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私は頑張るあなたの味方!  作者: #N/A
第5章(改修中)
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第68話 僕は狩人なんだ

小圷邸。

前日に迫ったパーティに向けての事前練習のため、再び縹色のドレスに着替えた渚。華々しく美しい自身の姿とは対照的に眉をひそめ、表情には罪悪感に苛まれるかのように影を作っていた。


そんな様子を見た羽織が、渚の顔を覗き込み、心情を染み入るほど理解出来たかのように目を細め、煌びやかに輝く渚の背中を優しく摩った。


「渚ちゃん。大丈夫?」

「は……はい……。多分……」

「色々あるのは分かるわ。だけど風向きは必ず変わるものだから」

「…………」


渚はそれでも迷いの拭えない表情で、小圷に手渡されたペットボトルの水を飲み干した。


「ほら。行っておいで」


それを見届けた羽織に背中を押されるがままに、渚は玄関の戸を開けて外へ出た。緑と青に満ちた、広々とした庭。

視線の先、噴水の傍では既にタキシードを来た小圷が、待ち構えるかのようにこちらを見て待っていた。その表情は普段と何も変わらない穏やかな、洗練された美男子の笑みだ。


渚はお母さんに怒られた後の子どものように眉をひそめて、小圷の前に………ゆっくりと、ゆっくりと歩み寄る。

小圷は目の前にやってきた渚の頭頂部に、改めて王冠型の髪飾りを、丁寧で繊細な指使いで付けた。

そしてあろうことか渚の両肩を掴み、ぐいっと顔と顔を近づけた。鼻と鼻がぶつかりそうな程の距離感で、


「うん。やっぱり渚さんが世界一だな!僕のものにしたい……。僕のものになってよ」


渚はたちまち紅潮して小圷の目を見つめ返すが………やがて赤くなったまま口をへの字にして、どこかほんの少し不満そうにぷいっと目を逸らした。


ずるい。本当に、ずるいよ……。

私達のあの動画を最初から最後まで見ておいて、いつも通りに振る舞うなんて。


私はもう、小圷君とどんな顔して話せばいいかも分からなくなっちゃってるのに。


「小圷君……」

「渚さん。下の名前で呼んでよ。僕の名前は『はじめ』だ」

「ハジメ」

「大切にするよ。渚さんのこと」


肩をホールドし、手を握り合う。ジャージで少し練習した通りに息を合わせ、軽やかにステップを踏む。人生初の社交ダンス。


ほんの少しずつ、少しずつ、出来るようになっていく。

遠い世界だと思っていたものに、近づいている。


「どうして私なの?………きっとハジメは、ハジメじゃなきゃダメって言ってくれる女の子と出会えるよ。前と雰囲気変わって、優しくなったもの」

「何も分かってないな。僕は狩人なんだ。追いたいんだよ。狩人が狩るのを辞めてなにが残るのさ」

「私が獲物って言いたいわけ?」

「うん。絶対逃したくない」


絶望的に運動が苦手な渚は、ほんの少し身体を仰け反らせるだけでも若干の痛みを伴うレベルだったが、しっかりと柔軟体操をして下準備をした身体は、少しずつ着実にダンスの動きに慣れていく。


ヒールにも慣れてきたような感覚を得て、やがて『楽しい』という感情に変わっていく。


「狩りをして、仕留めるつもりなの?私の事」

「そうだよ。いつ渚さんが僕のものになるのか、楽しみで仕方ない」

「出来るのかなー?ハジメなんかにそんなこと」

「必ずしてみせるさ」


踊り終えて、顔を合わせる。渚は呼吸を乱しているが、ハジメは一切の呼吸の乱れもない。八重歯を見せ、野心に燃えながらも暖かなハジメの瞳を見て……渚は慈しみに満ちた微笑みを見せた。


