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第27話 岐路①

深夜2時。


重要なプロジェクトの進行を任され、会社に寝泊まりする生活が始まった。休みも返上の日々。忙し過ぎて渚のお見舞いに全然行けねえ。


連絡すらろくに返せない。仕事は毎日深夜の1時過ぎまでで体力も既に限界。行きたい。お見舞いに行ってあげたいしそろそろ電話もしてあげたいんだけど、全然暇が出来ない。翻弄されている。渚が同じ地上に生きているのかも分からなくなる。


そろそろ退院の頃だろうか?ごめん。眠過ぎてもうダメだ。必ず朝連絡を返すから。


このタイミングを見計らったかのように着信でスマホが鳴った。渚から電話だ。


『お仕事大丈夫?』

「どうにかこうにか。ごめん。今日は絶対行くから」

『ううん。ごめんね、眠たいのに。でも今日は絶対来て……。渡したい物があるから』

「そうなの?分かった」


今日は絶対行かないと……。



------------------------------



10:00。街中。


「ンーーーーーーッ!!!!wwww 本日の営業も順調でござるなァブッヒヒヒwww」

「僕らのコンビなら当然でしょう!!w さぁ!!w 次の場所へレッツ?ラ?グォwwww」


鳴上と須藤は2人並んでスキップをしながら営業周りをしていた。鳴上が持つ小さな小包に興味を示した須藤が声を掛ける。


「ところで鳴上氏。さっき雑貨屋で買ってたそれ何なんです〜?」

「む?これは………そうだな。『運命の行く末』を見届け、完成させる………非常に大事なアイテムでござるよ」


腕をまくりドヤ顔でマッチョポーズをしながら小包を見せびらかす鳴上。須藤はピンと来たように目を見開いた。


「女」

「ふむ。間違いではない」

「な、何ィーーーーーッ!!!!とうとうッ!?甘目まどか一筋だった其方が″″″″″″″攻め″″″″″″″に回るというのかッ!?鳴上氏………!!!それもまた『運命』、という訳ですかな?ヌフ……w」

「ヌフフ……………wwww 心躍るでござるなぁwww まぁだがな。今回のこれは拙者の攻めでは…………」


その瞬間、ぴょん、と飛んだ通りすがりの猫が鳴上の手に持つ小包を咥え奪い、走り去ってしまった。


「なっなぬぅーーーーーーッ!!!!wwwwww ま、待てェェーーーーーッ!!!!!wwwwww」

「鳴上氏の攻めのアイテムを奪ったその罪ッ!!その″″″″″″″身体″″″″″″″を持って償って貰おう、カナ?カナカナ?wヒラガナ?w カタカナ?w」


鳴上と須藤は気色の悪い猛ダッシュで猫を追いかけた。猫も全力で逃げているため相当なスピードであるが、何故か2人もそれに匹敵するかそれ以上のスピードで追いかける。


歩道橋を登っていく猫。鳴上と須藤は挟み撃ちする作戦を0.00003秒で思いつき連携し、あっという間に猫は追い詰められてしまった。


猫は歩道橋から飛び降りた。鳴上はあろう事か追いかけるように飛び降りて、ひょい、と猫と小包を拾い上げる。


「ま!!不味いぞ鳴上氏!!!」


歩道橋の上から鳴上に向けて、須藤が叫び声を上げた。


ブブーーーーーー!!キキキキキーーーーッ。


高速で走る大きなバスが、鳴上のすぐ目の前まで迫っていた。


大きな音で響き渡るクラクションと急ブレーキの音に、鳴上はゆっくりと振り返った。


「五月蝿いッッッッッ!!!!!!!!」


ドゴオオオオオォォォォォォォン!!!!


とてつとない衝撃と轟音と共に砂埃が舞った。野次馬がざわつき周囲に集まり始める。須藤は咳払いをしながら歩道橋の下を眺めた。


「う……嘘だろ……?鳴上氏……」


たちまちに青ざめる須藤。まさかこんな事になるとは、と頭を抱える。


しかし、鳴上は1歩もそこから動くことなく腕を伸ばし、バスを手で止めていた。衝撃で逆にバスが凹み、フロントガラスが無惨に割れていた。猫は小包を置いて、逃げるように走り去っていった。


「拙者はこう見えても柔道を嗜んでいた者。この程度で傷つきはせぬ」


鳴上は大事そうに小包を手に持って決め台詞を呟いた。フッ、と下に目線をやると、チャックが開いている事に気づいた。鳴上は静かに、厳かな動きでチャックを閉めると、バッ、と後ろを向いてダッシュで逃げ出した。須藤もそれを追いかけて走り出す。


