アルードさん。話して貰えないか?
チート持ちの異世界転生者が、1番役に立つのはこういう場面だろう。
俺はメイナさんが居る部屋に辿り着くと直ぐに開けた。
「メイナさん!」
「ゼン君!」
メイナさんは、身体中を包帯だらけで、何処かに引っ掛けたのか、顔にも包帯を巻いていて、赤い染みが広がっていた。
「……ロザリアは?」
「最初の治療で魔力を使い切って別室で寝ているわ」
そうか、ロザリアは頑張ってくれたのか。
「それなら、お抱えの回復術士は?」
「ロザリアさんと同じよ」
「……」
傷が痛むのか、メイナさんは声にならない声を出している。
「アルードさんは?」
「伝手を頼りに、方々に遣いを出してくれたわ」
「……そうか」
「……ぅ」
「「「「「「「メイナ!?」」」」」」」
「私は……」
「大丈夫よ! 旦那様が回復術士を連れて来てくださるわ」
「そうよ! そうすれば直ぐに、こんな傷は良くなるわよ」
「だから、心配しないでメイナ」
「……あ、ありがとうございます、皆さん。
わ、私は、此処でメイドとして……は、働く事が出来て……し、幸せでした」
「何を言っているのよ、メイナ!」
「か、感謝しか……あ、ありま……せん」
「「「「「「「メイナ!」」」」」」」
……しゃーないか。
「ちょっとごめん」
「ゼン君?」
「メイナさん」
「ゼン……様?」
「俺の勝手な判断だけど、治すね」
「「「「「「「「……え?」」」」」」」」
俺は、意識を集中して……放つ。
「完全治癒」
緑色の温かい光がメイナさんを包み3秒後に消えた。
「治ったよ、メイナさん」
「「「「「「「「……え!?」」」」」」」」
メイナさんは、慎重に自分の身体を動かす。
「……本当だわ!」
「「「「「「「メイナーーー!!!」」」」」」」
俺は静かに部屋から出る。
そして、部屋から出ると、リンに支えられながらロザリアが立っていた。
「……ありがとう、ロザリア」
「頑張ったわよ、私」
「ああ。流石はロザリアだな」
多分、ロザリアが頑張れなかったら、メイナさんは、俺の到着が間に合わなかっただろう。
「頭を沢山撫でなさいよ!」
「勿論だ、ロザリア」
俺は、ロザリアを「お姫様抱っこ」して、俺達の部屋に向かった。
当然だが、ロザリアには此処まで頑張る義務や義理は無い。
ただ、3日程、一緒の屋敷に居ただけの関係だが、それでもロザリアは頑張ってくれた。
……だから、俺はそんなロザリアを誇らしく思う。
アルードさんが連れて来た回復術士からも、お墨付きを貰ったが、念の為に3日間の休暇がメイナさんに与えられた。
……ギールベル侯爵邸の執務室にて。
「感謝する、ゼン」
「感謝するなら、ロザリアに」
「そうであったな。感謝するロザリア」
「いえ、私は……」
「ロザリアが頑張らなければ、俺は間に合わなかっただろうからな」
「……」
アルードさんからの視線に赤くなるロザリア。
「アルードさん。話して貰えないか?」
「……そうだな。メイナは、いや、メイナーリラは、私の弟の娘だ」
アルードさんの話の内容はこうだった。
メイナは、アルードさんの弟であるアザゼルーガの長女で、家族でギールベル侯爵家の領地に向かう途中で事故に遭い、全員が死亡扱いとなった。
アルードさんも、報せを聞いて直ぐに駆け付けたが、そこには弟夫妻の遺体しかなく、長女の遺体は無かった。
そこにアルードさんは希望を抱いたが、現場には血痕が森へと続いていた事から、長女はモンスターに餌として持っていかれたと判断された。
しかし、アルードさんは諦めずに捜索を続けたが発見されず、3ヶ月後に捜索は打ち切られた。
それから、2年後に偶然からメイナさんを発見する事が出来たが、そのメイナさんは、自分がアルードさんの弟アザゼルーガ夫妻の長女だと覚えておらず、引き取られた先では虐待を受けていた。
因みに、その引き取られた先は、既にアルードさんが潰したらしい。
「……という訳だ」
「そうか」
「今更、戻らない家族との記憶など必要は無いと判断して、私の気紛れを装って引き取ったのだ」
「事実を知っている者は?」
「私と妻に、執事やメイド長とメイド頭だな」
「秘密は秘密のままだと誓う」
「私もよ」
「私もです」
「ありがとう」
アルードさんとの話が終わったタイミングで、扉をノックする音が響く。
「旦那様、メイドのメイナが話をしたいそうですが、よろしいでしょうか?」
「通せ」
扉は開かれ、メイナが入って来たが、その顔は哀しげだった。
「……ベリアル伯父様」
「メイナーリラ、記憶が戻ったのか!?」
「……はい」
俺達と執事は静かに執務室から出た。
俺にも、消したい記憶は有る。
だけど、その記憶を消す事は、消したくない記憶を否定する事になる。
……だから、俺は母さん達を忘れない!
異世界は、前世以上に「善悪」が分かり易い。
今後も、俺に敵意や殺意を向ける者に慈悲は必要無い事を、俺は再認識した。
……40分後、執務室から出たメイナさんは、空元気だけど笑顔だった。
「ゼンよ。何か望みは無いか?」
「俺が、完全治癒を使える事を外に漏らさなければ、それで良いよ」
「それは当たり前の前提だ。
他に望みは無いのか?」
「望みと言われてもなぁ」
「本当に無いのか?」
……マジで無いわ。
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