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第72話 『優しい男』じゃなくちゃ

今回は血の表現あんまり無いです(控えめ)。

安心してご覧下さい。

黒のワイシャツに黒のチノパンという、量産型大学生というには少し癖の強いハジメの風貌。それは他でもなく、渚をリスペクトしたものであった。

ヘリコプターの出入り口を解放して身を乗り出し、ハジメが不可解そうな瞳を向けるその先には………燃え盛り、漆黒の灰と塵の舞う煙に包まれた本社ビルがある。

その中途半端な階に、不自然に明かりが灯り続けているのを発見したのだ。


「…………葛木はあそこか」

「ハジメ様。行かれるのですか」

「ああ。彼は僕がやらなければ気が済まない」

「我々も同行いたします」


パラシュートを肩に背負い、思い浮かべるのは渚と社交ダンスの練習をした後に見せてくれた、慈しみに満ちた笑顔だった。

そして………脳裏に響くのは、渚の魂の声。


『生まれ得たもの使って自分の力で勝ち組になってこそ、人生でしょ!!!』


ハジメは瞑目し………この世で1番心地良さそうに、ゆっくりと深呼吸をした。


あんなに素敵な女性は世界のどこを探したって他にはいないだろう。


君の笑顔だけが、僕の生きる意味だ。


僕は必ず、君を幸せにしてみせる。

僕にしか出来ないことなんだ。


待っててくれ。


やがてハジメは、刮目し………………


「こんなんで、野垂れ死んでてくれるなよ………!葛木ッ!!」


ヘリコプターから、勢いよく身を投げ出した。慣れた要領でパラシュートを開き、明かりの灯る窓を目指してゆっくりと降下し………


やがて響き渡ったのは、ガラスの砕け散る音だ。

本社、管理室。ハジメとエージェント計10名が、洗練された身のこなしで、無遠慮の足音を立ててそこに降り立つ。

建物内はスプリンクラーによって水浸しであり、鉄の燃える香りが鼻腔を劈き、目をまともに開いていられないような待機中の靄に、ハジメは表情を変えないが苛まれる。


そして………その奥のデスクに座っているのは。


即座に、ハジメは何ともないような表情をぴくりとも動かさないまま、腰のホルダーに入れていた銃を片手で構える。しかし、奥にいる人物のシルエットを見て一瞬だけ目を見開き、銃を握り直す音と共に銃口を下に下ろした。


「データのバックアップが間に合って良かった。考えてみれば君のやり方って、そうだもんね」


それはこちらを見てそう言うと、ゆっくり立ち上がって歩み寄ってきた。1台だけ起動し続けているノートパソコンを折りたたみ、靄の中から現れたのは………どこか楽しげに頬に手を当てて首を傾げ、ハジメに向けて微笑みかけるうーさんだった。


全く動揺しないハジメだが………気持ちの悪い違和感だけはしっかりと覚えていた。


これだけの状況下で、僕たちを待っていたのか?

