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第10話 達成せし者

現場にたどり着いた時、正蔵は規格外の大きさのアヤカシに圧倒され、その場に座り込んでいた。


「正蔵!」


 獣士郎の声に気づいた正蔵が獣士郎の方を見る。身体中に傷ができており、所々着物は破れている。


「獣士郎、どうしてここに──」


「助けにきたんだよ!」


 正蔵の前に立つ。そして刀を構えた。


「無駄だよ。この化け物に武器は通用しない。僕の持ってきた武器は全部試したんだ」


 やはりアヤカシの特性に対抗できる武器ではなかったらしい。


 獣士郎が先ほど戦ったアヤカシよりも一回り大きい化け物は背中に翼のようなものを持っていること以外はほぼ先ほどのアヤカシとは変わらない外見を持っている。


「かかってこい、化け物!」


 獣士郎の叫びに反応し猛スピードで獣士郎に飛び込んできた。


「この間合いなら──」


 そう思った瞬間だった。背中についている翼を大きく羽ばたかせ、巨体が宙に浮いた。


「え?」


「こいつは飛ぶんだ!おまけにすばしっこい」


「──キキキキキキ」


 異質な金属音を発しながら、空高く飛んだアヤカシは正蔵目掛けて急降下した。


「正蔵、逃げて!」


 獣士郎の叫び声に正蔵ははっとして前転をし突進を回避する。

 化け物は大きな土煙を出しながら轟音とともに地面に激突した。


「奴は死んだ……のか?」


 白い土煙とともに紫色の煙を出したのを獣士郎は見逃さなかった。


「いや、死んでない。こんなことで簡単に死ぬほど脆くない!」


 煙が消えた時、奴の姿に正蔵は絶句した。

 巨体は傷一つなく、翼をパタパタとしている。


「嘘……だろ?」


 正蔵はアヤカシのあまりの強さにその場に座り込む。そして戦意を喪失してしまったのかうなだれてしまった。


「正蔵!」


 今ここでこんなことをしてしまっては狙われるのも時間の問題だ。

 正蔵の腕を引っ張るも5歳の体で年上の少年を引くのは無理があった。


「ねえ、獣士郎……僕、もう死ぬのかな?」


 正蔵の問いかけに獣士郎はかぶりを振る。


「死なない。死なせないよ」


「でも、もうどうにもできない……もう死ぬしか──」


「諦めないで!!」


 正蔵の話に被るように喝を入れるも、正蔵の心には響いていない。


 このままでは獣士郎もろともアヤカシに殺されてしまう。


「なら僕が戦う。だからそのうちに逃げて」


 獣士郎の言葉に正蔵は獣士郎の腕を強く握った。


「無駄な抵抗はしないほうがいい。だって……だって」


「無駄じゃない!」


 獣士郎は正蔵の手を振り解き、地面を蹴った。刀を上に振り上げ、奴の腕目掛けて振り下ろす。


 腕との衝突により、火花が散る。だが、これはただの囮だ。本命は能力の行使。先の戦いと同じことをして真っ二つに切るだけだ。


「ぐっ!」


 だが、奴の力も相当強い。腕がもげそうになる程重くのしかかり、下へ下へと押し下げてきている。


 獣士郎は奴の力を逃しつつ、能力が使える機会を窺う。そして思い切って刀を腕から離した。突然のことに妖は対応できず、地面に腕を激突させた。その力は地面に穴が開くほどだ。


 この絶好のチャンスを見逃さず、右腕を地面に食い込んだ奴の腕に触れる。


「改善!」


 光が発生し、奴の特性を剥ぎ取る。今にも折れそうな刀を振り、横に一閃。上半分はそのまま地面に崩れ落ち、黒い血を漏らした。


「──グリャアアアア!!」


 アヤカシは耳がおかしくなりそうなほど大きな叫び声を上げた。黒い血だまりは徐々に大きくなっていく。


 獣士郎は血だまりを避けながら奴の顔の真上に向かった。


「僕の友達を傷つけたんだ。それ相応の罰は受けてもらうよ」


 大きく開けられた口に刀を刺す。それと同時に奇妙な声もピタリと止み、奴の体は霧散していった。


「勝った……の?」


 異様な光景に正蔵は目を丸くしている。


「うん、勝ったよ。これで正蔵も晴明継承団に入れるよ」


 実感があまりなさそうに見えるが、自身が試験の合格条件を達成していることに気がつき、目を輝かせた。


「やったあ!!」


 正蔵は嬉しさに飛び上がって獣士郎に抱きついた。


「く、苦しいよ」


 正蔵の目は輝いていた。嬉しさと、そして覚悟の溢れた真っ直ぐな目だ。


「僕……入団できるんだね?」


「うん、僕と一緒にできるよ。一緒に団でも頑張ろう」


 獣士郎の言葉に大きく頷く。


「さあ、戻ろ──」


 正蔵に手を引かれ、本部へと歩き出した時だった。


「──ザク」


 という地面を踏む音とともに一人の少年が目の前に現れた。


「君は──」


 緑色の着物を着た少年は真っ直ぐに獣士郎たちを見ている。


 正蔵は気付いたようだが、獣士郎はこの少年が誰だかわからなかった。


「知り合い?」


「この入団試験を一緒に受けている人だよ」


 言われてみれば、本部で見たことがあった。腰には刀を帯刀している。

 しかし、様子が変だ。目は光を失っているかのように暗く、歩き方も何かおぼつかない。


「──クカカカカ」


 少年は不気味な声を上げた。


 この感覚を獣士郎はどこかで聞いたことがあった。突然人が奇妙な呻き声を出すこの現象を……


「逃げて!」


 市が話していたことを思い出した。そして気付いた時にはすでに遅かった。

 正蔵に声をかけるも、反応が遅れてしまったのだ。


「……え?」


 少年は正蔵に真っ直ぐに突進し、刀を抜いた。そして──

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