君とそこで3
病院につき、彼女の診察を行っている最中に老婆が慌てた顔をして走ってきた。
どうやら彼女の祖母らしい。
医者に「相坂 まゆふの祖母です。 孫は大丈夫ですか?」と聞く。僕が彼女の名前を知ったのはこのときだった。
医者は落ち着いた表情で答えた。
「大丈夫です。軽い貧血で、倒れてしまったみたいです。」
「良かった。あの子にもしものことがあったら、、」と老婆が涙を拭いながらホッとした表情をした。
僕もその報告を聞き安心した。
老婆が座っている僕を見て、僕の方に駆け寄り、手をとる。
そして、「貴方があの子を病院まで、、本当にありがとう」と言う。
「いえ、お孫さんが無事で本当によかったです。では僕はこれで」とその場をはなれた。
このことがきっかけでお近づきになれればと最初は思っていたが、なんてチンケな男なんだと考えを改めることにした。
また、出会うことがあればそのことは抜きで気持ちをしっかり伝えようと思った。
明くる日の朝、空は晴れ、昨日の雨でできた水たまりが太陽に照らされ燦然と輝く、とても心地が良かった。
学校に着き、喫煙所にいくと雄大がいた。
「おはよ、僕より早いなんて珍しいな」と僕がいう。
雄大は
「いや、今度の就職試験の対策でさ、先生に聞きたいことがあって少し早くきたんだ。ほらよ。」と当たり前かのようにライターを渡す。
「そういや、昨日なんで休んだんだ?」と聞く雄大に僕は「一昨日食った激辛ラーメンでさ、腹下しちまってトイレにこもってたんだ」
雄大は案の定馬鹿にしてきた。
「そういえば、お前さ論文書くの上手じゃなかったっけ?」と雄大が。
「誰が言ったんだよ。」
「今度の試験で論文の課題があるんだよ俺たち。ちょっとアドバイスくれない?」と手を合わしながら雄大が頼む。
小さい頃から文章を読んだり書いたりするのが好きだった僕は感想文で賞を取ったりしていた。
僕は「コンビニの揚げ物二つな。」というと、あっさり了承してくれた。
日暮れごろ、学校近くのこじんまりとした喫茶店の一番奥の四人席。
「おい。なんで薫がいるんだよ。」と唖然としながら僕はいった。
薫は同じ大学に通う友人で、学校では容姿端麗でファンクラブまであるほど人気の女の子だ。
薫が「なに?私がいたら困ることでもあるの?というか、雄大もちゃんと言わなかったの?」と不満げにいう。
「え?いったよ?俺たち論文の課題があるって」と雄大がいう。
「もー、まっ、この際一人も二人も変わらないか。」と呆れながらいった。
二時間ほど経った。
雄大が体を伸ばしながら、「そろそろお開きにするか」といった。
薫はうなづき、僕は時間が経ち、氷で薄まったコーヒーを飲み干した。
会計を済まし、外に出る。
五月下旬というのに、外は暑かった。
雄大が、「じゃ、俺家近いからこのまま帰るわ。」と愛用のマウンテンバイクに腰をかけいう。
「んじゃ、また明日。」と僕と薫は雄大に手を振った。雄大の背中が見えなくなり、僕たちは駅まで歩きだした。
僕と薫の家は近く、幼い頃からの幼馴染みだった。
駅までの道、外は暗く、そしてなぜか空気が重い、二人とも無言で歩いた。
はじめに口を開けたのは薫の方だった。
今日の論文について改めて感謝された。
幼い頃は、異性として特別意識してなかったし、喧嘩もたくさんしたけど、今ではなにか無性に恥ずかしかった。
家の最寄駅につき、また暗い通り道がつづく。
何か喋らないと気まずくて僕はいっぱい一人で話していた。
薫の家の前についた。
「それじゃ、また明日。」と僕はいいその場を立ち去ろうとする。
そんな僕を薫は引き留め、俯きながら小さい声でいう。
「す、好きなの。」
突然のことに僕はすぐ理解することができなかった。
少しひんやりとした風が吹く。
薫は「返事はいつでもいい。じゃっ」と暗くてもわかるくらい顔を赤くしながら、家の中に急いで入っていった。
その日僕は夢にも出てくるくらい薫のことを考えていた。