「あぁ、そうだ。ちょっとこっちに来てよ」

「? どこに行くの?」


ハジメが手を引いて連れてきたのは、白い壁の目の前。ポケットからスマホを取り出したハジメは、壁を背景に渚の写真を撮り始める。


「ま、待って!何で」

「何でって。せっかくドレスを着たんだから記念写真くらいあった方がいいだろう。前回は撮れなかったし、パーティ当日は思い通りのが撮れるか分からないしね」

「写真………確かに撮ってもらいたくなくもないけどさ。うーん……」

「………あぁ、僕は一緒に映らない方が都合がいいって事だろ?大丈夫だよ。僕は映らないし、撮ったらすぐに渚さんに送ってあげるから」


再び恥ずかしさに悶える渚だったが、柄にもなく眉を垂れさげて、頬を紅に染め気弱な瞳を潤わせながら、被写体としての自身を受け入れ始める。


笑顔でカメラマンになり切るハジメに安心しながら徐々に、少しずつ慣れていき………ピースをしたり、頬に手を添えたりできるようになっていく。

そして渚とハジメは顔を寄せ合ってひとつのスマホ画面を覗き込み、撮れた写真をチェックした。


「すっごい可愛い!!可愛いよ!渚さん!」

「ほんとだ。ハジメ撮るの上手だね」

「ねえ。やっぱり一緒に撮らない?」

「えー?」

「1枚だけでいいからさ」

「………うん。1枚だったらいいけどさ……ぁ!ちょっと!」


じとっとした目で渋る渚に食い下がり、許可を得たハジメは即座に、返答して喋ってる最中の渚の肩をぐいっと抱き寄せ、その次の瞬間にはシャッターの音が鳴り響いていた。

かつてないほどに高揚した渚の頬は、ずっと赤くなりっぱなしだ。爽やかイケメンの笑顔のハジメと、紅潮して驚きっぱなしに目を見開いた渚の写真が撮れた。


「一生の思い出だねーこれは」

「むぅ。1枚だけって言ったのに」


1枚という約束はどこへやら、ハジメは渚の腰を掴んだまま離さず、2人で映る写真がさり気なく2枚、3枚と増えていく。

渚も、独り言のように小さくぼやいてそれを黙許していた。本人すら気づかないほどに少しずつ、ほんの少しずつではあるが………身体の奥がゆっくりと火照り、疼き始めるのを感じて。


次第に何10枚撮ったかもう分からなくなった頃には、2人でピースをしたり、抱き合って撮るようになっていた。



------------------------------



あと1時間もすれば日が暮れ始める時間帯となった。ダンスの練習を終えた渚はドレスを脱いでシャワーを浴び、着替え終え、再び招かれたハジメの部屋のソファに座っていた。

意識をどこかに放られたようにぼーっと壁を見ながら、両腕と両足を放り投げて。


まさかまた……この部屋に入るなんて。


ハジメは向かいにある勉強机に向かい、パソコンとスマホを使って巧みに何かを話しながら、頭を掻きむしって唸り声を上げたり、拳を握って『よし』と言ったりしているが………

度々日本語ではない言語を喋り出すため、『仕事をしている』以上の事は何が何やらさっぱりの状況だった。


本棚はその高い天井にも届く高さであり、差し込まれた書籍は丁寧に整理整頓されていた。専門用語だらけのそれはもはや見る気にもならず、渚は一度見て以降目線を向けていない。


ヒロにライヌの返信をして、スマホをポケットに入れたその時だった。

………ひと仕事を終えたハジメが両腕を上げ、身体を思い切り伸ばして震え喘ぎ、机から立ち上がってベッドに勢いよく腰を下ろした。身体がバウンドしたボールのように微かに跳ねる。

そして。


「おいで。渚さん」


ハジメは普段の穏やかな笑みで渚を見つめながら、自身の座るすぐ左横を優しく数回叩いた。

渚はほんの少し迷ってやがて立ち上がると、ハジメの指したすぐ隣の位置に………ではなく、人2人分くらい間を空けた場所に、音を立てずゆっくり、ちょこんと座った。


「…………!きゃ!」

「あぁーー………!これだよこれこれ。サイコー!………ハハ!やっぱこれがないと始まんねーー……!」


しかし………ハジメは容赦なく渚の腕を掴んで引っ張り込み、2人でベッドに寝転がる。前回と違ってきちんと意識のある状態で背後から思い切り抱きしめられた渚は、思わず息を呑む。

仰向けのハジメが下になって、渚がお腹を抱きしめられながらその上に身体を預け、同じく仰向けになる体勢。


「ねー……。そんな事していいなんて、一言も言ってないんだけど?」

「許可をいちいち求めてたら、何も出来ずに日が暮れてしまうよ。時間の価値を理解してるからこそさ」

「もっともらしいのがほんとムカつく」


渚とハジメはやがて枕に頭を乗せて、横向きで向かい合い寝転がる。

渚を抱き寄せて頭を撫でるハジメと………ほんの少し身体を潜らせて、ハジメの喉仏とシャープな首筋の下……鎖骨の溝をゆっくりと優しく指でなぞり、浮き出た部分にそっと指を添え、どこか物憂げに瞳を下げて柔らかく撫でる渚。


