侯爵家が動く可能性は?
根が腐った悪党じゃないっす。
「さて、始めるとしよう。……説明を」
「はい」
応接室には、屋敷の主であるブルムドラ辺境伯に、嫡男アルアランに、ベリーシア侯爵令嬢に、被告人のメイドに、俺だ。
そして、説明した。
昨日、夜遅くにメイドの彼女が部屋に侵入して、明確な殺意を持って殺されそうになったが、それを返り討ちにして気絶させ拘束した……と。
「私としては、奴隷に堕として、その代金を彼に渡すべきだと思うが?」
「そうですね。それで動機は?」
「恐らくですが、彼女の婚約者が護衛騎士の1人でした。しかし……」
「彼は間に合わなかった。そして、悔しさから逆恨みへと変わってしまった……だね」
「そうだと思われます」
「勿論、彼には責任は無いが……」
「制御が出来なかったという事だろうな」
「……そうですね」
「よろしいでしょうか?」
「確かに、当事者の意見は必要だね」
「ありがとうございます。俺としては奴隷にするのは反対しませんが、そのまま野に放つのはどうかと思っています」
「何故だ?」
「このメイドを買った者が、奴隷になった経緯を聞いて、結果として俺を害する可能性があります」
「しかし、そんな事を?」
「買った者が、間違った正義感を持っていたら? 享楽家の貴族が買ったら?」
「「「……」」」
「だからと言って、そのままベリーシア侯爵令嬢様や、辺境伯様が引き取るのは外聞が悪いかもしれません」
「確かにな」
「そこで、代金も奴隷になった彼女も俺が引き取るのはどうでしょうか?」
「「「え!?」」」
「1人は気楽ですが、振り返った時に誰も居ないのは……」
「そうか。ベリーシア侯爵令嬢、何か意見はあるか?」
「ゼン様。それでよろしいのですか?」
「はい」
「それなら、反対する理由はありません」
「決まりだな」
「そうですね」
「……」
此処が日本なら、この後に被告人側の反論になるが、そんな慣例や法律は無いんだよな。
それと、昨日、貴族令嬢は優秀なメイドだと自慢していて、近々、侍女見習いになると言っていた。
本音では必要無いが、俺としては「坊主憎けりゃあ、袈裟まで憎い」とはなっていない。
騎士は殺意を向け剣を抜いたから殺したし、メイドも、同じ理屈で代償として「初めて」を貰った。
そして、辺境伯と侯爵令嬢のお互いの立場上、甘い判断を下す訳にはいかないから、メイドは奴隷に堕とさる。
俺としては、此処までで充分だが、彼女から見れば地獄はこれからだ。
俺が引き取れば、少なくとも使い捨ての肉壁と、大勢からの慰み者や、違法薬物の実験体には使われない。
それに「花売り」もさせる気は無いし、衣食住も普通の奴隷よりかはマシになるだろう。
そんな理由から、彼女を引き取る事にした。
そして、その日の夕食前には、彼女は俺の奴隷となり、彼女の対価である金貨18枚を貰い、後は寝るだけの状態で聞いた。
後、お願いしてロザリアの首にある「奴隷環」を「奴隷紋」に変えて貰った。
「命令。メイド以外に出来る事を吐け」
「……はい。料理に、メイドの仕事に並行して護衛術を学んでいました」
「それを知っているのは?」
「御主人様以外は、ベリーシア侯爵様と執事のベナクさんと、侯爵家の騎士達だけです」
「侯爵家が動く可能性は?」
「恐らく無いと思います」
しかし、この世界に転生してから1ヶ月程度の内容じゃないよな。
とりあえず、「外道」とか「クズ」とか言われるだろうが、夜の相手が居るのは良い事だよな。
「改めて聞くが名前は?」
「名前は魔法誓約書で封じられていますので、御主人様に新たに付けて頂く事になります」
「やっぱりか」
俺も今回の事で初めて知ったが、奴隷に堕ちる者は隷属契約をする前に、魔法誓約書で色々と制限を掛けるらしい。
例えば、仮に王女が奴隷になった場合は、王族として生きてきた事で知っている事を買った者に伝わらない様にする必要がある。
これはお互い様だから、国際奴隷法で定められている。
その流れから、奴隷になった者は、例外無く、最低限、名前を魔法誓約書で封じられる。
まあ、名前に関しては、自分の名前を自分で名乗れないだけで……
「お前の母親は、お前の事をどう呼ぶ?」
「はい。母は私の事を『ロザリア』と……」
自分の名を言った瞬間、俺の奴隷となったロザリアは家族への懺悔か、自身の後悔からか涙を静かに流した。
「ロザリア、普通の奴隷よりかはマシな生活を送らせるから、そんなに悲観するな。
まあ、夜は諦めて受け入れてくれ」
「……はい」
因みに、ロザリアの荷物は、2着の外出時用の服と1着の寝間着と、下着と家族に関わる物のみで、メイド服は無理。
何故なら、貴族の下で働くメイドのメイド服には、胸の部分に各家の紋章が刺繍されているからだ。
ベリーシア侯爵家のメイドではなくなったロザリアには、ベリーシア侯爵家のメイド服を着る事が出来ないから、今、着ているのは奴隷用の貫頭衣だ。
部屋に遮音魔法を掛けて、早速頂いた。
「痛っ……え!?」
「完全治癒を女性に掛けると『乙女の証』も復元されるみたいだな」
「つ、つまり……あん……」
「俺は、聖教国の教皇と聖女以外の使い手が居ないとされる四肢欠損すらも復元させる完全治癒が使える。
これ秘密だからな」
「……はい……あ、ぃあぁあああーーー!」
満足すると、俺、ロザリア、ベッドに洗浄を掛けると就寝した。
勿論、完全治癒も掛けた。
ロザリアには悪いが、暫くは「物理障壁」を破る感覚を味わいたい。
翌日、ブルムドラ辺境伯側とベリーシア侯爵令嬢達に別れの挨拶をして出発した。
勿論、ロザリアにも、元同僚達への別れの時間を与えた。
冒険者ギルドに行って、ロザリアの冒険者登録をし、ベリーシア侯爵令嬢達を助けた時のモンスター討伐報酬を貰う。
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