06不幸な人
ホテルに戻った俺は、今日のことを先輩にメールした。
返事はすぐ来た。
”ただのテロではなく、中国政府が関わっている”
”政治的な解決が必要になったということだ”
”ひとつ間違えば、日中関係は最悪になる”
”なんにしろ、お前の出張は早く終わりそうだな”
”土産は東京駅でも買えるが・・総務への土産はそんなのでいいのかな~?”
むぅ・・情報が多い。
とりあえず一番大事な総務さんのお土産をどこで買うか調べることにした。
・・
・・・・
ほわんほわんほわ~ん
終わらない腐敗。さらなる増税。格差は増えるも政府は都合の悪い統計を隠し続ける。
しかし実体経済は現実を映す。
給料より商品の値段ばかり増え続けるスタグフレーションに、社会の不満は高まっていく。
どれだけ不幸な人による殺人が起ころうとも、誰も不幸な人を救わない。
個人の犯罪は増え、その一部は徒党を組み暴動を起こす者も現れた。
電車やバス、公園で眠ることは危険だと言われるようになり、注意が呼び掛けられる。
それでも不幸な人を救う者はいない。
笑いながら中国人が言う。
”私たちに支配された方がマシじゃないか?”
笑いながら韓国人が言う。
”これが日本人の本性”
真面目な顔をした北朝鮮人が言う。
”日帝は何も変わっていない”
台湾人が言う。
”戦中戦後の日本からは多くのことを学んだ模範となる国だったのに・・悲しい”
人は皆同じではない。
誰よりもいち早く他人を殺す不幸な人がいる。
最初は様子を見て先人の失敗を学んでから殺す不幸な人がいる。
不幸な人による殺人が増えたら自分も他人を殺す・・という人もいる。
自分の好きなペースで他人を殺す不幸な人もいる。
誘われたら決起する者、限界を超え突発的に行う者、殺せない者。
それでも一部の権力者は腐敗をやめたりしない。
殺人と腐敗が繰り返される中で・・日本は緩やかに死んでいった。
危機感を抱いても行動する者はいなかった。
不幸な人による殺人は、個人の問題として片付けられていった。
死んだ人のことは、その殆どがすぐに忘れる・・
国民が改革を望んだ時はもう遅かった。
何もかも手遅れだった。
一部の権力者は自分たちの利権を失う改革は望まず、改革に着手する予算も残されていなかった。
そして中途半端な改革に乗じてさらに勢力を拡大させた。
日本は加速度的に没落していった。
革命も維新も起こせない国になり下がってしまった。
戦勝国は、日本から戦う力を失わせることに成功した。
ほわんほわんほわ~ん
先輩「・・夢か・・・・悪夢だ・・」
・・
・・・・
カタカタカタ・・カタカタカタ・・
短パン「ええい!こんな終わり納得できるか!」
ジャムパン「疲れたなら適宜休憩とるんだぞ。」
短パン「本当に終わりなんですか?銃の出所は?犯人の動機は?」
ピザパン「動機は不幸だからだろ。」
短パン「本当にそう思ってるのか!?銃を用意してばらまくなんてただの不幸な人にできるものか!」
短パン「安物の銃なら1万以下、そこそこの銃でも1丁5万あれば密輸される時代だ。」
短パン「仮に10000丁用意しても5億。企業レベルでも不可能じゃない!」
短パン「これは不幸を隠れ蓑にした組織犯罪だ!」
ピザパン「組織犯罪なのはわかってるさ。」
ピザパン「ホームレス以外で捕まったのは全員中国人。」
ピザパン「東京の土地は中国人に買われまくってるからな。アジトはそこら中に作れる。」
短パン「だから、日本を混乱させるための工作員だろう!?」
ピザパン「となれば黒幕は?」
短パン「中国政府!」
ピザパン「お、中国へ出張して逮捕すんのか?無理だろ。」
ピザパン「オレらの仕事はここまで。報告書作ろうぜ。」
短パン「あいつら不幸な日本人に武器を渡して実行部隊にしようとしてたんだぞ!」
短パン「今回は防げてもいつかは・・」
ピザパン「じゃあどうするんだ?不幸な人を全員救って連中の手先にならないようにするか?」