まさか。


「あの時ぶりだな。鹿沼 雨兎………相変わらず大層な美人だな。その煌めく瞳には、畏怖の念を覚えるよ」


ハジメの本心の言葉に………うーさんは心底関心が無さそうに顔に影を作り、失笑の瞳を下げて、まるで『残念』とでもいうかのような仕草で鼻からため息を吐き出す。


「誘い込んでいたとしても無駄だぞ。君の事もこの部屋から出しはしない」


冷徹に、それでいて余裕のある口調で言ったハジメ。


それに対してうーさんは一瞬だけ目を見開き………指を顎に当て、静かに、目の前の微妙な降り具合の雨を見て傘を差すか否か決めてる時のような表情で、何かを考え始める。


そしてやがて、何かに気づいたような声を出して顔を上げ、


「うん………そっか。やっぱりそう」

「?」

「………きっと、わたしは小圷君みたいな人をずっと待ってたんだ。無慈悲に、理不尽に、全部壊してくれる、君みたいな人」

「何?…………生憎僕には心に決めた人が居るんだ。少し遅かったな。君を娶る訳にはいかない」


ハジメの丁重なお断りに対し、うーさんはただただ何も言わずに、にこりと清楚な笑みを作ってみせた。


うーさんの言葉の真意も、違和感の正体も不明のまま………ハジメは戸惑いをその辺に捨てて、再び銃口をうーさんの脳天へ向け、嗜虐的な鋭い笑みに頬を吊り上げた。


「君も葛木も、時枝君も………今にユートピアで再会出来る事だろう。先に待っているといい」


うーさんは笑みを浮かべたまま、瞳を見開いた。その瞳には確かに輝き弾む期待と…………虚しさの『漆黒』が、混じって濁り、共存していた。


「分かってくれると思うよ。君なら………壊れてもうどうしようも無くなった、わたしの気持ちを」


憎しみを秘めたハジメと、エージェント計10名、総勢11名による、破裂音と同時に放たれた、あまりにも一方的で残酷な凶弾によって起こされた嵐が…………隙だらけのうーさん目掛けて、銃弾程の直径の小さな躊躇いすら見せることなく直進し………


管理室の窓は、目が眩むほどの閃光に満たされた。



------------------------------



「こちらでよろしいのですか?」

「うんっ!ありがと!!」


闇の中を疾走し、遂にヒロのアパートの前まで到着したエージェントの車。

切羽詰まっててもそこまで早口にはなれないだろうと常人なら思うであろう口調で、問うた運転手にそう返事し、その返事すら脇に置き去りにする勢いで、渚は開いたドアから飛び出してヒロの部屋へ急行する。


階段を駆け上がり、駆け寄ったヒロの部屋のドアは開放されっぱなし、照明も何もかも付けっぱなしで………渚は愕然として、足がすくみそうな目の前の光景に、呼吸の仕方すら一瞬忘れかけた。


靴でそのまま上がり込んだあろう、無数の足跡。元々汚いヒロの部屋の荷物や家具が、見るに堪えない程に散乱し………

飛び散った血の跡。人が1人引きずられた痕跡。


渚は玄関先で部屋を見つめたまま、絶望の瞳で膝をついた。


どうしたらいいの?どうしたら?全然分かんない。


『急ぐんなら尚更だよ。着くまでシートを倒して、ゆっくり寝てたらいい』


『自分で出来る努力はしとこうねって、そんな単純な話だよ』


『もう僕の彼女になっちゃえよ。な?』


『穢い手で触るな。それは僕の女だ』


あんたなんか、大嫌いだった。考え方何にも合わないし。図々しいし、自分勝手だし、私の気持ちを考えてくれてるようで、ほんとは自分に都合のいい事ばっかり考えて。


…………だけど、優しいし、かっこいいって、凄く尊敬出来るって。素敵な人だなって、ちゃんと心から思えたんだよ?


どうしてそうなっちゃったの……?ハジメ。


私が悪い。


………私が悪いの?本当に?ハジメが悪いに決まってるよね?


渚は開いた玄関先でへたりこんだまま、恒例の脳内反省会が始まる。コミュ障故に自然に身についた、孤独を紛らわし癒される為の特技。しかし……この特技が、渚の傷口を更に抉っていく。


ハジメとの出会いは、私を心配したひよりからの誘いで足を運んだ合コンで。合コンに誘ったひよりが悪い?ううん違う。そもそも合コンに行った理由って。


………ヒロ。全部、合コンなんかに行くはめになった元凶を作ったヒロが悪いじゃん。


私にこんな悲しい思いをさせて。もしかしてヒロって無自覚系かつ生粋のサディスト?

才能ありすぎ。尚更好きになっちゃう………。


って違う。そうじゃなくて。


重要なのは………

ヒロが私と出会ったから、結果、こんな目に遭ってるってこと。


じゃあやっぱり、私が悪いじゃん。


視界に映るヒロの部屋が、絵の具の描画を水に浸したように滲んでいく。どうしようもない程に激しい自己嫌悪と、取り返しのつかない後悔の海に溺れ、どれだけ足掻こうとも抵抗虚しく、流されるままに流されて漂流する。


もう何にも負けないって約束したのに、破ったからこんな酷い運命に遭わせるの?神様。


だったら…………最初からヒロと私を会わせなければ良かったよね?