「渚さんって性欲強いよね」

「うるさい」

「すごく良い事だよ。大丈夫さ。今日のことも明日のことも、一時の娯楽だと思って忘れればいい」

「………うざ」

「ふが!」


手をハサミの形にした渚は、ハジメの両の鼻の穴に指を突っ込んだ。ツンとする強めの刺激を鼻に受けて悶えるハジメ。その苦痛そうな表情を見て、渚はやり返した感に満足しニヤニヤと笑った。


「ちょっと。鼻水付けないでよねー」

「っごぁ……!もう少し容赦を知ってくれ……」

「やっぱりハジメ君じゃ無理かな?私を仕留めるのはさ」

「ッ!」


指についた鼻水をティッシュで拭き取りながら、楽しげに軽口を叩く渚を………ハジメは強引に押し倒した。

ハジメの表情はスイッチが入ったように瞳が鋭く、呼吸も浅い。両腕を押さえつける力は以前の比較にもならず、渚は掴まれた肩と腕の痛みに思わず顔を顰めた。


「生意気ばっか言いやがって。そんなにお望みなら力加減してやってた事を教えてやる」

「…………!」

「後悔するなよ」

「えっ!?……っあ!痛っ?ご、ごめん」

「まぁいいか?渚さんはこれくらいする方が好きだもんな?」


乱暴にパーカーを脱がされてインナーが露になり、スカートを掴まれ、脱がされそうになるのを渚は阻止しようとするが………その力は、どこか弱々しかった。


「怖い。ま、待ってよ……!ハジメ……」

「挑発したのはそっちだ。何かをしようとする人間には他の人間に何かをされる覚悟も必要なんだよ。もう僕は待てな」


その時、木製のドアが硬いものに叩かれる音を2度鳴らした。

それを聞いたハジメは慌てて渚の上から飛び起き、服を整えだした。渚も切羽詰まった様子で恥じらいいっぱいに頬を赤く染めながら、パーカーに腕を通し、ずり落ちかけていたスカートを履き直す。


やがて入ってきたのは、エージェントのうちの1人だ。急いでいるのか、額に汗を浮かべていた。


「No.4。どうした?」

「ハジメ様。お忙しいところ申し訳ございません。例の件の準備が整いましたので、今晩にでも」

「分かった。良くやった。決行は今晩だ」

「畏まりました」


ハジメとエージェントは笑みを交わし、黒壁はぬるりと部屋を出ていった。きょとんとし、何が何だかさっぱり状態でこちらを見つめる渚を振り返り、ハジメは瞑目し、かったるそうな溜息を吐く。


「お仕置きだな。お仕置き」

「へ?」


ハジメは渚をうつ伏せに寝かせると………逃げられぬようその上にうつ伏せに覆い被さって、スマホを枕に横にして立てかけて、石寺の撮影した動画を一緒に鑑賞し始める。


「ねぇ。この時こっち見てるよね。どういう気持ちだったの?」

「…………分かんない……っ」

「自分だぞ?分かんないこと無いだろう」


何度も、何度も繰り返しその映像を観させられる渚。それも背中にはハジメが重石となっている上に、一緒に楽しむようにして映像を見ているのだ。

羞恥心でどうにかなりそうな渚。首を曲げたり目を瞑ったりするが、不正は上から度々顔を覗いてくるハジメによって、すぐに断罪されてしまう。


「目を逸らすなよ。ちゃんと見るんだ」

「やだ………。こんなに見てたら頭おかしくなっちゃう。バカになっちゃう」


両頬を大きな手で掴まれて、無理やり観させられてしまう2人の光の中。決して逃げることの出来ない責め苦の中で、渚は涙を流しながら………確実に、身体の奥を熱くし、その侵食を快の感情で受け入れていく。


だが、自分のことをしっかりと理解している渚はおかしい点がある事に気づいていた。

…………ヒロとの連絡が取れているにも関わらず、その事象が起きているということに。


そこで思い出したのは………飲んだ水のことだ。ハジメに手渡された、1本のペットボトル。


「ねえ………さっきのお水、何か入れたよね?」

「んん?はて、何の事かな」


すっとぼけた態度のハジメに、結局約1時間もの間動画を鑑賞し続けさせられた。

その後、壁に背中を預けるようにして座ったハジメに、渚も身を預けるようにしてもたれかかる。


ハジメが渚の背中に左腕を回し、『絶対逃がさない』と言わんばかりに肩を強く抱き寄せて……ゆっくりと耳と首筋を撫で上げた。

次の瞬間に渚の全身に、これまで感じたことのないくらいような刺激が走った。全身に張り巡らされた快楽神経をぬるりとスライムのような液体に包まれたかのように、小刻みに震え、込み上げた素っ頓狂な嬌声のまま声帯を震わす。


だめ………!!


