいる。
いつからだったかは正確には思い出せないけれど、確か学生の頃だろう。
同級生の、スカートから伸びた程よい肉付きの脚が、私を狂わせたんだと思う。
彼女はよく、60デニールのタイツを履いてた。
動かすたびに、筋肉に沿って濃淡が揺れる彼女の脚をみるたびに、私はひどく興奮を覚えた。
同性である事をいい事に、わざとらしく触れてみたこともあった。
あれは、なんとも言えない高揚感だった。
私の人生で最上の瞬間と言ってもいいだろう。
私はいつからか、理想の脚を求めるようになった。
エスカレーターに乗ったとき、電車で座っているとき。
あらゆる場所で私の目は忙しなく動き続けた。
理想の脚に出会いたい。
願わくば、触れたい。
あの時以上の高揚感を感じたい。
もし、それが叶うなら、死んでもいい。
そう思うくらい、私は求めていた。
その日は唐突にやってきた。
踏切の向かいの群衆の中に、理想の脚をみつけたのだ。
すらっと伸びた、程よい肉感の脚は黒タイツに覆われていた。
それは私の理想そのものだった。見つけた瞬間に身体が痺れたほどだった。
私はその脚の持ち主に興味が湧いた。
どんな人なんだろうと、注意深くみていたが、
雑踏に紛れて確認する事ができなかった。
その日から、私は毎日くいいるようにその脚をみつづけた。
朝の踏切は本当に混雑していて、何度みても誰の脚なのかがわからない。
痺れを切らした私は、ある日その群衆を横切って、その脚に向かっていった。
迷惑そうに舌打ちをする人達を掻い潜り、後少しでというところで何かに引っかかり脚がもつれ、転んでしまった。
軽い痛みを感じながらも顔を上げると、目の前には、あの脚があった。
艶かしく、美しい、理想の脚。
私はそっと、その脚に触れる。
タイツが私の指に沿って歪み、私は痺れるような高揚感を得た。
そして、視線をゆっくりと上にずらしていく。
黒いタイツの上に、膝丈の紺色のスカートがみえる。
そして、そこにあるはずの上半身が、なかった。
私は大きく目を見開いた。
こんなこと、あるはずがなかった。
その時、私の足首を誰かが掴んでいることにきがついた。
「ねぇ、私の脚、いつも見てるよね」
そこには、下半身のないセーラー服の女の子が這いつくばり、私の方をニタニタと笑いながら見ていた。
電車の到着をしらせる警告音が鳴り響き、周りの人達が早く立ち上がれと騒いでいる声が意識の遠くで聞こえる。
私の脚は動かない。
理想のその脚を胸に抱いて、頬を摺り寄せ、指先や掌で、ひたすらに愛でる。
私のすぐ背後には、急ブレーキをかけながら、電車が迫っていた。