どうして私をヒロと出会わせたの?



『俺を一瞬でも好きだと思ってくれたこと、後悔させないから!!!』



渚がもがき溺れる海の水が、渚の生きる力が、そのまま目から流れ落ちて、流れ落ちて、流れ落ちて、流れ落ちる。


「あああ……………!わぁぁぁぁぁあぁああーーーーーーーーっ!ヒロっ!ヒローーーーーーーーっ!ヒロが居なくなったら私……………!どうやって生きていけばいいのか分かんないよぉーーーーーーーーー!あぁぁぁあーーーーーーーーーーーーーーー!!」


その場に崩れ落ち、産まれたての赤子のように、思いのままに、激情のままに渚は泣き、叫び喚いた。


顔にある穴という穴が引き裂けそうな程に開かれて様々なものを吐き散らし、頚椎から脳天にかけて伸びる血管が全部破裂しそうな程込み上げるそれから全力で逃げるように、喉が擦り切れて出血しそうな程の大声を上げて、

泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて泣いて泣いて泣いて、泣き喚いて、

そして、


「なぁに泣いてんだよ。″英雄″」


唐突に鼓膜を震わせた声に、渚はぴたりと泣くのを止めた。頭を雑にくしゃりと撫でた温かい手の感覚に、異様に落ち着きを覚えて見上げる。


どこからともなく現れた葛木はへたりこんだままの渚を跨いで靴を脱ぎ、ヒロの部屋に上がり込み、怠そうな仕草で見渡して頭を掻いた。


「酷ぇな……。しかも場所も分かんねぇときやがったか」

「上司のおにーさん」


渚は体裁すら保たずに顔を拭って立ち上がり、何がなんだか分からないという混乱を拭えない瞳で、真っ直ぐに葛木を見据えていた。


「草津。お前はここで待ってろ。流れ弾で死なれでもしたら時枝に合わせる顔もねぇ」

「…………私も連れて行って。危なくなったらちゃんと逃げるから」

「………マジで言ってんの?お前怖くねぇのか?」

「連れて行って!」


年端のいかない少女のように叫んで懇願し、口と拳をきゅっと閉めて震わせ、瞳を潤わせる渚。


葛木は渚の想像していた以上の剣幕に気圧され、数秒、表情を全く変えないまま目線だけ下にして考える。やがてゆったりと靴を履いて、


「時枝も大変な思いしてんだな………。もしやあいつの強靭なメンタルはここから来てんのか」


渚の脇を通り外に出ると、めちゃくちゃ小さな声でそうぼやいた。


「え?」

「気にすんな。行くぞ。扉閉めろ」

「うん。あ……待って。電気とか消してくる」

「鍵あるか?」

「だいじょーぶ」


ポシェットに入れていた合鍵で施錠し、渚は葛木と肩を並べて、ヒロを探しに夜の道を歩き出した。生存に関わる可能性がある状況のため、やや早歩き気味だ。


無言で歩く2人。


やがて葛木は前を見たまま、ほんの少しだけ微笑ましいというように暖かく笑って、


「『ヒロが居ないとどう生きればいいか分からない』、か………。俺も1回は、そんな風に言われてみたかったもんだよ」

「え………?聞いてた?もしかして」

「あんなにでけえ声で叫んでるのが逆に誰に聞こえねぇんだよ」


呆れたように笑う葛木の口調に、渚は口をパクパクさせながら、受け入れ難い現実を無理やり直視させられ、たちまち顔を沸騰させた。


恥ずがぢい………!


今日、何回恥ずかしい思いすればいいの?

もしかして、神様までサディスト?


