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第11.5話 人は自由に生きるべきなんだ

※ヒロ過去回想

───────────────

────────

……………



俺は早歩きで家を目指しながら、小さく俯き卑屈な感情に歯ぎしりをしていた。


もう、ダメだ。


もう、正気じゃなかった。渚にあんな態度を取って。


違う。俺なんかが話しかけられるべきじゃない。


運動も勉強も大したことない。顔もかっこよくないし、話すのだって得意じゃない俺なんかが。

あんな可愛くて素敵な女の子、俺なんか仲良くしてて良い子なわけない。


ボコン。


家の前に辿り着いたその時、どこかから放り投げられたであろうボールが俺の顔にぶつかった。


「ごめんなさい〜」


小さな男の子。10歳くらいかな?


横を見ると、キャッチボールをしていたであろう男の子2人が俺に頭を下げていた。


俺は大丈夫だよ、と言おうとしたが、言う前に子供たちは怯えたような表情で去っていった。どうしたんだろう。


下を見ると、父から譲ってもらってずっと掛けていた黒縁眼鏡がボールにぶつかった事で無造作に落ちていた。


…………ああ。目が悪いから。細くなった目を見て、睨まれたと思ったのかな。


頭がじんじんと痛む。まるで今心が痛み続けているように。


俺はその場で眼鏡を拾うこともせず、眼鏡を見つめて立ち尽くした。


人の役に立ってそれが何だ。


今俺はこんなに小さくて卑屈で、醜い。褒めて欲しいとわざわざライヌをくれた子に、褒め言葉のひとつすらまともに送ってやれないんだ。


父さんは俺にこうなって欲しかったのか。


憎たらしくて仕方がないそれを、俺は何度も壊そうとして壊せずにここまで生きてきた。


歯をきつく噛み締めて眼鏡を睨む視界が、悔しさの涙で滲んでいく。


くそ。くそ…………!くそ!!


ガシャーーーーン!!!!


??


突然視界の外から現れた足が、眼鏡を木っ端微塵に踏み潰した。間違えたとかではない。明らかにそれを狙って力強く踏み潰した。


顔を上げるとさっき拒否したはずの渚が、いつの間にか俺の目の前に立っていた。


身体が動かない。だけどそれは恐怖じゃない。


俺とは全く正反対の女。ただただ衝撃的な、その行為と光景に目を奪われた。


「ヒロの邪魔しないで」


小さな声だったが、渚は粉々になった眼鏡を冷たく見下ろしながら低い声ではっきりとそう言った。


そして渚は、今まで見た中で1番嬉しそうに無邪気に笑って振り向いた。


「んー。やっぱりヒロは眼鏡無い方が似合ってるし、カッコいいよ」

「渚……?なんで」

「今度コンタクト買いに行こ?」


呆然とする俺に、渚は構わず目の前まで歩み寄ってきて言った。


「何悩んでるか知らないけど、人は自由に生きるべきなんだよ!ヒロがヒロ自身を壊しちゃう、その前に」


そう言って薄く笑った、渚の目の奥は真っ黒で。


その場しのぎで取り繕おうとしても嘘をついても、この目が全部見抜いて来るんだろうって、そう思った。


どうしようもなく図々しく自分勝手で、どうしようもなく可憐なその姿に。


俺は、恋に落ちた。




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