ピザパン「無理だろ。」
短パン「諦めたらそこで終わりだろ!おいコロッケ!後輩!お前らもなんとか言えよ!」
かんとか。
コロッケパン「・・お前らさ、いじめってしたことあるか?」
ピザパン「なんだよいきなり・・ある。」
短パン「お、おい?」
ピザパン「そいつ距離感がおかしかったりいつも鼻をぐすぐすさせたり歯磨きしてなくて臭かったりしてな。」
ピザパン「みんなに嫌われて孤立してた。」
ピザパン「ああそうだ。食い物口にほおばったまま喋ったりもしてたな。汚かったわ。」
ピザパン「・・今じゃあれもいじめなんだろうな。」
短パン「いじめかは微妙じゃないか?」
短パン「オレだってそんなやつと友達になりたくない。」
短パン「オレは直接見たってわけじゃないが・・」
短パン「進級したら空白の席があって誰もなにも言わないんだ。」
短パン「登校拒否児だったことが後でわかった。」
短パン「女の子だったし、ずっと関わらないままだった。」
後輩「性別違うと話さないままの人いますよね。」
後輩「俺のとこはまったくいじめなかったです。他のクラスや学年まではわかりませんが。」
コロッケパン「オレは・・ある。あれは明らかにいじめだった。」
コロッケパン「いつからいじめが始まったのか、なぜいじめられていたのかもわからなかった。」
コロッケパン「でもいつからかその女の子に触ったら汚いってことになっていた。」
コロッケパン「その子の使った水道は誰も並ばなくなった。」
コロッケパン「その子と会話する人はいなくなった。」
コロッケパン「その子は、一部の人から”ぎっちょばーりあ”って言われてたりしてた。」
ジャムパン「”ぎっちょ”って、左利きのことか?」
ピザパン「それ・・確か、差別用語だったような・・」
コロッケパン「そう聞こえただけで子供の頃は意味わかんないこと言ってんなー程度にしか思っていませんでした。」
コロッケパン「その子の利き腕がどっちかも知りません。」
コロッケパン「”ばーりあ”が、バリアのことで、その女の子を汚いからバリアしてるんだって認識していました。」
コロッケパン「小学生の頃です。」
コロッケパン「オレもみんなと同じでその子の使った水道を使わず、話しかけることもせず過ごしました。」
コロッケパン「汚いってされた人が使った水道を誰も使わないって、いや使えよって思うかもしれませんけど・・」
コロッケパン「も、ものすごい抵抗感があるんですよ!周りでみんなが見てるんですよ?」
コロッケパン「学校という共同生活を送る場所で、みんながやらないことを自分だけやるってすっごい難しいですよ。」
コロッケパン「あれはもう子供には解決できません。」
コロッケパン「でも大人が何を言っても耳を貸さないと思います。」
コロッケパン「子供たちの中で作られたルールは、大人の介入を嫌います。」
ジャムパン「いじめは戦前からあると聞く。」
ジャムパン「想像するよりもっと根深い問題があるのだろう。」
コロッケパン「中学になると、そこまで露骨ないじめはなくなりました。」
コロッケパン「でもみんな腫れ物みたいな扱いで、関わらないようにして・・」
後輩「中学って、色んな小学校から人来ますよね?他校の人はそうならないんじゃないですか?」
コロッケパン「それが自然とそうなるんです。」
コロッケパン「一部がやってる無視の空気が伝染するのか、気が付くと関わっちゃいけないやつって認識にみんななってるんです。」
コロッケパン「・・今でもその女の子のフルネームを覚えています。」
コロッケパン「当時のことが時々断片的に思い出したりするんです。」
コロッケパン「もし、もしあの子が不幸な人になっていたら・・・・」
短パン「お、会って謝罪か?」
コロッケパン「向こうはオレのこと知らないよ。」
コロッケパン「同じクラスになったこともないんだから。」
え?