しかし、そんな赤面もすぐに元に戻り、浮かない表情で横の葛木を見つめ、


「…………私、ヒロに出会わなければ良かったのかな」

「何で?」

「好きって思えば思うほど空回って、ヒロに迷惑を掛けちゃうから……。今回もそう。私がいない方がヒロは幸せだったんじゃないかって」


突拍子もない恋愛相談に、葛木は腕を頭の後ろで組みながら神妙な顔つきで空を見上げる。


「………何か言ってよ」

「もう少し聞かせろよ。何も言えねぇよ今のだけじゃ」


乱暴な物言いに渚はムッとして、眉を吊り上げ、口をへの字にして葛木の顔を見上げた。

それを見た葛木はやっちまったと言わんばかりの顔をして、逃げる横目が明後日の方向へ。


「じゃあ聞くけどよ。草津はどんな男が好きなんだ?」

「んー。よく聞かれるけど、恋愛ならやっぱり………『優しい男』が好き。『優しい男』じゃなくちゃ、好きになれる訳なんかないよねー」

「あぁ。そんな感じするわ。根っこから優しくて、非があったらきちんと謝ってくれて、正直で嘘つかなくて、素直で真っ直ぐで、純粋で、曲がってなくて、気遣い上手で、間違えても怒らずに許してくれる、アニメの主人公みてぇな男が好きだろ」

「うん」

「絶滅危惧種だよ、お前」

「そうかな……。女の子は皆、そうじゃないの?」

「恋バナとかしねぇのかよ」

「ううん。私ずっと一人ぼっちだったから」

「じゃあもう1個聞くわ。時枝を好きになった理由もそこか?」


私が、ヒロを好きになった理由?


『あの!!草津さん!』


渚は脳裏に永久保存されたデータを瞬時に引っ張り出し、今となっても全く色褪せることの無い、桜の舞い散るあの日の記憶を鮮明に思い浮かべる。


「恋愛って結局2人のコミュニケーションだからさぁ。片方の自己満でするもんじゃねぇんだよ。お前らは何故寄り合った?そこにあった気持ちがブレた時に、上手いこといかなくなるんじゃねぇの?」

「…………」

「人生は良くも悪くも、自分の思った通りになっていくもんなんだよ。お前が募らせた好きって気持ちがトリガーになって、逆に思わぬ方向へズレていくことだってある。はたまた原因は時枝かもしれねぇ。そこは分かんねぇけどな」


どうして、………寄りあったか。



『1年生の頃から草津さんのことはほぼ毎日見かけてて知ってたんだ』



『俺はずっとコミュ障でさ、いじられてるだけ。いつも人と話すとき緊張するし、恥ずかしくてみんなみたいに上手く喋れない。だから本当は、1人でいるのが好きなんだ』



そうだ。私は、ヒロをすごく尊敬して。


気づけば渚は足をピタリと止めて、目の前、正面はるか遠くへ目線を馳せたまま立ち止まっていた。


「まぁでも、理屈で解決するもんなら誰も苦労しねぇからさ。ここは風に任せて………っておい。草津?大丈夫か?草津ー?」


もはや葛木の声すら、今の渚の耳には届いていなかった。


……………上手くいかなくなったのは、私が『悪魔になってやる』なんて、誓ったから。ってこと?


『やっぱり、僕と渚さんは『同じ』だったんだね』


渚は葛木の言葉と小圷の言葉が脳裏に蘇り、探し物を見つけたように大きく目を見開いた。



------------------------------



「な、何なんだよありゃーーーーーー!」

「うわぁーーーーーー!にげろーーー!」

「怯むな!依然こちらが有利だ!撃て!撃てーーーー!」


完全に火の海と化したアニメショップ。その黒煙から姿を現したのは、決して逃れられない悲しみを背負い、両目から涙を流す鳴上だった。


「まどかたんが………完全に灰になってしまった………」


もはや夜空すら紅く燃やし尽くされて、空気は有害物質で満たされていた。決して人が侵入してはならない、地獄と呼ぶに相応しいその光景の真ん中に、鳴上はいた。


ハジメの派遣したエージェント達はその総力を鳴上単体に割きつつあった。

鳴上の視界にはもはや数えようとすることすら憚られる程の数の武装エージェント達、両手両足の指の数では収まらない数の戦車や兵器が現れ始め、地球人に危害を加えるUMAの迎撃でもしているかのような絵面となっていた。


