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3島理論の主要点

作者: 板堂研究所

 北方4島に関しては、もともと1855年の日露和親条約にて我が国の領土と画定した経緯があることから、日露交渉において歴史・政治的アプローチが支配し、両国は歴史を紐解いておさらいし、特に第2次世界大戦の帰趨を根拠に、自国の立場を繰り返し主張してきたものと見られる。

 その際、江戸時代からの千島列島探訪、領土的な主張の萌芽、国境画定のための累次の日露条約締結(特に1855年の日露和親条約、1875年の千島樺太交換条約)、更に日露戦争、第2次世界大戦、サンフランシスコ平和条約、日ソ共同宣言等を網羅し振り返るのが常だったに違いない。

 しかしそれだけでは毎回、同じ議論が展開されるだけで、うまく日露交渉決着のきっかけが見つかるとは思えず、この問題は到底解決しそうにない。更に言えば、「2035年問題」の存在これあり、時間は必ずしも味方とは言えず、早期決着が日本の利害に適いそうである。

 以下は、「海底の地形」との全く異なる発想により分析し直し、早期解決に導けないだろうかとの問題意識による。(2008年頃より、板堂研究所にて検討を積み重ねてきたもの)



 1.北方領土交渉は、時間的制約もあり、相互に歩み寄るべし。



(1)ソ連が北方4島を占拠した1945年夏から既に70年経ち、4島のロシア化が進んでいる。これは、2009年に完成されたサハリンIIのLNGプラントから得られるエネルギーや資金を根拠としている。


(2)このまま時が過ぎれば、ロシア化がますます進むのみならず、統治年数の比較において、2036年にはロシアが(1945年から数えて)91年、日本が(1855年~1945年までの)90年と日ロの逆転現象が起きるので交渉上、有利ではない。


(3)日ロ間の領土問題は、平和条約締結と連動しており、領土問題の解決なくしては、平和条約も実現しない。平和条約は、日本の北方の安全保障のみならず、ロシアからの安定的なエネルギー輸入や極東の経済開発とも深く関係する。


(4)ロシアのプーチン大統領は親日家として知られ、「引き分け」に言及する等、問題解決に大きな関心を寄せてきたので、彼の在任中がチャンスであり、これを逃さないことが重要。


(5)島の返還に加え、漁場として重要な周辺海域(200海里の排他的経済水域・大陸棚)の返還が期待されるので、積極的に受け入れ可能な妥協案を探るべし。



 2.択捉に関し、次の理由からロシアは当面、手放さないだろう。


(1)補給基地かつ前線基地


(ア)千島列島のうち北方4島には、約1万6千人の住民がいるが(択捉に約6千)、択捉から北東方向に連なる島々、すなわちウルップ島から(カムチャッカ半島すぐ南の大きな島である)パラムシル島に至るまで、全て無人島である。


(イ)北方4島最北の択捉には、サハリンや大陸ロシアとの空路を確保するための空港もあり、千島列島の南部における最大の補給基地である。このためロシアとして千島列島を統治し、管理・運営する上で、択捉は今のところ不可欠だろう。


(ウ)また択捉は、千島列島の島々をそれぞれ隔てる一連の海峡(太平洋からオホーツク海への出入り口)を見張る前線基地であり、大変に重要。



(2)千島列島を通過するロシア船にとって便利なのは、国後・択捉間の国後水道、また択捉・ウルップ間の択捉水道。根室海峡は、使いにくい。


(ア)潜水艦を含め、ロシアの船舶がサハリンの港から出発し、オホーツク海を経て太平洋に出る場合、千島列島を通過する経路となる。


(イ)海峡を選ぶ基準は、間口が広く、十分な水深があること。サハリンからあまり回り道せずに済むこと。また航行中の問題発生を想定し、港湾設備の整った島に近いことが挙げられる。北海道・国後間の根室海峡は、水深30メートル以下の部分が多く、北海道の東海岸沿いでは5~10メートルの個所も。航行には細心の注意が必要。


(ウ)冬場は、アムール河に端を発する流氷が、オホーツク海に広がり、サハリン島を徐々に取り囲む。そして南下して千島列島周辺の海を覆うので、砕氷船が必要となる。根室海峡や国後水道は、流氷に覆われやすいので、流氷の来ない(択捉・ウルップ間の)択捉水道が、最も安全かつ便利。


