高校生バンド メジャーデビューを目指す
ライブハウス「Voice&Noise」の地下スタジオで、三人は練習を終えた。
「なぁ、オレらってさあ……、ぶっちゃけ上手くね?」
ギターをケースに収めながら、仲野 智大が問いかけた。
「いや……、実はオレもそんな気がしてた」
ベースの弦の張り具合を確認していた川津 俊哉がニヤリと応じた。
「お前ら……、ついに気付いたか」
ボーカルの伊野 輝明が呟いた。
「やっぱりそうなのか!?」
「みんな、同じこと思っていたのか!」
三人は一気に盛り上がる。
プロデューサーにでもなったかのような三人の「会議」が続く。
その結果、「最近完成した新曲を動画サイトやSNSを使って宣伝しよう」と決まった。
「なあ、海野さんに相談してみようぜ」
このライブハウスのオーナーである海野は若い頃、業界人だったらしい。肩まで伸びた金髪や派手な服装など、とても自分たちの父親と同世代とは思えない。
「海野さん、まだまだレコード会社とかと仲良くていきなりメジャーデビューとか……」
三人は逸る気持ちを抑えて、一階の事務所にいる海野の元へ向かった。
――――
「はあっ!?」
海野が咥えていたタバコが事務所の床に落ちた。
「お前ら、本気で言ってんのか? それ?」
三人の期待など木っ端みじんに打ち砕かれた。
「たまにお前らの練習、覗いてるけどよ。お前らの腕前、ここに通ってる連中の中でも下から数えた方が早ええよ。ここだけでも」
三人は下を向く。
海野は床に転がるタバコを拾い、そのまま咥えた。
「だいたいお前らよお……。『死ぬほど練習した、努力した』って胸張ってオレに言えんのか?」
「いえ……。言えないです」
輝明が小さな声で答えた。
「ならよ、まずはそこだろ? オレはお前らに音楽辞めてほしいわけじゃないんだ。分かるよな?」
「……はい」
今度は三人が応えた。
「ならいいよ。頑張れよ。伊野、仲野、川津――――」
――ぶっ!
再び海野はタバコを落とした。今度は吹き出した。
「お前ら、『井の中の蛙』じゃねえか! もうバンド名も『井の中の蛙』にしろよ!」
三人は黙って、顔を真っ赤にして笑うのを我慢している――、いや我慢出来ていない海野を見ていた。
「とっ、とにかく頑張れや! そのうち『大海を知れる』かも知れないだろっ!」
三人は地下のスタジオへ戻り、練習を再開した。
実は三人とも笑うのを我慢している。
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