「何がしたいのだ?己ら。拙者への嫌がらせのつもりならもう止めては貰えないだろうか。拙者はもう既に、立ち直れないほどのダメージを受けたでござるよ」


鳴上は涙ながらに、悲痛に満ちた声でエージェント達に訴えかける。しかし、四方八方からの攻撃が止まる気配は無い。


左から無数の銃弾の嵐。


右から対兵器用レーザー光線。


正面からロケットランチャー。


天空から爆撃機によるミサイル投下。


「撃てーーーーーーーーーーー!」


そして次の瞬間に鳴上を襲ったもの。それは風だ。

ここで言う風というのは『銭湯のシャワーを好みの温度まで上げようとするも間違えてMAXにして浴びてしまい火傷させられる熱湯』を冷水に感じさせる程の熱さを帯びており、尚且つ、『学校も交通機関も数日の間休校・運休になるレベルの台風』では全く足りない程のデカさをもち、『研ぎたての日本刀』がショボく感じてしまう程の切れ味を秘め、『マグナム弾』が小指で弾かれた程度に感じる程の破壊力を抱え、『光』が遅く感じる程のスピードを持った突風だ。


つまり今鳴上が突っ立っている場所に常人が立てば、その次の瞬間には全身、骨の髄まで残らず全て木っ端微塵になり、何が何なのかを理解することも出来ないまま灰になり、しゃれこうべすら残らない事はもはや誰にでも想像がつくだろう。


しかし……………………


鳴上は常人ではなかった。


「何なのだこれは?………ぬ?さっき食った唐揚げの繊維が詰まってるでござるな………」


迫り来る死の風を目の前にし、驚きに目を見開いた鳴上だったが………ふと思い出したように口の中に指を突っ込み、奥歯の間に詰まった唐揚げの繊維をごっそり爪で取ると、それを向かい来る神速の突風へ向けて、指を弾いて飛ばした。


次の瞬間。




飛ばされた繊維は………………『地上の極大ふたご座流星群』と化し、煌めいた。

2歳児が手に持った玩具を無邪気に揺らすかのように軽々と大地が揺れ、夜のはずである現刻において天が眩い光に包まれて数秒青空を見せる程の白い光を放ち、鼓膜が塵と化す程の轟音が鳴り響き…………


鳴上へ直進していたはずの突風は壁にぶつかったかのように捻れ上がって、瞬く間に全て反対方向へ爆散した。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁあーーーーーーーーーーー!」


死の風をまともに浴びる羽目になったエージェント達は戦車や兵器、ヘリコプター諸共全て灰になり………


数分が経過して、辺り一帯が『夜』の雰囲気を取り戻し始めた頃には、鳴上が踏みしめている元々アニメショップであった残骸と綺麗な星空以外に、もはや何も残るものは無いのだった。


そしてその光景を静かに、虚しげな表情で眺めていた鳴上は………やがて輝く天の星を見上げ、勇気と力を宿した表情で上げた拳を握り、


「……………拙者は挫けぬッ!明日、また別の店にも足を運んでみよう。辛くとも歩き続ける事が出来るのだ。何故なら拙者は………柔道を嗜んでいた″漢″なのだからな」


″漢″ 鳴上は再び、希望を見出せし明日へ向けて、どこか重たい足を踏み出したのだった。


雑木林の付近を通りかかった鳴上は、聞き覚えのある犬の鳴き声を聞きつける。何か違和感を覚え見に行くと、エージェント達の奇襲により倒れ、今にも命の途絶えそうな柳を発見した。


「柳殿!今すぐ運ぶ。息絶えてくれるなよッ」

「………ぅ………」


鳴上は柳を肩に軽々と乗せ、サリーと共に病院へ走り出した。





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