コロッケパン「水道は隣のクラスと共同だから、その時はじめて知った・・小学、3年だったかな。最初は。」
コロッケパン「あとは他クラスの前を通ったときとか、その子のクラスのやつと話をした時とかに聞いたこと。」
短パン「つかクラス違って性別違えば話すこともないわな。」
短パン「お前が気にすることじゃないだろ。」
コロッケパン「でも、今でも忘れられない。」
コロッケパン「中学卒業後どうなったかはわからないけど、少なくても小学3年から中学卒業まで7年・・その子は苦しんだと思う。」
コロッケパン「水飲み場で、その子の使った水道をオレも使わなかった・・今でも後悔している。」
コロッケパン「・・ただ、同じ状況になっても・・・・オレはあの時と違う選択できるのか・・わからない。」
コロッケパン「あの時の気持ちは、あの場にいたやつしか理解できないと思う・・」
ジャムパン「不幸な人か・・私も刑事になりたての頃、強烈なのに出会ったな・・」
コロッケパン「ま、まさか!」
ジャムパン「性別が違うから大丈夫だ。」
ジャムパン「・・当時、刃物を持った男がいると通報がいくつも入った。」
ジャムパン「私は教育係さんと一緒に現場へ行ったよ。」
ジャムパン「・・男は何かわめいていたが、私たちが来たのを見つけると近づいて来た。」
ジャムパン「”早く撃てよ。撃たないと殺すぞ”・・男はそう言った。」
ジャムパン「威嚇射撃をしても男は止まらず、教育係さんは男の足を撃った。」
ジャムパン「それでも男は刃物を握りしめ向かってきた。」
ジャムパン「今度は肩を撃った。」
ジャムパン「男は倒れるも、よろけながら立ち上がって来た。」
ジャムパン「”こんなやつ、生きててもしょうがないだろ・・頭を撃てよ”男は言った。」
ジャムパン「”誰だって生きていいんです!”教育係さんはそう言ったよ。」
ジャムパン「男は泣きじゃくりながらかすれた声で”ごめんなあ”と言って・・自分で自分を刺した。」
ジャムパン「・・男は亡くなったよ。」
ジャムパン「当時はそこまで思わなかったが・・あれが不幸な人なんだろうな。」
こんこん。
サンドパン「失礼します。後輩さんいますか?」
コロッケパン「どこ行ったっけ?後輩くん、ちょっと後輩くんを呼びに行ってもらっていい?」
後輩「あ、じゃあ呼んできます。」
コロッケパン「おう頼むぞ・・ってお前やんけー!」
サンドパン「・・失礼しました。」
ピザパン「おい遊ぶな。すみません、どうもオレが後輩くんです。」
短パン「お前ジャムさんだろ!」
コロッケパン「オレがジャムパンだ。ですよねサンドパンさん。」
ジャムパン「間違いない!・・ちらっ。」
サンドパン「・・・・いえ、こっち見られてもどう対応すればいいかわかりません。」
後輩「こっちもノリでやってるので適当ですよ。」
後輩「てきとーに自分はクリームパンですって言うとかで問題ないです。」
サンドパン「え・・あなたは伝説のクリームパンを知っているのですか!?」
伝説?
ピザパン「嘘だろ・・まさか情報が漏れた・・?」
コロッケパン「当時の関係者はもういないはずなのに・・」
短パン「す、すぐ本部長に連絡しないと!」
ジャムパン「・・・・後輩くんには悪いが、長い出張になりそうだな。」
後輩「え?え?」
サンドパン「いや冗談ですよ!なんでそんなすぐアドリブできるんですか!」
ジャムパン「事件途中でハブられてストレス溜まっているんだ。」
ジャムパン「冗談でも言ってないとやってられないんだよ。」
ジャムパン「あとさっきまで暗い話しててね。無理にでも明るくふるまっている。」
サンドパン「そうですか。こっちもストレスでやってられませんけどね。」
ピザパン「えーと、すまん。」
サンドパン「いえ別にあなた方が原因ではありませんから。」
その時!
12時の鐘が鳴った!
もう・・おしまいだ・・
サンドパン「ナレーションは余計なことしない!」
すみません。
ジャムパン「お腹空くとイライラするよな。」
ジャムパン「ここは食事でもしながら話の続きをしようか。」
ようやく話の区切りを作り出すことに成功した作者。
しかしここの話は長すぎる・・
次回!作者逃亡!
~次回作にご期待ください~
・・
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