ドッキングシーンあるよ!(※ロボは出ません)
オタクミはアーグの側に駆け寄り、叫ぶように言った。
「お前の苦労をずっと見てたぞ! 毎日ラテ飲んで、ランダムコースター集めて、ダブりに泣いて、それでも諦めなかったお前を!!」
「……な、何の話だ?(すっとぼけ)」
アーグが微かに目を見開く。
オタクミの表情は真剣だった。
「俺は……あんたが“ただの転売魔”だったなんて、思わねぇよ。あんたが抱いてたのは、きっと、誰よりも渇いた心だった。
でもその渇きは、もう潤っただろ? 推しが、満たしてくれたはずだろ!!」
アーグは、ふと自分の胸に手を当てる。そこにあったのは、確かに満ち足りた何か。
「……やはりお前はあの時の……」
「そうさ!」
オタクミは、痛武器──《アクスタ・ブレイカー》を構えた。
「俺は誰よりも推しを愛するオタクミ・ルミナス!!元転売魔!! お前の剣に、俺の推しを乗せろ! お前の怒りと、俺の愛を! 今ここで一つにするんだああああ!!」
一瞬、アーグの瞳が揺れた。
「俺の名は……アーグだ!!」
アーグは、残りの魔力で再構成した《黒曜石の剣》を静かに地面に突き立てた。
その剣は刃だけの不完全な姿。鋭いが、未完成だ。
オタクミは、抱えていた等身大アクリルスタンド──**《アクスタ・ブレイカー》**を高々と掲げ、叫んだ。
「推しに魂を込めるッ!!」
シュバッ!
等身大ミスティアのアクスタ台座が分離し、オタクミの手の中でキラリと輝く。
その動きは、まるで特撮変身のようだった。
\カシュッ……ガコン!/
アクスタ台座がアーグの剣の柄に差し込まれる──!
しかし──
\……入らない。/
「……ん?」
一同「…………えっ?」
『今、完全に入るタイミングだっただろ!? ドッキングってそういう流れだろ!?』
オタクミ「あ、あれ?穴の形状が合ってないぞ!? 規格違いか!?」
『最強武器が物理トラブルに負けるなああああ!!』
オタクミ「あっこれは……“等身大用のアクスタ規格”だな……」
アーグ「何だそれは!? てか、台座部分しか使わんのか!? 」
オタクミ「……いや、これは鑑賞用だから……台座部分だけは許容します。後でちゃんと返してよね。」
「な、なんじゃそりゃぁぁぁ!!!」
混乱する一同。
だが、その時だった。
オタクミが突然、手を広げて叫んだ。
「──はっ、そうか!
これは、“規格”の問題じゃない!!
魂が噛み合ってないだけだ!!」
『また精神論ぉぉお!?』
アーグの目がギラリと光った。
「……そうなのか!!?」
「そうだ!! 推しと向き合って、心を通わせて、愛を込めて……!!」
「──挿す!!」
\ゴウン……ッ!!/
静かに、しかし確実に、台座が柄に噛み合い始めた。
刃の根本がきらりと光り、同時に剣全体が虹色の光を放ち始める。
\カチッ……ガシャンッ!!/
ドッキング、完了。
その瞬間──!
店内の空気が、一変した。
剣の柄から走る魔力はアーグの背を通り、彼の全身に“推しの魂”を流し込む。
「──ッ……きた……ッ!!」
アーグの目が、輝いた。
「これは……尊みの、魔力……いや魂か……!!」
オタクミは背後から叫んだ。
「その剣は今! お前だけの痛武器になったんだ!!」
『なんでこんなことできるの!?!?!?』
剣は光をまとい、魔力の波動を放ち、床のタイルがひとりでに浮かび上がる。
リアとセラが呟く。
「いやもう意味分かんない……」
だが、皆が感じていた。
この剣はただの武器ではない。想いの集合体。渇きを満たす光そのもの。
オタクミが最後に叫ぶ。
「いけぇぇぇ! 剣よ! この世界に“推しの尊さ”を刻めええええ!!!」
アーグが構えを取った。
「──受け取った。これは、お前の魂と、私の……再出発の剣だ!!」
彼が踏み込んだ瞬間――!
