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尊みの灰に芽吹くもの

――戦いは終わった。


黒曜石の剣は静かに砕け、光の余韻と共にアクスタの台座が、アーグの手元にカラン、と落ちる。

彼はその重みを感じながら、ゆっくりと拳を開き、台座を見つめた。


「……終わったか」


声に宿るのは疲労ではなかった。逃亡の哀しみでもない。

それは――戦い抜いた者にだけ許される、静かな誇り。


かつて、価格と希少性に魂を売った男が、いま確かに「守るべき価値」のために戦ったのだ。


「おじさん!」


リアが、店の隅に駆け寄っていた。彼女の小さな両手には、黒く焦げた紙片――“泣き顔ミスティア”コースターの灰が、そっと包まれていた。


「……ごめんなさい。これ、もう元に戻せないかも……」


「……いいんだ」


アーグは首を横に振る。

その瞳は、もはや過去を悔やんでいなかった。


「形は失われたが、“尊み”は、私の胸の中に確かにある。また……自分の手で、一から集めるさ」


その言葉には、もはや未練も、虚無もなかった。あるのはただ、静かな確信――そして前を向く覚悟。


ゴルドス『……キマってるぜ、元転売魔。お前、マジで推しの力で生まれ変わっちまったな……』


──


店の中央では、破壊されたテーブルや椅子が散乱している。

その様子を見つめながら、カウンター奥のエルマさんがふっと微笑んだ。


「いやあ、随分と派手にしてくれたわね。でも家具も古くなってたし、ちょうど入れ替えようと思ってたのよ~」


その瞳が、ちらりとアーグを見やる。


「ところで、ねぇ。忙しくなったお店も手伝ってくれる人が欲しいなぁって思ってたところなんだけど――どこかに真面目で、優しくて、推しへの愛が強くて、筋肉もある人……いないかしらねぇ?」


完全に狙いすましたようなトーン。

アーグはピクリと肩を震わせる。


「……! もちろんだ。私に償わせてくれ……そして、できるなら……この店で、働かせてくれ!」


静かに、しかしはっきりと告げられた言葉に、リアがぱぁっと顔を輝かせた。


「わぁっ! おじさんが一緒にお店に!? 嬉しいですっ!」


オタクミも、にやりと笑いながらアーグの肩を叩く。


「それよりまずは、、返してもらわなきゃな?後輩くん?」


アーグの手元を指差す。


そこには、剣の“鍔”として戦場をともに駆け抜けた、例の《アクスタ・ブレイカー》の台座が。


アーグ「……あ、ああ……すまん……はい先輩……」

しょんぼりと差し出すアーグ。


ゴルドス《ふっ、お前もこれで立派な“尊み同士”よ……》


笑い声と拍手の中――こうして、アーグは正式に《Twinkle☆Cafe 『KIRABOSHI』》のスタッフとなった。


──


数日後・開店準備中のカフェ裏。


「よう、アーグ。新装オープン用の制服、支給するぞ」


オタクミが手にしたのは、どこからどう見ても――フリルとレースまみれの可愛いメイド服。


アーグ「…………なんだ、これは」


オタクミ「うちには、これしか残ってないからな?」


アーグ「いやいやいやいや! なぜ男の私がこんな服を!!」


オタクミ「……俺も男だぞ?」


ズッ。


オタクミはあろうことか、自らのスカートを捲り上げる。


「ほらな? このトランクス、見覚えあるだろ? 男子校出身ならわかるはずだ。しかも、ちょっとくたびれた感あるやつ」


アーグ「…………ッ!?!?!?」


目の前に広がるのは――可愛らしいふわふわスカートと、男物の無骨なトランクス(膨らみあり)という、混ざり合うはずのない二重世界。


脳に衝撃が走った。


アーグ(な、なんだこの……違和感の中に存在する調和……!?)


彼の中で、眠っていた新しいジャンルの扉が――開いた。


アーグ「……“おとこの娘”…………!?」


ゴルドス『あ~~~、目覚めちまったか。ご愁傷さま。』


顔を引きつらせながらも、なぜか受け取ってしまったメイド服を握りしめるアーグ。


その後、しっかり袖を通した彼は――


「くっ……フリルが腕に絡む……動きづらい……だが……着たからにはやり抜く!!」


数分後。


新たな一日が始まる《Twinkle☆Cafe 『KIRABOSHI』》の店先。


柔らかなベルの音が鳴る中――


「い、いらっしゃいませ……ご、ご注文は……『推し』ですか?」


赤面したメイド服のアーグが、ついにホールデビューを果たしていた。


――その姿に、客の一人が震える声で呟いた。


「……や、やべえ……“ツン系年上メイド”という新ジャンル……開拓されてしまった……!」


店内が歓喜と混乱に包まれる。


こうして、新生《Twinkle☆Cafe 『KIRABOSHI』》は、さらに強力な“推し文化発信基地”として――

新たな伝説を刻み始めるのであった。

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