2 深い霧と霧雨の森
深い霧と霧雨の森
お腹減った……。
ぐーぐーなる自分のお腹を手で抑えながら、そんなことを薊は思った。
どうしよう?
食べるもの、食べるもの。
食べられそうなものを森の中で探すけれど、そんなものどこにもなかった。
はぁー。
薊は心の中でため息をついた。
お腹が減ることは、つまり体が生きようとしているということだから、まあ、いいことなのだけど、これは、困ったな。
深い霧に包まれて、少し先もよく見えない、霧雨の降っている森の中は、ただ、その森の中を歩くだけで、薊の体温と体力とどんどんと奪っていった。
土には緑の苔が生えて、滑りやすく、歩きにくい。
木の枝や、落ち葉も、歩く邪魔になった。
霧雨に濡れた木々は冷たく、細い木の幹は冷たくて、生きている感じがまったくしなかった。
ここは死んだ森なのだ。
そんなことを薊は思った。
実際に、この場所は森、と言うよりはどこか異界のような雰囲気があった。
……死者の国。
とでもいうのだろうか?
ここは死後の世界であって、実は私はもう、現実の世界では死んでしまっているのだろうか?
そんなことを薊は思った。(いや、そんなことない。だって、もし死んでいるのなら、お腹がこんなにも空くはずないもの。と、そのあとで薊はすぐにそう思い直した)
薊は霧深い森の中を歩き続けた。
歩いて、歩いて、歩き続けた。
……でも、それから数時間して、薊の体力には限界が訪れた。(そもそも、森の中で目覚めたときから、あざみの体力はかなりなくなっていた)
「もう、だめ」
薊はそう言って、森の中に倒れこんだ。
薊は行き倒れになってしまったのだ。
……結局私は、森から出られなかった。あの場所で、目覚めたとしても、目覚めなかったとしても、私の運命は同じだったってことなのかな……。
だんだんと失っていく意識の中でそんなことを薊は思った。
「……あの、大丈夫ですか?」
そんな声が聞こえた気がした。
……誰?
薊はかろうじて顔を動かして、その声の人物を見ようとした。
でも、薊の視界はもうすでにぼんやりとして、薊は、その人の顔を、姿を、しっかりと見ることはできなかった。
「あの……」
そんな声を聞いたのを最後に、薊は霧深い霧雨の降る森の中で意識をまた、失った。