「にッ!逃げろ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!www ドライブレコーダーに拙者の″″″″″″″パンティ″″″″″″″が記録されてしまう、その前にッ!!!!!wwww」

「手遅れな気がするぞ、鳴上氏ッ!!!wwww」



------------------------------



12:00。


ヒロが血相を変えながら仕事をする姿を陰に隠れて見つめるうーさんに、柳が背後から声を掛けた。


「ひろしがそんなにきになるの」

「! ……みかちゃん?」


表情が曇りきっているうーさんに、柳は心配そうな眼差しで見上げた。


毎日フラフラになるまでこき使われ、それでも。怒られても辛い思いをしても。職場を駆け回り活躍するヒロの姿に、うーさんはズキズキと胸を痛ませた。


柳もうーさんの隣に並んでヒロを見つめる。


「ふふ。まえからおもってたけど、おととしくらいまでのうーちゃんにそっくりね」

「…………ううん」

「?」

「私が教わったんだよ。ひーくんから」


覚悟を決めるように、うーさんは不思議そうな目で自分を見つめる柳の方へ真っ直ぐ向き直り、重く口を開いた。


「もうそろそろ、監査って終わりだよね。………お願い。みかちゃん。本社に帰る前に、ひーくんの為に私がしてあげられる事を教えて。私が考えても、上手くいかなかったから……っ」


頬を少し赤らめ泣きそうな瞳で、声を振り絞るうーさん。柳は目を瞑ってしばらく無言で考え、ハッ、と目を見開き指をパチンと弾いた。


「だいじょーぶ。いいほうほうがあるわ」



------------------------------



同日16:00。

この調子で終われば渚に会いに行ける。あと少し、頑張ろう。


しかし、葛木さんがもううんざり、とでも言わん表情でフロアに降りてきて空気は一変する。


「時枝ぁ。必要な書類が増えた」

「えっ」


致死レベルの量の仕事。精神と時の部屋をひとつお願いします。この時間からで終わるのか?いや、終わらないよな………。


いや!終わらせるしか、無い!!



------------------------------



20:00。病室。


「ストップ!w ストーーーーーップ!!www それは重要なプレゼントでござろう!投げちゃダメでござる」

「いやだ!やだ!!離して!どうせあいつ今日も来ないじゃん!!そんなに仕事が大事!?私よりも仕事が大切なんだ!へ〜〜〜〜っ!そりゃ良かった、ねっ!!」


ベッドに横たわる渚が手に持ったプレゼントの小包をぶん投げようとするのを、代わりにお見舞いに来た鳴上が必死に止めた。しかし渚の抵抗は激しかった。


「今は体調も悪化してるのだから落ち着くでござるよ!!時枝殿は今かなり重要なプロジェクトを任されてしまったのだ。またタイミングを改めて」

「そうやって一生働いてろ!!〇ね!〇ね〇ね〇ね〇ね〜〜〜〜!!!」

「ヴォッフ!??ちょw そこはw そこは蹴っちゃダメでござるッフォ!?!グォッフォ!?アッ!何たるご褒美ッ!!ウゴッフォ!!」


鳴上は渚に思い切り〇間を蹴られまくってしまい、見える走馬灯に手を伸ばしながら倒れ悶絶している。


ぜぇ、ぜぇ、と息を荒らげながら、渚は鳴上が持ってきてくれた小包を見つめた。


渚はずっと密かに鳴上と連絡を取り合い、沢山お見舞いに来てくれたヒロへのお礼のプレゼントを考えていたのだ。


絶対にヒロを喜ばせると強く決意した渚。色々案が出て協議は難航したが、結論ヒロが大好きな猫のマスコットのキーホルダーをあげることになり、鳴上にお願いして遂に用意する事が出来た。しかし、何故かここ数日ヒロがお見舞いに来なくなったことで渡せなくなってしまった。体調が悪化したのもヒロが来なくなった辺りからだった。


ヒロがこれ見たら、喜んでくれると思うのにな……。


その時ズキン、と頭の痛みを感じた。やっぱりどんどん悪化してきてる。


「………来てくれるって、約束したのに」


渚は寂しそうに、すぐ側のテーブルに小包を置いてベッドに横たわった。


23:00。

結局ヒロは来なかったし連絡も返ってこない。


…………ヒロ………。ヒロ。


ヒロと撮ったツーショット。思い出に必死に縋っていた。


その時、渚のスマホに久しい人物からの着信があった。




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