アクスタ鍔が七色の後光を放ち、ミスティアが微笑んでいるように見えた。
しかし、
「おい!鍔がデカすぎで振りにくいんだがっ!?」
アーグが思わず声を荒げる。
「推しは俺が守る! 剣は任せた!!」
オタクミは、台座を失った等身大アクスタを丁寧に抱きしめ、アーグの背中に親指を立てた。
「……こいつ、正気か……?」
『あいつは最初からおかしいんでござる』
鞘からツッコミを入れるゴルドスの声に、アーグは小さく鼻を鳴らした。
リアが店内に魔法結界を展開し、セラが「客の避難は完了」と親指を立てる。
全員の意志が、一つになった。
そして。
──尊み魔光剣、起動。
アクスタ台座から、オタクミの“尊みパワー”が奔流となってアーグの剣に流れ込む。
黒曜石の刀身が淡いブルーの光を帯び、輝き始めた。
「俺の魔力妨害を無効だと……? なぜ効かない……!」
ジルバが叫ぶ。
「──これが、愛だ」
アーグは静かに、しかし力強く呟いた。
剣を通して流れ込む“愛”の力に、彼の瞳が震える。
(これが……あの小娘の力の源……? 価格でも、希少価値でもない。……ただの“好き”という想い……! 温かい……そして……なんて……力強い……!)
「もっとだ!! もっと推しの尊さを感じろ、アーグ!! 魂で共鳴するんだ!!」
「うるさい!! 言われずとも分かっている!! この力が──私に、応えているッ!!」
アーグの剣が閃いた。
一閃で、三人の部下を吹き飛ばす。
続けて、地を這うように剣を振るい、黒曜石の刃が光の奔流を描いて広がる。地面が割れ、妨害魔道具の魔力が中和されていく。
「な、なんだこの力はッ!? アーグ、お前は……!」
「黙れ、ジルバ」
アーグの剣が、まっすぐにジルバを指した。
「貴様には分かるまい。この力が、ただの小娘の“絵”から生まれていることなど……!」
ジルバが背後に回り込み、より強力な攻撃魔道具を起動した。
「……そして、貴様には一生分からぬだろう。
その“ただの絵”が、失われた魂すら、救うということを……!」
アーグの瞳に、かつて燃やされた泣き顔ミスティアのコースターが浮かぶ。
それは、彼にとってただの景品ではなかった。
はじめて“金”以外の価値で手にした、守りたかったものだった。
アーグは、叫ぶ。
「この一撃に、すべてを込める!!」
黒曜石の刃が、光の奔流に包まれる。
そして放たれる、渾身の一撃。
「──《リデンプション・エンド》!!!」
光の剣が、大気を裂き、妨害魔道具を斬り裂く。
斬撃は天を穿ち、店内を傷つけることなく、ジルバだけを打ち据えた。
「ぎゃあああああああああああッ!!?」
ジルバは店の壁を突き破り、外へと吹き飛ばされていった。
空気が、静まり返る。
ホールには、崩れ落ちた敵と、光を失って砕ける妨害装置、そして──静かに剣を収めるアーグの姿だけが残っていた。
剣の鍔であるアクスタが、きらりと一閃の名残りを受けて煌めいた。
オタクミは、ぼそりと呟いた。
「……最高だったよ、推しと一緒の奥義……」
リアが涙ぐみながら拍手し、セラが「やるじゃん」と笑う。
アーグは何も言わず、剣を地に突き立てたまま、静かに目を閉じた。
彼の中で、何かが終わり、そして始まった。
尊みの剣は、確かに彼の心に、新たな価値を刻んだのだった。
『……主人公より主人公してねーか!!?』




