4話
「重大発表!」
「わぁ!なになに!?」
「明日は町へ行きます」
「やったぁ!」
夕飯の席でグレイはマールに宣言した。
町へ行くたびに似たようなことをしているが、マールは飽きもせずにリアクションする。
そろそろ食料等の補充をしなければない。
グレイは森で獲物を狩り、湖で魚を捕まえているが、野菜類などについては町で買う必要がある。
ついでに生活用品の買い出しも行わなければいけないので、町へ繰り出す際は基本的に丸1日使うことを予定して動く。
「マールね、町のアリさんが見たいの」
「うん?アリ?アリなんてそこらに居るじゃないか」
「町の人はおしゃれだから町のアリさんもきっとおしゃれなの!」
子供の言うことはよく分からない。
グレイは楽し気に話すマールを見てそう思った。
「あ、リリーにも会いたいなぁ」
マールには子供に戻る前の記憶はある。
しかし、魔王の呪いのせいであやふやになっており、結果として見た目相応の子供の振る舞いをしている。
グレイは、このことをリリーから聞いていた。
現に子供になったマールでも共に魔王を倒したリリーのことを認識していた。
「リリーさんねぇ。忙しい人だから多分無理だろうな」
リリーは城で勤めている高級魔導士で、その有能さから引っ張りだこだ。
という話を本人から聞かせられているグレイは町で会うのは無理だと考える。
「でもリリー、おとといもウチに来たよ?」
「そうだよなぁ」
リリーはグレイとマールの家に数日に一度のペースで通っていた。
基本的に日中に来てマールの世話をして、夜はグレイに愚痴を吐きつつグレイが酔いつぶれるまで飲んで、朝になったらいつの間にか消えているのだ。
グレイは一度娘の教育に悪いので、とマールを引き合いに出し、酒の飲み過ぎを注意したが20歳にもなったら自己責任、と聞き入れなかった。
今のマールは子供だからと更にグレイが言うと泣き始めてしまったので、グレイはそれ以降リリーに注意することはしなかった。
リリーは酔うと泣き上戸の気があるらしい。
ストレスの溜まる職場なのだろうとグレイはリリーの醜態をもう許容していた。
「流石に町では会えないと思うぞ。約束もしてないしな」
「そうかなぁ。ま、いっか!」
すぐに諦めたマールに、少しリリーが可哀そうな気がしたグレイだった。
その後、翌日に備えて二人は早めに寝ることにした。
グレイとマールの部屋は別々に用意されているが、マールはグレイと一緒に寝ることを好み、この日もベッドに潜り込んできたマールを抱えるようにグレイは眠った。
◇ ◇ ◇
次の日は雨だった。
「あー、こりゃ町は無理だな」
「えー!」
「えー、て。お前この雨だぞ」
外は猛烈な雨で視界は全くきかない。
緊急事態やどうしても外に出なければならない用事が無ければ家を出るのは危険だろう。
強いて言えばグレイは湖の様子が気になった。
「今日は家の中で大人しくしとけ」
「むー」
グレイはそう諭すがマールは拗ねたようで自分の部屋にこもってしまった。
腹が減って、飯でも食えば機嫌も良くなるだろう。
グレイは居間の椅子に座って本を取り出した。
本の内容は勇者と魔王の物語。
無論、マールの話ではなく過去の勇者の偉業を基に書かれた伝記のようなものである。
グレイはマールの呪いを解くヒントはないかと偶にこうした本を読んでいた。
だが、大抵の場合は呪いなんてものが作中に出ることもなく終わってしまうので、半分はただの趣味のようなっている。
そうしてグレイは昼まで本を読みふけっていた。
外を見ると雨脚は大分弱くなっていたが、まだ外に出るような天気ではない。
グレイは昼食の準備を始めた。
一人の期間も味わってきたグレイは料理が出来る。
おかげでマールの栄養面はそれなりに充実していた。
「マール、昼飯だぞ」
料理を終えたグレイはマールに声をかける。
そうすると、とぼとぼと重い足取りでマールが部屋から出てくる。
まだ拗ねているようだが、しっかりと食卓の席につくあたり食欲には勝てないのだろう。
「マールの好きなオムレツにベーコンを混ぜたやつだぞ」
「むむ」
料理が目の前に出されるとマールは拗ねながら喜びの感情が出てしまい、泣いてるような笑っているような奇妙な表情になっていた。
そのままモクモクと食べるマールがグレイには可笑しくて吹き出しかけたが、ますますマールが不機嫌になるので笑いをかみ殺した。
食事が終わるとマールは手持ち無沙汰なようでお茶を飲んでいた。
いくらか機嫌は良くなったようだが、退屈なことには変わりない。
グレイは食器の片づけが終わると大袈裟に言った。
「どこだ魔王!勇者が成敗しにきたぞ!」
その言葉にマールは花が咲いたように笑った。
「きたな勇者!魔王マールはここだ!」
マールは腰に手を当て威張ったポーズを取る。
グレイは適当に構える。
そうして始まった勇者と魔王ごっこ。
結局やってることは雨でも晴れでも変わらない。
こうやって変わらない日々が続くのは、幸せなことなのだろうとグレイは思った。