やばい。これ。


渚はやがて変な唾液を分泌し始め、本能に抗えなくなり、ハジメの胸に顔を埋めて深く全身を預け始める。

ふぅ、ふぅと息を荒くして両腕をハジメの体躯に絡めると、目の前には先程撫でた、浮き彫りになった鎖骨があった。

再び鎖骨に指を滑らせると、鼻を押し付けて空気を吸い上げ、その匂いを欲望のままに鼻奥に焼きつける。


渚のあられもない姿を、ハジメはほくそ笑んで見下ろしている。


「渚さんと一緒なら何でも出来そうだよ、僕」

「………そっか?」


舐めたい。この鎖骨をこの世で最も下品に、浅ましく、私の舌の全面積を余すことなく這わせ、仮に軽蔑の目線を浴びせられようともものともせず、狂ったように、しゃぶるように舐めたい。

本能がそう言っている。頭のてっぺんから足の爪先までに至る全ての細胞が、今すぐにこの鎖骨を舐めろと金切り声にも近い絶叫を上げている。


四つん這いで鎖骨に夢中になっている事により、無防備に、隙だらけで突き出されている渚の可愛らしい臀部。ハジメは右足を上げて踵を臀部左側に着地させ、ミニスカート越しにグリグリと躙り、弄んだ。

骨の髄から産毛に至るまで全身という全身が敏感になっている渚はハジメの鎖骨に鼻を押し付けたまま、体躯を小刻みに激しく震わせ、どこから出たのか想像もつかないような声を上げる。


「っう″!♡」

「僕が素敵だと思うだろ?相性も合うよね、僕たち」

「…………っ♡ うん………♡ それはきっと、そうッん″ぅ♡」


99%の本能が侵食されて、残りの1%の理性が………今にも開こうとする口と、涎まみれの舌が伸びようとするのを崖っぷちで防いでいた。


「僕と一緒に生きていこうよ」

「………ヤダ」

「絶対に幸せにするからさ」

「…………………ぜったい、ヤダ♡」


かたい。いい匂い。


もう、何も考えられなくなりそう。



------------------------------



理性でハジメを蹴り飛ばして、再度シャワーを浴びて廊下を歩く渚。


ロビーを通りがかると………収集させられた、約100名以上のエージェント達。そして寸分のズレもなく整列して見せ、目の前にいるハジメを見つめていた。


「渚さん。君もおいで」


渚は何故かそのハジメのすぐ横に居させられる事となり、服の裾を掴み、後ろに隠れるような体勢を取っていた。


「いよいよ作戦決行の時だ。あの時の無念を今こそ果たし………明日のパーティを迎えるためにね」


鳴り響く拍手喝采。渚は異様な熱気と自身との温度差に、苦笑いをするしかない。


やがて1人のエージェントが玄関の大扉を開き、1本の縄を引いて戻ってきた。その縄に腹と両手を括られて俯き姿を現した面々に、


「え!?」

「使える駒は全て使うのが僕の主義だ」


渚が驚愕に眼を見開いた先には………

路地でハジメが完膚なきまでにボコボコにした4人組の男性グループと、渚を拉致しようとした石寺の、総勢5名。まるで指名手配された犯人達が捕まって報道されてるかのような絵面で、エージェント達とハジメの目の前で足を止めた。


「何でここにいんの……?この人達」

「こいつらも連れて行く。渚さんは安心して、ここで待ってればいい」

「待っててって言われても……なんか怖いよ」

「そういえば。渚さんには僕がどんな仕事をしているのか、この機会に見て欲しいんだ。ビデオ中継のURLを送っておくから、そこから覗いててくれ」


戸惑い一色の渚の顔を爽やかな笑顔で見下ろして………前を向いたハジメの瞳はやがて、激しい怒りを孕んだ。


「関係者は今晩全て葬る。僕の全てを使ってね」


復讐の夜が、幕を開けようとしていた。




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