(エ)特殊ケースとしてウラジオストクを母港とするロシア太平洋艦隊が、潜水艦を含め、千島列島を通過する場合は、日本の領海や接続水域をできる限り避けるとの条件が加わるだろう。日本側から直接、観察されやすい海域や海峡も避けたいに違いなく、根室海峡は、北海道東部の日本側海域に隣接するので、公船は使いにくい。


(オ)1956年の日ソ共同宣言のラインで、歯舞・色丹の返還が実現した場合、根室海峡や国後周辺の船舶航行は、ますます複雑化しよう。



 3.歯舞・色丹・国後の3島は「Greater北海道」の一部



(1)北海道と上記3島周辺海域の地形まで考慮すれば、歯舞・色丹・国後は、明白に北海道とつらなる地形「Greater 北海道」と認識される。


(ア)北海道から見た太平洋やオホーツク海は、領海12海里を離れる辺りで急に深くなり、100~200メートルに達してしまう。


(イ)他方、北海道と歯舞・色丹・国後で取り囲まれる小さな海域(「ワニの口」)は非常に浅く、深い地点でも水深20~60メートルにしか達せず、大陸棚を構成する。

 従って少なくとも国後に関しては,歯舞,色丹同様,北海道から延びる大陸棚上にあり、北海道の一部なので日本に返還されるべき旨主張できよう。


(ウ)ちなみに旧石器時代に相当し、ナウマンゾウやマンモスがいたとされる「更新世」(約258万年前~約1万年前)まで遡れば,当時は氷河期で、海面が現在よりも100~120メートル低く,日本列島は大陸と陸続きだった。


(周辺海域の水深から判断するに,当時「ワニの口」は干上がり、歯舞・色丹・国後は北海道と陸続きで,「Greater北海道」を形成していた。この辺の経緯に関しては、例えば2016年に発行された海部陽介氏の著作「日本人はどこから来たのか」中の図表5-4から5-6に如実に表れている)


 その後、約1万年前から「完新世」となり海面が急激に上昇したため、日本列島は大陸から切り離され,現在の形に収斂した。(この頃から新石器時代あるいは縄文時代に移行したとされる)


(2)他方、国後・択捉間の国後水道は、最深の地点で500メートル近くに達し、そこの亀裂を境に千島列島が分割されている。そのため「更新世」でも、国後水道は干上がることなく海峡として存続し、北海道・歯舞・色丹・国後を包含する「Greater北海道」と、択捉を起点として東北方向に連なる千島列島の島々は、陸続きとならなかったことが窺われる。


(3)この様に歯舞・色丹・国後の3島は、日本固有の領土としての性格が特段に強い。従って我が国として最も高い優先順位を付すべきは、右3島の返還だろう。


(4)なお以上の議論に関しては、「日本の領土一般に関する、他の隣国の主張にも照らし、大陸棚だけを根拠にするのは、逆用されかねないので望ましくない」との主張もあり得ようが、「ワニの口」の特徴は、水深が極端に浅いことであり、下記の通り、太陽光線が海底まで届く様な海域が対象の沿岸漁業者にとり、意味合いが深いことが指摘される。従って是々非々の議論が望まれるところである。



 4.漁業興隆の視点


 根室をはじめ北海道の港を基点とする漁業興隆の観点からも、北海道に最も近い3島(歯舞、色丹、国後)の返還が重要。


(1)3島に囲まれた「ワニの口」の形の海域は、水深が50メートル以下と浅く、昆布やウニ、ホタテと言った獲物を対象とする沿岸漁業に適している。他方、「ワニの口」の外側は水深が急に深くなり、このような海洋生物は急激に減少するので、沿岸漁業者の関心の対象から外れるだろう。従って彼らの利益を考慮すれば、3島の返還が重要と考えられよう。


(2)国連海洋法条約を根拠とした排他的経済水域(基線から200海里のEEZ)及び大陸棚等、3島周辺海域の管轄権を意識すべし。


(3)歯舞・色丹は太平洋側に開けており、返還されれば太平洋側のEEZや大陸棚も日本に復帰するが、そこは世界3大魚場の一つである。


(4)国後をはじめ3島を遡上する鮭資源は、貴重。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >そのため「更新世」でも、国後水道は干上がることなく海峡として存続し、北海道・歯舞・色丹・国後を包含する「Greater北海道」と、択捉を起点として東北方向に連なる千島列島の島々は、陸続き…
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