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第13話 説明、そして平和を目指して

「この組織、晴明継承団は伝説の陰陽師、安倍晴明さまの意思と力を継いだ集団だ。目的はただ一つ、この世界における邪悪な存在を倒すことだ」


「邪悪な存在……ですか」


 妹子の質問に寛寿郎は頷き、話を続けた。


「そうだ。最近よく聞くのはアヤカシだろうな」


 寛寿郎の口ぶりから、この世界にはアヤカシ以外にも邪悪な存在があるように聞こえてくる。獣士郎は固唾を飲んで次の言葉を待つ。


「昔は他にもヨウカイという存在がいたが、奴らは安倍晴明さまによって殲滅された。だから今存在しているのはアヤカシだけだ」


 獣士郎は少しだけ安心し、胸を撫で下ろした。


「それじゃあ、今はアヤカシを倒すためにこの組織は存在しているってことなんですか?」


「そうだ。この地にアヤカシがいる限り平和は訪れん」


「では、この世界にいるアヤカシを全て倒せば平和になるということですか?」


 今まで黙って聞いていた獣士郎が口を開く。


「そうとは言い切れない。平和になったかどうかを判断するかは私ではないからな。だが、アヤカシを殲滅すれば、このヘイアンに住む者たちが安心するのは事実だ」


 この街の平和を守るため、住人が幸せに暮らしてもらうために戦う、これが晴明継承団の使命のようだ。


 獣士郎は左腰に下げた刀を強く握りしめる。


「それでも……俺の両親みたいに助からないこともあるんですか?」


 柳次郎の質問に寛寿郎は無言で頷いた。


 柳次郎の両親がアヤカシに殺されたと言っているように聞こえるが、恐らくそれは事実なのだろう。


「そんなの……この街の住人が幸せに暮らせるわけがないですよ!!」


 柳次郎は大声で叫ぶ。獣士郎は突然の大声に体を強張らせ、妹子は耳を塞いでいる。


「晴明継承団の団員がアヤカシの被害者に対して冷たい態度を取っているのは知っているんです! そのせいで、何度も絶望したんですよ。近くに住んでいた人には『呪われた子供』 と言われて石を投げられて、晴明継承団の団員に相談しても『このことは一切話すな』 の一点張り。そんなことで幸せに暮らせるわけが無いんですよ!!」


 自分の言いたいことを言い切ったのか、息を荒げている。


「それはすまないことをしてしまった。だがこれは仕方のないことなのだよ」


 『仕方のないこと』という言葉に反応し、柳次郎の手が強く握られた。


「仕方のないこと……で納得がいくわけないです!!」


 柳次郎が言いたいことは獣士郎には痛いほどわかる。実際、獣士郎の母親がその運命を辿っているはずなのだ。実母をアヤカシによって殺され、同じく殺されそうになっていた市を晴明継承団は救ってくれた。だが、それ以降は一切の口外を禁止されたということを市から聞いていた。


「柳次郎、お前が言いたいことはよくわかるが、これもこの団の力が世に知られてはいけないからだ。だから許してくれ。この通りだ」


 寛寿郎は深々と頭を下げた。


「謝るだけで済むと思ったら大間違いです!」


 寛寿郎の誠意を受け取ろうとすることもなく柳次郎は暴言を浴びせ続ける。


「だいたい団員がもっと早く来てくれていれば俺の両親は助かってるんですよ」


 寛寿郎はただ無言で頭を下げるだけだ。


「何事だ?」


 この世界では珍しく丸刈りの大男が広場にやってきた。着物は黒く、柄は何も描かれていない。


「もうそんな時間だったか」


「指導教官の挨拶があるからと来てみたら副団長は頭を下げてるわ、新人は怒ってるわでどうなってんだ?」


「これには少し事情がありまして……」


 寛寿郎は大男にこの広場であったことを話した。

 話をしている最中、大男は真っ直ぐな眼差しでずっと寛寿郎の目を見ていた。


「なるほどな。柳次郎と言ったか?」


「は、はい」


 不意に大男に声をかけられ、柳次郎は緊張した声で返事をした。


「貴様は何をしに晴明継承団に入りたいんだ?」


「俺は両親をアヤカシに殺されました。その復讐のため、アヤカシを全てこの手でぶっ殺すためにここに入ることを決めました」


 大男は腕を組み頷いた。


「そうか。ならばやりたいように戦えばいい。アヤカシから失ったものがあるなら、同じようにアヤカシから奪えばいい。たとえそれが一生返ってこないものだとしても、貴様の気は少しくらいは休まるだろう」


「は、はい」


「後ろの二人もだ。俺は貴様ら新人に稽古をつけることになった浜上(はまのうえ)藤寅(ふじとら)だ。俺の稽古はすごくキツいから覚悟しろ」


「はい!!」


 獣士郎妹子は大きな声で返事をした。

 二人の返事は覚悟に溢れている。


「以上で入団の説明を終了する。それぞれここで寝泊りするための部屋を用意してある。場所は藤寅に案内してもらいなさい。では、解散」


「明日は卯三刻(午前6時)に起床、そのご本部を案内したのち稽古を行う。今日はもう休め」


 獣士郎たちは藤寅に案内されて個人の部屋へと入っていった。

少しだけ補足をします。

藤寅が言っていた卯三刻は午前6時を指します。

今後、平安時代に使われていた表記の仕方で時間は表していこうと考えています。

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