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6話

「はぐれるなよ」

「分かってるよー!」


 マールが楽しそうに走り回っている。

 路地を覗いたり花壇の前で座り込んだり、とにかく忙しい様子だ。

 グレイはそんなマールを視界から外さないように少しずつ目的地に進んで行く。


 今日、グレイとマールは町に来ていた。

 目的は買い物で、今は市場に向かっていた。

 

 グレイはマールが1人以上入りそうな大きな袋を持っていた。

 食料品などをまとめて買うため、そのくらいの大きさは必要なのだ。

 町へ来る道中、マールが袋に入ってみたいと言ったが破れるといけないのでグレイは却下した。


 歩いていると喧騒が聞こえてくる。市場に着いたようだ。


「マール、手をつなぐぞ」

「はぁい!」


 グレイが呼ぶとマールは何が楽しいのかニコニコと笑いながら、グレイの腕を抱えるように両手で掴む。

 歩きづらいな、とグレイは思ったが口にはしなかった。


 グレイはマールを連れて早速買い物に入る。

 食料品や足りない生活用品を買っていく。

 買い物の最中、マールは好奇心がうずくのかキョロキョロとしていた。

 だが、グレイの言いつけを守り、傍を離れることはなかった。


「ただいまより時間限定セール!」


 グレイが順調に買い物をしていると突如声が上がった。

 どこかの店で安売りをするようだ。


「パパ、行くの?」

「どうするかな」


 少し覗いてみるのもいいか。

 そう考えて、グレイが声の方に向かおうとすると女性の集団がグレイとマールを襲った。

 正確には安売りに反応した主婦連中がグレイとマールが居た場所を通っただけなのだが。


 とにかく揉みくちゃにされた二人。

 集団が居なくなるころにはグレイの隣からマールの姿が消えていた。


「マジか……」


 一人残されたグレイはため息を吐いた。


 ◇ ◇ ◇


「……」


 カリンは往来の真ん中で目をこすった。

 キョロキョロと不安そうに周囲を見る少女が居た。

 さらさらとした銀髪をなびかせた可愛らしい少女だ。

 森で出会った不思議な少女、マールである。

 不思議といっても町中であるせいか前ほどの神秘性はないよう思えた。

 とはいえ、どうやら状況は前と酷似していそうだ。

 カリンは声をかけることにした。


「こんにちは、マール」

「あ!蝶のお姉さん!」

「人間です」


 なんて覚え方だ。

 と、カリンは思ったが、そういえば自己紹介はしていなかった。


「私はカリンって名前よ」

「カリンお姉ちゃん!マールはマールだよ!」


 元気のよく意味の無い自己紹介をするマールに笑みがこぼれる。

 先ほどの不安そうな様子はどこかへ吹っ飛び、とても楽しそうだ。

 感情がころころ変わるのは子供だからだろうか。


「マールはこんなとこで何してるの?」


 大体察しはついているが確認のためにも聞いておく。

 マールは再び不安そうに顔を暗くした。


「迷子、かも」


 そうら思った通りだ。カリンは自身の推測通りの結果に口角を吊り上げる。


「そう。まぁたお父さんの言いつけ破ったの~?」

「違うもん!マール誘拐されたの!」

「誘拐!?」


 とんだ大事件である。

 カリンは慌てて聞き直す。


「どこで誘拐されたの?」

「いろんなものが売ってるところ!」

「誰に誘拐されたの?」

「たくさんの人!」


 カリンは脱力した。


「話を整理すると、マールはお父さんと市場に来ていて、人波に揉まれて迷子になったのね」

「うん!誘拐!」

「それは、ただはぐれただけよ」

「ん~?」


 マールは分かっていないようで首をかしげている。

 それにしても仕草の1つ1つが可愛らしい少女である。

 家に連れて帰りたいくらいだ。

 そこまで考えてそうしたら本当に誘拐だな、とカリンは思った。


「とりあえず、一緒にお父さんを探して――」

「マール!どこだー!」

「パパだ!」


 曲がり角の向こうから聞こえる声にマールは飛ぶような速さで駆けていく。

 カリンは繋ごうとした手を所在なくブラブラと振る。

 そして、頭の後ろにもっていくと、


「……まあ、会えたなら、それが一番よね」


 とため息を吐いた。


 ◇ ◇ ◇


「パパ―!」

「マー、ぶふっ!」


 突進してきたマールを受け止めてグレイはくぐもった息を吐き出す。

 痛む腹を抑えつつマールの無事を確認する。


「怪我はないか?」

「うん!どこも痛くないよ!」

「俺は腹が痛いけどな」


 ニコニコと笑うマールの頭を撫でる。

 ともあれ合流は出来た。

 グレイは一安心した。


「ねぇパパ!蝶のお姉ちゃんに会ったよ!」

「蝶……?こないだ森で会った人か?」

「マールのこと好きなのかな?あはは!」


 親であることを抜きにしても人に好かれる性格のマールである。

 マールが好かれているであろうことは容易に信じられるが、町で会ったのは偶然だろう。


(出来れば礼でも言いたいところだが……)


 礼を言うというだけで探し出しても、向こうは警戒するかもしれない。

 マールが少しの間、世話になったというだけだ。

 もし次があったら、その場で礼をしよう。


 グレイはマールと手をつないだ。


「必要な物も買ったし、飯でも食って帰るか」

「マールお外で食べるのがいい!」

「屋台か?じゃあ、いくつか回って食べ比べしてみるか」

「さんせー!」


 マールはグレイの手をグイグイと引っ張って、興奮した様子で歩を進めていった。


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