首吊り少女
夜。
基本的に人間は夜になったら眠るものだ。
しかし、少女は見計らったようにベッドから身体を起こす。
音を立てぬよう、ゆっくりベッドから抜け出し、机の一番下の引き出しから太めのロープを引っ張り出した。
ロープを抱え、扉を開けると、真っ暗な廊下に出た。
18年、住んだ家である。
灯りをつけなくとも、自分がどこにいるかよく分かる。
「…はぁ」
少女がため息をつくと、吐き出された息が白くなる。
3月の中旬といっても、まだ外は雪が積もっている上、日が落ちた夜ではさらに冷え込む。
冷たくなった廊下をペタペタと歩きながら、少女は玄関に向かう。
想像以上の寒さと、廊下の冷たさに少女の体はブルブルと震え、奥歯が勝手にカチカチと鳴る。
そんな寒さに耐え、玄関に置かれたサンダルに足を突っ込む。
玄関の扉を開けると、寒々とした風が頬を撫で、凍った空気が肺に染み渡る。
扉を閉めて、家の外にある倉庫に向かい、そこから大きめの脚立を取り出す。
そのあと少女は自宅の庭に植えられた、1本の桜の木に近づいていった。
非常に立派な桜の木で、幹は太く、枝は二階の窓に届くほど長い、近所でも並ぶものは無いほど、立派な木であった。
しかし、今はまだ芽吹くことなく、静かに佇んでいる。
その中から、人がぶら下がっても折れないような太い幹に、ロープをかける。
脚立に登り、ロープが外れないようしっかりと結ぶ。
そして、ロープの先につくった輪っかに首を通す。
少女の身体は先程の寒さとは比べ物にならないほど、ガタガタと震えていた。
ロープに首を通し、初めて感じた『死』の恐怖。
呼吸は早くなり、唇が乾く。
少女の目から雫がこぼれ落ちはじめる。
鼻から空気が吸えず、口を開け、何とか呼吸をする。
涙がとめどなく溢れ、鼻水をズルズルとすする。
比較的愛らしい顔立ちをしている少女の顔が、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、零れた涙が外気で肌に張り付いていた。
「ごめんなさい…」
少女は拳を握り、意を決して、脚立を蹴飛ばした。
ガシャンと大きな音がしたが、雪降る真夜中にその音を聞きつける人は誰もいなかった。
少女の華奢な首を、頑丈なロープがぎりぎりと締め上げる。
「かはぁっ!…がぁっ!…だっ…か…けぇ…」
苦しい。苦しい。
少女の顔がみるみるうちに赤くなり、あまりの苦しさからか、喉を掻き毟る。
痛い。苦しい。
目の前がフラッシュし、意識が遠のいていく。
いたい。くるしい。
最後の力を振り絞り、手を伸ばす。
しにたくない。
だが、その手は何も掴むことはできず、最後の意思は虚空の彼方へと消え去った。
はじめまして、「駿河湾」と申します。この小説は、1年前の自分をモデルにした小説で、私は大学受験に失敗して一時、本当に自殺を考えていました。しかし、友人や家族に支えられ今、私自身の現実を生きています。しかし、もしあそこで死んでしまったらきっと後悔すると今でも思います。それは死んだ先に行ってもそうだと思います。死んだ先は誰にも分かりませんが、私のような人間は恐らくろくなことにはならないでしょう。だからこそ、絶望しても決して諦めないで欲しい。ゆっくりでいいから行動していく。その大切さをこの小説に込めていきたいと思っています。長くなりましたが、どうかよろしくお願いします。